「HSP」という言葉をご存知でしょうか。繊細で生きづらさを抱えやすい人、という認識で広まりつつある概念ですが、その割合は5人に1人と決して少なくありません。身近な人にもHSPがいるかもしれないのです。
繊細という性質上、どうしても内向的なイメージを持たれやすいHSPですが、社交的で好奇心旺盛なHSPもいることがわかってきました。今回は、そんなHSPの種類や性質の違いをご紹介します。
- この記事でわかること
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- 繊細な人「HSP」の特徴や抱えがちな悩み
- HSPかどうかの目安となる「DOES」とは
- 内気とは限らないHSPは、外交的な性格の人もいる
- HSPの人がうつ病に注意すべき理由と予防のポイント
HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)は繊細な人のこと?
HSPとは、英語の「Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)」の頭文字を取ったもので、「一般的な人よりも繊細な感覚を持った人」というような意味です。この呼称は90年代の初め、繊細な人についての研究を始めたエレイン・アーロン博士によってつけられました。
アーロン博士によれば、人口の約20%(5人に1人)がHSPの気質を持っています。ヒトだけでなく他の霊長類、イヌやネコといった哺乳類、鳥類や魚類、コバエなどの昆虫に至るまで、100種類以上の動物で同じような気質を持つ個体が一定の割合で存在することも確認されています。そのため、「繊細さ」は生物が生き残るための戦略、生存本能の一つだと考えられています。
HSPは病名ではなく、あくまでも気質を表す呼び方です。こうした気質を持つ人は職場や家庭など日常生活の中で常に神経を張っているため疲れやすく、生きづらいと感じていることが多いです。また、社会が求めるジェンダーロールの傾向などから、HSPの女性よりもHSPの男性の方が生きづらいと感じることが多いようです。
しかし、HSPの繊細さは周囲に対する配慮、優しさ、気配りなどにつながります。HSPの「繊細さ」とは理由なく突然過敏な状態に陥ったり、感情が不安定になったりするものではなく、周囲の変化や環境に反応して現れるものだからです。いわば、HSPとは周囲の状況に対するセンサーが人よりも強い状態だと言えるでしょう。
こうした敏感さや繊細さはHSP自身に耐え難いストレスや負担を強いてしまうこともあります。その一方で周囲の人の微妙な変化や感情に気づきやすいため、周囲の人たちもHSPの繊細さや敏感さを気遣いや優しさとして感じられることもあります。
HSPと内向的な人は違う?「DOES」セルフチェック
HSPは「周囲の状況にとても敏感で、繊細な感覚を持っている」とされ、アーロン博士によると、具体的には以下の「DOES」という4つの特性があると定義されています。
- 【Depth of processing】:考え方が複雑で、深く考えてから行動する
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- 一を聞いて十のことを想像し、考えられる能力がある
- 調べ物を始めると深く掘り下げるため、その知識の広さを周囲に驚かれる
- お世辞や嘲笑をすぐに見抜いてしまう
- 物事を始めるまでにあれこれ考えてしまい、時間がかかる
- その場限りの快楽よりも、生き方や哲学的な物事に興味があり、浅い人間や話を嫌う
- 【Overstimulation】:刺激に敏感で疲れやすい
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- 人混みや大きな音、騒音が苦手
- 友人との時間は楽しいものの気疲れしやすく、帰宅するとどっと疲労してしまう
- 映画や音楽、テレビ番組、本などの芸術作品に感動して泣いてしまう
- 人の些細な言葉に傷つき、いつまでも忘れられない
- 些細なことで、過剰なほど驚いてしまう
- 【Empathy and emotional responsiveness】:人の気持ちに振り回されやすく、共感しやすい
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- 人が怒られていると自分のことのように感じ、傷ついたりお腹が痛くなったりする
- 悲しい映画や本などの登場人物に感情移入し、号泣する
- 人のちょっとした仕草や目線、声音などに敏感で、機嫌や思っていることがわかる
- 言葉を話せない幼児や動物の気持ちも察することができる
- 【Sensitivity to subtleties】:あらゆる感覚がするどい
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- 冷蔵庫の機械音や、時計の音が気になってしまうほど聴覚が敏感である
- 強い光や日光の眩しさなどが苦手
- 近くにいる人の口臭やタバコの臭いで気分が悪くなる
- カフェインや添加物に敏感に反応してしまう
- 肌着のタグなど、チクチクする素材が我慢できないほど気になる
- 第六感が働き、よく当たる
このほかにも、絶対に一人の時間が必要な人、緊張しやすい人、子どものころ親や先生など周囲の大人から「繊細」「人見知り」といった評価を受けやすかった人もHSPの可能性が高いと考えられます。
さらに、アーロン博士は4つのうち1つでも当てはまらない項目があればそれはHSPではないと定義しています。もし、3つに当てはまるけれど1つにはあまり当てはまらない、と感じるならそれはHSPではなく、性格的に内向的な人である可能性が高いでしょう。
HSPの4つの分類とは?HSP・HSS・HSEで内向外向に分かれる?
前述のように、HSPはさまざまな動物で見られる生まれつきの気質のことで、環境などで変わるものではありません。一方、内向型・外向型とは心の感じ方のことで、生まれ持ったものだけではなく、環境によっても左右されます。
また、HSPは「気質」であり、どちらかというと生物学的な生まれつきのものを指します。内向型・外向型は、心理学者であるユングによって広まった性格の一種です。つまり、グループ分けが全く異なります。ですから、HSPかつ外向型、HSPかつ内向型という人はいます。
HSPと内向型・外向型が混同されやすいのは、HSPと内向型の人をそれぞれ周囲の人から見たときの特徴が似ているからです。特に「1人の時間が必要」「対人関係で気疲れしやすい」「考える時間が長い」といった特徴は目立ちやすく、HSPの人も内向型の人も多くが持っている特徴であるため、誤解されやすいのです。
しかし、前述のようにHSPでも外向型という人はいます。そこで、内向型HSP・外向型HSPに加え、刺激を追求する「HSS」という気質タイプを加え、HSPの4つの種類を見ていきましょう。
内向型HSP「HSP」とは
内向型HSPは、すべてのHSPの中で最も基本的かつ多いタイプで、以下のような特徴を持っています。
- 1人の時間でエネルギーを回復する
- 社交的ではなく、刺激を避けがち
- 他人の機嫌のアップダウンに恐怖を感じる
- ネガティブ思考が強い
- 物事を深く考え込む
- 共感力が強い
1人で深く考える時間が必要なので、行動が制限されやすく、刺激を避けがちです。他人から影響を受けやすいので、他人の機嫌のアップダウンが怖いと感じたり、自分がなにかしたのではないかと責めてしまったり、ネガティブ思考が強くなったりしやすいです。一方で、リスク回避能力は高く、人に優しいというメリットも兼ね備えています。
繊細で打たれ弱いというHSPの象徴的なタイプですが、他人に親身になれたり、クリエイティブなことに才能を発揮したりするタイプでもあります。
外向型HSP「HSE」とは
外向型HSPは、刺激を積極的に求めないものの、人との関わりは必要なタイプです。そのため、以下のような特徴が目立ちやすく、HSPと区別して「HSE(Highly Sensitive Extroversion)」と呼ばれることもあります。
- 人と関わることができ、人に優しい
- 1人で考え込む時間がある
- 考えすぎると気分が落ちてくるので、人と関わることで気分転換する
- 人と協力することでパフォーマンスが上がる
- 人から否定される、拒絶されることが怖い
内向型HSPとの大きな違いは、人との関わりが好きかどうかということです。外向型HSPは人との関わりが好きなので、社交的で人と一緒にいるのを好みます。少人数で遊ぶ、限られたメンバーで協力して仕事をする、などが好きなタイプです。その気質を活かして他人にとても優しくできるので、周囲の人からも好かれやすいです。
しかし、1人の時間が全く要らないというわけではなく、行動するための時間や準備期間、勉強期間、1人で深く考えるための時間などが必要です。また、後述する「刺激追求型」との違いは刺激を積極的に求めるわけではない、ということです。HSPの「刺激に敏感で、過剰に反応しやすい」という気質は持っていますので、強い刺激は特に苦手です。
刺激追求型HSP「HSS型HSP」とは
刺激追求型の気質「HSS」は、HSPとはまた別の特性であり、以下のような特徴を持っています。
- 好奇心旺盛である
- 大きな問題がないことなら、新しいことをどんどん試してみたい
- 1人で色々なことをやってみたいと思う
- 考える前に行動することがある
- 考える前に行動した結果、大失敗してしまうこともある
刺激を追求する「HSS」と、刺激に敏感で繊細な「HSP」の気質を両方持っているものの、外向型ではありませんので、社交性はあまり持っていません。人から受ける刺激に興味を持った場合は人との関わりを好む場合もありますが、社交性から出たものではありませんので、外向型と同様に接すると周囲が戸惑うこともあります。
好奇心旺盛で次々に刺激を求めるのに、刺激に敏感という性質も持っているので、疲れやすく燃え尽きやすいです。1人で深く考え、どんどん行動していくので天才肌の印象がありますが、刺激を次々と求め、それに対して立ち向かっていった結果、疲れきってしまいます。そのため、「防御力無視のHSP」と言われることもあります。
刺激追求型・外向型HSP「HSS型HSE」とは
最後にご紹介するのは、HSSとHSPの両方の気質を兼ね備えていながら、外向型の性格を持つ「HSS型HSE」と呼ばれるタイプです。人と関われて気遣いができて優しく、それでいてアクティブに活動できるので、一見すると「できる人」であり、人望に裏打ちされたリーダーシップを発揮できます。
しかし一方で、以下のようにHSSとHSEの両方の欠点も持ち合わせています。
- 人との調和が取れないと、本領発揮できない
- 些細な言葉で強く傷ついてしまう。社交的なので、より傷つく機会が多い
- 衝動で動いてしまうことが多く、HSS型HSPよりもさらに疲れやすい
- 考える時間は必要だが、考え込むとストレスになる
つまり、明るくて社交的で人に優しいけれど、裏ではどっと疲れてしまう、というタイプです。また、頑張りすぎた結果、衝動的にそれを手放してしまうこともあります。HSE(外向型HSP)の多くはこのタイプだと考えられています。
繊細で傷つきやすい性質は治療で治せるの?
HSPの繊細さや敏感さは、脳内の神経の高ぶりやすさではないかと考えられています。ヒトの情動反応の処理や記憶を司る脳の「扁桃体(へんとうたい)」という部位は、ストレスを受けたときに他の部位に危険を伝えたり、恐怖などの記憶を強めて次に同じような事態が起こったときに備えようとしたりします。
扁桃体の働きの強さには個人差がありますが、特にHSPの人は非HSPの人と比べ、生まれつき扁桃体の働きが強いと言われています。つまり、ストレスに反応する扁桃体の働きが常に活発なため、不安や恐怖を感じ取りやすいのです。また、こうしたストレス反応を抑えて心を穏やかにしてくれる脳内物質「セロトニン」を運ぶ働きが弱いため、扁桃体の興奮が静まりにくいとも考えられています。
感情が激しく高まったときに分泌される「ノルアドレナリン」や、ストレス反応を引き起こしてストレスに対抗しようとするホルモン「コルチゾール」なども分泌されやすいため、さまざまなことがらを無意識的・意識的に警戒し、ストレスに敏感に反応してしまいます。
しかし、HSPは生まれ持った気質であって病気ではないので、「治療」の対象ではありませんし、そもそも敏感なことは悪いことばかりではありません。敏感で影響を受けやすいということは、裏返せば感受性が豊かということでもあります。気質の長所はそのままに、上手に短所をカバーして行ければ良いのではないでしょうか。
HSPはうつ病に注意!仕事や人間関係のストレスでダメージ蓄積
HSPは、他人に共感しやすく疲れやすいほか、刺激に対するネガティブさから自己肯定感が低い傾向にあり、1人で深く考え込みやすいことからうつ病を発症しやすいとされています。特に、仕事ではさまざまな年代・職種の人、同僚・先輩・上司・取引先などさまざまな立場の人と関わるため、非HSPの人と比べて非常に消耗しやすく、うつ病には十分注意が必要です。
どんな病気でもそうですが、うつ病は特に早期発見・早期治療が大切な疾患です。うつ病は深刻化すればするほど、回復するまでの時間も長くかかるとされています。もし、抑うつ状態ではないかと思う症状があれば、できるだけ早く精神科や心療内科の専門医に相談しましょう。
このようにHSPが大元の原因で発症するうつ病や抑うつ状態のことを「HSPうつ」という俗称で呼ぶこともあります。SNSで話題になるなどHSPうつは徐々に世間で認識されつつあり、新型ウイルスや自然災害が相次ぐ現代では今後もさらにHSPうつが増えると予想されます。まずは、自分がHSPかもしれないと思ったら、うつ病や抑うつ状態になりやすい気質であることを自覚しましょう。自覚することで、予防や早期発見につながりやすくなります。
また、HSPは仕事以外でも環境の変化や人間関係でストレスを抱え込みやすく、繊細さから深く考えてずっと落ち込み続けたり、引きずったりしてしまう傾向にあります。ただし、人間関係でのストレスや苦労が多いという人の場合、HSPではなく似た特徴を持つ発達障がいだったということもあります。対人関係での悩みを抱える場合は、ぜひ一度医療機関に相談してみましょう。
おわりに:HSPは気質であり、その上でさまざまな性格を持つ人がいる
HSPは生まれ持った気質であり、環境などで変わるものではありません。そのため、内向的な性格を持つ人ばかりとは限らず、外向的な性格を持つ人や、刺激を追求するHSSの性質を併せ持つ人もいます。
HSPの原因は脳の扁桃体の働きが活発なことや、脳内物質の分泌や取り込みなどが関係すると考えられていて、ストレスに反応しやすいことからうつ病に注意が必要です。思い当たる症状があれば、ぜひ早めに医療機関に相談しましょう。
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