セクハラやマタハラ、パワハラなどさまざまなハラスメントの存在が世間一般に広く知られるようになってきました。今まで以上に周囲の人を尊重し、不快な思いをさせないような思いやりが必要性です。
そこで今回は職場で起こる代表的なハラスメントの定義や種類について、ハラスメントに関する法律の変化や規制にも触れながら、紹介していきます。
- この記事でわかること
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- 退職した人の本音って?何が辞めるきっかけ?
- セクハラの定義「対価型」「環境型」と気をつけたい例
- パワハラの「退職強要型」「人間関係型」の違いって?
- マタハラの定義や男女別の被害例
- 自分のためにも周りのためにも知っておきたいハラスメント
- どんな行動がNGなの?パワハラ関連法律について
- 人事部など会社がとるべき対応
退職理由が「人間関係」はあるある?!職場が辛くなるのはなぜ?
厚生労働省が行った「第6回 21世紀成年者縦断調査(国民の生活に関する継続調査)結果の概況」によると、直近1年以内に仕事を辞めた人の退職理由上位は以下の通りです。
【退職理由の上位にくるもの】
- 給与・報酬が少なかったから
- 労働時間が長かった、休暇が少なかったから
- 能力・実績が正答に評価されなかったから
- 会社の経営方針に不満を感じたから
- 事業または会社の将来に不安を感じたから
- 人間関係がうまくいかなかったから
- 自分の希望する仕事でなかったから
仕事内容や労働環境、待遇など就業にあたっての条件面に並び、退職の理由として人間関係を理由に挙げる人も多いのです。
なお上記調査では、雇用形態や性別により全体の人数に占める割合を公表しています。
雇用形態や性別ごとに見てみると、正規・非正規を問わず男女計で10%以上、女性では20%近い人が、退職理由の1つとして人間関係を挙げているのです。
人間関係の悪化、トラブルの一因となるのが職場でのハラスメントの横行です。
ハラスメントは、嫌がらせという意味の言葉です。被害者側が苦痛や不利益を被った、傷つけられたと感じた場合に成立すると定義づけられています。ハラスメントに該当するかどうかに、加害者の悪意や意図は関係ないものとされます。
セクハラ?パワハラ?マタハラ?職場の主なハラスメントって?
ハラスメントは、主に各職場で発生するものとされます。職場とは労働者が集まり、業務を遂行する場所の総称で、必ずしも通常の勤務先である事業所、部署だけを指す言葉ではありません。
事業所内はもちろん、業務遂行のために訪れた出張先や営業社内、取引先、顧客の自宅なども「職場」とみなされます。また業務時間外の飲食店であっても、業務との関連性やその場に参加しているメンバー、参加を強制したかどうかなどの条件によっては「職場」と判断されることがあります。
セクハラについては厚生労働省による防止対策や法改正などが行われていますので、最新の情報をチェックすることも大切です。
職場で特に発生率が高く、代表的なハラスメントとしては「セクハラ」「パワハラ」「マタハラ」の3つが挙げられるでしょう。
セクシュアルハラスメントとは?どんな言葉や行動がNG?
ここからは前項で述べた3つのハラスメントについて、具体的に説明していきます。
まず「セクシュアルハラスメント」とは、以下のように分類される性的な嫌がらせのことです。
セクシャルハラスメントの型
- 対価型
- 目上の人から目下の人へ性的な言動をしたり、性的な関係になることを迫ったうえ、断ると降格や減給、解雇などの不利益を与えるパターンです。
例えば、解雇の可能性を知らせたうえでの事業主から従業員への性的関係の強要、性的な接触を拒んだ部下の評価を上司が著しく下げるなどがこれに当たります。 - 環境型
- 職場でオープンに性的な嫌がらせを受けたために、業務に支障をきたすほど、労働者にとって職場全体が労働者にとって不快な環境となってしまうパターンです。
「性的にだらしない」などの噂を流されたり、同僚の前で体に度々触れられたり、公共の場に裸の写真など性的に不愉快なものを掲示するなどがこれに当たります。セクシャルハラスメントの特に恐ろしいところは、被害を受けた人に心理的後遺症が長期間のこり、再就職やその後の日常生活に困難が生じるリスクがある点です。
企業内でのセクシャルハラスメントの発生は、当事者と企業双方に以下のような被害をもたらす深刻な事態なのです。
セクシャルハラスメントによる被害
- 被害者に与える影響影響
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- 個人の尊厳や名誉、プライバシー、性的自己決定権を著しく貶められる
- 上記の理由から精神や身体に悪影響が及び、深刻な後遺症がのこる場合がある
- 能力を発揮する機会を妨げられ、労働者として不利益を被る
- 企業に与える影響
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- 職場全体で勤労意欲や風紀が低下し、秩序が乱れる恐れがある
- 事件により業務効率、組織の生産性が低下する
- 企業全体の評判が低下し、損害賠償の支払い責任が生じる可能性もある
以下に、セクハラとみなされる言動を一部紹介します。これらの発言、行動をした場合は、本人の意図にかかわらずセクハラとみなされる恐れがありますので、十分に注意してください。
セクシャルハラスメントになり得る言動の例
- スリーサイズなど、身体的特徴を話題にする
- 性的な経験の有無や頻度、性生活について質問すること
- 特定の人物の性生活について話題にしたり、噂を流すこと
- 労働者を人格や能力ではなく、性別によって差別して扱うこと
- 男は外回り、女はお茶くみなど、性別によって業務を強要すること
- 性的な内容を話したり、卑猥なものをわざと公共の場に設置すること
- 性的な内容のメール、手紙などをおくること
- 不必要に身体に接触したり、更衣室などをのぞくこと
- 食事の場への出席、デュエットやお酌を強要すること
なお若い女性だけが、セクシャルハラスメントの被害者となるとは限りません。女性から男性へのセクハラ、同性同士によるセクハラ、性的マイノリティへの差別意識からくるセクハラもあります。性別や年齢、性的趣向にかかわらず、誰でもセクハラの加害者・被害者になり得るのです。
パワーハラスメントとは?心と体への暴力や不当評価が当てはまる?
目上の人から目下の人へ、または取引先間において、互いのパワーバランスを利用して嫌がらせをすることを「パワーハラスメント」と言います。
パワーハラスメントは、以下2つの型に分類されます。
パワーハラスメントの型
- 退職強要型
- 特定の労働者を職場からは移譲するため、事業主や上司が自分達の優位な立場を利用し、一方的に退職させようとするもの。例えば、仕事を与えず長期の自宅待機を言い渡したり、本人の希望とキャリアからかけ離れた仕事をさせたり、退職届の提出を強要するなどが該当します。
- 人間関係型
- 特定の労働者への個人的な感情から、事業主や上司の立場にある人がいわゆるいじめにあたる行為をするもの。例えば人格を否定するような発言や叱責の他、部署やチーム単位での無視、からかい、暴力をふるうなどが該当します。またパワーハラスメントは、嫌がらせの内容ごとに以下6つに分類されることもあります。
嫌がらせ内容によるパワーハラスメントの分類
- 暴力を受ける、物を投げつけられるなど「身体的な攻撃」
- 些細なミスで長時間の説教、罵倒を受ける「精神的な攻撃」
- 職場の人間関係から切り離され、業務に支障をきたす「人格の否定」
- 達成不可能なノルマ、就業間際の仕事の押し付けなど「過大な要求」
- 雇用条件や本人の能力に合致しない業務ばかりさせる「過小な要求」
- 机の中を物色される、有給の理由を述べるよう強要するなどの「個の侵害」
パワーハラスメントの発生もセクハラと同様、企業と当事者である個人に多大なる損害を与えます。
被害者は退職を余儀なくされたり、ストレスから心身の健康を害したり、対人関係への恐怖心から再就職できなくなるケースも少なくありません。
なお、仮に企業側が把握していないところで起きたパワハラであっても、企業のトップには労働者の安全に配慮する義務があると法律で定められています。
このため、パワハラが起きた企業は周囲からの評価が著しく低下するだけでなく、損害賠償の支払いにより多大な経済的損失を被る可能性があります。
マタハラ・パタハラとは?育児や出産で不当な待遇を受ける?
次は「マタハラ」、「マタニティハラスメント」について説明していきます。
- マタニティハラスメントの定義
- 雇用する女性従業員が妊娠した場合に、妊娠または出産を理由に身体的・肉体的嫌がらせを受けたり、不利益を被ること。
本来ならおめでたいことである妊娠・出産に対し、企業内で嫌がらせが発生する原因としては、以下2点が大きく関係しているとされます。
- 社員の理解と協力の不足
- 会社側の支援制度の設計・運用の徹底不足
具体的には妊娠・出産を理由に以下のような対応をされることを、マタニティハラスメントと認定します。
マタハラの具体例
- 妊娠や出産を理由に、またはこれに伴う休業申請を理由に解雇される
- 妊娠や出産をするなら退職するのが暗黙の了解になっていて、辞めざるを得ない
- 妊娠したことを理由に、契約の更新をしないと言われた
- 妊娠や出産に伴い、雇用契約や労働契約の内容を否応なく変更させられた
- 妊娠や出産について「迷惑」「邪魔」「休まないでほしい」などと言われる
- 妊娠していること、体調管理のため早く帰ることに嫌味を言われる
- 妊娠中や産休明けに、重労働や残業を伴う部署へ異動させられた
- 妊娠したことにより、管理職のポストを追われ降格させられた
- 就業可能な状態であるにもかかわらず、妊娠や出産を理由に派遣先を変えられた
なお上記は、妊娠・出産を行う女性に対してのものですが、子を持つ男性に対して行われるパタハラ、パタニティハラスメントも発生しています。
母性を意味する「マタニティ」に対し、父性を意味する「パタニティ」へのハラスメントとしては、以下が挙げられます。
パタハラの具体例
- 男性が育児休業、育児参加のための休暇を取ることを阻害する
- 育児参加のため休暇を取ろうとする男性に対し、嫌味を言う
- 「男なのに育児休業なんて」「育児休業を取るなら、お前に戻る席はない」と言われる
など
夫婦共働き、男性の育児参加が当たり前とみなされるようになった昨今、女性だけでなく男性も出産・育児にかかわるハラスメント被害者になり得るのです。
それも〇〇ハラ!知らないと怖い職場のハラスメント行為13選
ここまでに紹介してきたセクハラ、パワハラ、マタハラ、パタハラ以外にも、職場では起こり得るハラスメントとしては以下が挙げられます。
- 【モラハラ】
- モラルハラスメント。暴力こそないものの、言葉や高圧的な態度で精神的に個人を傷めつけるハラスメントで、加害者の多くが自身の正当性を信じているのが特徴です。
- 【ジタハラ】
- 時短ハラスメント。働き方改革、人件費削減などの目的から労働時間の削減を申し渡しながら、時間内で業務を終えるための対策や業務内容変更を行わないことを指します。
- 【ジェンハラ】
- ジェンダーハラスメント。労働者に男らしさ、女らしさを強要するハラスメントです。世間一般や、加害者個人がイメージする性別役割分担を基準に「男のくせに」「女のくせに」などと労働者の言動を非難したり、業務内容を限定したりします。
- 【ケアハラ】
- ケアハラスメント。就業しながら、家族の介護を行う労働者に行われるハラスメントです。介護を行うための働き方、労働時間の変更に対して嫌味を言い、本人が望まない業務内容や雇用条件の変更、降格、解雇などを行います。
- 【パーハラ】
- パーソナルハラスメント。個人の容姿、クセ、趣向をバカにすることです。加害者側が「いじり」と勘違いしやすいのが特徴で、「ブス、チビ、デブ、ハゲ、オタク、変人」と呼ぶなどして、本人を不快にさせます。
- 【エイハラ】
- エイジハラスメント。年齢を理由に労働者を中傷する嫌がらせのことです。例えば、役職のない中高年労働者に対し「万年平社員」「いい年をして」などの嫌味、独身女性に対し「まだ結婚できないの?」「子どもが産めなくなる」などと言うことを指します。
- 【リスハラ】
- リストラハラスメント。企業がリストラ候補者に嫌がらせを行い、自主退職に追い込むハラスメントです。特に管理職に就く労働者が被害者になることが多く、具体的には望まない異動や配置転換、転勤を命じたり、全く仕事を与えないなどが挙げられます。
- 【ソーハラ】
- ソーシャルハラスメント。職場の上下関係を利用し、SNSで嫌がらせを行うことです。「いいね」や「友達リクエスト」承認の強要、プライバシーの侵害や暴露、上司による部下の投稿の執拗なチェックなどが該当します。
- 【ラブハラ】
- ラブハラスメント。恋愛に関する話題を持ち出し、精神的苦痛を与えるものです。
セクハラ、モラハラから派生したものとされ、加害者は自らの結婚観・恋愛観を被害者に押し付け、マウントをとって精神的苦痛を与えます。 - 【マリハラ】
- マリッジハラスメント。独身者に対し結婚しないことを責めたり、結婚すべきと強要したり、結婚しない理由を執拗に聞いたりするハラスメントです。職場では上司から部下へ、親切のつもりで悪気なく行われることが多いとされます。
- 【スモハラ】
- スモークハラスメント。喫煙者が非喫煙者に対し行うハラスメントで、喫煙・受動喫煙の強要の他、断れない状況で喫煙の許可をとることなども該当します。
- 【アルハラ】
- アルコールハラスメント。本人の意思や体調を無視し、上下関係を利用して飲酒を強要する、意図的に酩酊させるなどがこれに当たります。
- 【スメハラ】
- スメルハラスメント。においで不快な思い、精神的苦痛を与えるハラスメントです。
汗や体臭、タバコのニオイの他、強すぎる香水や整髪料、柔軟剤などの香料のニオイも「不快」と感じられればスメハラの原因となります。
ハラスメントに関する法律は?2020年制定のパワハラ防止法って?
セクハラ、パワハラ、マタハラについては、法律上、2020年10月時点でそれぞれ以下の通り定められています。
セクハラに関する法律
1999年、職場でのセクシャルハラスメントの防止措置が事業主に義務付けられました。2017年の男女雇用機会均等法、育児・介護休業法制定により、妊娠や出産、育児に関するハラスメント防止措置も事業主に義務化されています。
パワハラに関する法律
2019年6月5日の「改正労働施策総合推進法」交付により、職場でのハラスメント対策の強化を企業に義務付けられました。
パワハラの基準として、以下3点を法律に明記
- 企業の「職場におけるパワハラに関する方針」を明確化し、労働者への周知、啓発を行うこと
- 労働者からの苦情を含む相談に応じ、適切な対策を講じるために必要な体制を整備すること
- 職場におけるパワハラの相談を受けた場合、事実関係の迅速かつ正確な確認と適正な対処を行うこと
上記内容を大企業に対しては2020年6月1日から、中小企業は2022年4月1日から施行すると定められています。ただし、このパワハラ防止法を守らないことによる罰則はありません。違反が明らかになった企業へは助言や指導、勧告が行われる可能性があります。
マタハラに関する法律
男女雇用機会均等法第9条第3項で「妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止」、男女雇用機会均等法第11条の2において「上司・同僚からの妊娠・出産等に関する言動により妊娠・出産等をした女性労働者の就業環境を害することがないよう防止措置を講じること」と定められています。
また、育児・介護休業法第10条において「育児休業・介護休業等を理由とする不利益取扱いの禁止」が明記され、育児・介護休業法第25条を根拠として「上司・同僚からの育児・介護休業等に関する言動により育児・介護休業者等の就業環境を害することがないよう防止措置を講じること」と明記されています。
少なくともセクハラ、パワハラ、マタハラについては企業側に防止・改善のための対策をとる義務があると、法律で明確に定められています。
ハラスメントの社内相談先は人事部?どんな対策ができる?
自社内でのハラスメント、またハラスメントによる不利益が発生しないよう調整するのは、主に人事部の役割です。
人事部として、社内でのハラスメント予防のためにできる対策には以下があります。
【ハラスメント予防対策の例】
- 就業規則に、自社がハラスメントを許容しない旨を明記する
- ハラスメントの具体例はパンフレットやチラシ、社内報などで周知する
- 部下を持つ管理職に向け、ハラスメントに関する制度や法律を周知する
- 自社にハラスメントの専門家を招き、セミナーを受けさせて周知させる
- 被害を受けた従業員が匿名で相談できるよう、相談窓口を設置する
- 相談を受ける際は被害者のプライバシーを守り、相談によって不利益を被ることがないよう個室で行う
- 相談を受ける担当者には、男女とも話しやすい人物を選出する
- 相談から解決までの流れを明確に決め、ハラスメント問題解決の道筋を社内に示す
ハラスメントの状況を放置したまま心身の負担を蓄積させると、不調を引き起こす原因となります。仕事でのハラスメントに悩んでいる場合は、会社に相談窓口がないか確認してみましょう。相談窓口がない場合は専門家に相談するのがおすすめですよ。
厚生労働省「あかるい職場応援団」がハラスメント防止の参考になる!
職場のハラスメントについては、厚生労働省による「あかるい職場応援団」も参考におすすめです。ハラスメントを受けて困っている人、ハラスメントと指摘された人、職場でハラスメントが発生した人事担当者それぞれのためになる情報が発信されています。
HPでは、ハラスメントの事例や裁判例、対応策の参考、オンラインのハラスメント研修講座などを閲覧できますよ。
おわりに:企業にはセクハラ、パワハラ、マタハラの防止策を講じることが法律で義務付けられている
嫌がらせを意味するハラスメントは、職場や家庭などさまざまな場面で起こっています。このうち、職場では特にセクハラ、パワハラ、マタハラが起こりやすいとされ、法律において企業側にこれらのハラスメントを防止する義務があると明記されているほどです。何がハラスメントに該当するかを正しく理解し、自社内でハラスメント加害者・被害者を生まないために十分な対策を取るべきでしょう。
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