仕事のミスや遅刻、コミュニケーショントラブルが多い場合、もしかしたら大人の発達障害かもしれません。今回は発達障害のうち、特にADHDの特性や【不注意優勢型、多動・衝動優位型、混合型の特徴】、ミスを減らすためにできる治療や対策、周囲ができるサポートなどを紹介します。
- この記事でわかること
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- 忘れ物や遅刻などが多いADHDの特徴って?
- ADHDの3つのタイプとセルフチェック
- ADHDの診断ができる場所と治療法の種類
- 身近にADHDの人がいるときの接し方
ミスが多くて辛い!原因は性格じゃなくてADHDかも?
発達障害のうちADHDとは、日本語で「注意欠陥多動性障害」と訳されるものです。
生まれ持った脳の仕組み、働きのクセによって生じる障害で、以下のような特性を現します。
- 【ADHDの代表的な特性】
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- じっとしていることが非常に苦手で、衝動的に行動・発言してしまう
- 気を付けていてもケアレスミス、遅刻、忘れものを頻発させてしまう
- 精一杯頑張ってもうまく仕事をこなせず、評価されないことが多い
その名の通り、物事に対しての注意力や集中力が弱く、注意散漫で自分の行動・言動をうまくコントロールできないのがADHDの特性なのです。
特性の現れ方には個人差がありますが、多くは5~6歳の子どもの頃から現れてきます。
年齢によって特性の現れ方が変わることも多く、子どもの頃には多動性・衝動性が、大人になるにつれて不注意の症状が強くなる人が多いとされます。
ADHDの症状とは?タイプ別セルフチェックをしてみよう
ADHDは、特性の現れ方により不注意優勢型、多動・衝動優位型、混合型の3タイプに分けられています。それぞれの特徴を以下に見ていきましょう。
【不注意優勢型】
不注意の特性が最も強く現れるタイプ。
注意力散漫なためにうっかりミスの回数、頻度が非常に高くなり、物事に長く集中して取り組むことも苦手です。
【多動・衝動優位型】
多動、衝動の特性が強く現れるタイプ。
行動や感情、発言のコントロールが極端に苦手です。このため貧乏ゆすりを辞められない、感情的な行動や物言いをしてしまうなどの症状が見られます。
【混合型】
不注意と多動性、衝動性の2つすべてのADHD特性を現すタイプです。
症状的にも、先に述べた不注意優勢型と多動・衝動優位型両方の特徴が見られます。
心療内科や精神科の医療機関で用いられる発達障害の診断・統計マニュアル「DSM-5」によると、タイプ別ADHDの代表的な症状は以下の通りです。
各タイプの項目に5つ以上当てはまり、症状が6か月以上継続している場合は、ADHDの可能性が高いと考えられます。
【タイプ別、ADHDの症状チェックリスト】
《不注意優勢型》
- 不注意から失敗することがよくある
- 注意を持続させることが難しい
- 不注意から失敗することがよくある
- 指示されたことをやり遂げることができない
- 順序立てて課題を進めることが難しい
- 継続して課題に取り組むことが難しい
- 話しかけられても聞いていないように見える
- よく必要な物をなくす
- 忘れる、抜け漏れることがよくある
- よく関係ないことで気が散る
《多動・衝動優位型》
- 着席し続けるのが難しく離席してしまう
- じっとしていられないような気分になる
- そわそわと手足を動かしたり座っていても、もじもじ動いてしまう
- 勢いよく行動し続ける、じっとしていると落ち着かない
- 静かに遊びや余暇活動に取り組むことが難しい
- しゃべり過ぎることが多い
- 相手の話が終わる前に話し始めてしまう、相手の言葉を先取りして話してしまう
- 他の人の活動を遮って邪魔をしてしまう
ADHDの治療法は?何科を受診するの?
ADHDの治療は環境調整、認知行動療法、ソーシャルスキルトレーニング、薬物療法を個人の状態・特性に合わせ併用し進めていくのが一般的です。
【1:環境調整】
本人がより物事に集中しやすいよう、生活や仕事の環境を整えていきます。
【2:認知行動療法】
行動や考え方のクセを分析し、見直すことで、ストレスの軽減や特性によるトラブル、生活上の困難を減らす治療法です。具体的には医師や臨床心理士、同じく発達障害の治療を受ける患者とともに、以下のようなプログラムを受けていきます。
- ADHDの症状、対処法を学び自己理解を深める「心理教育」
- 行動の動機付けやなど、自身のやる気を起こすコツを学ぶ「自己報酬マネジメント」
- やるべきことを期限内に行うための「スケジュール管理トレーニング」
- やるべきことへの注意力、集中力を持続させるための「注意持続訓練」
- なくしもの、忘れものを減らすための「整理整頓トレーニング」
- 感情の扱い方を学び、習得するための「感情コントロール」
【3:ソーシャルスキルトレーニング】
他者との関係づくり、またそのための話し方、コミュニケーションスキルを具体的な体験を通して学んでいきます。
【4:薬物療法】
発達障害の特性を生み出す、脳の働きのクセを薬でコントロールする治療法です。具体的には、脳内神経伝達物質がスムーズに働くようドーパミン、ノルアドレナリンなどを含む薬の服用を通して、症状の軽減をめざします。
ADHDの治療ができる医療機関
ADHDなど、発達障害の診断・治療は精神科または心療内科の医療機関で受けられます。ただし、すべての精神科・心療内科の医療機関に発達障害に詳しい医師がいるわけではありません。
お住まいの地域の発達障害支援センターへの問い合わせ、日本児童青年精神医学会が公開する情報の閲覧を通し、発達障害に詳しい医師のいる医療機関を探しましょう。
ADHDの人に向いている仕事と難しい仕事は?
ここまで特性として、ADHDによる仕事への影響を説明してきましたが、ADHDの特性が長所となる仕事ももちろんあります。
例えば、ADHDの人が持つ以下のような特性は、仕事によっては長所となり得るでしょう。
【ADHDの人が仕事で発揮できる長所】
- とにかく好奇心が旺盛なので、新しいことにチャレンジしやすい
- 決断力と行動力を併せ持ち、物事をスピーディーに進められる
- 発想力に富んでいて、たくさんのアイデアを出すことができる
- 興味のある分野には、時間を忘れて没頭することができる
- 周囲の環境の変化や良し悪しを敏感に感じられる
【ADHDの人に向いている仕事】
長所を活かせるという意味では、以下のような仕事はADHDの人に向いていると言えます。
《不注意の特性が強い人の場合》
ADHDのうち不注意の特性が強く現れる人には、自身の発想力やアイデア、感性が活かせる以下の職業が向いているでしょう。
- イラストレーター
- デザイナー
- アニメーター
《多動・衝動性の特性が強い人の場合》
移動の機会が多い、または高い集中力や豊かな好奇心を活かし、専門性を高めていける以下のような仕事は多動・衝動性の強いADHDの人に向いているでしょう。
- 起業家
- 営業職
- カメラマン
- ジャーナリスト
- プログラマー
- 研究者
- エンジニア
一方でADHDの人は、仕事中に以下のようなミスを犯しがちです。これらのミスが発生しやすい仕事、環境での就業は避けた方が良いでしょう。
【ADHDの人が、仕事中に起こしやすいミス】
- 書類の記入漏れなどのケアレスミス
- 優先順位のつけ方を間違えることによる、納期遅れ
- マルチタスクをこなせないことによる、業務効率の低さ
- 重要な書類、必要なものを忘れたりなくしたりする
- 自分の中で考えがまとまると、他人の意見を聞かず動き出してしまう
- やるべきことにうまく集中できないために、仕事が終わらない
- 好きな分野の仕事ばかりに没頭し、止められなくなる
- 相手の立場、自身との関係性によらず不適切な発言も衝動的にしてしまう
大人のADHDに悩む人が仕事のミスを減らすコツ
ADHDに悩む社会人は、仕事でも悩みを抱えがち。仕事は基本的にはチームワークやコミュニケーションといった、人間関係で回っていきます。個人がスキルアップに力を入れることはもちろんですが、ADHDの人は対人コミュニケーションを意識するのもおすすめです。
こちらの記事では大人の発達障害の人がコミュニケーションで意識すべきポイントをまとめていますので、職場のチームワークや人間関係の参考にしてくださいね。
▼ D:commu(でぃーこみゅ)「大人の発達障がいの人が取り入れたいコミュニケーション問題の対処法」
ADHDの同僚との付き合い方は?サポートしてミスを減らす方法
職場にADHD、またはその疑いのある同僚がいる場合に周囲ができるサポートとしては、以下が挙げられます。
【職場でADHDの人が必要とするサポート】
- 目の前の仕事に集中できるよう、座席位置を調整する
- 周囲の音が気になり仕事に集中できないようなら、耳栓などの使用を認める
- 明るさや視界が気になり仕事が進まないようなら、パーテーションなどを設置する
- マニュアルを渡す、作成させるなどして仕事の流れや中身を可視化させる
- 外出するならその前の準備時間、出発時間なども含めてスケジューリングするよう指示し、各予定の前後には必ず余裕時間を組み込む
- ADHDの人にとって難しい電話対応に際しては、専用のマニュアルとメモ用紙を渡す
- 入力や記入ミスが減るよう、作業時の道具や方法を工夫したり、チェック体制をつくる
- きちんと相手の話を聞いてから発発言できるよう、聞く姿勢を普段から意識させる
- 会議前には議題や目的、出席者などをあらかじめ確認しておくよう指示し、発言すべきタイミングや内容について上司とすり合わせておく
苦手な分野があるのは、ADHDの人もそうでない人も同じです。ただADHDの人は、その苦手が人よりもはっきりしているために、仕事上ミスをしやすいと言えます。
ADHDの人が得意なこと、できないことを把握したうえで、互いが円滑に仕事を進めていけるようサポートしてあげてくださいね。
おわりに:特性を知り、周囲からのサポートを得られれば、ADHDの人も仕事のミスを減らせる
ADHDの人には不注意、多動性、衝動性が特性として現れます。このため記入や入力ミス、忘れもの、なくしもの、遅刻や納期遅れなど、そうでない人よりも仕事のミスを起こしやすいとされているのです。しかし本人が自身の特性を理解し、これをカバーする対策を行い、周囲から適切なサポートを受けることができれば、ADHDによるミスは大幅に減らせます。本記事を参考に発達障害の診断、治療を受けることも考えてみてください。
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