お墓を撤去して管理の必要をなくす「墓じまい」。手間やコストを削減するために墓じまいする人が増えていますが、知識なく墓じまいをするとトラブルを招くことも。特に、本人や家族の判断で進めてしまうと親戚トラブルの原因になりがちです。
この記事では墓じまいに関する基本的知識とトラブル回避のポイントを紹介します。
- この記事でわかること
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- 墓じまいが広まった理由とメリット
- 墓じまいに必要な書類・手続きと相談先
- 墓じまいを親戚に相談するときの事前準備
「墓じまい」にメリットを感じるのはどんな人?
お葬式に対する考え方の変化とともに、お墓に対する意識もだんだんと変化してきました。葬儀の後は墓石へ納骨するというのがこれまでの常識でしたが、時代が変わるにつれ「墓石を作る費用の負担軽減」「子どもに負担をかけないお墓の考え方」「将来的にお墓の管理が難しくなる」などのニーズが広まり、墓石と納骨にこだわらない考え方をする人も増えています。
墓石に納骨するとなると、一般的にはお寺が管理する墓地を借り、数百万円をかけてお墓を作らなくてはなりません。既に家のお墓がある場合はお寺の檀家になっているケースが多く、葬儀を行う際にも家族葬を選べない場合が多いようです。葬儀を自由に行いたいという人や、子や孫に負担をかけたくないと思う人にとって、こうした承継を前提としたお墓は合わないのです。
このように、葬儀やお墓に関する実際と意識が変化・多様化してきたことにより「墓じまい」の考え方が広まってきました。
- 墓じまいとは
- 現在のお墓を解体・撤去して更地にし、その使用権を墓地の管理者に返還すること。墓じまい後は、元のお墓から出した遺骨を別の場所、または別の形で供養する
厚生労働省による「衛生行政報告例」のデータによれば、先祖代々受け継がれてきたお墓を解体・撤去して改葬する事例は下記のように増加傾向にあります。
- 2016年:9万7,317件
- 2017年:10万4,493件
- 2018年:11万5,384件
このように墓じまいが増加している背景には、お墓に対する価値観の変化以外にも以下のような要因が考えられます。
墓じまい増加は少子高齢化や核家族化、過疎化の影響も
日本の伝統的なお墓の形態では、「○○家の墓」というように家名が刻まれ、家族や親族の遺骨を納めて子孫へと受け継ぐ「家」単位での継承が基本とされています。しかし、これは明治時代に制定された民法による「家」制度の名残であり、家督を相続する長男がお墓も同時に受け継ぐ、という考え方に基づくもので、現代の多様なライフスタイルには合わない場合も多いのです。
少子高齢化・核家族化が進み、多様な生き方を尊重する現代では、単身者・夫婦のみ・夫婦と未婚の子ども・父または母とその子どもなど、コンパクトな家族が増えています。すると、明治時代に想定されていたような家族像とは大きく異なり、後を継ぐ子どもがいない家庭や男子のいない家庭も多くなりました。現時点でのお墓の継承者が「将来のお墓の管理が負担にならないように」と、自分たちの代で墓じまいをするケースが増えているのです。
また、地方の場合はそこに住んでいた若い世代が進学・就職・結婚などを機に都市部に移り住むことも増え、その土地には戻らない「過疎化」も進んでいます。これも墓じまいが増えている要因の一つで、先祖代々の墓がある土地に住み続けている両親が高齢になってお墓参りがままならず、遠方に住む子ども世代も頻繁な帰省が難しいという場合にお墓が荒れることを懸念するものです。
「両親を呼び寄せ、お墓も現在の住まいの近くに移したい」「いずれお墓の管理がままならなくなり、迷惑がかかる」などの理由から、墓じまいになるケースが多いようです。
無縁墓がクローズアップされたことによる意識の変化
さらに無縁墓の増加も、墓じまいに影響しています。
- 無縁墓とは
- 永代使用で契約されたお墓の継承者が途絶えたお墓のこと
無縁墓は手入れする人がいないので汚れて雑草が生い茂り、次第に荒れて周囲の墓に迷惑をかけてしまったり、管理者の負担を増やすデメリットがあります。近年、このように荒れ果てたまま放置されるお墓や、投げ捨てられた墓石の山など無縁墓の存在が社会問題としてクローズアップされるようになりました。
こうした現状を受け、「先祖代々続いてきたお墓だけれど、いずれは無縁墓になるかもしれない」という危機意識から、「元気なうちに自分の手でお墓を閉じておこう」という行動につながったと考えられています。自身のお墓が無縁墓にならないよう、将来的にお墓の管理に不安があるという人は、墓じまいについてもしっかり検討しておく必要があるでしょう。
もし、こうしたお墓の存在に管理者が気づいた場合、官報に「1年以内に名乗り出てほしい」という縁故者に向けた通知を掲載すると同時に、墓地の見やすい場所に立て札を立てて申し出を待ちます。通知後、1年以内に縁故者からの連絡がない場合、無縁墓とみなされ、管理者の手で解体・撤去して更地にし、合祀墓で他の無縁仏とともに祀られます。
墓じまいを親戚に無断で進めるのはマナー違反!
実際に墓じまいをしようと思ったとき、家族内の判断だけで決めてしまわないよう注意しましょう。家族内での合意がとれたら、次に関係する親族全員と話をして同意を得るのが安心です。お墓に対する価値観が多様化し、自由が尊重されるようになってきたとはいえ、まだまだ「お墓は代々受け継いでいくもの」だという考え方を持っている人もいます。
悩んだときや悲しいときは必ずお墓参りに行く、というように、大切な人の遺骨を納めた「お墓」を心の拠り所にしている人、お墓という形式にこだわる人も少なくありません。こうした人が親族の中にいた場合、家族だけの判断で墓じまいをしてしまうと後々大きな親戚トラブルに発展してしまう可能性もあります。
そのため、親戚に墓じまいについて相談するときは下記のことを事前に確認しておきましょう。
- お墓の中には誰の遺骨が何体入っているのか
- 墓じまい後にそれぞれの遺骨をどこに納骨するか
- なぜ墓じまいを考えたかの理由
墓じまいの理由とその後の計画を親族に丁寧に説明し、納得してもらいましょう。話し合いで決定した内容は、覚書を作っておくと後々のトラブルも回避できます。
墓じまい・離檀の手続きと流れ
親族の同意も得られ、実際に墓じまいを行うとなった場合は、概ね以下のような手続き・作業・費用などが必要とされます。
- 墓地の管理者への届け出
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- 寺院墓地ならお寺へ、霊園なら管理事務所へ「墓じまい」の旨を届け出る
- 遺骨を同一の寺院や霊園内の永代供養墓地へ移す場合、手続き方法は住職や管理者の指示に従う
- 別の場所へ改葬する場合は「改葬許可証」、新しい墓所へ移す場合は移す先からの「受入証明」「埋葬証明」などが必要
- 新しい墓地・墓石の準備(改葬の場合)
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- 遺骨を新しいお墓に移す場合、事前に墓地・墓石の確保が必要
- 新しい墓地の管理事務所に他の墓地から改葬する旨を届け出て、「受入証明」をもらっておく
- 閉眼供養:1〜5万円程度
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- お墓から遺骨を取り出す際に行う儀式のことで、仏教のみならず他の宗教や宗派でも同じような儀式を行うケースがある
- お墓には故人の魂が宿るとされているため、僧侶がその魂を抜いて(閉眼)、墓石を単なる物体にする
- 通常、墓石を動かして遺骨を取り出すので、石材店に依頼して行う
- 日程などはお寺・霊園・石材店とよく調整して決める必要がある
- 離檀(※お寺の場合):10〜20万円程度
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- お寺の墓地を改葬または墓じまいする場合、お寺へのお礼の意味も含めて「離檀料」を渡す
- 相場は法事1回あたりのお布施と同等とされている
- お墓の解体・撤去、墓地を更地にするための工事
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- お墓の敷地は行政やお寺から借りているので、墓じまいをするときは全てを撤去し、更地にしなくてはならない
- 霊園墓地の場合も更地にして返還するのが一般的ですが、契約によって異なるので管理事務所に確認する
- 費用は墓地の広さ・墓石の大きさや量・撤去作業の方法や工数によって異なる
- クレーンやトラックを使えるか、人手と日数はどのくらいかかるかなどで変わるので、事前に石材店から見積りをとっておく
- 移転後の墓地での納骨・法要(改葬の場合):10〜20万円
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- 移転後、新たに納骨する際には納骨式の法要とお坊さんへのお布施が必要
- 通常の法要と同様程度が相場
墓じまいの煩雑な手続きは行政書士に依頼することも可能
このように、墓じまいにはさまざまな手続きが必要で、行政への届出もしなくてはなりません。そのため、自分で手続きを行うのが難しい場合、行政書士などの専門家に依頼することもできます。この場合の費用は手続き内容によっても異なりますが、だいたい10〜30万円程度です。そのことも踏まえると、墓じまいをするときにはだいたい50〜100万円程度のお金がかかると予想されます。
もし、墓じまいの後で改葬する場合は、これとは別に新しい墓地を購入する費用もかかってきます。墓じまいを考えている人は、事前に家族や関係者でよく話し合い、十分に検討しましょう。
おわりに:家族葬や墓じまいをするときには、家族だけでなく関係者でよく話し合うのがマナー
近年の少子高齢化や葬儀・墓地に対する価値観の変化などにより、家族葬や墓じまいを選ぶ人も増えています。しかし一方で、葬儀や墓地は家族だけでなく親族も関わってくるものですから、家族だけの判断で進めてしまうと思わぬトラブルを招く可能性もあります。
家族葬や墓じまいを行うときは、お墓に入っている遺骨をどうするのかなど事前の準備を入念に行うと同時に、必ず関係する親族とよく話し合い、理解を得ておきましょう。
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