企業を運営していくうえで欠かせない、人材の手配と管理を担う専門部署である人事部(HR)。人事部もしくは人事担当者はほとんどの企業に配置されていますよね。
今回は人事の仕事内容や重要性、繁忙期、人事の仕事に向いている人の特徴やキャリアアップ・スキルアップの道まで、人事部についてまとめて紹介していきます。
- この記事でわかること
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- 会社の経営のために人事部が果たす重要な役割
- 人事部が繁忙期となる月とその理由
- 人事部で活躍するために身に付けたい能力や人格
- 出世や転職成功を目指す人事におすすめの資格
人事部の仕事内容と近年の人材雇用の在り方
企業がスムーズに業務を遂行するには、リソースが欠かせません。リソースには、資金・物資・情報などがありますが、人材も資産です。人事部は英語でヒューマンリソース(HR)とも呼ばれていますよね。そのため、人材を管理する人事部は企業運営に不可欠な存在となります。
その業務範囲は企業の規定によっても変わってきますが、一般的には以下4つが人事部の仕事の範疇だと考えられています。
人事部の仕事内容には、以下のような業務があります。
- 《1》採用
- 企業の発展と成長、安定に必要な人材を確保するための採用活動全般は人事部の仕事。各部署や経営陣の意見を聞きながら、どんな人材をいつごろまでに採用するのか、採用活動の内容からスケジュール、採取的な採用決定の段階まで携わっていく。
- 《2》労務管理
- 既存の従業員の給与や勤怠を管理する仕事。労働組合からの意見や、雇用労働関係の法律改正にも意識を向けながら、必要に応じ就業規則や労働環境の見直しも図る。
- 《3》人事制度の企画・運営
- 従業員のモチベーションや自社の離職率に直結する、人事制度や評価基準の企画や運営をする仕事。企業組織を安定的に運営できるよう、従業員が働きやすい環境を整備する制度の構築が求められる。
- 《4》人材育成
- 既存の従業員、または新しく採用した人材の能力の開発・向上のための機会を用意する仕事。具体的には新入社員向けの研修制度の企画や、業務に関わる資格やスキルを取得するための機会を提供することなど。経営計画と個々人の従業員のスキルや経験、希望を加味しながら育成計画を策定していく。
ただし近年では、時代とともに人事部が担うべき業務内容が変化してきています。例えば、労務管理や採用活動における応募者とのやり取りなどを外部の専門業者やプロフェッショナルに任せ、人事部はその窓口となるだけというケースも増えているのです。
また、ダイバーシティの取組から多様な人材の活用が求められ、外国人や高齢者、障がい者、一時休業者などの積極的な採用も、大企業には求められるようになってきました。
企業が時代の変化に対応するためには、人事部の方針を変えていくことも求められます。これからの企業人事部には、時代に合わせて仕事の内容や方針を柔軟に変化させ、必要な能力を獲得できる人材が求められるでしょう。
経営陣との距離が近く、会社にとって重要な部署
すべての従業員の勤怠管理を担い、企業の代表として面接や就職説明会を担当することも多い人事部は、企業に関わる多くの人にとって身近な存在だと言えます。
しかし一方で、携わる業務の関係上、経営企画部に次いで経営陣に近い部署でもあるのです。
- 人事部が経営陣に近い、重要な部署とされる理由
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- 企業の4大資産のひとつである、人材を扱う部署だから
- 採用や人事、人事制度の企画や運営を成功させるには、経営陣と連携する必要があるから
- 経営陣と共同作業をする機会も多く、他の部署に比べ、その働きや成果が経営陣の目に留まりやすく昇進・昇給が見込めるから
会社の将来を左右する要素となる人事部は、企業にとって非常に重要な心臓部のひとつです。多くの企業で人事部が地方の支店や支社ではなく本店や本社に置かれているのは、経営陣と連携し秘匿性の高い業務にスムーズに当たれるようにとの配慮があるからでしょう。
人事部の繁忙期は?実は一年中忙しい!
1年間のうち、人事部が特に忙しくなるのは以下5つのタイミングです。
- 《1》選考が開始される3か月前
- 新卒の採用活動を行うための準備がある時期。具体的には採用予算やスタッフの確保、スケジュール決定などを他部署や経営陣と連携して行う。
- 《2》新入社員を迎え入れる4月
- 新入社員が入社する時期のため、教育・研修の体制を整えるとともに、既存従業員の配置換えやフォローも必要。
- 《3》査定と昇給のタイミング
- 全従業員に対し、公正に昇進や昇給、賞与算定のための査定を行う時期。企業の人事制度や就業規則によっては、データや周囲の評判からだけでなく、一人ひとりの従業員と面談して査定しなければならないこともある。
- 《4》社会保険算定の時期である6月頃
- 従業員の社会保険料の算出に必要な書類を作成し、日本年金機構へ提出する業務が発生。企業からは毎年7月に「社会保険の算定基礎届」を日本年金機構へ提出する義務があるため、その少し前の6月ごろには繁忙期となる。
- 《5》年末調整の12月頃
- 従業員の所得額を確定させ、所得税の過不足を調整する年末調整を行う時期。必要書類は1月に提出する必要があるため、人事部には12月中に全従業員から年末調整の用紙と控除に必要な各種書類を回収し、規定の資料を完成させなければならない。
採用活動の準備、新入社員の入社、査定のタイミングは、企業の就業規則や人事制度、採用スケジュールによって変わってきます。人の入れ替わりが激しい企業であれば、採用活動に伴う繁忙期が長く続くこともあります。
なお、国への書類提出が必要な社会保険料算定と年末調整による繁忙期は、それぞれ6月と12月の1か月ずつが目安です。経理部ではなく人事部が給与計算を担当している企業では、上記に加え毎月の給料日前にも繁忙期がやってきます。
人事部で働くなら、基本的に年間を通してずっと忙しいと覚悟しておくべきでしょう。
人事に向いている人の特徴は?秘密厳守はマスト!
常に忙しく働き、企業の中枢を担う人事部に向いている人の特徴は以下の通りです。
- 真面目で口が堅く、業務上知り得た秘密を厳守できる
- 職権を乱用して、従業員の個人情報を調べたりしない
- 人間観察力が高く、一人ひとりの社員の人柄や適性を見抜ける
- さまざまな立場や性別の人と接するための、高いコミュニケーション能力がある
- 対話する際、相手の立場にたって気持ちを汲み取り、適切な判断を下せる
- さまざまな情報を多面的に捉え、それらをもとに論理的な思考ができる
- 感情に流されて一部の人を特別扱いしたり、冷静さを欠くことがない
- 解雇や契約の打ち切りなど、必要に応じて厳しい判断を下す責任感がある
- 縁の下の力持ちとして、他の人の成功や高評価を喜べる人柄がある
- 愛社精神が強く、会社をより良くしていくことにやりがいを感じられる
業務の遂行能力はもちろんですが、ヒューマンスキルやEQも求められるのが人事です。
また、人事部は年間を通して忙しいことから体力もある程度必要ですが、同僚の退職や解雇に関連した業務も行うため、メンタル面のタフさも求められるでしょう。
スペシャリストにもゼネラリストにも!人事のキャリアパス
人事として将来歩むことのできるキャリアパスは、大きく以下の2つがあります。
- 人事のスペシャリストになる道
- 人事制度や教育制度の運営・企画、採用活動、労務管理など人事の各業務での実務経験を少しずつ積んでいき、人事部全体の仕事に精通したプロフェッショナルになるキャリアパス。具体的には人事部長への昇進や、経営陣の一員になる他、人事の各分野に特化したリクルーターや研修担当者、ダイバーシティ担当になる道が考えられる。
- 他部門でも経験を積み、ゼネラリストになる道
- 中小企業やベンチャー企業で、または複数の企業を渡り歩くなかで人事に加えて経理、総務、法務などの業務も経験して、企業管理のプロになるキャリアパス。最終的には、バックオフィスの全業務を取り仕切る管理部門長をめざすこともできる。
人事はその秘匿性と専門性の高い業務内容ゆえ、即戦力性が認められにくく他職種への転職成功が難しい傾向が見られます。
ゼネラリストをめざしたいなら、ひとりひとりが多くの業務を担う中小企業やベンチャー企業に勤務し、実務経験を積むという選択肢を検討するのもおすすめです。
人事部で収入・スキルアップを目指すならどんな資格が有利になる?
長期にわたり人事としてスキルアップ・キャリアアップしていくうえで、取っておくと役立つ10の資格を紹介していきます。
あなたのキャリアプランに合わせ、計画的に少しずつ取得していってくださいね。
1:キャリアコンサルタント
学生や求職者へ、職業選択や能力開発に関わるアドバイスをするための国家資格です。採用をはじめ、キャリア構築に悩む従業員にキャリアプランの提案をしたり、教育・研修や人事制度を構築する際にも役立つでしょう。
2:採用コンサルタント資格
人的資源の考え方や管理の方法、採用計画の立て方から選考基準の決め方まで、受験を通して採用業務の基礎を体系的に学べる資格です。採用に関わるなら、持っておいて損はない資格といえます。
3:個人情報保護士
人事部が取り扱う秘匿性の高い個人情報の保護について、高い見識を持つことの証明となる資格です。人事部として転職・昇進をめざしているなら、有力なアピール手段となります。
4:産業カウンセラー
企業で働く人のメンタルヘルスの管理やストレスチェック、職場での人間関係、キャリア形成についてカウンセリングする能力があることを証明する認定資格。人事として、自社で働く人を幅広く支えたいと考えているなら、ぜひ取っておきたい資格です。
5:メンタルヘルス・マネジメント検定
産業精神保健に関する検定。産業カウンセラー資格を取得したい人の入門編になるような試験であり、持っているとメンタルヘルスの基礎知識を持っていることの証明となります。マスターコースのⅠ種、ラインケアコースのⅡ種、セルフケアコースのⅢ種があるため、徐々にレベルアップするのもおすすめ。
6:人事総務検定
人事総務部の知識や実務能力を評価する試験です。担当者レベルの3級、主任レベルの2級、課長レベルの1級の3段階があり、特にゼネラリストへのキャリアアップをめざしている人におすすめです。
7:外国人雇用管理主任者
外国人雇用についての専門知識を身に付け、外国からきた従業員のトータルサポートができる人材であることを証明する資格です。外国人従業員を多く雇い入れる企業の人事部や、将来的にダイバーシティ担当へキャリアアップしたいなら、取得を検討してみましょう。
8:衛生管理者
従業員が安全、かつ、衛生的な環境で働ける職場環境を管理できることを証明する資格。
労働安全衛生法により、50人以上の従業員を持つ企業は1人以上、本資格を持つ人材を置くことが義務付けられています。第一種を取得しておけば、人事部としてだけでなく他職種への転職時にも有利に働くでしょう。
9:マイナンバー実務検定
2016年から本格的にスタートした、マイナンバー制度を適性に取り扱うための資格です。
1級、2級、3級と段階があり、取得までに番号法成立の経緯や仕組みなど、重大な個人情報であるマイナンバーを扱うための専門的な知識が身に付きます。
10:社会保険労務士
労働や社会保険問題の専門家であることを証明する国家資格です。企業の資産のうちヒト分野のエキスパートであり、労働や社会保険などの法令の実施、採用・退職・社会保険に関わる諸問題に対し、適切に対処できるようになります。
おわりに:人事部としてのキャリアアップには、適性と資格の両方が必要
経営陣に近い立場で、一人ひとりの従業員の適性・人柄を見抜き、個性が活かせるよう配置する人事部には、業務への適性と専門知識の両方が求められます。まず口が堅く、円の下の力持ちとして会社と従業員の成功や成長を喜べる人材でなければなりませんし、将来的にはそれを裏付ける資格の取得も必要です。人事のスペシャリストになるか、管理部門のゼネラリストになるか、キャリアプランに合ったスキルアップをめざしましょう。
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