ストレス管理法は一般的に「ストレスマネジメント」と言われることが多く、ストレスに対して上手に対処する方法のことです。現代社会は仕事のプレッシャーや家事育児との両立など働く人の心の負担が大きくなりやすく、心の健康であるメンタルヘルスの重要性が高まっていますよね。
今回は、個人で実践できるストレスマネジメントの簡単な考え方や、企業として実践すべき対処法についてご紹介します。
- この記事でわかること
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- プレッシャーや睡眠不足も?「ストレッサー」とは?
- 問題焦点型や気晴らし型などストレスコーピングの種類
- ストレスを書き留める「モニタリング」の効果とやり方
- 「認知」の有無がストレス緩和を左右する?
- 呼吸・睡眠・リフレッシュの効果的な方法
- 管理職や人事担当ができるストレスマネジメントと研修内容
ストレスマネジメントが必要なのはなぜ?
誰しも、生きている以上ある程度のストレスからは逃れられないものですが、過剰にストレスを受け過ぎたり、ストレスを発散できず溜め込みすぎたりしてしまうと、ストレスによって心身にさまざまな悪影響が生じたり、疲労から満足に動けなくなってしまったりします。こうしたストレスに対し、どのように対処しながら付き合っていくかを考えることを「ストレスマネジメント」と呼びます。
ストレスというと、通常は心で感じる「イヤなこと」「理不尽なこと」を想像しがちです。それも間違いではないのですが、ストレスとは本来「外部からの刺激によって心身にさまざまな反応が起こること」を指します。ストレス反応を引き起こす原因となるこのさまざまな刺激は「ストレッサー」と呼ばれ、主に以下の5つに分類できます。
- 身体的ストレッサー:睡眠不足、体調不良など
- 心理・社会的ストレッサー:人間関係、多忙さ、仕事のプレッシャーなど
- 物理的ストレッサー:気温、照明、騒音など
- 科学的ストレッサー:有害物質、大気汚染など
- 生物学的ストレッサー:ウイルス、花粉など
私たちの身体や心は、日常的に上記のようなさまざまなストレッサーを感じています。ストレッサーを受けると、心身に以下のような「ストレス反応」が起こります。
- 身体的反応
- 過食、だるさ、疲労、肩こり、食欲不振、めまい、不眠、動悸、頭痛など
- 心理的反応
- 集中力の低下、うつ気分、不安、イライラ、物忘れ、落ち込み、うっかりミスなど
- 行動的反応
- 過食、生活の乱れ、性欲減退、暴言・暴力、遅刻・欠勤、作業能力低下など
ストレッサーによってストレス反応が起きることそのものは、人間にもともと備わっている正常な機能の一つです。ストレス反応を引き起こすことによって、私たちの心身はストレスに対抗しようとしているのです。ストレス反応は、通常ストレッサーがなくなれば自然と消え、平常時の状態に戻ります。
しかし、ストレスが過剰なものだったり、長期間にわたったりするとストレス反応が慢性化し、ストレッサーがなくなってもストレス反応を起こした状態が続いてしまい、やがてはさまざまな身体疾患や精神疾患を引き起こしてしまいます。
ストレス反応は心身に変化が起こるのでわかりやすいのですが、その原因となるストレッサーにはなかなか自分で気づきにくいものです。そこで、ストレスマネジメントにおいては、ストレス反応が起こったとき、その原因となるストレッサーを自分自身で把握することも重要な目標となります。
ストレスマネジメント-ストレスコーピング
ストレスに上手に対処する方法、あるいは対処しようと努力することを「ストレスコーピング」と言います。前述のように、人間は外部からさまざまなストレッサーを受けると、ストレス反応と呼ばれるさまざまな反応を引き起こします。一部には良い反応もありますが、ほとんどは心身に異常をきたすため、ストレスコーピングによって反応を和らげることが重要なのです。
ストレスコーピング理論を提唱したのは、アメリカの心理学者ラザルスです。ラザルスによれば、人間はストレス刺激を受けたとき、自分に害をもたらすかどうか、そのストレスを軽減できるかどうかを評価してストレスを認知し、何らかのコーピングを行うとされています。
コーピングには、問題(ストレッサーそのもの)に焦点を当てるものと、情動(自分のストレス反応)に焦点を当てるものの2種類があります。今回は、さらにそれぞれのコーピングを2つに分けた合計4つのコーピングに加え、気晴らし型というやや別方向のアプローチを加えた5つのコーピングをご紹介します。
問題焦点型コーピング
- ストレスの対象そのものに働きかけ、自分の努力や周囲の協力を得て問題解決を図り、ストレスを軽減する
- 例えば、厳しい営業目標にストレスを感じている場合「目標達成の手法を見直す」「上司や同僚にアドバイスを求める」「目標そのものを見直して達成可能なレベルに落とし込み、ステップアップしていく」といったもの
- あまりにも負担が大きい場合は、担当から外してもらうなど問題そのものを回避する方法も考えられる
社会的支援探索型コーピング(問題焦点型コーピングの一種)
- 自助努力だけに限らず、周囲の協力や社会的な支援を求めて問題を一人で抱え込まないようにするもの
- 例えば、育児や介護で不測の事態がいつ起こるか不安でストレスだという場合「家族・親族内で状況を共有し、不測の事態が発生したときの対処法を作成しておく」「仕事の棚卸しを行い、いつでも依頼・相談できる風通しの良い人間関係や職場の風土を作る」「地域の支援サービスなど、第三者の手をバックアッププランとして用意しておく」など
- セーフティネットを整え、気分的な負担を楽にしていく
情動焦点型コーピング
- ストレスの対象そのものではなく、それに対する自分の考え方や受け止め方を変えてストレスを軽減する
- 例えば、職場の人間関係で悩んでいる場合「いつかマネジメント職になったとき、部下同士のケースに対応できるようになると前向きに考える」「世の中、半分の人とは気が合うが、残り半分とは気が合わないものだと割り切る」「職場だけが生活のすべてではないので、淡々と職務だけをこなす」「人間観察の機会を得てラッキーだと考える」など
- 親しい人との別れなど自分の力ではどうにもならないケースでは、人に話して慰めや励ましをもらい、気持ちをおさめる「感情発散タイプ」や、心の中にしまっておく「感情抑圧タイプ」などの対処法がある
認知的再評価型コーピング(情動焦点型コーピングの一種)
- ストレッサーに対し、見方を変えて前向きに捉えるポジティブシンキングの一種
- 例えば、厳しい営業目標の場合「組織から自分への期待の表れ」「目標達成に向けて工夫のしがいがある、挑戦できて幸せ」「この目標をクリアすれば次のステージに上がれる」「過去の成功体験を振り返り、自分ならきっとできるとやる気を奮い立たせる」「目標が仮に未達だったとしても、それが能力不足に直結するわけではない」などと考える
気晴らし型コーピング
- 気分転換を図る、いわゆるストレス解消法
- 美味しいものを食べる、運動する、趣味に没頭するなど
- ヨガや座禅などのリラクゼーションもここに含まれる
このように、ストレスに対処する方法はさまざまですが、どのストレスコーピングが最も良いのかはストレッサーやそのときの状況によっても変わってきます。例えば、厳しい目標を一度は上司と相談して見直してもらったものの、やはり不安がつのるという場合には新たに目標を設定し直してもらうより、自分の受け止め方を変えて「この目標をクリアして次のステージに進もう」と考える方が良いかもしれません。
他にも、天候や突然の体調不良など、誰にもどうにもできないストレッサーの場合は気分転換を図る気晴らし型コーピングが有効でしょう。このように、その時々で適切なコーピングを行うためには、そもそも自分がどんなストレスを感じているのか知らなくてはなりません。それが次章でお話する「セルフモニタリング」です。
ストレスマネジメント-セルフモニタリング(自己観察)
「セルフモニタリング」とは、認知行動療法の技法の一つです。ストレスを感じたとき、自分の思考に注意を向けてその状態を記録していくのを繰り返します。記録によって自分の思考に気づき、徐々にストレスに上手に対処できるようになっていくのを目標とします。
記録するときは、主に「ストレスを感じた出来事・認知・気分や感情・身体反応・行動」の5つを書いていきます。大雑把にでも構いませんので、5つの項目を継続して記録していきましょう。記録を続けていくことで、自分の思考のクセや、起こりやすいストレス反応に気づきやすくなります。
記録する媒体は手帳やノートなどの紙でも構いませんし、スマホのメモ帳やアプリなどでも構いません。そして、例えば「電車で隣に座った人がうるさくて、集中して本を読もうと思っていたのに読めなかった」など、まず出来事を記録します。ここでできるだけ具体的に書いておくと、何が原因だったのか後から振り返りやすくなるでしょう。
出来事を書いたら、次に自分の中に沸き起こった感情を認知し、書き留めます。「嫌だ、辛い、イライラする」といったように、負の感情であっても事実としてしっかりメモしておきましょう。負の感情を抑えるあまり、記録からも消してしまってはセルフモニタリングの意味がありませんので、沸き起こった感情をそのまま書き留めることが重要です。
ストレスマネジメント-セルフケアでストレス解消
前述のセルフモニタリングは、ストレスマネジメントにおいて重要な「セルフケア」の一つにもなります。ストレスを感じた出来事やそのときの情動をいったん紙やアプリに書き出すことで、ストレスを頭から離して自分の感情を落ち着かせ、思い出してイライラしたりふとそのことを考えたりしてしまうことを防ぎます。
また、ストレスを紙やアプリに記録して可視化することは、堂々巡りや負の連鎖による自己嫌悪や自己否定を防ぐのにも役立ちます。頭の中で何度もストレスが繰り返し思い出されると、負の感情が続いてやがて自分を傷つけてしまうことも少なくありません。書き出してストレスを可視化することは、自分を守るためにも重要なことなのです。
そもそも、ストレスを紙に書き出すためには、意識的・無意識的に関わらず「認知」が起こります。
認知とは
ストレスにおける「認知」とは、自分のストレスの内容や今の気持ちを自分自身で認め、知るということです。イヤな感情からはつい逃げたくなってしまうものですが、まず感情に向き合わないとどんなストレスを受けたのかにも向き合えません。
自分の感情を認めることが、ストレスをコントロールするための最初の一歩とも言えるでしょう。ですから、書き出すときに「こんな感情が出るなんていけないことだ」と、抑え込んで見なかったふりをしないようにしましょう。ストレスマネジメントを行うためにも、まずは今の自分に起こった感情をそのまま受け入れることが大切です。
この他、自分でできる基本的なセルフケアとしては、以下のような方法があります。
基本的なストレスセルフケア-呼吸・睡眠・リフレッシュ
- 呼吸を整え、身体をリラックスさせる
- 意識的に深い呼吸を3〜5回繰り返すだけでも、かなり気持ちや身体が落ち着く
- 怒ったり悲しんだりしていると呼吸が浅く、早くなりがち。中には呼吸が止まってしまう人も
- ストレスを感じると呼吸に影響し、身体も緊張状態になって背中や肩に長時間力が入ったままになったり、顔がこわばったままになったりしやすい
- デスクワークやコピーの合間にでも、肩を回したり伸ばしたりして身体を緩めることが重要
- 睡眠をしっかりとって、身体を休める
- 睡眠をしっかりとることは、ストレスマネジメントの最も基本的な方法の一つ
- 疲労を回復することで、身体にかかるストレスも緩和できる
- 現代日本では、睡眠や休息を十分に取れない人も多い
- 趣味や余暇の時間だけでなく、しっかり休息する睡眠時間を確保するよう心がけることが重要
- 最近仕事が忙しくてなかなか休めなかった、という人はストレスから自分を守るため、意識的に休みを確保しよう
- 趣味を通じて、違う方向に気持ちを向ける
- 趣味に熱中するなど、ストレスとは全く違う方向に意識を向けることも大切
- スポーツが趣味なら身体を動かす、テレビが好きなら思いっきり好きな番組を見る、手芸が趣味なら作ることに没頭する、など
- 自分が集中できることに時間を忘れて没頭すると、ストレスから気持ちを分離できる
深呼吸は、ストレスのセルフケアとして最も手軽な方法です。休憩時間やちょっとした仕事の合間に、肩を回したり身体を伸ばしたりしながらゆっくり深呼吸してみましょう。それだけでも気持ちが落ち着き、イライラやモヤモヤがスッキリするでしょう。また、ストレスで身体に溜まる疲労は十分な睡眠で回復することも重要です。
もちろん、趣味や余暇の時間でストレスから意識を逸らし、楽しいことに集中することも大切です。しかし、趣味のために睡眠を削ることになってしまうと、それもまた物理的なストレッサーになってしまいます。趣味や余暇の時間と、休息や睡眠の時間のバランスを上手にとっていけると良いでしょう。
企業が実践したいストレスマネジメント研修の内容や料金目安は?
ここまでご紹介してきたように、ストレスマネジメントは元気に毎日働く上でも非常に重要なスキルの一つと考えられます。できれば、企業側としても会社内でストレスマネジメントを実践したり、ストレスマネジメントへの意識を高めたりしていきたいものです。そこで、管理職や人事担当ができるストレスマネジメントとして、以下の3つのことがおすすめです。
- 会社の風土を見直す
- 社員自身がストレスマネジメントを実践しようと努力していても、社内の環境がそれを受け入れられないと無駄な努力になってしまいかねない
- 特に、管理職や役員の中にストレスマネジメントを軽視する向きがあると、会社全体の空気がそうなってしまう
- 本当に社員のことを考え、業務をより効率化させたいと思うなら、場合によっては会社の風土を見直す姿勢も必要
- ストレスマネジメントを学ぶ場を提供する
- 社員にストレスマネジメントを学ぶ機会や環境を提供することも、会社としてできる対策の一つ
- 一部の社員が自らストレスマネジメントを学び、実践していても、残念ながら全員が行っているわけではない
- 会社として学びの場を提供することで、ストレスマネジメントを啓蒙する
- 啓蒙してすぐ実践できるわけではないが、知識として知っておけばいざというときに実践できる
- 定期的に行ってストレスマネジメントやその考え方に触れ、実践の機会を増やすとより良い
- 管理職や上司を対象とした研修を実施する
- 特に重要なのが、上司クラスや管理職・役員を対象としたストレスマネジメント研修
- 部下の認識を変えるためには、まずトップが変わる「トップダウン」型の対策が重要
- 上の世代はストレスマネジメントという言葉があまり一般的ではないこともあり、「なぜ会社にとってストレスマネジメントが有用なのか」から知ってもらう必要がある
また、ストレスマネジメントはメンタルヘルス(精神的な健康状態)にも関わりがあります。メンタルヘルスという言葉そのものにネガティブな意味はないのですが、精神的に不安定な状態になると、次のような精神障がいに発展してしまう可能性があります。
- うつ病
- パニック障がい
- PTSD
- 自傷行為 など
精神障がいの発症を防ぐためにメンタルヘルスケア、メンタルヘルス対策などといった「精神障がいの予防と回復」を目的とする言葉でよく使われます。
特に、職場で強いストレスを感じてメンタルヘルスに不調を引き起こす人は急増しています。人間関係の悩みや、責任を感じすぎてしまう、結果へのプレッシャーが大きい、取引先や顧客とのやりとりに神経を尖らせるなど、職場にはさまざまなストレス要因があります。ですから、職場でストレスマネジメント研修を行うことはメンタルヘルスを保つために重要なのです。
メンタルヘルス研修や講座の所要時間や費用相場
メンタルヘルス研修も、他の社員研修と同様、公開型講座と講師派遣型講座の2つのパターンがあります。
- 公開型講座
- 研修時間:3〜4時間程度が一般的
- 参加費用:約15,000円〜30,000円が相場
- 研修を実施する会社によってはチケット制を用意していて、都合のいい日程や場所を自由に選択できる場合も
- 講師派遣型講座
- 研修時間:3〜4時間程度が一般的
- 派遣費用:約100,000円程度
- 会場や内容によっては複数回実施しなくてはならない場合もある
このように、公開型講座は参加人数が少なければ比較的費用を抑えられますが、逆に社内の参加者が多い場合は講師派遣型講座を利用し、一斉に受講した方が費用を抑えられる場合もあります。参加人数や研修の時間によっても料金は異なります。所要時間も、8時間程度で1日におさまる研修、3日間程度に分けて実施される研修などさまざまです。
また、どの研修会社でも、研修前に2時間程度の打ち合わせが必要で、この打ち合わせ料金も研修料金に含まれます。参加人数や会場の規模などに応じて、会社に必要な研修を選びましょう。
おわりに:ストレスマネジメントは、セルフケアでも職場でも大切
ストレスは誰でも日常的に感じるものであり、現代社会でストレスと無縁な人はいないでしょう。しかし、ストレスを受ける程度やその感じ方には個人差がありますので、ストレスマネジメントが重要になってきます。
個人が行えるストレスコーピングやセルフケアに加え、会社がストレスマネジメントを学ぶ機会として研修を実施することも重要な対策です。できれば定期的に、学びの場として社員にも管理職にも取り入れていきましょう。
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