瞑想は近年、Google社などの世界的な大手企業が取り入れている「マインドフルネス」としても知られており、QOLを上げたり心身に良い影響をもたらすことが広く認識されるようになってきました。
この記事では、瞑想に期待できる健康効果について論文などを参考にしながら紹介していきます。
- この記事でわかること
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- 瞑想に関する研究でわかったこと
- 高血圧など身近な疾患に対する瞑想の効果
- 瞑想をすると生きやすくなる理由
- 落ち込みやすいネガティブな人に瞑想がおすすめな理由
瞑想は心身の安定のほか健康リスク低減も期待できる?
瞑想は長い歴史を持つ心身療法で、リラックスした状態を促し、心身のバランスを良くして病気に対処する力を高めるため、また、全体的な健康や幸福増進のために取り入れられてきました。脳・精神・身体・所作の相互作用に焦点を当てた鍛錬と考えられており、瞑想には多くのやり方があるものの、ほとんどに以下の共通した4つの要素があります。
- 瞑想の要素
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- できる限り雑念を払い、静かに行うこと
- 特定の心地よい姿勢(座位・臥位・歩行など)をとること
- 一点(特別に選んだ言葉や語句・物体・呼吸の感覚など)に集中すること
- 何かを判断することなく、雑念を自然に去来させる開いた姿勢で行うこと
2017年版の米国国民健康調査(National Health Interview Survey:NHIS)によれば、アメリカの成人の瞑想利用は、2012年から2017年の間に4.1%から14.2%と3倍になりました。4歳〜17歳の小児による瞑想も有意な増加が見られ、0.6%から5.4%に増加しました。瞑想に関する研究によって、科学的に以下のようなエビデンスが示されています。
- 瞑想に期待される効果
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- 高血圧
- 過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)の症状緩和
- 潰瘍性大腸炎の炎症緩和
- 不安感や抑うつ感の軽減
- 不眠の改善
- 急性呼吸器疾患(インフルエンザなど)の発症や、期間・重症度を改善
ただし、瞑想が痛み(疼痛)を軽減するかどうかについては研究によって結果がまちまちであり、確実とは言えません。痛みを軽減するとしている研究結果には、以下の2種類があります。
- 米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)の助成による小規模研究(2016年)
- マインドフルネス瞑想は痛みを緩和すること、その際、脳内内因性オピオイドを介さないことを研究。痛みの緩和をはかる上で、マインドフルネスと鎮痛薬その他の脳内オピオイド活性化のアプローチを併用するとさらに有用であることが示唆された。
- NCCIHが助成する他の研究(2016年)
- 慢性腰痛を持つ20〜70歳の成人に対し、マインドフルネスストレス低減法(MBSR)と認知行動療法(CBT)、通常治療をそれぞれ行った研究。MBSRとCBTを行った患者には同程度の改善が見られ、さらにトレーニング終了後の長期間も含め、通常治療を行った患者より大きな改善となることがわかった。
このように、マインドフルネスで痛みを軽減できる可能性、また、マインドフルネスとその他の疼痛軽減方法を組み合わせた治療で、痛みをより効果的に軽減できる可能性を示唆する研究もあります。エビデンスには至っていないものの、今後の研究が待たれます。高血圧、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、不安や抑うつ感などについても、以下のような研究結果があります。
- 高血圧
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- NCCIHが助成した試験(298例、大学生対象)の結果、瞑想は高血圧を発症するリスクが高い人の血圧を下げる可能性が示唆された
- 同研究において、精神的苦痛・不安感・抑うつ感・怒りや敵意・対処能力に有効だとも示された
- 米国心臓協会の文献レビューと科学的声明では、超越瞑想(TM)を実施すると血圧が下がるエビデンスを示唆している
- ただし、レビューによれば直接比較試験がほとんどなく、TMが他の瞑想より優れているかどうかは確かではないとも示している
- 過敏性腸症候群
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- NCCIHが助成した試験(75例、女性対象、2011年)の結果、8週間のマインドフルネスによりIBSの症状緩和が示唆された
- 2013年のレビューでは、マインドフルネスの瞑想訓練がIBS患者の疼痛・QOLをわずかに改善したが、抑うつ感・不安感は改善しなかったと結論づけている
- こうした結果も踏まえ、米国消化器病学会の2014年報告書では、マインドフルネス瞑想訓練がIBS症状を明確に改善したとは言えない、ともしている
- 潰瘍性大腸炎
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- 2014年の予備試験において、寛解期の55例の成人患者を「MBSR」と「プラセボ療法」をそれぞれ8週間行う2グループに分けた
- 6ヶ月・12ヶ月後のいずれも、疾患の経過・炎症マーカー・再燃中の知覚ストレスを除く心理尺度において、2グループに有意差はなかった
- MBSRは寛解状態にある中等度〜重度の患者に対し、ストレスによる再発の発生率を軽減する可能性がある、と結論づけられている
- 不安症・うつ・不眠症
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- 2014年の文献レビュー(参加者3,515名、47試験)では、マインドフルネス瞑想プログラムが不安感・抑うつ感を改善させるエビデンス(中等度)が示唆されている
- 2012年に実施されたレビュー(36試験)では、25試験で瞑想群が対照群よりも不安症状に対し、良好な結果が報告されたことが明らかに
- NCCIHが助成した小規模試験(54名の慢性不眠の成人が対象)では、それぞれMBSR、不眠に対象を特化したMBSR(MBTI)、セルフモニタリング法を学習
- MBSR、MBTIはいずれも睡眠に有効だったほか、MBTIはMBSRと比べて不眠の重症度を大幅に改善したことが有意に示されている
ただし、マインドフルネスにはストレスを低減する効果や、不安感や抑うつ感、不眠改善効果は期待できるものの、薬物乱用などストレスによって影響を受ける健康関連行動を変化させるかどうかについてのエビデンスは得られていません。
今後の研究が待たれる分野ではありますが、少なくとも現在、ストレスによって影響される健康関連行動のすべてがマインドフルネスで改善されるとは限らないことに注意しましょう。
瞑想は禁煙やQOL向上にも効果がある?
明確なエビデンスではないものの、いくつかの研究でマインドフルネスによる効果が示唆されているものとして禁煙があります。
例えば、2015年の研究レビューからは、禁煙を対象として行ったマインドフルネスによる介入試験(13件)の結果からタバコへの渇望、禁煙、再発予防において有望な結果が得られたとされています。
また、2011年に瞑想トレーニングと標準的な禁煙行動療法を比較した試験では、瞑想トレーニングを行った患者で治療直後・17週のフォローアップ後のいずれも喫煙率が大幅に減少していたことが示されています。2013年には脳のイメージング研究(脳機能を測定し、画像化する)において、マインドフルネスや瞑想が喫煙への渇望を緩和したり、喫煙を有意に減らしたりしたことも認められました。
しかし、これらの研究は数が限られており、現在ある試験結果のみでは瞑想(マインドフルネス)が禁煙に有効であるとするには確実性に欠ける、厳密には不十分である、とされています。今後の研究数の増加、さらなる研究の発展が待たれます。
さらに、こちらもまだ明確なエビデンスとはなっていないものの、マインドフルネス(瞑想)はメンタルヘルスやQOL(生活の質)の改善にも効果があるとも示唆されています。例えば、以下のような研究結果やガイドラインが報告・発表されています。
- NCCIHが助成した研究(2011年、279名の成人)
- 8週間のMBSRにおいて、精神面の変化がメンタルヘルス・QOLの改善に関連したと認められた
- 米国胸部専門医学会ガイドライン(2013年)
- MBSRや瞑想は、肺がん患者のストレス・不安感・疼痛・抑うつ感を軽減したり、気分や自尊心を高めたりするケースがある
- 統合腫瘍学会臨床診療ガイドライン(2014年)
- 乳がん治療の患者のストレス・不安感・抑うつ感・倦怠感を軽減するためのサポートケアとして、瞑想を取り入れたQOL改善を推奨している
- 2014年の研究レビュー
- 瞑想を含む心身の鍛錬は炎症識別分子を抑制し、免疫系の制御に働くことが示唆されている
- NCCIHが助成した試験(49例の成人、2013年)
- 8週間のマインドフルネス瞑想訓練は、身体活動・食事教育・音楽療法による健康プログラムと比べ、ストレス惹起性炎症をより軽減する可能性があると示唆されている
他にも、下記の症状に対する効果が期待されていますが、はっきりとしたエビデンスには至っていません。
- 閉経後のさまざまな症状(いわゆる更年期障害)
- 注意欠陥・多動性障害(ADHD)の症状
瞑想やマインドフルネスが心に与える変化
瞑想やマインドフルネスを行うと、「今、ここ」に集中できるようになります。過去を後悔したり、未来を悲観したりすることが軽減されるため、マイナスの感情に振り回されにくくなるのです。すると、メンタル面で以下のような良い影響が期待できます。
- ストレス減少
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- 頭に浮かんでくる雑念を客観視できるようになる
- マイナスの感情やイライラ、ストレス、人間関係に振り回されにくくなる
- 自分に不要となった感情を手放し、無駄なストレスを抱え込まなくなる
- 自分に自信が持てるようになる
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- 瞑想によって自分自身の感情への気づきを得る
- 今の自分を見つめ直すきっかけになる
- ありのままの自分を受け入れられる
- 自分に対する否定的な感情が和らぐ
- 気持ちが沈んだりネガティブになったりすることが減る
- 前向きに人生を歩む気持ちが湧いてくる
- 物事をポジティブに捉えられる
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- 不安や緊張を緩和する副交感神経が活性化され、自律神経のバランスを整えられる
- 穏やかで落ち着いた気持ちになる
- 思考が前向きになる
- 幸福感を感じられる
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- 脳内ホルモンの一種「セロトニン」の分泌が活発になる
- 思考と感情のバランスが整う
- 些細なことで悩みにくい強い心を育める
では、こうした良い影響を最大限に得るためには、どのように瞑想を行えば良いのでしょうか。後編では、瞑想をするタイミングや服装、基本のやり方についてご紹介します。
後編はこちら
おわりに:瞑想は心と体を整え、前向きな気持ちを育む
心を整えるために瞑想をしている人は多いものですが、体の不調改善や病気予防の効果も期待できることがわかっています。心と体はどちらかの調子が崩れると、もう一方も引きずられるように調子が悪くなりがちです。双方にアプローチできる瞑想を取り入れると、安定した状態をキープできるでしょう。後編では瞑想をする上でのポイントを中心に解説していきます。
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