会社の中でも、使ったお金や入ってきたお金などを記録し管理する部署である経理は、その業務内容から数学が得意な人に向いている仕事だと思われがちです。しかし、経理の仕事を紐解くと、実際に数学が必要な部分はそう多くありません。
そこで、今回はそもそも経理の仕事にどんなスキルが必要なのかを中心に、書類の基本的な読み方も一緒にご紹介します。経理に興味がある方、必見です。
- この記事でわかること
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- コミュニケーション能力が経理に必要なスキルである理由
- 会社の財政状態や経営成績がわかる書類
- 決算書類から会社の黒字・赤字を読み取る方法
- 賃借対照表の「負債の部」と「純資産の部」の見方
- キャッシュフローの理想的なバランスとは?
数字に苦手意識があっても大丈夫?経理に必要な能力とは
そもそも、経理に向いているのはどんな人なのでしょうか。一般的に言われている特徴としては、以下のようなものが挙げられます。
- 数字に強い
- 最もイメージされやすく、やはり数字に強い人は経理に向いている可能性が高い
- 計算が早い、細かな数字に苦手意識がない人はスムーズに業務を進めやすい
- コツコツ仕事を行える
- コツコツと地道に仕事を進められる人は、経理の適性があると考えられる
- 細かな作業が向いている人も、経理に向いているとされる
- コミュニケーション能力が高い
- 細かい気配りができる、人と信頼関係を築く能力が高いなど
- 他部署と関わることが多い経理の仕事は、コミュニケーション能力が重要
- 数字が合わないなどの事態が発生したとき、他部署にサッと問い合わせてスムーズに業務を進められる
- 社内だけでなく、社外とのやりとりをすることもあるのでコミュニケーション能力は重要
- 几帳面な性格
- 細かいところに気づく、几帳面な性格の人は仕事のミスが少なく、クオリティが高い
- 信頼も得られやすく、経理の業務に向いていると言える
- 勉強が好き
- 経理に関する最新情報を自ら収集し、自分の価値を高めることに前向きな人
- キャリアアップのための行動を自然とできる人は、経理だけでなく会社で重宝されやすい
前述のように、数字そのものに抵抗がない方が経理に向いていますが、かといって難しい数学の知識が必要なわけではありません。というのも、経理で使う算数・数学的知識は、せいぜい「算数」レベルだからです。つまり四則演算(足し算、引き算、掛け算、割り算)ができれば良いのであり、しかもその計算は電卓やExcelなどの表計算ソフトがやってくれます。
割り算が得意だと、多少簿記や税金の計算式を読み解く上で有利ということはあるでしょうが、小学生レベルの算数がしっかり理解できていれば全く問題ありません。それよりは、他部署との連絡をスムーズに行えるコミュニケーションスキルや、会計ソフトなどの使い方をすぐに覚えられる向上心の方がよっぽど大切なのです。
経理なら理解しておきたい「決算書」の目的と種類
決算書とは「いま現在の会社の財政状態や経営成績を示すもの」で、「自社の現状がどのような状態なのかを数値で把握するための書類」のことです。決算書の正しい読み方を身につけられれば、自社の現状をしっかり把握するとともに、問題点や改善点がないか、経営手法は間違っていないかなど、さまざまなことに気づけます。
決算書は「財務諸表」とも呼ばれ、さらにいくつかの種類に分類されます。例えば、以下のような書類があります。
- 損益計算書(P/L)
- 収益と費用の区分によって、一事業年度の経営成績を表すもの
- 営業損益・営業外損益・特別損益の3つで表される
- 賃借対照表(B/S)
- 決算日時点での会社の財政(財務)状況を表すもの
- 資産の部・負債の部・純資産の部の3つで表される
- キャッシュフロー計算書
- 一事業年度のお金の流れを表す
- 営業活動によるもの、投資活動によるもの、財務活動によるものの3つで表される
決算書に含まれる書類には他にも「株主資本等変動計算書(利益の行方を表す)」などの書類が含まれますが、会社の成績を知るために重要なのは上記の3つの書類です。次章から、それぞれの書類について詳しく見ていきましょう。
損益計算書を作成する目的や読み方
損益計算書はその年度の事業成績を表すもの、と前章でご紹介しました。つまり、会社がその年度にどのくらい利益または損失を出したのか、ということが書いてあります。具体的には「収益・費用・利益(損失)」の動きが記載されていて、収益から費用を差し引いた利益(損失)がどのくらいあったのかを知るために作成します。
損益計算書を読み解くと、会社が「どのくらい売り上げがあり」「その売り上げを得るために、どんな費用を使い」「結果、どのくらい儲かった(あるいは損失を出した)のか」ということがわかります。さらに、「営業損益」と「営業外損益」、「特別損益」を正しく読んでいくと、会社の利益(損失)が本業とそれ以外のどちらでどのくらい出ているのか、ということもわかります。
例えば、食品の販売業を本業としている会社が、他に不動産業を行っていたとすると、食品を販売することで得た利益が「本業の利益」であり、不動産で得られた利益は「本業外の利益」となります。また、「特別利益」は一時的な収入であり、今後ずっと期待できる利益ではありません。ですから、例えば営業利益では赤字なのに、特別利益が多くて黒字になっているという会社の場合、特別利益がなくなればすぐ経営危機に陥るリスクが高いと考えられます。
他にも、損益計算書の「変動費」と「固定費」を分けると、黒字と赤字の境界線を示す「損益分岐点」を見極めることができます。損益分岐点がわかれば、赤字の会社は「どこまで売り上げを上げれば黒字にできるか」、逆に黒字の会社なら「どこまで売り上げが落ちたら赤字になってしまうか」を判断する目安にできます。
では、損益計算書に書かれる5つの利益について、上から順に見ていきましょう。
売上総利益ってどんな利益のこと?
売上総利益とは、「売上高」からその売り上げに直接対応する商品の仕入額・製造コストなどといった「売上原価」を差し引いたもので、「粗利益」と呼ばれることもあります。売上原価は、卸売業であれば商品の「仕入れ値(仕入れ原価)」であり、製造業であれば販売した製品を作るためにかかった「製造原価」です。
売上総利益は、経営が上手くいっているかどうかのおおよその目安となります。売上高に対して売上総利益がどのくらいの割合を占めるのかを計算したものを「売上総利益率」と言い、適正な売上総利益率は業種ごとに異なるのですが、一般的にサービス業では高く、小売業では低い傾向にあるようです。
営業利益は「本業で得た利益」のこと!
営業利益とは、上記のように本業で稼いだ利益のことです。売上総利益から人件費や広告費、その他営業活動に必要な経費(「販売費及び一般管理費」として記載)を差し引いて計算します。営業部員の給与や本社の費用といった業務は売上原価に入りませんので、「販売費及び一般管理費」として記載します。
経常利益って?どんな利益が含まれる?
経常利益とは、その会社の「通常の企業活動における総合的な収益力」のことで、いわば継続的に期待できる利益のことを指します。営業利益が「会社の本業による収益力」を表すのに対し、経常利益は「本業以外の企業活動もすべて含めた収益力」を表します。そのため、経常利益を計算するときは営業利益に営業外収益を足し、営業外費用を差し引いて計算します。
「営業外収益」に含まれるのは、一般的に金利などです。お金を貸したり、預金をしてそこから金利を得たりした場合に得られる収益のことで、逆に借金の金利分を支払ったときには「営業外費用」として計上されます。ですから、お金の借り入れが多く支払う利息が高額になってしまうと、営業利益の割に経常利益が少ないということになってしまうのです。
具体的に営業外の収益・費用に計上されるのは、以下のような項目です。
- 営業外収益
- 受取利息、受取配当金、有価証券利息、有価証券売却益、雑収入など
- 営業外費用
- 支払利息、割引料、社債利息、有価証券売却損など
税引前当期純利益って?
名前の通り、会社にかかるさまざまな税金を差し引く前の、その会社の臨時的な利益や損失を加味した利益のことを指します。これは、経常利益に特別利益をプラスし、特別損失をマイナスして計算します。特別利益・損失とは、通常の企業活動で発生しないような臨時的な利益や損失のことで、例えば「昔購入していた土地を売ったら高く売れた」という利益や、「台風で会社の建物が被害に遭った」という損失などがあたります。
当期純利益とは「最終的に会社が得た利益」!
前述の「税引前当期純利益」から「法人税・住民税・事業税」を差し引いたものが「当期純利益」です。会社が企業活動を行うためには、他にも固定資産税などさまざまな税金がかかってきますが、「法人税・住民税・事業税」(まとめて「所得割」と呼ばれる)以外の税金は「租税公課」として「販売管理費」の項目に計上します。
当期純利益は会社が最終的に得た利益のことなので、会社が今後も企業として存続していくためにはプラスになっていなくてはなりません。当期純利益がプラスであればその会社は当該年度、最終的に利益を出せたということであり、マイナスであればその会社は損失で年度を終えてしまったということです。マイナスの状態が長く続くと会社の経営はどんどん悪化していき、最終的には企業として存続できなくなってしまう可能性があります。
賃借対照表は会社の財務状況がわかる!
賃借対照表とは、主に「会社が持っている資産」「いつか返済しなくてはならない負債」「総資産から負債を差し引いた、返済義務のない純資産」の3つの情報を記載した書類のことです。つまり、賃借対照表を読み解けば、会社が「どのように資金を調達し」「調達した資金をどのように運用しているか」確認することができ、会社の財政(財務)状況を把握できます。
賃借対照表は大きく左右の2つに分かれ、右側がさらに上下2つに分かれた3つのブロックからできています。左側には「資産の部」が記載され、集めた資金をどのように保有し、運用しているのかがわかります。右側には「負債の部」と「純資産の部」が記載され、会社が事業を行うために必要な資金をどう集めたのかが示されています。
- 資産の部
- 上段の「流動資産」と下段の「固定資産」に分けられ、一般的に現金化しやすいものから順に並べる
- 流動資産:会社が保有している資産のうち、決算から1年以内に現金化できるもの。現金・預金・売掛金・有価証券・棚卸資産など
- 固定資産:会社が保有している資産のうち、決算から1年以内に現金化されなかったり、支払う必要がなかったりするもの。土地・建物・機械・長期間保有する投資有価証券など
- 負債の部
- いわゆるマイナスの財産であり、いずれ支払う必要がある負債。支払い期日の早い順に並ぶため、上段が流動負債、下段が固定負債となる
- 流動負債:決算から1年以内に返済の義務がある負債。支払手形・買掛金・未払金など
- 固定負債:決算から1年を超えて返済していく負債。資金調達のために発行した社債・長期にわたる借入金など
- 純資産の部
- 株主が出資する「資本金」のほか、過去の利益の合計額が記載される
- 「自己資本」とも呼ばれ、返済の義務がない資金でもある
賃借対照表において、左側の数値の合計と右側の数値の合計は最終的に釣り合うことから、「バランスシート(B/S)」と呼ばれることもあります。賃借対照表は「ある時点」での企業の財務状況を表しますが、損益計算書は「一定期間」の企業の業績を示すことから、会社のお金の流れについて「点」で見るのが賃借対照表、「線」で見るのが損益計算書とも言えます。
キャッシュフロー計算書の営業活動・投資活動・財務活動って?
では最後に、キャッシュフロー計算書の見方について解説します。そもそもキャッシュフローとは、ざっくり言えば「お金の流れ」ということですが、まず「キャッシュ」と「フロー」に分け、それぞれの言葉の定義から確認しましょう。
- キャッシュとは
- アルファベットでは「cash」と書き、もともと英語では「現金」を意味する
- 経理におけるキャッシュとは、現金や預金だけでなく「換金性が高く、かつ換金できる金額がおおよそわかっている資産」も含む
- 例:3ヶ月以内に万期が来る定期預金、一定の投資信託など
- フローとは
- アルファベットでは「flow」と書き、もともと英語では「流れ」を意味する
- 対義語は「ストック(stock)=ある一時点で保有している量」のこと。賃借対照表で表される
このように、キャッシュフローとは現金や預金を中心としたお金の流れのことを表します。定義で確認したように換金性の高い資産のことも表していますが、ほとんどが現金や預金として運用されていますので、頭の片隅に置いておけば良いでしょう。会計上はどうしても「利益」が重視されやすいのですが、現金・預金の流れや、一時点でどのくらい現金を保有しているかを把握することも、資金繰りにおいては非常に重要なことです。
キャッシュフロー計算書は英語で「Cash Flow Statement」と表すため、「C/F」と略記されることもあります。利益が大きいか小さいかに関わらず、現金が入ってきたらプラス、現金が出て行ったらマイナスというように、会社のお金の流れを表すのが「キャッシュフロー計算書」です。とはいえ、単にすべてがプラスであればいい、というわけではありません。
キャッシュフロー計算書は「営業活動によるキャッシュフロー」「投資活動によるキャッシュフロー」「財務活動によるキャッシュフロー」の3つに分かれ、概ね以下のようなポイントを意識して見ていくと経営状態を把握しやすいです。
- 営業キャッシュフローがプラスになっているか
- 本業の状態を把握する
- 当期純利益がプラスになっていても、この項目のマイナスが続くと「黒字倒産」になるリスクがある
- 事業成長のための投資キャッシュフローがあるかどうか
- 将来的な利益につながる「設備投資」などに積極的であれば、維持成長が見込める
- 営業キャッシュフローの額が、投資キャッシュフローよりも大きいかどうか
- 本業で稼いだ額が投資額より大きいなら、財務的に余裕がある状態と言える
- より積極的な投資や、いざというときに備える対応力をつけられる
つまり、3つのキャッシュフローの理想的な状態とは「営業活動がプラス、投資活動がマイナス、財務活動がマイナス」というものです。これは「本業は好調なのでキャッシュが増える」「将来の利益に向けた投資をしている」「借入金の返済を進めている」という状態です。では、それぞれの項目についてより詳しく見ていきましょう。
営業活動によるキャッシュフローって?記載方法が2種類あるの?
営業活動、すなわち本業によってキャッシュがどのくらい増減したかを表します。この項目の合計がプラスになっていれば本業が好調で儲けが出ているということであり、逆にマイナスの場合は資金不足であると言えます。前述のように損益計算書上で黒字であっても、営業キャッシュフローがマイナスである場合は経営状態が危険かもしれません。
営業活動によるキャッシュフローを記載する方法としては「直接法」と「間接法」の2つがあります。
- 直接法:総額でとらえる方法
- 主要な取引(経費支払い、給与支払いなど)ごとに総額を示すので、流れを詳しく把握しやすい
- 間接法:キャッシュの動きに関する部分だけを計算する
- 損益計算書をベースに作成できる
企業の経営実態を詳細に示せるのは「直接法」なのですが、どうしても膨大な手間が発生してしまいます。そのため、「間接法」を利用する企業の方が多い傾向にあります。
投資活動におけるキャッシュフローって?将来のためにお金を使うの?
投資活動におけるキャッシュフローとは、固定資産・株・債権などを取得・売却したときのお金の流れを示すものです。つまり、将来のためにどれだけお金を使ったかがわかります。例えば、営業活動のためには固定資産への投資が重要ですから、優良企業や成長企業では設備投資に力を入れているということで、マイナスになっているケースが多いです。
逆に、この項目がプラスになっているということは、土地・建物・株式などを売却してキャッシュを手に入れたということです。プラスがすなわち悪いこととは限らないのですが、なぜ売却したのか、売却したのはどんなものか、といった内容や背景を詳しく見ておいた方が良いでしょう。
また、営業キャッシュフローと投資キャッシュフローの合計額は「フリーキャッシュフロー」と言い、会社が自由に使える資金のことを表します。自由に使える資金が多いほど経営状態が良いと考えられます。もしフリーキャッシュフローがゼロやマイナスになっている場合は、資金不足のため経営を維持するための資金調達をしなくてはならないということです。この場合、経営改善のためには営業キャッシュフローを増やすか、投資キャッシュフローのマイナス分を小さくしなくてはなりません。
財務活動によるキャッシュフローって?マイナスになっている方がいいの?
財務活動によるキャッシュフローでは、借りたお金や返したお金を記載します。ですから、株主への配当金支払いや借入金の返済を行うとマイナスに、借入金や社債で資金調達を行うとプラスになります。優良企業では配当金支払いや返済が多いので、マイナスになっているケースが多いのですが、積極的に成長を目指す企業で借り入れが増えている場合もあります。ですから、この項目は単体で見るのではなく、営業キャッシュフローや投資キャッシュフローと合わせて確認しましょう。
非上場企業はキャッシュフロー計算書を作らなくていいの?
キャッシュフロー計算書は上場企業では必ず作ることが義務づけられていますが、非上場企業の場合は作成が義務ではありません。とはいえ、前述のように「売上は上がっているのに手元にキャッシュがない」というような状態が続いて黒字倒産などに陥らないためにも、キャッシュフロー計算書は作成しておいた方が、より経営状態を把握しやすくなるでしょう。
おわりに:経理の仕事は、数学よりもコミュニケーション能力や向上心が大切
経理の仕事を行う上では、数字に強いことよりも他部署・社外とのスムーズな連絡ができるコミュニケーション能力や、スキルアップに積極的な向上心などを持っていることが重要です。計算は電卓やExcelなどの表計算ソフト、会計ソフトで行えます。
また、経理の仕事を行う上で重要なのは、決算書のうちでも「損益計算書」「賃借対照表」「キャッシュフロー計算書」の3つです。今回ご紹介した内容を参考に、ぜひ理解に役立ててください。
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