成長期・思春期の子どもの体は目まぐるしく変化していきます。小学生や中学生の成長に大きく影響するのが、ホルモンバランスの変化です。この記事では子どもの成長に関わる成長ホルモンや性ホルモン、ホルモンバランスを乱す生活習慣などを解説します。
- この記事でわかること
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- 子どもの成長に関係するホルモンの種類
- 成長期のピークとされる平均年齢
- 思春期にイライラや不安が強くなる原因
- 幸せホルモン「セロトニン」の働きと腸内環境
- 睡眠不足が成長に与えるデメリット
- 骨年齢を測定する方法で理解しておきたいリスク
ホルモンの影響で小児期と成長期に子どもが発達する?
小児期や思春期には、それぞれの時期に活発に分泌されるホルモンが異なります。主に小児期に分泌されるのが「成長ホルモン」で、このホルモンは脳下垂体から血液中に分泌され、軟骨を形成して骨を作ります。一方、思春期に主に分泌されるのは「性ホルモン」で、同じように脳下垂体から分泌され、男女それぞれの身体つきや生殖機能を作ります。
小児期には成長ホルモンの働きで、4歳の平均身長約100cmから、その後年間6cmずつ伸びていくことが多いと考えられています。この時期に成長ホルモンの分泌が不足してしまうと身長の伸びが低下し、正常に成長ホルモンが分泌されている子どもと比べて低身長になってしまいます。成長ホルモンは他にも、糖や脂質の代謝、タンパク質の合成などに関係しますので、大人にも決して無関係なホルモンではありません。
小学校高学年や中学生、高校生は思春期を迎えます。思春期に子どもの成長スピードが急激に速くなることを「(思春期の)成長スパート」と呼びますが、成長スピードがピークに達する年齢は男子が13歳、女子が11歳が目安です。ピークを過ぎると成長スピードはゆるやかになり、やがて男女ともに身長の伸びが止まります。この時期に働くのが性ホルモンです。
思春期に心が不安定になる原因はホルモンバランスの乱れ?
前述のように、思春期には性ホルモンの分泌が急激に活発になり、ホルモンバランスが崩れやすくなります。すると、脳内では攻撃性を司る「バソプレシン」の働きを抑えている「セロトニン」というホルモンを分泌する神経系がうまく働かなくなり、些細なことでも不安になったり攻撃的になったりしやすくなるのです。
また、思春期には身体が急激に成長しますが、いわゆる「心の脳」と呼ばれる精神的な成熟に関わる「前頭葉」という脳の部分は未完成で、だいたい10〜18歳ごろまでかけてゆっくりと発達していきます。このため、思春期にいる小学校高学年や中学生は、まだ物事を体系的に考えることができず、不安や怒りを十分にコントロールできないことも多いのです。
では、攻撃性や不安を抑えてくれる「セロトニン」とはどんなホルモンなのでしょうか。
思春期の成長を促すホルモン「セロトニン」とは
小学校高学年や中学生のお子さんを育てている家庭では、思春期の子どもが健康的に成長してほしいと願うものですよね。「セロトニン」とは前述の通りホルモンの一種で、脳内の神経伝達物質として「セロトニン神経」の中で働きます。攻撃性や不安などのネガティブな感情を和らげ、食欲や自律神経を活発にして心身の健康をサポートしてくれます。このため、セロトニンが十分に分泌されていると、精神的に安定しやすいことがわかっています。
セロトニンの分泌を活発にするには、以下のようなことが重要です。
- 朝日をしっかり浴びる
- 朝5〜7時ごろが分泌のピークなので、登校や朝の散歩がおすすめ
- 規則正しい生活リズムをつくる
- 毎日、決まった時刻に寝て、決まった時刻に起きる習慣をつける
- 心が安心できる場所をつくる
- 家庭では安心して安らげるよう、工夫する
- リズミカルな運動をする
- ジョギングやウォーキングがおすすめだが、犬の散歩などでもOK
- できれば朝の光を浴びながら行う
- バランスの良い食事を摂る
- タンパク質(トリプトファンというアミノ酸)、ビタミンをしっかり摂取してセロトニンを作りやすくする
セロトニンが不足すると、ストレスに弱くなったり、すぐ不安になってしまったりします。セロトニンの不足はキレやすさなどとも関係していることがわかってきており、思春期に見られやすいさまざまなネガティブな感情をコントロールするために欠かせないホルモンがセロトニンと言えるでしょう。
また、セロトニンは主に腸で作られることもわかってきました。ですから、腸内の善玉菌を増やして腸内環境を整える「乳酸菌」を摂取することもセロトニンの分泌を増やすのに役立ちます。腸は「第二の脳」と呼ばれる独自の神経回路を持っていて、脳とも密接な関係があり、これを「腸脳相関」と呼ぶこともあります。腸内環境を整えることは、心身の健康を保つために重要なのです。
乳酸菌や食物繊維など腸内環境を整える食べ物
乳酸菌は「味噌・醤油・ぬか漬け・納豆・チーズ」などの発酵食品に多く含まれますので、和食を中心とした食生活を心がけたり、朝食にヨーグルトをプラスしたりすると良いでしょう。また、「ごぼう・さつまいも・わかめ・キノコ類」などの食物繊維は善玉菌の良いエサになるほか、腸内の有害物質を減らす働きもありますので、こちらも積極的に摂取しましょう。
小学校や中学校で給食が提供されている場合、栄養バランスを考えた献立が作られています。家庭の食事の栄養バランスを気にしてみることで、お子さんの腸内環境がより整えられていくでしょう。
子どもが睡眠不足になるとホルモンバランスが崩れやすい?
不安やストレスで寝つけなくなったり、変な時間に起きてしまったりして睡眠不足に陥ることは子どもだけでなく大人にもよくあることです。睡眠不足が続くとホルモンバランスが崩れやすくなります。その主な理由として、睡眠に深く関係する「メラトニン」というホルモンが挙げられます。
小学生や中学生も、毎日の勉強や習い事などで就寝時間が遅くなることがあります。そのため、睡眠不足は子どもにとっても身近な悩みになっているのです。
メラトニン不足が睡眠に及ぼす影響
朝、太陽の光が目に入ると、脳の「松果体」という部分からメラトニンの分泌が減り、目が覚めます。そして、太陽の光を浴びてから約15時間後に再度メラトニンの分泌が高まることで、自然な眠気が訪れるのです。不規則な生活や朝日を浴びない生活が続くと、このメラトニンの増減がうまくいかないので、寝つきにくくなったり睡眠リズムが乱れたりしやすくなります。
メラトニンは脳内のホルモン分泌のコントロール中枢である「視床下部」にも左右しますので、睡眠の乱れはさまざまなホルモンバランスの乱れにつながります。ですから、大人の女性の睡眠不足はホルモンバランスに影響しますが、成長期の女子も睡眠不足によって月経不順を引き起こすこともあります。
自律神経の乱れが睡眠に及ぼす影響
また、自律神経も睡眠に関係しています。人間関係・勉強・パソコンやスマホの長時間使用などによるさまざまなストレスが交感神経を刺激し、身体や脳を興奮させることも睡眠リズムを乱してしまいます。人間には「交感神経優位型」の人と「副交感神経優位型」の人がいて、同じようにストレスを受けたとき、交感神経が優位になりやすいかどうかの違いがあります。
- 「交感神経優位型」の人
- 交感神経が活発になりやすいので、眠りにつくのがもともと得意ではなく、少しの睡眠リズムの乱れやストレスによってすぐ眠れなくなってしまいます。
- 「副交感神経優位型」の人
- これらの影響を受けにくいのですが、ライフスタイルの変化でストレスがかかり続けると、「交感神経優位型」に変化してしまうこともあります。
子どもの睡眠の質を上げるメリット
十分な睡眠をとれると、以下のようなメリットが得られます。
- 成長ホルモンがしっかり分泌される
- 日中学習したこと、経験したことが整理整頓され、記憶される
- 心身の疲労を回復させられる
眠りについてすぐ(特に入眠〜約3時間)の深い睡眠時に、成長ホルモンが大量に分泌されます。一方、睡眠の後半になると浅めの睡眠が増え、日中の学習や経験が整理され、記憶の定着が行われます。そして、十分な睡眠は心身の疲労を回復させられます。このように、睡眠をしっかりとることは心身の成長や疲労回復に欠かせません。
子どもの身長の伸びは「骨年齢」も重要!
日常的に使われている実年齢とは、生まれてから何年経つかというカレンダー上での時間の経過を表しています。これを「暦年齢」と言いますが、暦年齢で12歳の子どもがすべて同じような体つきをしているわけではなく、大人のように身体が大きい子どももいれば、まだ低学年に混じってもわからないような小さい子どももいます。
このような体つきの違いは、成長のスピードに個人差があることから生じてきます。つまり、暦年齢が必ずしも生物学的な意味での身体の成長度を表すとは限りません。一方、骨はある程度規則正しいタイミングと順序で成熟していくことがわかっていますので、骨の成熟度から身体の成長度をはかることができます。
骨の成熟度を暦年齢と対照したものを「骨年齢」と言い、骨年齢は身長や体つきと比べて身体の成長度をより正確に把握するための指標となります。骨年齢を割り出す方法はいくつかありますが、一般的には左手のレントゲン写真を使い、手を構成するいくつかの骨の形状から割り出します。
骨年齢を調べて身体の成長度をはかる方法は、疾患が原因で身体が成長しない(生物学的年齢が上がらない)ケースに対し、昔から医療現場で使われていたものです。このほか、本人の身長の変化を見て「最大身長成長速度(PHV:ピークハイトベロシティ)」を示す時期から将来予測を出す方法、両親の身長から子どもの身長を予測する「ターゲットハイト」という方法などもあります。これらは最終的にどのくらい身長が伸びるか見るための方法ですが、そこから逆算して骨年齢・生物学的年齢を計算することもできます。
PHVやターゲットハイトなどはデータから割り出すため侵襲性(身体への負担)が少ないですが、レントゲン写真を撮影しますので、ごく微量とはいえ放射線被曝のリスクがあります。健康診断で行われる胸部レントゲン写真でも自然被曝より少ない量なので、骨年齢を測る検査も身体にほとんど影響はないとされています。どうしても骨年齢が気になる場合はまず医師に相談してから検査を検討しましょう。
おわりに:成長期のホルモンバランスは生活習慣や食習慣で整えよう
小児期や思春期には、身体を大人に成長させるために「成長ホルモン」や「性ホルモン」が急激に大量に分泌されます。すると、攻撃性を司るホルモンを抑えられなくなったり、睡眠リズムが崩れたりして、ホルモンバランスが乱れやすくなります。
睡眠を十分にとり、不安やストレスを軽減する「セロトニン」の分泌を増やすためには、朝日を浴びたり運動したり、バランスの良い食事を取ったりと生活習慣や食習慣を整えることが重要です。
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