年齢を重ねていくにつれ、体力や嗜好に変化が起こるのは当然のことですが、それに伴って必要な住居も変わっていくことを意識している人は少ないのではないでしょうか。しかし、誰しも必ず訪れる老後のことは、今から真剣に考えておいて損はありません。
そこで、今回は「ダウン・サイジング」という方法についてご紹介します。住み替えや改築、建て替えの方法やメリットなども知っておきましょう。
- この記事でわかること
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- 住み替えやリフォームをした方がいい人の特徴
- ダウン・サイジングの基本的な考え方とは
- 家の売却や運用で抑えておきたいお金の問題
- 高齢になったときどんな住まいが安全安心?
年齢と共に家が住みづらくなる?間取りが原因かも
人生100年といわれる時代、それまでファミリーで暮らしていた世帯でも子どもたちが独立した後、夫婦2人や単身で過ごす期間が30年以上にも及ぶことは珍しくありません。その長い年月を、住み慣れた自宅で楽しく、かつ安全に暮らしていくためには、住まいの見直しが必要です。
住居がライフスタイルとミスマッチしてしまうと、
- 住んでいる人に対して家が広いと、家事の負担が必要以上に大きくなる
- 家の中の温度差が身体に負担をかける
- 段差などがケガや事故につながる
- 冷暖房や照明に無駄なエネルギーを費やす
などのデメリットにつながりかねません。このように、老後は住み替えやリフォームの最適なタイミングとも言えます。具体的には、以下のような状況であれば住み替えやリフォームを検討すると良いでしょう。
- 現在の自宅(持ち家)が広すぎる
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- 子どもが独立して家を出るなどして、それまでの住居が広すぎて勝手が悪い
- 掃除をするだけでも大変、二階建ての場合は地震などによる倒壊リスクが高いなど
- 持ち家の老朽化が進んでいる
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- 街中ならリフォームも良いが、不便なら住み替えの検討がおすすめ
- 加齢によって身体機能が低下すると、古典的な日本家屋は住みづらいかも
- バリアフリーを意識した住居を求めて、住み替えを検討する人も多い
- 特に20年以上住んでいた家では、外壁や屋根の修理・改修をしていたり、建物内部が経年劣化したりしている
- 病院・スーパーなどが近くにない
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- 加齢で身体機能が衰えると、行動範囲も狭くなるので、住み替えの検討が必要
- 車の使用が難しくなると、遠くのデパートやスーパー、病院には出かけられない
- 徒歩や公共交通機関しか選択肢がない場合、日常生活で必要な食品などを購入する店、病院などの生活施設が行動圏内にあるかどうか考えなくてはならない
- 逆に、もともと便利なエリアに住んでいるなら無理に住み替えず、リフォームでもOK
住み替えやリフォームを行う際、重要になってくるポイントが「ダウン・サイジング」です。リフォームといえば広くしたり、増築したりする(アップ・サイジング)イメージが強いかもしれませんが、家族で住んでいた家を夫婦2人だけ、あるいは単身に住み替える場合、暮らしに合うようコンパクトな住まいにすることが暮らしやすさにつながるのです。
大きな戸建ては思い切って売却してしまい、マンションに住み替えるというのもダウンサイジングの一つです。ただし、住み慣れた土地を離れて思い出の残る家を手放すことには抵抗があるという人もいます。リフォームか住み替えかの検討は、十分かつ慎重に行いましょう。
老後は持ち家と賃貸どちらが住みやすいのか
そもそも住む家を選ぶとき、持ち家にするか賃貸にするかは悩ましい問題の一つです。ここでは、一つの目安として持ち家と賃貸、それぞれに向いている人の特徴をご紹介します。
- 持ち家に向いている人
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- 退職までに住宅ローンが完済できる見込みがある
- 収入が安定している
- 賃貸物件には少ない、4LDK以上の部屋数が必要
- 貯蓄が潤沢
- ずっとシングルである可能性が高い
- 賃貸に向いている人
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- 転勤が多いなど、住む場所が確定していない
- 収入が安定していない
- 健康状態が思わしくない
- 住宅ローンなど、大きな借金に抵抗がある
持ち家にも賃貸にもそれぞれのメリット・デメリットがありますので、単純なコスト面での損得だけでは決められません。将来の暮らし向きや今後の収入、パートナーや家族の可能性など、さまざまな視点から自分に合うのはどちらなのかを検討する必要があります。
老後の住み替えの「ダウン・サイジング」のメリットとデメリット
では、老後の住み替えに「ダウン・サイジング」を選ぶにあたり、どんなメリット・デメリットが考えられるでしょうか。具体的に見ていきましょう。
- ダウン・サイジングのメリット
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- 家が小さく、部屋が狭くなることで掃除の手間などがなくなる
- 階段などの段差がない家を選べば、身体に余計な負担をかけなくてすむ
- 夫婦2人、または単身での生活を前提に家を選ぶので、書斎や趣味の部屋などを確保し理想の住まいにしやすい
- ダウン・サイジングのデメリット
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- 住み替えや建て替えなど、どうしても費用がかかる
- 特に建て替えの場合、建物を解体して新しく新築するための大きな資金が必要となる
- 住み替えの場合、建物部分を売却した代金を新居購入費に充てることもできるが、築20年以上経った物件はほとんど価値がつかない
また、メリットの一つとして、住み替え後に現在の住まいを売却したり、賃貸経営したりして収入とするという方法があります。現在の住まいの住宅ローンが完済されていればスムーズに売却できますが、残債があると抵当権は金融機関が持っていることになります。売却代金がローンの残債よりも高い場合は問題なく完済すれば良いのですが、売っても残債が完済できない場合、住み替えローンなどの検討が必要です。
問題は、築20年を過ぎていると建物部分の価値がほとんどつかないことです。その場合は土地価格だけで売却しなくてはならないことも多く、新居を購入するための費用を新たに用意する必要が生じます。家をいくらで売却できるのか、住み替え費用としてどのくらいのお金を用意できるのかは最初に計算しておきましょう。
収入を得るもう一つの方法として、現在の住まいは賃貸物件として貸し出す方法があります。この場合もクリーニングだけでなく、リフォームが必要となるケースが多く、その費用や固定資産税、マンションの場合は管理費・修繕積立金などの固定費も発生します。住み替えた後の住居でも、マンションの場合はこうした費用がかかりますので、賃貸運営の場合は初期投資とランニングコストなどの資産をしっかりしておきましょう。
ダウン・サイジングの方法って?改築や建て替えのメリットとは
改築や建て替えでダウン・サイジングする方法としては、以下の3つが挙げられます。
- 二世帯住宅に改築する
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- 1階と2階で世帯を分離し、1階を親世帯、2階を子世帯の二世帯住宅に改築する
- 2階部分は一部増築し、浴室やキッチンを設けると、それぞれコンパクトな住まいに
- 将来、相続が発生したときにも土地の評価額が80%減額される優遇策を受けられる可能性が高い
- 敷地の一部を有効活用し、賃貸住宅を建てる
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- 住まいを小さくして敷地を分割し、ゆとりができた場所に賃貸住宅を設ける
- 暮らしやすくなると同時に、毎月の家賃収入が安心につながる
- 2階部分を撤去し、住みやすい平屋にリフォーム
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- 2階部分を撤去・減築して平屋にし、バリアフリー設計にして寝室の近くにトイレや浴室を設ける
- 寝室とリビングをゆったり確保したり、個室を2箇所以上設けてプライバシーを確保したりする
- それまでの住まいを維持しつつ家事の負担やケガ・転倒のリスクを減らすことで、安心して暮らせる住まいへ
このように、住み替えでなくても賃貸経営を行う方法や、子世帯と分離しつつ近くに暮らす二世帯住宅にする方法、階段がなくケガ・転倒のリスクが少ない平家にする方法など、一口にダウン・サイジングと言ってもその方法はさまざまです。それぞれのライフスタイルに合った方法をよく検討しましょう。
ダウン・サイジング費用捻出は早めの計画が必要
ダウン・サイジングは、いずれの方法を選ぶにしてもある程度の出費は避けられません。ダウン・サイジングにかかる出費が多すぎて老後の生活資金が不足してしまわないよう、あらかじめ資金計画をしっかり立てておくことが重要です。ここでは、住宅ローン・現在の住まいの売却益・退職金や預貯金の利用という3つの方法をご紹介します。
- 住宅ローンを利用する
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- 60歳を超えても、健康で安定した収入があれば住宅ローンを組める
- 返済期間が短くなるため、借入可能金額は少なくなることに注意
- 多くは申請時に70歳未満であること、80歳未満で完済予定、など年齢制限が課される
- 現在の住まいの売却益や賃貸収入を使う
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- 年齢によっては大きな住宅ローンを組めないので、現在の住まいをできるだけ高い価格で売るのが理想
- 通常の物品を売るのとは違い、住まいを売買するときは住み替えのタイミングを合わせる必要がある
- 住み替えが生じる物件売却の経験が豊富で、かつ高く売れる会社を選ぶとよい
- 退職金や貯金の一部を使う
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- 定年後に入ってくる退職金や、これまで貯めてきた貯金の一部を住まいの資金にする方法
- 老後は何かと医療機関にかかる可能性が出てくるため、住み替えで退職金や貯金を全部使ってしまわないよう注意
- 年金は「ねんきん定期便」で受給見込み額を確認するなどして、収入額を把握し、生活費としてどのくらいかかるのかを計算しておく
他にも、老後も持ち家に住むのか、賃貸暮らしを続けるのか、子ども世帯と同居して二世帯住宅にするのかなど、ライフスタイルによってさまざまな選択肢があります。リタイヤ生活に入ってから選択するのではなく、その前に選択肢をじっくり検討し、対策しておくのが良いでしょう。
子どもとは同居しないで老後を過ごす場合の考え方
子どもと同居せずに夫婦だけで住む場合、自分たちでやるべきことは多くなります。老後の暮らしにかかる生活費を全体的に低く抑える対策も必要です。現在首都圏に住んでいる人なら、地方へ移住することで家賃を含めて生活費を下げられるかもしれません。リタイヤする前にいくつか地域を見て回り、家賃相場や地域の物価を調べておきましょう。
他にも、高齢者向けの賃貸住宅へ引っ越しする方法もあります。床の段差や手すりの設置など、バリアフリー設備が整った住宅で、入居時の礼金や不動産会社への仲介手数料、更新料が不要です。一定の条件を満たせば、家賃の軽減を受けられる可能性もあります。ただし、物件のある地域が限られていることや、申し込みが抽選のため必ずしも希望通りにならないことなどに注意が必要です。
老後の家賃を試算したとき2,000万円以上かかるようなら、小さなマンションを購入し、購入に合わせて段差や手すりをバリアフリー仕様にリフォームしておけば後々の出費を抑えられるでしょう。ただし、購入の場合には定年後ローンが残らないよう、返済計画をしっかりしておくことが重要です。マンションの場合、管理費・修繕積立金などの諸費用もかかりますので、入念に資金計画を練っておかなくてはなりません。
いずれの場合も、ライフスタイルや家族関係、周辺環境などさまざまな条件を総合的に検討して判断する必要があります。リタイヤ後に安心して生活するために、リタイヤに至る前からしっかり準備しておきましょう。
おわりに:老後は暮らしやすさを重視した「ダウン・サイジング」がおすすめ
人生100年時代、リタイヤ後の生活が30年以上続くことは珍しくありません。老後を安全に楽しく過ごすためには、住まいを暮らしやすくする工夫も重要です。そこで、住み替えやリフォームによる「ダウン・サイジング」という選択肢があります。
持ち家が広すぎる、老朽化しているなどダウン・サイジングを行う理由はさまざまですが、いずれの場合もそれぞれのライフスタイルや家族関係などを考慮し、リタイヤの前によく検討しましょう。
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