労働法によると、所定の労働時間は1日当たり8時間、週あたり40時間です。この時間数を超える分の労働時間は「残業」扱いとなり、労働者には残業手当として所定労働時間よりも高い賃金が支払われます。
今回は残業について、働き方改革を受けた現状や長時間行うことによる心身への影響、残業時間を減らしていくためのコツまでまとめて紹介していきます。
- この記事でわかること
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- 製造業、非製造業における近年の残業時間の推移
- 企業も個人も守るべき時間外労働の限度
- 残業続きで体が悲鳴を上げているときの症状
- 事前申告制度やノー残業デーなど残業対策の事例
残業時間が減少傾向にあるって本当?テレワークの現状は?
一般社団法人 日本経済団体連合会の「2020年 労働時間等実態調査」によると、一般労働者の労働時間は2017~2019年の3年間で以下のように推移しています。
業種別、2017~2019年の年間平均労働時間の推移
- 2017年
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- 製造業の労働時間数…2,020時間
- 非製造業の労働時間数…2,060時間
- 上記を合わせた、全体の労働時間数…2,040時間
- 2018年
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- 製造業の労働時間数…2,014時間
- 非製造業の労働時間数…2,050時間
- 上記を合わせた、全体の労働時間数…2,031時間
- 2019年
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- 製造業の労働時間数…1,987時間
- 非製造業の労働時間数…2,014時間
- 上記を合わせた、全体の労働時間数…2,000時間
全体的に、毎年少しずつ労働時間が減少していることがわかりますね。
この背景には、大企業に対しては2019年4月から、中小企業に対しては2020年4月から適用された「働き方改革」関連法の影響があると考えられます。
続いて労働時間全体ではなく、残業時間の推移も同調査から見ていきましょう。
業種別、2017~2019年の年間平均時間外労働時間の推移
- 2017年
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- 製造業の労働時間数…194時間
- 非製造業の労働時間数…201時間
- 上記を合わせた、全体の労働時間数…197時間
- 2018年
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- 製造業の労働時間数…193時間
- 非製造業の労働時間数…198時間
- 上記を合わせた、全体の労働時間数…196時間
- 2019年
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- 製造業の労働時間数…180時間
- 非製造業の労働時間数…189時間
- 上記を合わせた、全体の労働時間数…184時間
全体労働時間と比例して、残業時間数もぐっと減少していますね。特に2019年の残業時間数の減り方は、それまでの2年間に比べて顕著です。2020年以降は、コロナウイルス感染症流行の影響からテレワークが増加しました。
日本労働組合連合会が行った「テレワークに関する調査2020」によると、2020年にテレワーク下で「残業があった」と回答した年代別割合は以下の通りです。
年代別、2020年のテレワーク下で残業を経験した人の割合
- 18~29歳…51.6%
- 30~39歳…48.0%
- 40~49歳…30.4%
- 50~65歳…22.4%
各年代で一定の人がテレワーク下でも残業に対応しており、その割合は年齢層が若くなるほど多くなっています。また同調査では、テレワークを経験した労働者の多くが以下の悩みを抱えていることも見えてきました。
経験者が「あった」と答えた、テレワークによる弊害
- 「勤務時間の間に定められた休憩時間がきちんととれないこと」…53.6%
- 「通常の勤務(出勤しての勤務)よりも長時間労働になること」…71.2%
- 「深夜の時間帯(午後10時~午前5時)に仕事をすること」…32.4%
テレワークによる8時間を超える労働は、従来の規定では残業には当てはまらない場合があります。ここまでの調査結果から、従来の規定から外れたテレワークという働き方が急激に普及したことで、労働者の半数以上が勤務時間の管理に難しさを感じていることがわかります。
月45時間以上!調査から見る残業が多くなりがちな職業って?
厚生労働省労働基準局・都道府県労働局・労働基準監督署が発行したリーフレットによると、残業時間が長くなるほど心身の健康を害するリスクも高まるとされています。
また「月45時間以内」をひとつの基準とし、この時間内に収まる時間数であれば、残業を主な原因として健康を害するリスクは低いとも指摘しています。この前提を踏まえ、残業時間数が多い・少ない傾向の職種を具体的に見ていきましょう。
リクルートワークス研究所が発表した「月45時間以上残業している人の割合(職種別、2018年、推計値)」によると、残業時間数が多い傾向のある職業は以下の通りです。
月45時間以上の残業割合が20%を超える職業
- トラックドライバー…56.5%
- タクシードライバー…50.4%
- 小中高教員…38.8%
- 文芸家、記者、編集者…36.4%
- 研究開発(電気、電子、機械)…30.6%
- その他ドライバー…28.4%
- 医師、歯科医師…27.2%
- 管理職…26.1%
- 営業…25.2%
- 理容師、美容師…24.9%
- 建築施工管理、現場監督…23.3%
- 印刷関連専門職…23.2%
- 美術家、デザイナー…23.2%
- 建築設計…23.1%
- 弁護士、弁理士、司法書士…22.6%
- ソフトウェア関連技術職…22.0%
- 自衛官、警察官、警備…21.9%
- 企画、販促系事務…21.2%
- 広告出版、マスコミ専門職…20.1%
対して以下の職種は、残業時間数が少ない傾向があると分析されています。
月45時間以上の残業割合が5%を下回る職業
- 販売店員…4.7%
- ウェイター、ウェイトレス…4.7%
- 塾講師…3.6%
- 農林水産関連職…3.2%
- 家政婦…2.3%
残業時間の少ない職業を選択するうえでの参考にしてくださいね。
残業を減らすと心と体にこんなうれしいメリットがある!
働き方改革が推進され、労働時間数・残業時間数ともに減少傾向にあるとは言え、まだまだ長時間の残業を求められる労働者は少なくありません。それでも残業時間数の削減が強くすすめられているのは、以下の理由からです。
- 法律により、労働者に課して良い残業時間がきまっているから
- 労働基準法36条に基づく労使協定、通称「36(サブロク)協定」とも呼ばれる協定により、企業が労働者に課して良い時間外労働の時間数の限度は以下のように決められています。
- 1週間あたりの限度時間は15時間まで
- 2週間あたりの限度時間は27時間まで
- 4週間あたりの限度時間は43時間まで
- 1か月あたりの限度時間は45時間まで
- 2か月あたりの限度時間は81時間まで
- 3か月あたりの限度時間は120時間まで
- 1年間あたりの限度時間は360時間まで
法定労働時間を超えて労働者に残業をさせる場合には、企業は労働者と36協定を締結し、所轄の労働基準監督署長へ届け出なければなりません。
- 労働者本人が、長期にわたり心身の健康を害するリスクがあるから
- 長時間労働による身体への負荷の増大、大切な人と過ごす時間や余暇時間、睡眠時間の不足が続くと心身に疲労が蓄積し、以下のような健康被害を引き起こします。疲労、過労により発症し得る健康被害の例は以下が挙げられます。
- 脳や心臓疾患による突然死
- 精神障害の発症、またこれによる自殺
- 十二指腸潰瘍や月経障害など、その他の過労性健康障害の発症
- 注意力が低下することによる事故、ケガ
- 残業時間数を減らすことにより、労働者の心身に良い影響があるから
- 時間外労働の時間数を減らすことで、労働者が得られるメリットには以下が挙げられます。
- 余暇時間が増え、家族や友人など大切な人と過ごしたり趣味に充てる時間も増える
- 資格取得など、現職や将来のキャリアアップのためのスキルアップに時間を使える
- 上記2つの効果により心身のリフレッシュができ、健康状態が良くなる
- 仕事の効率化をめざすようになり、自然とタイムマネジメントスキルが身に付く
残業時間数を減らすことは労働者の心身の健康を守るだけでなく、長い目で見れば企業の成長やイメージアップ、クリーン性の向上にも役立つ施策なのです。
どんな工夫で残業を減らすことができるの?
ここからは、残業時間数削減のために企業と労働者が実践すべき工夫を紹介していきます。まず企業が会社全体で取り組むべき工夫としては、以下が挙げられるでしょう。
残業時間数削減のために、企業ができること
- 残業の要因となる長時間の会議を減らすため、日々の会議時間を事前に決めておく
- 短時間で会議を進めるため、普段から会議にかける議題・案件に関わる者同士でこまめに情報共有をしておく
- アジェンダを作成するなど、会議の準備や効率化を図る
- 1人が会議中の1回の発言にかける時間を5分とするなど、案件や担当者に割り当てる時間をあらかじめ決めておく
- 単純作業は誰でも同じ時間、質でこなせるよう手順や知識、ノウハウをマニュアル化するなどして全員で共有させる
- 作業の進め方をみんなが理解できるよう文書や動画、画像を用い作業標準書を作っておく
- 必ずしも社内の人間でなくてもできる業務内容は外部サービスに委託したり、ロボットによる業務自動化を導入して労働者への負荷を減らす
対して、一人ひとりの労働者が残業時間数削減のためにできる工夫は以下の通りです。
残業時間数削減のために、労働者ができること
- 自分が1日に担当する各仕事にかけている時間を書き出し、把握する
- 納期や作業量、作業にかかる時間、緊急度、納入対象者などを総合的に考えたうえで仕事に優先順位をつけてリスト化する
- 1日をいくつかのブロックに分け、リストをもとに仕事のスケジュールと配分を決めて、効率的にすすめていく
- SNSやスマホゲーム、ネットサーフィンなど仕事の妨げることは休憩時間以外しない
- 間に合わない、一人では手に負えないと感じる仕事があれば早めに周囲に助けを求め、状況を説明して協力を仰ぐ
- 同僚と助け合って残業時間を削減するため、自分に余裕のあるときは周囲の人の仕事を手伝う習慣をつける
日々の労働時間が長く、昼間に強い眠気や疲労感、疲れがとれていないと感じるなら、体が「働き方を見直すべき」というサインを発している証拠です。これを無視して長時間の労働を続けると、深刻な健康被害や突然死を招く原因となります。
上記の内容を参考に働き方・仕事の進め方を工夫し、まずは5分から毎日の残業時間を減らす努力をしていきましょう。
企業が実践している残業対策の例
最後に、企業が実際に行っている残業時間削減のための対策を紹介します。会社を上げて自社の労働環境を改善するため、労働者たる自身の心身の健康と生活を守るためにぜひお役立てください。
- 残業の事前申告制度の導入
- 企業側が従業員の残業状況を把握しやすくなり、特定の従業員に仕事の負荷が集中することを防いだり、仕事配分の見直しや他の従業員への成長機会の提供に役立つ
- ノー残業デーの制定
- 週に1度以上ノー産業デーを設けることで従業員に残業抑制の意識を持ってもらい、会社全体の労働意識を変えていく
- 人事評価医制度との連動
- 管理職の人事評価項目に「部下の時間外労働」を、一般従業員には残業時間数に応じた賞与額の変動制度などを導入することで、従業員全体が残業時間削減に取り組むようになる
- 定時の退社時刻にパソコンの電源を落とす
- 管理ソフトを使い、従業員が仕事に使っているパソコンを定時の退社時刻に強制シャットダウンし、残業するクセをなくしていくのが狙い
- フレックスタイム制度の導入
- 総労働時間のみ規定し、働く時間帯や1日当たりの時間数は従業員に任せ、これによる仕事への成果を評価する仕組み
おわりに:企業と労働者で力を合わせ、36協定を守り残業の時間を減らそう!
労働法により、企業が労働者に課して良い時間外労働時間数は1週間当たり15時間、1か月あたり45時間が上限と決まっています。これを超過する時間数の残業を強いるのは法律違反であり、労働者の心身の健康を害すリスクの高い行為です。企業は会社をあげ、労働者一人ひとりの協力を得て、36協定の定める上限を下回るよう残業時間を削減していかねばなりません。本記事を参考に、残業時間を減らすための施策を実践していきましょう。
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