接客や電話対応、取引先とのやり取りをしていると、悪質なクレームな要求に悩まされることも。過度のクレームや迷惑行為は「カスハラ(カスタマーハラスメント)」かもしれません。この記事ではカスハラの基礎知識やカスハラ被害にあった人の対処法を紹介します。
- この記事でわかること
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- カスハラの意味やカスハラの分類
- カスハラの分類ごとの具体例
- 違法なカスハラは何罪に問われるか
- カスハラ被害を受けた人におすすめの対処法
カスハラ(カスタマーハラスメント)とは
クレームとは本来、消費者に過失がないのにも関わらず、消費品にキズがあったりサービスが不十分であったり、契約違反が発生したときに、消費者が企業などに権利請求や損害賠償を求めることを指します。
正当なクレームであれば企業には損害賠償をする責任が生じますし、クレームに誠実に対応することで企業の社会的信頼を取り戻すことができます。クレームが気づきとなって、新たな商品やサービスが誕生することもあるでしょう。
ただし、不当・悪質なクレームは「カスタマーハラスメント」に当てはまり、企業や従業員に不利益を与えます。
- カスタマーハラスメントとは
- 顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの
- 顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合の例(引用:厚生労働省)
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- 企業の提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合
- 要求の内容が、企業の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合
- 要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる可能性が高いもの
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- 身体的な攻撃(暴行、傷害)
- 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)
- 威圧的な言動
- 土下座の要求
- 継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動
- 拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)
- 差別的な言動
- 性的な言動
- 従業員個人への攻撃、要求
- 要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるもの
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- 商品交換の要求
- 金銭補償の要求
- 謝罪の要求(土下座を除く)
上記の定義は厚生労働省が作成した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」に記載されているものであり、カスハラの定義は明確には定まっていません。ただし行き過ぎたクレームは犯罪行為となることもあり、決して軽く見ていい行為ではないのです。
カスハラに悩んでいる人は、カスハラの現状やカスハラに対する社会の動きなどを理解し、カスハラから身を守る方法を考えていきましょう。
カスハラの迷惑行為や被害状況のデータ
厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」によると、カスハラの発生状況の調査(2020年10月実施)から、顧客などから下記のような迷惑行為を受けていることがわかりました。
- カスハラに当たる「迷惑行為」
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- 長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム(過度なもの)
- 名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
- 著しく不当な要求(金品の要求、土下座の強要など)
- 脅迫
- 暴行・傷害
- その他
- カスハラを受けた企業や被害者の割合
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- 過去3年間に勤務先で顧客等からの著しい迷惑行為の相談を受けた企業の割合:19.4%
- 過去3年間に勤務先で顧客等からの著しい迷惑行為を一度以上経験したという回答の割合:15.0%
「過去3年間に勤務先で顧客等からの著しい迷惑行為を一度以上経験した」という回答が15.9%でしたが、これはパワハラの31.3%よりは低い結果でしたが、セクハラの10.2%より高い結果となりました。さらに、調査結果によるとカスハラが増加していると回答した企業の割合が増えていることがわかりました。
企業へのヒアリングでわかったカスハラの実態
実際に発生しているカスハラは多岐にわたりますが、次のような迷惑行為はカスタマーハラスメントに該当する可能性が高いでしょう。
- 企業が受けたカスハラの実態(()内はカスハラのタイプ)
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- 一時間以上、クレームを伝えるために従業員を拘束する(時間拘束)
- クレームについて何度も電話をする(リピート型)
- クレームの電話で、大声をあげたり罵声を浴びせる(暴言)
- クレーム対応者の言葉尻を捉え、揚げ足取りをする
- 「土下座しないならSNSにさらすぞ」など暴露をほのめかす(脅迫)
- クレームを受けたことを主張し、特別扱いを要求する(権威型)
- クレーム対応した従業員の氏名をSNSで公開する(SNSへの投稿)
- ホテルのアメニティについて「くしを10本よこせ」など、備品を過剰に要求する(正当な理由のない過度な要求)
- クレーム対応では特定の従業員を指名してつきまとう(セクハラ)
- スタッフ以外立ち入り禁止の業務スペースに入ってくる(その他)
- 施設内で「マスクをしない客を店から出せ」と、過度な注意を要求する(コロナ禍に関連するもの)
カスハラは犯罪になる可能性も!何罪に該当する?
カスハラに該当する行為は、犯罪が成立こともあります。犯罪とは刑法に定められた条文に該当する行為ですので個別に判断が必要ですが、下記の犯罪が成立する可能性が考えられます。
- カスハラで成立する可能性がある犯罪
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- 傷害罪
- 暴行罪
- 脅迫罪
- 恐喝罪
- 未遂罪
- 強要罪
- 名誉毀損罪
- 侮辱罪
- 信用毀損及び業務妨害
- 威力業務妨害罪
- 不退去罪 など
カスハラ被害・迷惑行為への対処法
実際にカスハラ被害に合ったときはどのような対処をするのがよいのでしょう。会社に迷惑行為やカスハラに関する対策やマニュアルが設けられている場合、その内容に従って行動するのが安心です。
また、「カスハラかも」と思ったときは下記の対処法を試してみてください。
- カスハラに遭遇した時の対処法
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- 相手の気持ちを落ち着かせるために、「不快な気分や不安な気持ちにさせたこと」に対して謝罪する(※自分や自社に非があると判断したり認めたりするわけではない)
- クレーム内容をやみくもに認めるのではなく、「お客様の意見」として受け止め、上司に報告する
- その場で結論や謝罪を出そうとせず、「上司に相談して後日お伝えします」等の対応をする
- 会話の内容を記録・録音しておく
- 相手の話をすぐに遮ったり訂正したりしない
- 感情的になったり、声を荒げたりしない
- 相手の挑発に乗らず、冷静な態度を保つ
- 迷惑行為が発生した場合、速やかに上司や会社に報告・相談する
カスハラに困ったら上司や会社に速やかに相談!
カスハラは社会的に問題視されており、企業には従業員や自社の信頼や利益を守るための対応を求められています。令和2年1月には、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)が策定されました。この改正で、顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為(カスハラ)に関して、下記のことが定められています。
- 事業主は、相談に応じ、適切に対応するための体制の整備や被害者への配慮の取組を行うことが望ましいこと
- 被害を防止するための取組を行うことが有効であること
カスハラに対しては、相談体制の整備や対応マニュアルを作成するなどが進められています。会社に相談窓口がある場合は、カスハラが疑われることが発生した場合、小さな違和感だとしても速やかに相談しましょう。カスハラを放置しておくと、ご自身の心身の不調を招くほか、企業にとってもリスクとなるおそれがあります。会社の相談窓口は、「カスタマーハラスメント専用」とは限りませんので、業務上の悩みを相談する窓口や担当者に相談してみてください。
「会社にカスハラの相談窓口がない」という場合でも、上司や人事部などに相談することで窓口創設の動きが出る可能性が期待できます。どんな迷惑行為が発生しているか、事実をしっかりと伝えていきましょう。
カスハラに会社が対応してくれない!相談窓口はある?
近年はカスハラに関する企業の対策が進められていますが、全ての企業が十分に対策を整備しているわけではありません。会社がカスハラに対応できない、カスハラに対応してくれないという場合は、労働局「総合労働相談コーナー」や法テラス、弁護士に相談してみましょう。
カスハラの相談窓口【労働局「総合労働相談コーナー」】
会社が所在する各都道府県の労働局または労働基準監督署に、総合労働相談コーナーが設けられています。専門の相談員が面談あるいは電話で対応してくれますので、会社に相談窓口がない場合に頼りにしてみましょう。
カスハラの相談窓口【法テラス・弁護士】
「カスハラが発生しているのに会社が対応してくれない」ということもありますよね。そんなときは弁護士に相談してみましょう。カスハラの中には、脅迫や暴行など犯罪が成立するケースもあります。ただし会社になんの相談もなしに、顧客を訴えるのはおすすめできません。まずは会社の人事部や法務部に相談してみるのが安心です。
カスハラ被害にあったらメンタルを守ろう!
カスハラに直面した場合、心身ともにダメージを受けてしまうことがあるでしょう。それは決してご自身の心が弱いせいではありませんし、対応が悪かったとも限りません。カスハラ被害にあったときは、自分のメンタルを守る必要があります。
- カスハラ被害者が自分の心を守る方法
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- 自分を責めない
- 「お客様は神様」と考えなくてOK
- ツラい気持ちを吐き出す
- 趣味や運動を楽しんで、気持ちをリフレッシュする
- ダメージが仕事に影響している場合、今後の仕事の進め方や担当業務について上司に相談する
- 必要に応じて、カウンセリングやセラピーを受ける
「こんなに落ち込むのは自分だけ?」と思うことがあったとしても、メンタルのダメージを放置するのはおすすめできません。カスハラでは脅迫的な言動や身体への暴力が発生することもあります。悪意や暴力を向けられたとき、ダメージが心身に残るのは自然なことです。心身の不調を放置せずに、気分転換をしてみたり人に相談してみてくださいね。
人に相談しづらいときは、ツラい気持ちをノートに書き出すことでスッキリすることがあります。仕事で発生したことは社外の人に言い辛いこともありますよね。そんなときは、守秘義務のあるカウンセラーやセラピストに話を聞いてもらうという方法もありますよ。
カスハラでツラいときの相談先
カスハラなど仕事でツラいことや悩みがあるときは、こころの専門家に話を聞いてもらうのもおすすめです。こちらの記事では、忙しい人でも利用しやすい「オンラインカウンセリング」について紹介していますので参考にしてくださいね。
おわりに:カスハラに遭遇したらすぐに相談&メンタルケアを
カスハラの被害にあった場合の対処法を紹介してきました。的確な対処を取るほか、メンタルケアのためのリフレッシュやカウンセリングも実践してくださいね。
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