突然、食べ物の味がわからなくなる味覚障害。しかし実際には、味覚障害による症状は味覚の異常だけにとどまりません。食べるのが大好きな人はもちろん、食事が味気なく感じたり楽しめなくなるとショックは大きいものです。
今回は症状、主な発症原因、間違われやすい他の疾患や自分でできる予防・改善法に至るまで、味覚症状についてまとめて解説します。
- この記事でわかること
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- 味覚障害の量的障害と質的障害の違い
- 味覚障害は家族など人から指摘されることもある?
- 味覚障害が加齢と関連がある理由
- 若者の味覚障害の主な原因
- 原因ごとの味覚障害の治療法
味覚障害・味覚異常って?症状をセルフチェックしてみよう
味覚とは、舌の各部位が甘味・塩味・酸味・苦味・うま味などを感じる感覚です。そして味覚障害とは、これらの味覚に異常が生じる疾患のことで、大きく「量的障害」と「質的障害」の2種類があります。
- 味覚障害の種類
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- 量的障害…味覚全体が弱くなっていき、やがて味をまったく感じなくなるもの
- 質的障害…特定の味覚だけを感じなくなり、食べ物を「嫌な味」と感じるようになるもの
なお、味覚障害による症状の現れ方には個人差があります。以下に、味覚障害によって発症する症状をまとめていますので、当てはまるものがないかセルフチェックしてみましょう。
味覚障害による症状の現れ方
- 味覚の減退、低下…食べ物の味が本来より薄く感じ、味がよくわからなくなる
- 味覚の消失、脱失…何を食べても味を感じない、まったくわらかなくなる
- 片側だけの味覚消失…口や舌の片側のみ味覚が低下したり、味を感じなくなる
- 味覚過敏…食べ物の味が本来よりも強く感じられ、何を食べても濃い味と感じる
- 自発性異常味覚…何も食べていないのに、甘味や苦味など何らかの味を感じる
- 解離性味覚障害…苦味、甘味、酸味、塩味、うま味のうち1~2種類がわからなくなる
- 異味症、味覚錯誤…甘いものを苦く感じるなど、味を本来とは異なるものに感じる
また味覚障害は患者本人が自覚する前に、家族や周囲の人が発見するケースも多い病です。料理の味付けが変わった、おかずにかけたり刺身に浸ける醤油の量が変わったことから、家族が違和感を持ち発見されることもあります。
味覚障害から食べる喜びを失ってうつ状態になったり、自覚のないまま塩分や糖分を過剰摂取してしまい、生活習慣病を発症するケースも少なくありません。
亜鉛や鉄分不足が原因かも?
味覚障害は、主に私たちの舌の表面や付け根、上あごなどに点在する味を感じる細胞「味蕾(みらい)」の減少により起こると考えられています。通常、味蕾は飲食によって刺激されると「基本味」と呼ばれる甘味・苦味・塩味・酸味・うま味を感知し、脳へと味を伝えます。しかし味蕾が減少すると飲食の刺激をキャッチできなくなり、味覚が低下・消失するのです。
そして味蕾は、加齢とともに低下することがわかっています。ある調査では、舌後方の表面にある味蕾は74歳以上になると0~20歳平均値のおよそ35%にまで減少すると報告されているのです。このため、高齢になってから味覚障害が発見された場合は、加齢による味蕾減少が原因で葉症した可能性が高いでしょう。
一方で若い世代が味覚障害を発症した場合には、栄養の不足や偏りが原因と考えられます。味蕾は短期間で代謝を繰り返す細胞であり、その細胞の生まれ変わりには「亜鉛」という栄養素が欠かせません。また、亜鉛を体内で効率よく吸収するには「ビタミンB12」が、そして味覚障害の一因である貧血の予防するために「鉄分」の摂取も必要になってきます。このため偏食から栄養バランスが偏り、亜鉛や鉄分、ビタミンB12が不足すると若くても味覚障害を発症することがあるのです。
病気や体の不調が原因で味がわからなくなることも
ここでは亜鉛不足や貧血を含め、味覚障害を引き起こす可能性のある疾患や体の不調を紹介します。
- 亜鉛欠乏症
- 偏食や消化器疾患による亜鉛の吸収以上、腎臓疾患による亜鉛の排出以上などが原因で、味蕾の代謝に必要な亜鉛が極端に不足した状態。味覚障害の他に皮膚炎、脱毛、食欲不振、生殖機能の低下、貧血、糖代謝の異常、免疫力の低下、感染症にかかりやすくなるなどの症状を併発する。
- 鉄欠乏性貧血
- 鉄分の不足が原因で血中のヘモグロビンが不足し、貧血を起こした状態。男性はヘモグロビン値が13.0g/dl以下、女性は12.0g/dl以下になると貧血となり、倦怠感やめまいの他、舌の表面が赤くつるつるした状態になり味覚障害も併発する。
- 舌炎
- 味蕾のある舌表面に炎症が起きて赤くなり、痛みや味覚障害が起こるもの。舌や口腔内に義歯による傷やウイルス性の感染症、熱い飲食物によるやけどできたことなどをきっかけに発症する。
- ドライマウス
- 「口腔乾燥症」とも呼ばれる。唾液の分泌量が極端に減ることで、味蕾の働きが低下して味覚障害を引き起こす。なお唾液の分泌量の低下は口呼吸、加齢、早食いなどの食習慣、生活習慣病、慢性的なストレスなどが原因で起こる。
- 糖尿病
- インスリンの生成・分泌量や作用が低下し、血糖値が慢性的に高い状態になる生活習慣病。進行すると症状のひとつとして神経障害が現れ、味覚を伝える神経が障害されると味覚障害を発症することがある。
- 顔面神経麻痺
- 何らかの理由で顔の神経が障害され、顔片側の筋肉だけに麻痺が起こる疾患。まぶたや口を完全に閉じられない、よだれが垂れるなどの症状と合わせて、味覚障害が現れることもあると言う。
- 聴神経腫瘍
- 脳から耳へつながる聴神経に発生する良性腫瘍のこと。脳腫瘍全体のおよそ10%を占める。主な症状は次第に強くなる耳鳴りだが、時間とともに腫瘍が大きくなると顔面神経にも支障をきたし、味覚障害の原因となることも。
- 脳の疾患、頭部の外傷
- 脳梗塞や脳出血、頭部への外傷なども味覚障害の原因となり得る。大脳、小脳、脳幹部の血管に出血や詰まりが起こると頭痛や吐き気、嘔吐など代表的な症状と味覚障害を併発することがある。
味覚障害以外に、上記疾患の症状に心当たりがあるようなら原因疾患特定のためにも早めに医療機関を受診してください。
自分でできる味覚障害の予防法-積極的に摂りたい食品
ここからは誰にでもできる、味覚障害の予防・改善法を見ていきましょう。
まず、味覚障害を予防するためにできることとして食生活の改善が挙げられます。亜鉛、ビタミンB12、鉄分を積極的に取り入れた栄養バランスの良い食事を摂っていれば、味覚障害の発症は高い確率で防げるでしょう。日本人に推奨される1日当たりの亜鉛摂取量は、およそ15mgです。以下に、ほとんどの日本人に不足しているとされる亜鉛が豊富に含まれる食品をまとめていますので、食生活の改善にお役立てください。
亜鉛が豊富に含まれる食品
- 魚介類
- 牡蠣、生のイカ、数の子、イワシのみりん干し、煮干し、しらす干し、茹でたタラバガニ、サザエ、魚卵、干しだら
- 海藻類
- 寒天、あまのり、あさくさのり、わかめ、干しひじき
- 肉類
- 牛レバー、牛肉、豚肉、ウインナーソーセージ、プレスハム
- 豆類
- 小豆、インゲン豆、緑豆、大豆、大豆製食品
- ナッツ類
- カシューナッツ、アーモンド、いりごま、栗、干し柿
- 穀類
- 生湯葉、そば、玄米、薄力粉、麦こがし
- 乳製品
- プロセスチーズ、脱脂粉乳
- 飲料
- 抹茶、ココア、緑茶、玄米茶、紅茶
自分でできる味覚障害の予防法-口腔ケアと基本のブラッシング
味覚障害予防のため、食生活の改善と併せて行って欲しいのが口腔ケアです。以下の基本の口腔ケアを習慣化すれば口内の衛生状態が良くなり、舌炎やドライマウスなど口腔トラブルが原因の味覚障害を防ぐことができます。
味覚障害の予防に効く、基本の口腔ケアを見ていきましょう。
歯と歯茎のブラッシング
- 鉛筆と同じように歯ブラシを持つ
- 毛先を歯と歯茎の間に充てるようにして細かく動かす
- ブラシを利用し、歯と歯茎の隙間の汚れを掬い取るようなイメージで1~2本ずつ、歯垢が溜まりやすい箇所を意識しながら丁寧に磨いていく
- 歯垢が溜まりやすいところ
- 歯と歯茎の隙間、歯と歯の間、前歯の裏側、奥歯の後ろ、歯並びの悪いところ、まばらに残った歯、治療した後の歯
このとき、歯ブラシが当たらない面ができないよう歯の正面・裏側・左右から磨くと磨き残しが少なくなります。なお歯の噛み合わせ部分は、毛先をぴったり当てて磨けばOKです。
口腔内の保湿ケア
こまめなうがい、5~10分に1回ひと口の水分補給をするのが効果的です。既にドライマウスを発症している場合は、口内用の保湿剤を使うのもおすすめです。ただし保湿剤を使う場合は、前回塗った保湿剤をきちんと落としてから新しい保湿剤を塗るようにしましょう。
義歯の衛生管理
部分的、または全体的に義歯がある場合は義歯のケアも重要です。義歯も本物の歯と同様、歯ブラシで丁寧に汚れを落としてから、義歯洗浄剤に浸けて消毒して常に清潔を保ってください。
味覚障害の検査・治療法
味覚障害の検査は、主に耳鼻咽喉科で行われています。味覚障害かもしれないと思ったら、まずは耳鼻咽喉科の医療機関を受診しましょう。以下に、味覚障害の疑いがある場合に耳鼻咽喉科で受けられる基本的な検査方法を挙げておきますので、参考にしてくださいね。
味覚障害の検査方法
- まずは舌のできものや炎症、構造、血流に異常がないかを視診する
- さらに問診をして、味覚障害以外に他の疾患、全身性疾患の症状がないかチェック
- 客観的に味覚障害かどうかを見極めるため、以下のような検査を順を追って行う
- 電気味覚検査
- 舌の上に軽度な電流を当てて、徐々に強くしていき味を感じるかを確認する
- 濾紙ディスク検査
- うま味以外の基本味をそれぞれ5段階に分けた溶液を作り、舌に乗せて味覚レベルを診る
- 全口腔法
- 基本味の溶液を作り、味わってもらいどんな味がするかを答えてもらう
- 唾液検査
- 安静にした状態、そしてガムを噛んでいる間の唾液の分泌量や㏗値をそれぞれ計測・比較し、味覚障害の原因を探る
- その他の検査
- 上記以外にも血液検査による栄養状態のチェックや、ストレス状態を測る心理テスト、唾液腺機能を評価する検査、嗅覚検査などを行う場合もある
検査の結果、味覚障害と診断された場合は味蕾の代謝に役立つ亜鉛、自己治癒力を高めるための漢方薬を併用した投薬治療をしていきます。亜鉛不足が主な原因の味覚障害であれば、この投薬治療で症状が改善するでしょう。治療に必要な期間は短くても3か月、長ければ1年以上となりますが、平均的には半年ほどで改善するケースが多いようです。
なお亜鉛の不足ではなく、他の疾患が原因で発症する味覚障害の場合は、他の診療科で根本原因となっている疾患の治療をする必要があります。診察の結果、他の疾患が疑われる場合は歯科や内科、神経科、心療内科など耳鼻咽喉科以外の診療科を受診するよう医師から指示されますので、従ってくださいね。
おわりに:重大な疾患が潜んでいるかも!味覚障害の疑いを感じたら、すぐ耳鼻咽喉科で相談を
味覚障害は、主に舌で味を感知する味蕾という細胞の減少・機能低下で起こる疾患です。その多くは加齢や栄養不足が原因で起こりますが、他にも口腔トラブルや生活習慣病、脳や頭部・顔周りの疾患の一症状として現れることもあります。仮に疾患の症状として味覚障害が現れている場合には、原因疾患と併せ早急に治療しなければなりません。味覚障害の疑いを感じたら、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診しましょう。
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