アダルトチルドレン(AC)とは、親の庇護を受けるべき小さな子どもの頃、親にしっかり守ってもらえないとその子どもは生きづらさを抱えやすくなる、という心理傾向のことです。
ACの原因はネグレクトなどの無関心や過干渉であることがわかっています。家族関係が子どもの成長にどのような悪影響を与えるのか、詳しく見ていきましょう。
- この記事でわかること
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- アダルトチルドレン(AC)の歴史
- ACの共通点や気をつけたい傾向
- 家族のコミュニケーションとACの関連性
- 家族のスキンシップや会話での注意点
アダルトチルドレン(AC)とは
アダルトチルドレンという用語はアルコール依存症の親に育てられた子どもに見られる共通の心理状態として使われていました。1969年に出版された『The forgotten children(忘れられた子どもたち)』という、アルコール依存症の親に育てられた子どもの研究に関する書籍の中で、マーガレット・コーク氏が使ったのが始まりです。
最初の略称はACOA(Adult Children of Alcoholic)でしたが、そのうちに簡略化されてACとなりました。ACが指す対象もアルコール依存症の親を持つ子どもだけでなく、不適切な養育をする親を持つ子どもにまで、概念は広がっていきました。やがて、こうした子どもの養育に不適切な家族に対し、1980年代に「機能不全家族」という概念が登場します。
そして現代、アダルトチルドレンは増加傾向にあるとされています。アダルトチルドレンは医学的な診断名ではありませんし、うつ病や統合失調症のような内因性の精神疾患でもありません。不安障害のような神経症として、DSM(精神障害の診断・統計マニュアル)に記載されている状態でもないのです。
- アダルトチルドレンについて
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- 「ACOA」という、アルコール依存症の親に育てられた子どもに見られる心理状態を指す言葉が元になっている
- 現在ではアルコール依存症の親に限らず、養育方法に一定の課題がある親に育てられた子どもを指す
- アダルトチルドレンは、医学的な診断名ではない
しかし、アダルトチルドレンの傾向にある本人の自覚症状や生きづらさは、決して看過できるような軽いものではありません。実際に、アダルトチルドレンの傾向を持つ人は、必死の思いでカウンセリングルームの扉を叩くほど切迫した状態に至る人も多いのです。ストレスが多い現代社会において、年々増加傾向にあるアダルトチルドレンの特徴を次章で見ていきましょう。
アダルトチルドレンの特徴-自尊心や自己肯定感が低い?-
アダルトチルドレンの傾向を持つ人は、以下のような考え方や行動の特徴を持つとされています。
- アダルトチルドレンの特徴
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- 自分の感情を抑えがちで、おとなしく自己主張をしにくい
- 大勢の人といるときは、目立たないように行動することが多い
- 周囲の反応を伺い、他人に合わせることに必死になってしまう
- 親のもめごとなどを見て育ち、わがままが言えなかったので、いつもいい子を演じてしまう
- 周囲が期待するような振る舞いをしようとする
- 完璧でなければ意味がない、価値がないと感じてしまう
- 完璧を求めるがゆえ、失敗や挫折を恐れたり、その通りに行かないと必要以上に自分を責めてしまったりする
- 自分のありのままを認められず、存在するための条件を満たそうといつも必死である
- 周囲から肯定され、承認されることを常に求める
- 他人が自分をどう思っているかが気になり、遊びなどを十分に楽しめない
- 「ダメな自分を知られたくない」「嫌われるのが怖い」など、人と親密な関係を築きにくい
- どう評価されるのかなどがプレッシャーとなり、物事を最後までやり遂げられない
他にも人によってさまざまな特徴がありますが、共通点として「子どもの頃に十分な安心感や愛情を感じられていない」「過剰な干渉によって保護者に支配され、自己決定力が育まれていない」といったように、自尊心や自己肯定感が低いという傾向があります。
このためアダルトチルドレンの傾向を持つ人は人間関係がうまくいかず、孤独や生きづらさを感じてしまい、うつ病や不安障害といった精神疾患を発症してしまうこともあります。
子どもをアダルトチルドレンにする親の特徴
では、子どもをアダルトチルドレンにしてしまいやすい「不適切な養育」「子どもが十分な安心感や愛情を感じられない養育」とはいったいどんなものなのでしょうか。最初にご紹介したアルコール依存症を含め、4つのタイプをご紹介します。
- 1.アルコール依存症の親
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- 親がアルコール依存症になると、アルコールのみに関心が注がれ、子どもへの関心が失われる
- アルコールを飲むことが一番の優先事項となるので、アルコールを飲むために子どもを利用するようになる
- 子どものお金を盗んだり、子どもにお金をせびったり、アルコールを子どもに買いに行かせたり、アルコールが飲めない不安や苛立ちから子どもに暴力を振るったりする
- 子どもは親の不安定な表情や言動ばかりを記憶してしまい、子ども自身の人間関係に支障をきたすようになる
- 2.虐待・暴力
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- 身体的虐待だけでなく、心理的虐待、性的虐待、ネグレクトなども含む
- 親による虐待や暴力は、子どもの心身の成長を妨げ、家族以外の人間関係を築く障害となる
- 子どもは親から逃げ出せないので、親を怒らせないよう顔色を伺ったり、自分の気持ちを我慢したりすることでなんとか生き抜く(過剰適応などとも呼ばれる)
- 子どもの頃、過酷な虐待環境を生き抜くために身につけた習慣が、大人になっても人間関係を築く上で大きな障害となってしまう
- 3.毒親
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- アメリカの精神医学者スーザン・フォワードによる「毒になる親」から生まれた言葉
- 明確な定義はない俗語ではあるが、一般的に子どもにとって害になる言動や振る舞いをする親という意味合い
- 家族の平和を乱し、機能不全家族の状態に陥れてしまうトラブルメーカーとも言える
- 子どもを単なる意地悪でなじったり、説教と称して過剰に抑圧したり、「どうせ上手く行かない」と子どもの言動を否定したり、命令や支配したりと、子どもをさまざまな意味で苦しめる親の総称
- 4.過保護・過干渉
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- 特に日本では、このタイプの親がアダルトチルドレンを作ってしまうことが多い
- 子どもが何をしても叱ったり怒ったりしない、子どもが何をするにも先に手を回してしまう、子どもに習い事や勉強を強要する、趣味や交友関係を制限・干渉するなど子どもを私物化してしまい、心身の成長に障害をもたらす
このような不適切な養育をしてしまう原因として、一つには親自身も子どもだった頃に心身が大きく傷ついたアダルトチルドレンであるというものがあります。アダルトチルドレンは世代間連鎖が起こりやすいとされるのもこれが原因で、親の影響が子どもへ、さらに孫へと続いていってしまい、なかなか連鎖から抜け出せなくなってしまいやすいのです。
日本で多いとされる過干渉について、次章で詳しく解説します。
親が陥りやすい「過干渉」が招く子どもへの悪影響
日本では、過保護・過干渉な親による不適切な養育が見えにくいといわれています。過保護・過干渉な親は、一見すると子どもを第一に考え、子どものために我が身を削って尽くしているため、周囲からは良い親と見られやすいことがあります。もちろん、子どもがごく小さな乳幼児の頃であれば、怪我をしないよう、怖い思いをしないよう、と親が手を差し伸べるのは自然なことです。
しかし、子どもがだんだん家庭外での人間関係を築き始め、成長していっても次のような特徴がみられたら過干渉といえるでしょう。
- 過干渉の親の兆候
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- なんでもかんでも先回りしてアドバイスしたい
- 子どもの行動を逐一すべて把握していなくては気が済まない
- 子どもの将来の進路や就職などの選択肢を、親がすべて指示してしまう
過保護・過干渉な親は、子どもが自分で考えて選択することを不満に思ったり、自分が叶えられなかった夢を子どもに押しつけたりするので、子どもの友人も恋人も夢もすべて親が決めようとし、子どもの意見は一切聞き入れません。そのため、過保護・過干渉な親に育てられた子どもは主体性をなくしてしまいます。
自分の意見があってもすべて親の意見にねじ伏せられてきたので、次第に意見を言えなくなったり、意見自体を持たなくなったりします。感情を上手く出せなくなったり、自分で意思決定ができなくなったり、指示されるまで動けなくなったりと、学生生活や社会生活においてさまざまな弊害が出てしまいます。
過干渉の親に育てられた場合、感情のコントロールができなくなる、または、コミュニケーションがうまくとれなくなる可能性が高くなります。
- わがままで感情をコントロールできない大人になる
- 大人になってもわがままで横暴な振る舞いをしてしまいやすいタイプのアダルトチルドレン。子どもの頃に出せなかった自分の意見や感情を大人になってから出しているのですが、健全な発育をしてきた大人と比べてコントロールが効かないので、人間関係において問題を起こしやすくなってしまうのです。
- コミュニケーションが苦手な大人になる
- 他人の顔色をいつも伺っていて、コミュニケーションが上手く取れなくなってしまうアダルトチルドレン。親の態度を他人に投影する傾向があり、顔色や評価を気にしすぎてしまいます。自分の意見や感情は否定されると思い込んで心を開けなかったり、集団の中で上手く馴染めないことがあります。
子どもの心の成長を妨げる「機能不全家族」とは?
子どもの心の成長を妨げてしまう原因は親との関係だけに限りません。祖父母・兄弟姉妹・叔父叔母など他の家族との関係が原因となることもあります。
家族には、お互いを尊重しあい、支えあい、励ましあい、協力しあうといった機能はもちろん、子どもが安心して成長できる居場所であることが求められています。
しかし家族関係に問題が生じ、家族に求められている機能が果たされないことがあります。子どもが安心して成長できない状態に陥ってしまうと、それは「機能不全家族」と呼ばれます。機能不全家族もまた、子どもをアダルトチルドレンの傾向に育ててしまいやすい環境の一つです。
以下が機能不全家族の特徴です。
- 愛情のない家庭
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- 挨拶や感謝の言葉・笑い声・スキンシップなど家族から子どもへ投げかける気持ちのキャッチボールが少ない
- 温かみに欠け、子どもが十分に愛情を感じられない
- 世間体を重視しすぎる家庭
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- お金・出世・学歴などを重視した人付き合いをしたり、周囲に対して見栄を張ったりしやすい
- 世間体を気にするあまり、子どもへの関心が疎かになっている
- 過保護・過干渉な家庭
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- 子どもが何をしても家族が叱ったり、怒ったりすることがない
- 子どもが何をするにも家族が先に手を回してしまうなど、過剰に子どもの自由を制限する
- 毒親・否定・抑圧がある家庭
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- 子どもを悪意でなじる、嫌味で抑圧する、子どもの言動を逐一否定する、バカにするなど
- 成功体験がもたらす自尊心や健全な自己肯定感が、子どもの心に育たない
- 暴力・虐待・アルコール依存の家庭
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- 激しい怒り、乱暴・体罰・破壊、自暴自棄な行動、家族の大声や激しい物音、喧嘩がある
- 過剰な躾や暴力・虐待によって、子どもが常にびくびくと怯えている
- 頼りない家庭
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- 悲しげな表情、困った表情、苦しそうな表情など、家族が常に疲れている
- 子どもに愚痴を言って嘆いていたり、情緒不安定だったりと、子どもと大人の関係が逆転している
- 家族の不仲や不在、孤独
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- 夫婦喧嘩など両親の仲が冷え切っている、入院や仕事で家族が不在がちであるなど
- 大人の都合で、子どもが孤独を感じてしまいがちな家庭
- 拡大家族・大家族
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- 祖父や祖母が同居していて、両親が萎縮している、祖父や祖母が両親に干渉しすぎたり甘えすぎたりしている
- 他の家族のために子どもへの愛情が不足したり、子どもが困惑したりしてしまう
機能不全家族とは、前章でご紹介したようなアダルトチルドレンを生みやすい親のタイプに加え、世間体や同居祖父母などさまざまな理由で子どもへの関心が失われ、子どもが十分な愛情や安心感を感じられない家族も含まれます。
後編はこちら
おわりに:アダルトチルドレンかもと思ったら家族関係を振り返ろう
アダルトチルドレンは、不適切な養育方法や家族のコミュニケーションによって育てられた人を指す言葉です。大人になってから感情コントロールやコミュニケーションで問題が見られることがあります。日本では過干渉がアダルトチルドレンの大きな原因と考えられていますが、機能不全家族の原因はさまざまです。後編では、アダルトチルドレンの人たちが抱える仕事の悩みについて説明していきます。
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