見た目のコンプレックスの中でも、身長コンプレックスに悩む人は少なくありません。この記事では身長が低い人や子どもの身長を伸ばしたい親向けに、身長が伸びるメカニズムや成長を促すポイントを紹介します。
高い身長を目指す場合の食事・睡眠・運動で取り入れたい習慣や工夫を参考にしてくださいね。
- この記事でわかること
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- 身長が伸びる成長パターンと成長ホルモンとは
- 身長が低くなるにはどんな原因がある?
- 身長を伸ばす食習慣、睡眠、運動のポイント
- 筋トレは身長が伸びやすさに影響するかどうか
身長が伸びるメカニズムは?日本人の平均身長は何cm?
厚生労働省のデータによれば、日本の20歳男女の身長の平均は、平成29年で以下のようになっています。
- 男性:171.7cm
- 女性:154.9cm
人間の身長は、一定のスピードで伸び続けるわけではありません。成人として身体が完成するまでにはだいたい以下の3つの時期に分けられ、それぞれ成長のパターンが異なります。
- 乳幼児期
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- 生まれたばかりの新生児の身長は、約50cm
- 1歳までに1.5倍になって約87cm、2〜4歳までの2年間でさらに同じだけ伸びて生まれたときの2倍(約100cm)になる
- この時期の成長には、栄養の摂取が重要な働きをしている
- 小児期
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- 4歳児の平均身長は約100cmで、その後は年間約6cmずつ伸びていく
- この時期の成長には「成長ホルモン」が大きく関わってくる
- 思春期
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- 成長する速度が急速に速くなり、思春期の成長スパートと呼ばれる
- 速度がピークに達する年齢は、男子13歳、女子11歳
- ピークを過ぎると速度はゆるやかになり、やがて身長の伸びは止まる
- この時期の成長には「性ホルモン」が重要な働きをする
つまり、大まかにまとめると0〜4歳で2倍にと急激に成長し、4歳から11歳、または13歳ごろまでコンスタントに成長し、思春期で再び急激に成長を遂げるという変化を辿ります。このような成長のパターンに大きくしてくるのが「成長ホルモン」や「性ホルモン」など、体内で作られる「ホルモン」という分泌物質です。
ホルモンは血液の流れに乗って移動し、特定の臓器に働きかけ、身体の働きを一定に保つ役割を持っています。特に子どもの成長に関わるホルモンとしては、以下の3種類が挙げられます。
- 成長ホルモン
- 脳の下垂体から分泌され、肝臓や骨に働きかけてIGF-I(ソマトメジンC)という物質の分泌を促し、成長ホルモンとともに骨の成長を促す。筋肉を作り脂肪を燃やす役割もあり、身長の伸びだけではなく体格を形作る上でも大切な役割を果たす。大人になってからも分泌され、脂肪を分解したりタンパク質を合成したりする働きがある
- 甲状腺ホルモン
- 喉のあたりにある「甲状腺」から分泌されるホルモンで、成長ホルモンとともに骨の成長と成熟を促す。脳の発達や、内臓を動かすのに必要なエネルギーをつくるのにも大きく関わる。見た目の成長だけでなく、体内のさまざまな働きに関係する
- 性ホルモン
- 男性は精巣、女性は卵巣から分泌されるホルモンで、成長ホルモンの分泌を増やしたり、直接骨に働きかけたりして、骨の成長を促す。骨を成熟させ、硬く丈夫にする働きも持つ。性ホルモンをきっかけにして成長のスパートが起こり、骨が成熟することで子どもの成長が止まる
子どもの成長にはこれらホルモンのほか、両親の体格や子ども自身の体質、栄養や生活環境、運動習慣などさまざまな要因が関わってきます。思春期を迎える時期によっても、最終的な身長は異なります。
身長が低い原因には疾患や遺伝子の影響も
周囲の子どもと比べて身長が低い場合、その原因は特定の疾患によるものと、家系によるもの(家族性低身長症)、体質によるもの(体質性低身長症)の3種類が考えられます。低身長(成長障害)を引き起こす疾患には、例えば以下のようなものがあります。
- 成長ホルモン分泌不全性低身長症
- ターナー症候群
- SGA(small-for-gestational age)性低身長症
- 心臓・腎臓・肝臓・腸など主要臓器の異常
- 甲状腺ホルモンの不足
- プラダー・ウィリー症候群
- 軟骨無形成症
- 愛情遮断症候群
低身長を引き起こす疾患の中には治療可能なものもあります。治療の方法は原因となる疾患によって異なりますが、低身長児が一番多く受ける治療は「成長ホルモン治療」です。治療の効果が得られるのは骨が成熟するまでの期間なので、早く治療を開始すればそれだけ標準身長に近づける可能性が高くなります。
一方、出生時にNICUに入院していた、などの理由で定期的にフォローアップされている場合を除いて、保護者が同じ年頃の子どもに触れる機会がないと、入園・入学するまで同い年の子どもより低身長であることに気がつきにくかったり、気づいていても病院に行くまでには至らなかったりする場合も少なくありません。
しかし、前述のように子どもの成長は乳児期と思春期に急激な伸びが見られ、その背景として成長ホルモンが非常に重要な役割を果たしています。成長ホルモンの効果が得られる骨が成熟するまでの間とは男子で17歳くらい、女子で15歳くらいまでとされていますので、早期発見・早期治療開始が重要です。
【食事・睡眠・運動】身長を伸ばす基本的な食生活
成長期に十分身長を伸ばすための基本的な方法は、食事・睡眠・運動というベースの生活習慣をきちんと整えることです。まずは食事面のポイントを見ていきましょう。
身長を伸ばすために最も大切なことは、食生活です。1日3回の食事をしっかり摂取すること、栄養のバランスが良い食生活を心がけることの2つのポイントは身長を伸ばすのに欠かせません。特に、幼児期の子どもは発育のために多くの栄養が必要となりますが、1回に食べられる量が少ないため、3回の食事をしっかり摂取することが重要なのです。
ところが、現代における1〜3歳の子どもの朝食習慣について調べたデータを見ると、約1割の子どもは朝食を1週間のうち数日間しか食べない、あるいはほとんど食べないということがわかっています。これは母親の朝食習慣と相関性があることから、母親が朝食を食べないと子どもも食べない、というように母親の朝食習慣が子どもに影響を与えていると考えられます。
また、単に量を確保するだけでなく、栄養バランスの整った食事を摂取することも重要です。1歳以上(離乳食を終える頃)の子どもの食事の摂取状況を調べた結果によると、穀類や牛乳、乳製品については高い割合で摂取されているものの、毎日摂取することが望ましいとされる野菜・果物の摂取は野菜約6割、果物約4割と非常に少なくなってしまっています。
身長を伸ばしたいならカルシウムにあの栄養素をプラスしよう
幼児期は、食生活の基本的な習慣を身につける上で非常に大切な時期となります。食べ物に対する好き嫌いが出てくるのもこの頃です。ですから、食事の時間が子どもにとって楽しい時間となるよう、家族で一緒にテーブルを囲んだり、調理方法を工夫したりして、子どもがさまざまな食材を美味しく食べられるようにしてみましょう。
さらに、骨の成長に欠かせない「カルシウム」の摂取は重要ですが、実は牛乳だけを飲んでいても身長が伸びるわけではありません。カルシウムは骨の「密度」を上げる栄養素ですから、骨の成長を促して身長を伸ばす上では、タンパク質と一緒に摂取することが重要です。
また、これらの栄養素の吸収を良くするためには、ビタミンC・D・K・B群、マグネシウムなどのミネラルを一緒に摂取すると良いでしょう。おかずとして納豆や魚の缶詰を追加したり、キウイやみかんなどのフルーツを毎食のデザートに摂り入れたりするとさまざまな栄養素を効率的に摂取することができます。
すりごまやチーズをトッピングとして加えるのも良いでしょう。バナナ・ナッツ類・じゃがいもなどもビタミン群やマグネシウムなどを含んでいるため、身体の成長に効果的と言えます。ぜひ、日々の食事に少しずつ摂り入れてみてください。
【食事・睡眠・運動】身長を伸ばす基本的な睡眠のポイント
睡眠は身体を休めるだけでなく、子どもの成長において大きな役割を担っています。子どもの成長に大きく関わる「成長ホルモン」は睡眠中に最も多く分泌されますので、質の良い睡眠をとることが子どもの成長に不可欠なのです。質の良い睡眠を十分にとれるからこそ、乳児期や思春期に急激な成長が起こるというわけです。
しかし、子どもの生活時間は生活環境の変化とともに夜型化していて、近年の小・中・高校生の就寝時間は学年が進むに従って遅くなっていることがわかります。例えば、小学校低学年では21時30分頃、高学年になると22時頃、中学生では23時頃、高校生で午前0時頃とだんだん遅くなっていきます。
このように就寝時刻が遅くなると、睡眠時間が減少するだけでなく、起床時間が遅くなるため朝食を食べなくなるなど、生活習慣全体に影響が現れます。しかも、近年では10時以降に就寝する3歳児の割合は52%にものぼり、幼児の夜型化が大きな問題となっています。低年齢の子どもの夜型化は大人の生活習慣が影響しますので、大人の生活習慣を見直すことも重要です。
また、質の良い睡眠をとるためには、食事の時間にも注意しましょう。寝る直前に何かを食べてしまうと、エネルギーが消化に使われてしまうため、身体の成長が妨げられてしまいます。効率よく成長にエネルギーを使うためには、寝る3時間前までに食事を済ませておきましょう。
夕食が遅くなりがちな子どものための工夫
部活や塾などで夕食が遅くなりがちな子どもの場合は、「部活前に炭水化物を食べて、帰宅後には消化の良いサラダやスープを食べる」というように、夕食を2回に分けると消化しやすくなります。それでもお腹がすいてしまう場合は、寝る前に豆乳など消化の負担が少ない飲み物でお腹を満たして寝ると良いでしょう。
【食事・睡眠・運動】身長を伸ばす運動習慣
小学生から中学生にかけての成長期に適度な運動を行うことは、身体をつくるのに非常に大切なことです。近年、子どもの運動時間は減少傾向にあり、それに伴って小・中学生の運動能力も20年前と比べて低下しています。この背景には、就学前の遊びの経験が少ないことも原因の一つと考えられています。
幼児期の遊びを通して新しい動作を習得していないと、小学生の頃に手足や身体全体を動かすさまざまな遊びを行えません。すると、バランス能力などを始めとした身体をうまく動かす能力が育たず、体育などのスポーツや部活動で心肺機能や筋力を高めていくことができませんので、成長が不十分になる可能性があります。
遊びや運動でお腹がすけば食欲が高まり、食事をしっかり摂取できますし、適度に疲れて就寝時刻が早まれば、規則正しい生活習慣を身につける第一歩にもなります。ですから、テレビ・ゲーム・インターネットなどの室内遊びだけでなく、屋外での遊びや運動にもうまく誘導してあげることが大切です。
スポーツが苦手な子どもでもチャレンジしやすい運動
とはいえ、運動習慣がなかった子どもがいきなり長時間の運動をしようとしてもうまくいきません。そこで、まずは立っている時間を増やすことから始めてみましょう。骨は、縦方向の負荷を与えた後、しっかり睡眠をとって休ませることで成長すると言われています。「縦方向の負荷」とは、歩いたり走ったりすることでかかる自然な重力の負荷で構いません。
たとえば
- 電車の中では座らないようにする
- エスカレーターではなくできるだけ階段を使う
- 授業中は背筋を伸ばす
などのルールを決め、毎日の日課として摂り入れてみましょう。ただし、ストレッチやぶら下がるといった運動は筋肉が伸びるだけで、骨の成長とは関係ありませんので注意しましょう。
筋トレは身長が伸びるのを止めるってよく聞くけど?
身長を伸ばしたい場合は、骨の成長期間を考慮する必要があります。筋肉は大人になってからも鍛えられますが、骨は成長期の間しか成長できません。ですから、まだ身長が伸びているという人はハード過ぎる筋トレを避け、縦方向の負荷で身体を鍛えるよう意識しましょう。すると、筋肉の成長に使われてしまっていたエネルギーを骨の成長に効率的に使えます。
特に、バーベルなどの器具を使ったウエイトトレーニングは、成長期の関節には強すぎる負荷となってしまい、骨の成長を止めてしまう可能性があります。身長の成長が止まるまでは、バーベルなどを使うようなハードな筋トレは避けておいた方が良いでしょう。
後編はこちら
おわりに:子どもの身長を伸ばすなら食事・睡眠・運動の基礎をしっかりと
子どもの身長が高くなるかどうかは遺伝や疾患の影響のほか、食事・睡眠・運動といった生活習慣が大きく関わります。栄養バランスのよい食事、十分な睡眠時間の確保、適度な運動を意識して取り入れましょう。後編ではサプリや治療で身長を伸ばすことはできるか解説します。
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