老後を海外で過ごすべく、退職金等を元手に移住をめざすシニアは少なくありません。
そこで今回は、移住先の決定方法から必要な手続き、後悔しないために知っておきたい年金の知識まで、海外移住成功のためのポイントを紹介していきます。
- この記事でわかること
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- 移住先の治安や気候のチェックのポイント
- 免許やクレカ、ネットを準備するタイミング
- 障害基礎年金や遺族基礎年金の受取が可能か
- タイ、スペイン、メキシコのリタイアメントビザの取得条件
老後や早期退職後は海外へ!移住先を決めるポイントとは
まずは海外移住が具体的にどういう状態を指すのか、その定義を理解しましょう。
海外移住とは、日本国内の不動産住居を引き払い、生活の拠点を海外に移すことです。
短期的に滞在して海外の文化を体感するだけでなく、海外の特定の地域に住居を持ち、その土地に定着することを目的として、生活の拠点を海外に置いた状態を言います。
なお、国籍を移住先の海外のものにするかどうかは、移住の定義に含まれません。このため海外移住者の多くは、日本国籍を保有したまま生活や仕事の拠点を海外に移し、日本居住者ではなくなった状態となります。
単なる海外旅行とは異なり、海外移住は日本に戻らず数年、数十年その国や地域に暮らし続けることを前提としたもの。当然ながら、移住先選びは慎重に行う必要があります。しかし、複数の候補地すべてを実際に訪れるには、莫大な予算と時間がかかりますよね。
そこで推奨されるのが、いくつかの具体的な候補地を挙げたうえで、以下のポイントに注目して候補地の比較検討をすることです。
海外移住先を決める際に、注目すべきポイント
- 治安はどうか
- 外務省の「海外安全ホームページ」を参考にしながら、危険レベルの低い地域を選ぶべし。
- 気候はどうか
- 自身の体質を考慮し、過ごしやすいだろう気候の地域を選ぶべし。夏が苦手なら常夏の国、冬が苦手なら冬の寒さが厳しい国は避けた方が無難。また、自然災害のリスクが高い国も避けた方が良いだろう。
- 生活にかかる費用はどのくらいか
- 移住候補先の物価も、しっかりチェックすべし。現地へ渡った後は就業せず、退職金と年金だけで暮らしたいと思っているなら、物価や住居費の安い国を選ぼう。
- 暮らしやすさはどうか
- 住居の質や医療体制、交通の便など毎日生活をするうえで利用するサービスの質も要確認。自身の言語レベルも考慮し、毎日の買い物や移動、食事、健康管理をするうえでできるだけ支障のない地域を選ぶと良い。外務省提供の「世界の雨量事情」も参考になる。
自身が移住先に期待すること、体調、経済状況に合わせて、適切な移住先を選びましょう。
海外移住で必要な国内手続き
自分に合った海外移住先の目星がついてきたら、渡航に向けての準備を進めます。以下からは、海外移住する国や地域・時期が決定したら国内で行うべき各種手続きを紹介していきます。
まず、渡航予定の3か月前までに行っておくべきこととしては以下が挙げられるでしょう。
渡航の3か月前までに行うべきこと
- 身元や資産、収入の証明に必要な各種書類を、移住申請に使える翻訳した状態で用意する(※具体的には戸籍謄本、大学の卒業証明書、確定申告書の写し、口座残高がわかる書類など)
- 移住先の国や地域が指定する残存有効期間を満たす、パスポートの準備や更新の申請
- 海外移住の目的に合わせた、長期滞在ビザの発給条件の確認と申請手続き
- 移住先での買い物や現金引き出しに使えるクレジットカード、デビットカードの用意
- 現地の銀行へ送金する、日本円を両替するなどして、まとまった額の現地通貨を用意
- 移住してから自身で運転をして車移動をしたい場合は、国際運転免許証の申請と取得
- 移住先の国や地域が指定するワクチンの摂取と健康診断、歯科治療を少しずつ進める
- 渡航予定日の日付で、早めに航空券を購入すること
特にワクチンの摂取や歯科治療には数か月単位の時間がかかりますので、あらかじめ移住先の要件を確認のうえ、早めに手続きを始めてください。
次に、いよいよ渡航の日が近づいてきた3か月前から当日までの間には、スムーズに海外での生活を始められるよう以下の準備を進めます。
渡航の3か月前から、当日までに行うべきこと
- 日本の保険会社の海外保険、または移住先の国や地域が提供する公的医療保険へ加入する
- 不用品の処分と、移住先の物件への荷物の配送を国際宅配便や国際郵便で少しずつ進める
- 現在所有、使用している車があれば、早めに売却や譲渡、配車するための手続きをする
- 渡航の1か月前を目安に、国内キャリアやインターネットプロバイダに対し解約の申し入れをし、できれば渡航のギリギリまで使えるよう相談をする
- 渡航2週間前を目安に、お住まいの地域の役所で海外転出届を出し、住民票や戸籍謄本は多めに受け取っておく
移住前は何かとバタバタするものです。上記を参考に移住先が設定する受け入れ条件の確認、住居探し、国内での準備・手続きは早めに進めておきましょう。
国民年金の支払いと受給はどうなる?任意加入の手続きって?
老後に海外移住をする場合、これまでに収めてきた年金をきちんと受け取れるかどうかは、非常に気になる問題ですよね。結論から言うと2020年現在、然るべき手続きさえとっていれば海外へ移住する人も日本に暮らす人と同じように年金を受け取れます。
2021年現在、年金の支給開始年齢は65歳です。このため海外への移住を開始する時点で既に65歳以上の人、65歳になる人は、海外転出届さえ出していれば、海外にいても日本と変わらず年金の支給を受けられます。
ただし、この場合は日本の金融機関に年金が振り込まれることになりますので、海外銀行の口座へ現地通貨での振り込みを希望する場合は、別途手続きが必要です。
対して、海外移住をする時点で年金支給開始年齢の65歳に達していない場合は、海外居住中も国民年金の支払いを続けるかどうか決断しなければなりません。
以下に、海外居住中に国民年金を支払わないケース、支払うケースそれぞれに必要な手続きやメリット・デメリットをまとめていますので、確認してくださいね。
海外居住中、国民年金を支払わない場合
- 必要な手続き
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- 海外転出届を出した時点で自動的に国民年金からも脱退するため、特に必要なし
- メリット
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- 海外居住中、月々の国民年金保険料を支払う義務がなくなる
- デメリット
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- 老齢基礎年金だけでなく、障害基礎年金や遺族基礎年金も受け取れなくなる
- 障害基礎年金は病気やケガで働けなくなった人へ支給されるもの、遺族基礎年金は18歳未満の子どもを持つ人が死亡した場合に遺族へ支払われるもの
- 将来的に帰国して年金に再加入しても、海外居住中に保険料を納付していない分、将来的に受け取れる年金の額が少なくなる
- 注意点
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- 最低でも10年は国民年金保険料を納付していないと、受給資格を得られない
- ただし、海外居住を理由に国民年金に加入していなかった期間は「カラ期間」となり、日本で国民年金保険料を納付していた10年への月山対象となる
- 将来的に帰国、国民年金へ再加入して支給を受けたいと考えているなら、海外転出したから期間があったことを証明できる以下書類をのこしておこう
- 出入国の日付がわかるパスポートスタンプ、海外日本大使館発行の在留証明書、戸籍を置く市役所で5年間保存される戸籍の附票(ふひょう)
海外居住中も、継続して国民年金を支払う場合
- 必要な手続き
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- 海外転出届を出したうえで、年金の任意加入手続きをする
- 手続きは海外転出届を出した市役所の年金窓口、または年金事務所で行える
- 必要書類は、現在加入している健康保険の「脱退証明書」
- 渡航ギリギリまで会社等へ所属し、社会保険へ加入する場合は脱退証明の発行が渡航に間に合わない可能性が高いため、国内の協力者に代行してもらう必要が出てくる
- メリット
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- 老齢基礎年金は減額されることなく、障害基礎年金、遺族基礎年金もすべて受け取れる
- デメリット
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- 海外居住中も、日本にいたときと変わらず月々の国民年金保険料を納付する必要がある
- 注意点
- 保険料の支払いは、以下方法のいずれかで行わなければならない
- 保険料を支払う本人名義の日本国内の銀行口座からの引き落とし
- 役所で日本に居住する代理人へ納付書送付を依頼し、支払いを代行したもらう
生活のコストは上がるものの、任意加入制度を利用すれば何かあったときに受け取れる障害基礎年金や遺族基礎年金、将来的な老齢基礎年金の受給額が高くなります。
将来的に日本へ帰国する意思がある、また何かあったときのための備えをひとつでも多く持っておきたいなら、海外転出届と一緒に国民年金への任意加入手続きも行いましょう。
移住先でも就職するとき厚生年金はどうなる?
海外へ移住後、就職する場合は、短期間であれば外国の年金制度の適用は免除されます。
短期間とは、具体的にはおよそ5年以内を現します。我が国は日本と移住先の年金制度との二重加入を防ぐため、複数の国と5年以内の就業・居住なら現地の年金制度への加入義務が免除される「社会保障協定」を結んでいます。
このため、移住先が社会保障協定発行済みであれば、移住者は日本の年金制度に継続して加入することができ、現地の年金制度加入は免除されるのです。
なお、介護保険は原則として日本国内に住所がある人にのみ適用されるため、海外転出前に介護保険から外れる手続きをしなければなりません。これにより介護保険の対象から外れることができ、仮に将来的に帰国した場合には、手続きをすれば再び介護保険の適用を受けられます。
リタイアメントビザって?年金受給がビザ取得条件になることも
リタイアメントビザとは、年金受給者などシニア層をターゲットとした長期滞在ビザのことです。発給を受けるための条件は国によって異なりますが、いずれも他の長期滞在ビザに比べ手続きが簡単で、取得しやすいと言われています。
以下に具体例としてタイ、スペイン、メキシコのリタイアメントビザの概要を紹介しますので、参考にしてくださいね。
タイのリタイアメントビザ概要
- 名称
- ロングステイビザ
- 年齢制限
- 満50歳以上
- 有効期間
- 1年間
- 必要資産
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- タイ国内の銀行に80万バーツ、日本円でおよそ208万円以上の預金残高証明
- 年金により月収6.5万バーツ以上、つまり日本円でおよそ16.9万円、または年収80万バーツ以上になることの年金証明
- タイ国内銀行の預金残高、または年金による年収の合計が80万バーツ以上になることの証明
- 上記のうちひとつ以上、条件を満たしていること
- 1バーツ2.6円で計算、具体的な金額は為替相場により変動する可能性があります。
スペインのリタイアメントビザ概要
- 名称
- 非営利目的の居住詐称
- 年齢制限
- 年金受給者
- 有効期間
- 非営利目的のビザ発給を受けたうえで現地の居住許可と切り替えが必要、ビザの有効期間は現地警察の判断によって決まる
- 必要資産
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- 金額に具体的な定めはなし
- ただし、現地で労働することなく生活できると判断されるだけの資産が必要
- 預金や金利による収入の審査対象となるが、スペイン語訳された社会保険事務所や金融機関の証明書の提出が特に求められる
- 一定の年金額を受け取っている人であれば、ビザの発給を受けられることが多い
メキシコのリタイアメントビザ概要
- 名称
- 年金を含む一定所得受給者のためのビザ
- 年齢制限
- なし
- 有効期間
- 最長で1年間
- 必要資産
-
- 特に規定はなし
- ただし、発給のための手続きには金融機関発行の証明書、または年金受給証書が必要
おわりに:海外へ移住しても、年金の受給や支払いを続けることは可能
多くの国には定年退職者、年金受給者へ向けた長期滞在ビザが設定されています。ビザの発行を受けるための基準は各国により異なりますが、一定の資産や年金受給額さえあれば、他の長期滞在ビザよりも簡単に海外移住する権利を手にできるのが特徴です。なお国民年金保険料納付の義務は海外転出するとなくなりますが、任意で加入し保険料の納付を続けることも可能ですので、お住まいの地域の年金窓口、年金事務所で相談しましょう。
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