内部監査部の仕事は企業の業務や会計を監督し検査することです。企業の内部監査になるには、どんなスキルや資格が必要なのでしょう。内部監査の仕事内容や内部監査に向いている人の特徴、内部監査部に就職・転職するためのポイント、キャリアパスについて解説します。
- この記事でわかること
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- 内部監査の仕事の目的や必要性
- 内部監査、外部監査、内部統制の仕事の違い
- 内部監査実施日の業務や普段のルーティン
- 内部監査にベテラン社員が多い理由
- どんなスキルや資格がキャリアアップにおすすめ?
内部監査の仕事は企業のアドバイザー?
内部監査とは、業務効率化や不正・不祥事の防止、ガバナンス強化などさまざまな目的のため、企業の業務や会計を監査(監督し検査する)する仕事のことを指します。例えば、以下のようなことを調査・分析します。
- 会社のルールに基づき、経営が正しく行われているかどうか
- 組織内で、従業員による不正が行われていないかどうか
- 業務の進め方が非効率でないかどうか
よほど小さな企業であれば別ですが、たいていの企業では経営者がすべての従業員の行動や業務内容を把握することはほとんど不可能です。規模が大きな企業ではなおさらのことでしょう。経営者に代わって組織を専門的にモニタリングするのが「内部監査」というわけです。単純にリスクを排除し不正を未然に防ぐ、というだけでなく、業務の効率化も内部監査の役割です。
業界団体である「一般社団法人日本内部監査協会」によれば、内部監査の意義・目的は以下のように定められています。
- 組織体の経営目標の効果的な達成に役立つこと
- 合法性、合理性の観点から公正かつ独立の立場で実施すること
- 客観的意見や助言・勧告をする監査の品質保証(アシュアランス)に関する業務と経営所活動の支援をするアドバイザー業務であること
監査の結果、何らかの問題が見つかればその改善点を考えたり、経営者に対して提案を行ったりする、というのが「アドバイザー業務」です。つまり、内部監査は企業の発展にとって重要な役割を持つ部署だと言えるでしょう。2006年の会社法改正で内部統制整備の義務化が制定され、大企業ではこうした内部監査の設置が必須となりましたが、義務化の対象外であっても内部監査を実施する企業は増えています。
内部監査と外部監査の違い
内部監査に対し、顧客の要求が守られているかどうかを体外的に証明することを主な目的とした「外部監査」は、公認会計士など組織外の専門家が開示情報の有効性を確認するもので、調査結果は体外的に公開されます。内部監査と外部監査の違いは、以下のような点です。
- 内部監査
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- 財務や業務について、企業に属する他部門の担当同士で指摘をし合う
- 経営目標達成のためにリスクマネジメント・プロセスや内部統制プロセスが機能しているかなどを確認するのが監査の目的
- 企業内に、独立した管理体制として組織・部門が設置されることも
- 外部監査
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- 企業から完全に独立した外部の専門家によって行われる
- 法定監査の対象である、財務諸表など多岐に渡る項目を監査する
- 内部監査を実施した結果に、妥当性があるかどうかもチェックする
内部監査と内部統制の仕事の違いは?
内部監査と似たような「内部統制」という言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。そもそも、内部監査は内部統制の仕組みの一つであり、内部統制がしっかり機能しているかチェックするのが内部監査です。内部統制とは、会社が健全に事業活動を行うためのルールや仕組みのことで、意識せずとも基本的には全社員が関わっているものです。例えば、書類の不備がないようダブルチェックするといった仕組みも内部統制の一部と言えます。
この内部統制について正しく理解するには、金融庁が公表している「4つの目的と6つの要素」を把握することが必要です。まず、4つの目的は以下のようになっています。
- 業務の有効性、および効率性を高める
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- 事業活動の目的達成のため、業務の有効性および効率性を高める
- 財務報告の信頼性確保
- 財務諸表および、財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性がある情報について、その信頼性を確保する
- 事業活動に関わる法令などの遵守
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- 事業活動に関わる法令、その他の規範の遵守を促すこと
- 資産の保全
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- 資産の取得、使用、および処分が正当な手続きと承認のもとに行われるよう、資産の保全をはかる
上記の目的達成のため、内部統制には以下のような6つの要素が必要だと考えられています。
- 統制環境
- リスクの評価とその対応
- 統制活動
- 情報と伝達
- モニタリング
- IT(情報技術)への対応
このうち、内部監査は「モニタリング」の一つと捉えられています。内部統制の4つの目的のためには、内部監査を含めた6つの要素が有効に機能していなくてはなりません。また、金融商品取引法における「内部統制報告制度」というものもあります。内部統制報告制度とはJ-SOXのことで、アメリカにおける「SOX法」の日本版ということで名付けられました。
内部統制報告制度は、金融商品取引所に上場している会社が対象の制度であり、財務計算書を適正に作る体制が整っていることを証明する「内部統制報告書」を、事業年度ごとに「有価証券報告書」と合わせて内閣総理大臣に提出することと、それらが適正かどうか外部の公認会計士・監査法人による監査を行うことを義務付けるものです。
内部監査の流れ-予備調査から監査完了までのステップ-
内部監査を実際に行うにあたり、細かい部分は各企業の規定によって異なりますが、主に以下の6つのステップで実施されます。
- ①予備調査
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- 一般的に、本調査の1〜2ヶ月前に実施される
- 基本的に、監査の対象となる部門に対して通知を行い、過去と現在の比較を行う
- ただし、不正会計などが疑われる部門の場合、抜き打ちで実施することも
- ②監査計画
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- 予備調査後は、会社の規定に沿って監査計画を立てる
- 計画を立てる際はすべての業務活動を網羅し、リスクマネジメント・コントロール・ガバナンスプロセスの3点の監査業務または診断業務を包括する
- 会社の規模や対象範囲などを考慮した上で、中長期や年度の計画を策定する
- ③監査実施
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- 事前に計画した監査要点をもとに、本調査を行う
- 業務マニュアルを正しく文書化し、さまざまな点を調査・分析する
- 何か問題が発見された場合は、部門責任者との対話も行いながら問題解決を目指す
- ④評価
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- 監査が終了したら、調査・分析で得た情報や証拠書類をもとに評価を行う
- 評価内容や調査・分析結果は報告書にとりまとめ、次回以降の監査精度アップにつなげる
- ⑤報告
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- 報告書を作成したら、取締役や経営幹部、調査対象部門に報告と説明を行う
- 監査部門としての課題と、会社経営に関する問題の提示が求められる
- 問題の提示については、監査段階で発覚した事実を含める根拠の定時も行う
- ⑥改善アクションの提案
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- 改善すべき点が見つかったら、対象部門に対して提案や指示を行う
- 何が理由で改善すべきと判断されたか、今後どのように改善していくといいのか、いつまでに具体的な改善アクションを起こすのか、など
- 提案後は再度調査を実施し、正しく改善アクションが実施され、問題が改善されたかどうか確認する
このように、内部監査を実際に行うためには実施の当日だけでなく、その前からの綿密な準備、監査終了後の調査・検討と提案、さらにその提案が上手く機能しているかどうかの確認も必要です。
内部監査の一日の仕事の流れ
内部監査は監査を行う時期だけでなく、経営目標の達成や仕事の効率化のために日々業務に当たっています。たとえば、ある1日の業務内容は以下のようになります。
- 9:00[出社]各部署の担当者とメールや電話でやりとりする
- 10:00[予備調査]監査を予定している部署の過去の調査記録を参照したり、担当者と打ち合わせたりする
- 12:00[休憩]
- 13:00[監査計画立案]監査対象部門の担当者と協議し、監査計画を作成する
- 15:00[コンサルティング]以前、実施した監査結果に基づき、担当者に対して業務を効率化するためのアドバイスを行う
- 18:00[帰社]
業務内容のほとんどが協議や打ち合わせなど、各部署とのコミュニケーションに終始しているとわかります。これは、内部監査という業務の性質上、監査対象から敵対感情を抱かれやすいので、業務を円滑に進めるため、また、余計な軋轢を生まないため、日頃からさまざまな人と密なコミュニケーションが必要だからです。
内部監査に就職・転職するためのポイント
内部監査の職に就くためには、まず内部監査部門のある企業に勤めなくてはなりません。一般的には、上場企業などの大企業がこれに当たります。とはいえ、就職したての新卒でいきなり内部監査部門に配属されることはほとんどありません。ある程度長い勤続年数と、複数職の実務経験歴があり、会社組織に精通してからの配置となることが多いようです。
内部監査の仕事では、会社法・J-SOXなど金融商品取引法などの関連する法律はもちろん、経理・財務などの専門知識、会社全体を俯瞰的に見渡せる広い視野などが必要となります。
資格をとって内部監査の仕事に就く
内部監査への配属を希望し、ベテラン社員になるまで待ちきれないという人は、公認内部監査人などの資格を取ってアピールしたり、国家資格である公認会計士の資格を取得して外部から監査業務に携わったりすると良いでしょう。
異動や転職で内部監査の仕事に就く
異動や転職を機に内部監査の職務に就くケースもあります。前述のような知識を持ち、社内の業務を熟知していて、かつ、企業内における問題を適切に是正できる能力があるなら、QIA(内部監査士)やCIA(公認内部監査人)などの資格を取得するなどして内部監査の部署に異動するのがおすすめです。
一方、転職から内部監査の職務に就く場合、元の会社で高い実績を挙げてビジネスを把握している人や、企業の財務状況や問題点を把握できる人が向いています。これも公認会計士の資格や、J-SOXなどの知識があるとより有利です。IT、経理、労務に関する知識も武器になりますので、転職から内部監査の職に就きたい場合は書類や面接で伝えておきましょう。
内部監査に向いている人や必要なスキルとは?
内部監査に向いているのは、以下のような人です。
- 主観や先入観をできる限り排除し、広い視野を持って客観的に正しい判断を下せる
- 観察力や洞察力に優れ、高い情報収集能力・情報分析力を持っている
- コミュニケーションを得意とし、人の話を聞き出すことに長けている
内部監査を行うのに最も重要なことは、主観や先入観を持たないということです。社内の人間でありながら第三者の目線で業務を監督・調査するためには、意識の上で独立・中立の立場を保つとともに、広い視野を持たなくてはなりません。
前章でご紹介したように、コミュニケーション能力も重要です。業務を円滑に進め、かつ人間関係に軋轢を生まず、さらにさまざまな部署の人から忌憚のない本心からの意見を引き出す必要があります。その点で、プレゼンテーションなどで一方的に話すよりも人の話を聞く方が好き、という人は内部監査に向いていると言えるでしょう。
メンタルが弱いと内部監査に向いていない?
内部監査への就職や転職を目指す場合、メンタルを鍛えておくのがおすすめです。内部監査は他部署の仕事をチェックすることが仕事であるため、監査対象の社員は内部監査に対して緊張感を覚えることが少なくありません。「内部監査は嫌われ役」と言われることもあります。
そのため、内部監査に向いているのはメンタルが強い人ともいえます。メンタルが弱い自覚がある人は、メンタルトレーニングをしたり、安定したメンタルを維持するための工夫が必要でしょう。
内部監査がつらい・きついと言われがちなことについては、下記の記事も参考にしてくださいね。
内部監査の平均年収やキャリアアップの可能性って?
高い専門性が求められる内部監査の年収は、勤め先にもよりますが平均500〜600万円とされています。高度な専門スキルが必要で難易度が高いことに加え、営業職などと比べて従事する人の数が少ないことから、やや高めの収入が期待できるようです。
公認会計士や上記のような難関専門資格を取得し、経験を積んでスキルを磨けば、年収1,000万円以上を得ることも不可能ではありません。
内部監査への就職・転職、異動を目指すならば、資格取得にチャレンジするのがおすすめです。次章では内部監査の仕事に役立つ資格を紹介します。
内部監査のスキルアップ・キャリアアップにおすすめの資格
内部監査を行う上で、資格は必須ではありませんが、資格を取得しておけば専門的知識やスキルを所持していることが客観的に証明されます。内部監査の職でキャリアを積んでいくためには、以下のような資格を取得すると良いでしょう。
公認内部監査人(CIA)
公認内部監査人は、各科目の合格率が35〜40%、最終合格率は10〜15%程度と、やや難易度の高い資格です。
- 公認内部監査人(CIA)とは
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- 内部監査人協会(IIA)が認定するアメリカ発祥の資格で、能力や専門性を証明する世界水準の資格
- 世界約190カ国で試験が実施されていて、1999年からは日本語で受験できるようになった
- 一般社団法人日本内部監査人協会本部で登録をしてから、4年以内にすべての試験に合格しなくてはならない
- 内部監査に関する幅広い知識やビジネス知識を持っていることを証明できる
公認内部監査人になるには登録後4年以内にすべての試験に合格し、手続きを済ませておく必要があり、手続きまで済ませていないと合格してきた試験も無効になってしまいますので注意しましょう。
内部監査士(QIA)
内部監査士は比較的取得しやすい資格です。
- 内部監査士(QIA)とは
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- 日本の資格で、一般社団法人日本内部監査人協会(IIA-J)が主催している「内部監査士認定講習会」を修了した人が取得できる
- 「内部監査士認定講習会」では、内部監査に関する理論や実務の専門的な知識を学べる
- 合格率は公表されていないものの、講習への出席率や論文の審査などが合格基準なので、比較的取得しやすい
内部監査士の資格を取得すると内部監査の基本知識や監査技術、品質管理監査のポイント、経理業務監査のポイント、情報システム監査のポイント、内部監査報告書の作成と運用方法など、基本的な実務知識を備えた上で業務にあたることができます。
内部統制評価指導士(CCSA)
内部統制評価指導士は、名前の通り内部監査のみに限らず、内部統制の全貌を見渡すことができる資格と言えます。
- 内部統制評価指導士(CCSA)とは
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- アメリカの資格で、CSA(コントロールの自己評価)に関する知識とスキルの修得、能力があることを証明する
- 合格率は非公開だがやや難しい資格とされ、取得すると内部統制の構築や整備、業務プロセスの評価や分析などのコンサルティング業務を行える
内部統制評価指導士の試験範囲は、「CSAプロセス導入の費用対効果分析」「導入を成功させるプレゼンテーションテクニック」「戦略的CSAの方法論」などのほか、グループ力学やリスクに関する理論、コーポレートガバナンスなど広範囲にわたりますので、広い学習が必要です。
おわりに:内部監査のキャリアアップには、資格を取得すると有利
内部監査とは、企業の内部に所属していながら、不正が行われていないか、業務が非効率ではないかなどの企業運営について調査・分析する仕事のことです。一般的に新卒でいきなり就くことはなく、ある程度長い金属年数や実務経験歴が必要とされます。
さらに内部監査としてキャリアを積んでいくためには、公認内部監査人・内部監査士・内部統制評価指導士、公認会計士などの資格を取得したり、経験とスキルを磨いたりしましょう。
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