ストレスの多い現代社会で、眠れない・眠りが浅いという悩みを抱えることも。特に女性はホルモンバランスの変化が、心と体の変化が睡眠に影響を与えます。
この記事では女性に特有の睡眠の悩みについて、PMSや更年期障害を中心に改善方法を紹介します。ぐっすり眠りたい、すっきり目覚めたい人は参考にしてくださいね。
- この記事でわかること
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- 女性は男性より不眠傾向が?女性ホルモンの影響
- 生理で睡眠リズムが変わるときの対処法
- 仕事や勉強など日中眠くなったとき目を覚ます方法
- 放置はキケン?睡眠時無呼吸症候群とは
- 睡眠改善の人向け漢方薬の選び方
女性ホルモンと睡眠不足の関係とは?眠れない日本人女性が多いって本当?
睡眠は心と身体の健康を保つために欠かせない、休養の基本とも言える大切な習慣です。しかし、女性の7割以上は「よく眠れない」「寝つけない」といった悩みを抱えているとされています。例えば、2013年度健診で睡眠が不十分と感じている割合は、20〜70代の全ての年代で女性が男性を上回りました。
また、2006年に総務省が発表した「就労者の睡眠時間の国際比較」によれば、日本は男女ともに睡眠時間が短く、また女性の方が男性より睡眠時間が短いのも日本のみという結果になりました。家事・育児の負担が大きい日本人女性にとって、男性と同じ就労時間を過ごすとどうしても世界一眠れなくなってしまうと考えられます。
男性に比べて女性のうつ病が多いのも、こうした睡眠不足との関係性が指摘されています。しかも、2011年には日本人男女ともに就労者の平均睡眠時間がさらに短くなり、ますます日本人女性の睡眠不足傾向は悪化していると言わざるを得ません。
女性の身体は、月経・妊娠出産・閉経などのライフイベントを通じて、ホルモンバランスが大きく変化します。体調の悪化や精神的な不安定さの影に見落とされがちですが、ホルモンバランスの変化は睡眠にも変調をきたしやすいのです。例えば、月経前には日中の眠気、妊娠中には日中の眠気や不眠、出産後は育児を中心とした睡眠不足、更年期には不眠など、ライフステージによってさまざまな睡眠の変調が現れます。
生理中や前後に眠れなくなる!安眠のポイントとは?
生理前や生理中に眠くなってしまうのは、女性ホルモンの一種「プロゲステロン」の働きによるものです。女性ホルモンには「エストロゲン」と「プロゲステロン」の2種類があり、主にこの2つのホルモンの増減で生理周期をコントロールしています。そして、排卵が終わってから生理が始まるまでの2週間くらいは「プロゲステロン」が増えるのです。
- プロゲステロンと体温の変化
- プロゲステロンは排卵の後に増えるホルモンなので、女性の身体が妊娠しやすい状態になるようさまざまな影響をもたらします。その一つとして、基礎体温の上昇が挙げられます。排卵前は1日の中でも体温の変動があるのですが、プロゲステロンの分泌が盛んになる排卵から生理までの間(黄体期)には、基礎体温は上がるものの1日の中での変化はほとんどなくなります。
良質な睡眠のためには、寝つくときに体温を下げなくてはなりません。しかし、この黄体期には体温が変化しにくくなるため、眠りが浅くなったり寝つきが悪くなったりしやすいのです。すると、気づかないうちに身体が睡眠不足の状態になり、日中にも眠気が残ったり、1日中ぼーっとしたりしてしまいます。
生理が始まるとプロゲステロンの分泌量が一気に低下しますので、生理が終わるころには日中の眠気は解消されますが、生理中もしばらく眠気の強い状態が続くという人もいます。こうした生理前の眠気はPMS(月経前症候群)の症状の一つとして捉えられることもあります。
また、生理前後だけでなく妊娠の初期症状として眠気が起こることもあります。妊娠初期も生理前と同じように、妊娠を継続させようとプロゲステロンの分泌量が増えるため、同じ仕組みで眠気が残りやすいのです。このため妊娠中の眠気は初期が最も強く、妊娠の中期〜出産に到るまでは初期よりも弱まることが多いです。
また、生理が始まった後は痛みや吐き気などの体調不良や、生理の漏れが気になって眠れないという人も少なくありません。たとえば、生理では次のような状態を引き起こします。
- 体調不良
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- 腹痛、頭痛、消化不良、吐き気、下痢などが睡眠の妨げになることも
- 不眠の直接的な原因となる症状をはっきりさせ、できるだけ発症しないような工夫が必要
- 生理周期とともに体調や食事内容、ストレス度合いなどを記録し、不眠の発生にパターンがあるかどうかを探ることもおすすめ
- 月経の漏れが気になる
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- 無意識に何か気になっていることがあると、安眠できないこともある
- 経血量が少なくても、ナプキンが厚すぎてズレたり、寝相が悪かったりする場合も漏れやすい
- 経血も重力に従って流れていくため、ナプキンから漏れてしまうのはある程度仕方のないことでもある
- どうしても就寝時の漏れが気になって眠れない場合、使用時間を超えない範囲でタンポンを使うのもおすすめ
生理前後の眠気を予防することが夜の快眠につながる
生理前後の眠気は辛いものですから、なんとか軽減したいものです。特に、仕事や日常生活に支障が出てしまうほど眠気が強い場合は、すぐにも何らかの対策が必要でしょう。まず1つめの対策として、生理前の過ごし方を見直してみましょう。例えば、以下のような方法が挙げられます。
- 日中眠くなったときは気分転換して眠気を紛らわす
- 眠気覚ましにカフェインを摂らない(PMSを悪化させるため)
- 鉄分を意識的に多めに摂取する
- どうしても眠いときに仮眠をとる場合、午前中にとる
2つめとして、生理が終わってから排卵までの期間の過ごし方に注意しましょう。この時期に無理をしたり、不規則な生活を送ったりしていると、その不調を生理前まで引きずってしまい、結果としてPMSの症状が悪化したり睡眠の質が低下したりしてしまいます。そこで、以下のように質の良い睡眠をとるための工夫をするとよいでしょう。
- 朝はきちんと起きて日の光を浴び、体内時計をリセットする
- 日中はなるべく活動し、ストレッチなどの運動をする
- お風呂に入るときは寝る1〜2時間くらい前に、ぬるめのお湯につかる
- 体に合った寝具を使い、湿度や室温を快適にするなど寝室の環境を整える
- 寝る前には部屋を暗くし、パソコンやスマホなどの強い光を見ない
- 寝酒は不安定な睡眠を招くので、避ける
見落としがちなのがお風呂の時間で、前述のように人間は寝つくときに体温が下がる(身体の「深部体温」が下がると自然な眠気が訪れる)ようになっています。そのため、体温を上げるお風呂を眠りたい時間の1〜2時間前にすると、ちょうど眠りたい時間ごろに自然な眠気が生じます。このとき、熱いお風呂は交感神経を活性化させて目を覚ましてしまうので避け、ぬるめのお湯につかりましょう。
低用量ピル(OC)でPMSを改善できる?
どうしてもPMSの症状がひどく、上記のような手段を講じても眠気が強くてつらい、という場合は低用量ピル(OC)を服用する方法もあります。低用量ピルは生理周期をぴったり整えたり、生理痛を和らげたりと、眠気以外にも生理にまつわるさまざまな症状を楽にしてくれる効果が期待できます。
これは、低用量ピルを服用すると排卵が止まり、黄体ホルモン濃度が低下するので、基礎体温が高温相(黄体期の体温)よりも低い体温で一定になるためです。一時的に排卵がストップするので、妊娠を望まない女性にとっても大きなメリットがあります。ただし、低用量ピルには副作用も報告されていますから、産婦人科で処方を受けるとき、しっかり説明を聞いておきましょう。
閉経や更年期が睡眠不足の原因に?睡眠時無呼吸症候群にも要注意!
更年期や閉経は、女性にとってホルモンバランスが大きく変化する時期です。そのため、睡眠についても以下のような変化が現れやすくなります。
- 更年期の睡眠
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- 更年期(閉経の前後5年程度)は、女性ホルモンが徐々に減少してくる時期
- のぼせやほてりが原因で眠りが浅くなる
- 若い頃よりも眠りが浅くなり、眠っていても何度も目が覚めてしまう
- 閉経以降の睡眠
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- 若い頃に比べて女性ホルモンが少なくなり、眠りのタイプが変わってくる
- 寝つきが悪くなったり、夜中に何度も目が覚めたり、朝早くに目が覚めたりする
- 眠りが浅くなり、慢性的に睡眠不足が続いたりする
閉経以降は女性ホルモンの変化だけではなく、加齢に伴って疾患や症状が増え、そのために薬を服用したり、関節痛や筋肉痛などが現れたりと、複数の要因が重なり合って不眠の症状が生じることもあります。
更年期障がいの睡眠不足にはどんな治療法がある?
更年期障がいの要因は主に女性ホルモンの減少ですが、更年期障がいの程度には個人差があり、背景には身体的因子・心理的因子・社会的因子は複雑に絡み合っています。そのため、まずは十分な問診を行った上で生活習慣の改善や心理療法を試み、それでも改善しない症状に対しては薬物療法を行います。
更年期障がいの薬物療法には、「ホルモン補充療法(HRT)」または「漢方薬」、「向精神薬」が使われます。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
ホルモン補充療法(HRT)ってどんな治療法?
更年期障がいの主な原因は女性ホルモン(エストロゲン)のゆらぎや減少にありますので、少量のエストロゲンを補って女性ホルモンのゆらぎや減少を穏やかにする「ホルモン補充療法(HRT)」が薬物療法として最も多く使われます。HRTはほてり・のぼせ・ホットフラッシュ・発汗など、血管の拡張と放熱に関する症状に特に有効ですが、その他の症状にも効果が期待できます。
また、エストロゲンを単独で補充すると子宮内膜増殖症のリスクが上昇するため、手術などで子宮を摘出していない場合は黄体ホルモンも併用して治療を行います。エストロゲン・黄体ホルモンともに飲み薬・貼り薬・塗り薬などいくつかのタイプがあり、継続的に投与しつづける方法や間欠的に投与する方法、それを組み合わせた方法などさまざまな投与方法がありますので、その人に合った治療が必要です。
HRTは、一時期は乳がんなどのまれな副作用が強調されてしまう傾向があったこともありましたが、最近になって、更年期にHRTを開始した人はその後の閉経期に心臓・血管の病気や骨粗鬆症などの疾患リスクを軽減できるというメリットがあることが再び見直されてきています。
更年期障がいの治療に使われる漢方薬って?
漢方薬はさまざまな生薬の組み合わせで作られていて、全体的な心と身体のバランスの乱れを回復させる働きを持っています。更年期障がいはその症状にも個人差が大きく多岐にわたることから、「婦人科三大処方」とも呼ばれる「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」、「加味逍遥散(かみしょうようさん)」、「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」を中心に、例えば以下のように処方されます。
- 当帰芍薬散
- 比較的体力が低下していて、冷え症・貧血傾向がある
- 加味逍遥散
- 比較的体質が虚弱で疲れやすく、不安・不眠などの精神症状が強い
- 桂枝茯苓丸
- 体力は中等度以上でのぼせ傾向にあり、下腹部に抵抗や圧痛を感じる
向精神薬は更年期障がいの治療にも使われるの?
気分の落ち込みや意欲の低下、イライラ、情緒不安定、不眠など精神的な症状が最も強いという場合には、抗うつ薬や抗不安薬、催眠鎮静薬などの向精神薬が処方されることもあります。特に、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などの新規抗うつ薬は副作用も少なく、ほてり・発汗など血管の拡張と放熱に関する症状にも有効であることから、精神症状が強い場合によく用いられます。
閉経後の女性は睡眠時無呼吸症候群に要注意!
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、一般的に男性より女性の方が発症しにくいとされているのですが、それは女性ホルモンの一種「プロゲステロン」が呼吸中枢を刺激するためです。しかし、閉経後の女性ではプロゲステロンの分泌が少なくなるため、無呼吸症候群が起きやすくなり注意が必要です。
しかも、睡眠時無呼吸症候群の症状としてよく見られる「倦怠感・頭痛・不眠・寝汗」などは更年期障がいで現れる症状にもよく似ていることから、更年期障がいだと思い込んで睡眠時無呼吸症候群を見逃してしまい、症状が重篤化してしまうこともあります。このような症状があれば、自己判断せずまずは一度医師に相談してみましょう。
睡眠不足の悩みは病院を受診してOK!何科に相談する?
生活習慣や適度な運動習慣、入浴や寝る前のデジタルデトックスなど、できる範囲のセルフケアを行っても不眠が治らないときには、精神科や心療内科などの専門医に相談しましょう。症状が不眠だけであり、精神科や心療内科は敷居が高いと感じられる場合、まずはかかりつけ医に相談しましょう。病院を受診し、不眠について相談するだけでも安心感が得られるからです。
眠れないことを一人で悩んでいると、考え過ぎたり心配し過ぎたりして余計に不眠が悪化してしまいますし、抑うつ症状などの精神症状や、ストレス性疾患などの身体症状など、心身に悪影響を及ぼしてしまう可能性もあります。つらい時は一人で我慢せず、専門家に相談してみましょう。
不眠の治療方法
基本的に不眠のタイプに応じた睡眠薬を使うことになります。不安や抑うつ傾向がある場合には、抗不安薬や抗うつ薬を併用することもあります。家事や育児、その他社会的な役割が重くてなかなか睡眠時間がとれないという場合は、周囲に事情を話して協力してもらい、適度な休息を取りましょう。趣味やスポーツを楽しみ、リラックスする時間も重要です。
睡眠薬というと、「一度使い始めると手放せなくなる」「次第に量が増えていくので副作用が怖い」などネガティブなイメージを持っている人もいるのですが、他の多くの薬と同じように睡眠薬も徐々に改良されており、最近の睡眠薬に上記のような心配はまずありません。現在広く使われている睡眠薬は不安や緊張・興奮を和らげて自然に近い眠りを導くもので、副作用も少なく安心して使うことができます。ただし、長期にわたって漫然と使い続けるのは良くありませんので、医師の指導や指示に従い、用法・用量を守って適切に使いましょう。
また、近年ではドラッグストアでも購入できる市販の睡眠薬が売られていますが、これはアレルギー薬に副作用として眠気が生じることを利用したもので、あくまでも短期間の使用に限られています。これらの薬剤は慢性的な不眠症に対する治療効果が確認されているものではありませんので、不眠症の場合は市販の睡眠薬を長期間利用しないよう気をつけてください。
後編はこちら
おわりに:女性はホルモンバランスの変化で睡眠の変化が起こりやすい
女性は男性と異なり、月経や妊娠・出産、閉経など、常に大きなホルモンバランスの変化が起こっていますので、それに伴って睡眠にも変調をきたしやすいという特徴があります。生活習慣を改善しても良くならないときは、睡眠薬などの利用も含めて医師に相談してみましょう。後編では妊娠・出産・産後に起こる不眠への対処法を紹介します。
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