病気や不調には男女共通のものもあれば、女性特有・男性特有のものもあります。今回は、性ホルモンの働きなどを紹介しながら、男性特有の疾患についてご紹介します。前立腺の異変や男性不妊など、病気や不調は日常生活やライフイベントに関わるものですので、早期発見・早期治療が重要です。既に心当たりがある方はもちろん、心配な方もぜひ目を通してみてください。
- この記事でわかること
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- 前立腺肥大症や前立腺がんなどの症状・検査・治療法
- 長時間のデスクワークや運転が引き起こす男性の疾患
- 精索静脈瘤、無精子症、乏精子症・精子無力症の特徴と治療法
- EDの心因性、器質性、混合性、薬剤性とは
- 男性の更年期障害(LOH症候群)の症状と健康への影響
男性特有の疾患にはどんな種類がある?
男性の身体を成熟させるためには、男性ホルモンである「テストステロン」が大きく関係します。テストステロンは単に男性らしい身体を作るという働き以外にも、狭心症・動脈硬化・肥満・メタボリックシンドローム・アルツハイマー病など、さまざまな疾患の原因や予防に関わっていることがわかってきました。
わかっているだけでも、テストステロンは以下のような疾患に関わりがあります。
- 頭部
- 男性型脱毛症(AGA)
- 体部
- 冠動脈疾患、痛風、2型糖尿病、メタボリックシンドローム、慢性腎臓病、腎臓がん、尿路結石症
- 性機能
- 前立腺肥大症、前立腺がん、膀胱がん、勃起不全(ED)、男性不妊、精巣腫瘍、男性更年期障害、性腺機能低下症
- 全身
- 骨粗鬆症、睡眠時無呼吸症候群
つまり、テストステロンは男性の健康長寿を考える上で欠かせないホルモンだと言えるでしょう。次章からは、特に男性特有の疾患について詳しく説明します。
前立腺の病気って?中高年・シニアは特に発症リスクが上がる?
前立腺とは、膀胱のすぐ下にある胡桃くらいの大きさの臓器で、精嚢(せいのう)とともに精液を作る役割を持っています。成人で20g程度の重さを持ち、真ん中に尿道が通っています。さらに膀胱の出口の開け閉めにも関わっているため、排尿をコントロールする上で欠かせない臓器の一つです。
前立腺に関する疾患には主に以下の4つがありますが、中でも前立腺肥大症や前立腺がんは加齢によって罹患率が高くなることが知られています。それぞれの疾患について、詳しく見ていきましょう。
前立腺の病気①「前立腺肥大症」
前立腺は加齢とともに肥大しやすくなる傾向があり、60歳以上の男性の3人に1人は前立腺肥大症だとされています。以下のような症状があれば、前立腺肥大症または膀胱疾患の可能性が高いでしょう。加齢のせいだと放置せず、日常生活に支障をきたす前に早めの検査・治療を行いましょう。
- 尿の勢いが弱くなった
- 尿意はあるのに、排尿しにくい
- 排尿中、尿が途切れてしまうことがある
- 力を入れないと、排尿できない
- 尿のキレが悪い、残尿感がある
- 排尿の間隔が近くなった
- 夜中、排尿のために起きてしまう
- 突然、強い尿意に襲われることがある
- 尿漏れすることがある
病院では問診で症状の内容や始まった時期、困りごと、既往歴のほか、服用中の薬についても確認します。前立腺肥大症の疑いが強いと判断された場合、尿検査のほか以下のような検査で前立腺肥大症や前立腺がんの可能性を調べます。
- 超音波検査
- エコー検査とも呼ばれ、前立腺の大きさを目視で確認する
- 尿流量(ウロフロメトリー)検査
- 検査機器が内蔵された専用のトイレに排尿し、尿の勢いや量、時間などを自動で測定する
- 血液検査
- 血清PSA(前立腺特異抗原)を測定し、前立腺がんをスクリーニングする
検査によって前立腺肥大症だと確定診断されたら、薬物療法や手術で治療を行います。ほとんどのケースでは薬物療法のみで治療可能であり、前立腺肥大症で排尿障害が起こるメカニズムによって使う薬剤が異なります。
- 前立腺の平滑筋収縮が尿道を圧迫している場合:平滑筋の収縮を緩める薬剤
- 肥大した前立腺そのものが尿道を圧迫している場合:男性ホルモンの作用を抑え、前立腺を小さくする薬剤
薬物療法で十分な改善効果が見られない場合のみ、手術を行います。手術の方法は2種類で、いずれも尿道から細い「内視鏡スコープ」を挿入しますが、内視鏡から電気メスを使って前立腺を切除するか、レーザーを使って切除するかが異なります。一般的にはレーザーを使った切除の方が、出血が少ない傾向にあるようです。
前立腺の病気②「前立腺がん」
前立腺がんも男性特有の疾患の中ではよく知られたもので、アメリカでは男性の前立腺がんは全てのがんの中で発症数が1位となっています。とはいえ、前立腺がんは進行が比較的遅いので、前立腺がんがあっても寿命には影響しないこともあります。日本でもやはり増加傾向にはありますが、採血だけでも発見できるようになり、早期治療できるケースも同時に増えています。
前立腺がんは早期にはほとんど症状が現れませんが、まれに前立腺肥大症と同様、尿が出にくい、頻尿などの症状が出ることもあります。ある程度進行すると血尿を引き起こすことがあり、さらに、周辺のリンパ節や骨に転移を起こすと痛みが生じることもあります。罹患率が高くなるのは60歳以降ですが、50歳以上になったら定期的に検査を受けておきましょう。
前立腺肥大症の項目でもご紹介したように、基本的には採血と血液検査で「血清PSA(前立腺特異抗原)」を調べることで早期発見できます。簡易なことから最近では健康診断や人間ドックで血清PSAを同時に調べることも増え、これらのスクリーニング検査で異常を指摘されて早期発見・治療につながるケースが増えています。
採血で前立腺がんの疑いがあるとわかったら、直腸検診・腹部超音波検査を行いますが、必要に応じてMRI検査やCT検査を行うこともあります。血清PSAの値が高い場合は、組織を採取してがん細胞の有無を直接調べる「前立腺生検」を行う場合もあります。
前立腺がんに罹患していることがわかったら、その程度(PSA値、悪性度、リスク分類、年齢、期待余命など)と本人の希望を考慮し、主治医とよく相談した上で治療法を決定します。ごく初期であり、すぐに治療を開始しなくても寿命やQOLに大きく影響しないと考えられる場合は監視療法が検討されます。
前立腺内に留まっているがんや、被膜を超えて広がった(浸潤)程度のがんであれば、前立腺を全摘出する手術療法(外科的療法)を行えます。場合によっては、精嚢くらいまでの浸潤の場合は前立腺と精嚢を全て摘出することで治療可能なこともあります。
手術には開腹手術・腹腔鏡手術・ロボット手術があり、開腹手術は制がん効果(がん細胞の増殖抑制効果)が高く、腹腔鏡手術は身体への負担が低く合併症からの回復が早いとされています。ロボット手術は、これらのメリット(制がん効果が高く、身体への負担が低い)を併せ持つ新しい手法です。
術後の合併症として尿失禁や性機能障害(勃起障害、ED)を生じることがありますが、後述する放射線療法や化学療法でも合併症や副作用の危険はありますので、いずれの場合もよく主治医と相談の上で方針を決定しましょう。
何らかの理由で手術ができない場合や浸潤、転移が広範囲にわたる場合は放射線治療や内分泌療法(ホルモン療法)が行われます。放射線療法とは高エネルギーのX線や電子線を照射してがん細胞を傷害し、がんを小さくするものです。身体の外から照射する「外照射療法」と、前立腺内から照射する「組織内照射療法」の2種類があります。
内分泌療法では、男性ホルモンの分泌や働きを妨げることで前立腺がんの勢いを抑えます。手術や放射線療法が難しい場合、放射線治療の前後などに行われることが多いです。転移があるがんで、内分泌療法でも効果がなくなった場合には、化学療法(薬剤の注射・点滴・内服)でがん細胞の消滅や縮小を目指します。
前立腺の病気③「急性前立腺炎」
急性前立腺炎とは、前立腺が細菌に感染して炎症を起こす疾患です。尿に細菌が含まれることで起こるため、疲労や睡眠不足で免疫力が低下して感染するケースが多いとされています。症状は38℃を超える発熱・排尿時痛・排尿困難・頻尿などですが、特に強い症状が急激に起こることが多く、悪化すると悪寒・筋肉痛・関節痛・尿閉(排尿できない)などに至ることもあります。
急性前立腺炎が疑われる場合、まず尿検査で細菌の有無を調べ、感染が確認できたら抗生物質による内服・点滴などの治療を行います。尿閉や高熱などの強い症状が続いている場合や、前立腺内に腫瘍ができて手術が必要な場合は、入院治療が必要になることもあります。急性前立腺炎では前立腺肥大症を併発していることも多く、その場合は同時に前立腺肥大症の治療も行います。
前立腺の病気④「慢性前立腺炎」
前立腺の炎症が慢性的に続くと「慢性前立腺炎」となります。急性前立腺炎と同じ細菌によるものは「細菌性慢性前立腺炎」、それ以外の原因によるものは「非細菌性慢性前立腺炎」と呼ばれ、非細菌性前立腺炎の方が多いことがわかっています。慢性前立腺炎では下半身に下記のようなさまざまな症状が現れますが、急性前立腺炎のような発熱はありません。
- 排尿関連
- 血尿、頻尿、残尿感、尿道の違和感、尿のキレや勢いが悪い、尿漏れ
- 下腹部周辺
- 下腹部痛、鼠蹊部(足の付け根)や会陰部(肛門周辺)・陰嚢の鈍痛・違和感・不快感
- 射精関連
- 射精時の頭痛、精液に血液が混じる
- その他
- 睾丸の鈍痛や不快感、陰嚢のかゆみ、太ももなど下肢の違和感・しびれ
非細菌性慢性前立腺炎の場合、主に静脈がうっ血する血流障害や骨盤底筋の緊張などが原因と考えられ、「骨盤内うっ血症候群」「慢性骨盤疼痛症候群」などの疑いもあります。そもそも前立腺は体部の臓器の中で最も下に位置しますので、静脈血を心臓に戻しにくいのです。さらに上から他の臓器の重みがかかって圧迫されると、静脈の血流が簡単に阻害されてしまいます。
近年では、長時間のデスクワークや運転などで座ったままの姿勢が負荷をかけ、血流を遮断してうっ血を引き起こし、前立腺の周囲に血液が溜まって慢性前立腺炎を引き起こすケースがよく見られます。飲酒・運動不足・ストレスなども同様に慢性前立腺炎のリスク因子になりえますので、心当たりがあればぜひ改善していきましょう。
慢性前立腺炎が疑われる場合は、超音波検査や尿流量検査を行います。
- 超音波検査
- エコー検査とも呼ばれ、超音波で前立腺の状態を確認する
- むくみ、内部の石灰化、周囲の静脈の拡張などを確認する
- 尿流量(ウロフロメトリー)検査
- 検査機器が内蔵された専用のトイレで排尿し、尿の勢い・量・時間などを自動敵に測定する
- 尿流量の低下や残尿の増加があれば、前立腺炎の可能性がある
慢性前立腺炎だとわかったら、薬物療法と生活指導によって改善を目指します。薬物療法では抗菌剤や抗炎症作用のある薬剤を使い、2〜4週間程度で症状がおさまった後も半年程度は服用を続けます。途中で服用をやめてしまうと再燃・再発しやすいので、症状がおさまったからと勝手に服薬を中止しないよう気をつけましょう。
日常生活では、以下のようなポイントに注意が必要です。
- 定期的に立ち上がる
- デスクワークや運転など座り仕事では、1〜2時間に1回立ち上がって歩く
- 椅子にクッションを置き、圧迫を緩和するのも効果的
- 入浴
- できるだけ毎日バスタブにつかり、身体の芯まで温まるようにする
- 入浴時以外でも、下半身が冷えないよう気をつける
- 運動
- 適度な運動を習慣にし、血流を改善する
- 飲酒
- アルコール摂取で前立腺がむくみやすくなるので、注意する
男性の不妊・EDの治療法と予防法
男性の生殖機能に関する問題(不妊)には、さまざまな原因によって精子が少なくなってしまうことのほか、勃起障害(ED)が挙げられます。EDについては後ほど詳しく説明しますので、まず精子が少なくなってしまう原因から見ていきましょう。初めに考えられるのは「造精機能障害(精子を作る機能に何らかの問題が生じる)」です。
- 精索静脈瘤
- 精巣やその上の精索部に静脈瘤(静脈の拡張)が見られる症状のこと
- 男性不妊症患者の約40%に見られる(※一般男性では約15%、後天性男性不妊症では約78%)
- 精索静脈瘤がある場合、手術で精液所見が顕著に改善されると期待できる
- 無精子症
- 閉塞性:精子は作られているが詰まって出てこられない
- 非閉塞性:精子がそもそも作られていない
- 閉塞性の場合、両側精巣上体炎、両側鼠径ヘルニア手術後の合併症、射精管閉塞、パイプカットなどが原因となる。精路再建術が行えるなら手術を、行えないなら顕微鏡下精巣内精子採取術(TESE)を
- 非閉塞性の場合、まず血液検査でホルモン値を測定し、必要があれば染色体検査(Gバンド法)やY染色体微小欠失(AZF)検査を行う
- 染色体の異常であれば治療不可能だが、ホルモン値に異常がなければ顕微鏡下精巣内精子採取術を行い、精子が見つかれば顕微受精が行えることもある
- 乏精子症・精子無力症
- 乏精子症とは精液中の精子が少ない状態、精子無力症とは精子の運動性が悪い状態
- 両方を併発する場合もあり、いずれも精索静脈瘤が原因であることが多い
- 精索静脈瘤がない場合は、薬物療法で改善を試みることも
その他、生活習慣(ストレス、喫煙、栄養バランスなど)・服用薬などによって精子が少なくなってしまうこともあります。特に、精巣は体温より2〜3度低い状態で機能するので、精巣を温めすぎると精子が作られにくくなってしまうのです。長風呂やサウナ、ピッタリしたジーンズなどの服や下着にも気をつけましょう。AGA治療薬のフィナステリド(製品名:プロペシア)も副作用として精液所見の低下が報告されていますので、注意が必要です。
男性不妊を治療するには、そもそもの原因から改善する「根本的治療」のほか、原因を治療せず妊娠だけを目指す「対処療法」、他の治療に併用する「補助的療法」の3種類があります。根本的治療では、精索静脈瘤の手術、閉塞性無精子症の精路再建術、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症治療の3つが主です。
- 精索静脈瘤の手術
- 精索静脈瘤高位結紮術のほか、顕微鏡下、腹腔鏡下、日帰り顕微鏡下など。基本の結紮術と日帰り顕微鏡下が一般的に多い
- 精路再建術
- 精子は正常に作られているが、通り道が詰まっている場合のみ可能。有病率は2%程度
- 低ゴナドトロピン性性腺機能低下症治療
- 有病率が0.0001%と極めて稀な疾患で、精巣を刺激する下垂体ホルモン(性腺刺激ホルモン)が低下し、男性ホルモン値が低下したり精子形成不全になったりするもの
- 下垂体ホルモンを自己注射することで、精子所見の改善が見込まれる
精子を何らかの方法で採取できるなら、原因を治療せず、妊娠だけを目指す「対処療法」もあります。具体的には人工受精や体外受精のほか、顕微受精(ICSI)や精巣内精子採取術(TESE)などを用いる方法です。どの治療方法が可能かは精液所見によって決まりますので、まずは精索静脈瘤など、比較的簡単に解決可能な原因がないかを確認してから行いましょう。
精索静脈瘤があると、精子に含まれる染色体やDNA(遺伝子)もダメージを受けますし、精液所見も悪くなります。精索静脈瘤の治療を済ませておけば、妊娠率や出産率がアップするだけでなく、流産などのリスクも下げることができます。また、TESEは手術操作によって生殖機能を低下させてしまいますので、その点についてもよく考慮して治療方法を選択しましょう。
根本治療においても対処療法においても、薬や漢方、サプリメント、ホルモン薬などを使った「補助的療法」を併用することもできます。ただし、補助的療法は他の治療法と比べると医学的な根拠が低いので、あくまでも補助であることを念頭に置いて行いましょう。こうした男性不妊治療を行うなら、不妊を専門としている泌尿器科の受診がおすすめです。
また、日頃から以下のような生活習慣を心がけることで、男性不妊の予防につながります。
男性不妊の予防におすすめの運動や食事など生活習慣
- ウォーキングなど、軽めの運動を習慣にする
- 1日3食、栄養バランスのとれた食事習慣を身につける
- 亜鉛が含まれる牡蠣やピーナッツ、ビタミンC・Eなどの抗酸化物質を積極的に摂取する
- 1日7時間くらいの長さで、決まった時間に就寝・起床する規則正しい睡眠リズムを作る
- 長風呂や長時間のサウナ利用をしない
- 自転車やバイクに長時間乗らない
- 過剰な飲酒を避ける
- 禁煙する
生活習慣病や喫煙習慣、過剰な飲酒は精巣の働きを悪化させます。逆に、栄養バランスのとれた食生活や十分な睡眠はホルモンバランスや体調を整え、精液所見の改善に役立ちます。これらのことを念頭に置き、ぜひ日頃から精巣に良い生活習慣を心がけましょう。
勃起障害・勃起不全(ED)ってどんな病気?
造精機能には何の問題もなくても、勃起障害や勃起不全(ED)によって男性不妊となるケースもあります。勃起のメカニズムは「性的な刺激や興奮を受ける→脳から神経を通じ、指令・信号が送られる→陰茎の海綿体に血液が流れ込む」という流れであり、このどこか一つ、または複数が正常に機能しないとEDになってしまいます。
また、セルフプレジャーなら射精できるけれど膣内射精ができないという「膣内射精障害」で不妊となる人も少なくありません。この場合は、性交時に一度陰茎を抜いてカップなどに射精し、その後、針のない注射器で精液を膣に注入するといった方法で不妊を解決できる場合もあります。
EDは、原因によって以下の4つに分類されています。
- 心因性ED
- 精神的・心理的な要因で勃起不全や障害が起きるもので、比較的若い世代に多い
- 器質性ED
- 身体的な要因で血流や神経に何かしらの異常や障害が起こり、上手く勃起できない
- 混合性ED
- 心因性と器質性の要因が両方合わさったもので、比較的高齢の世代に多い
- 薬剤性ED
- 服用している薬剤の副作用でEDが起こるもの
EDを診断し、その原因をつきとめるためには問診が最も重要ですが、その他にも身体所見やホルモン検査も合わせて行います。心因性(機能性)EDが疑われる場合は、精神科や心療内科の受診を促すこともあります。問診では一般的に「国際勃起能スコアIIEF5」が用いられ、1点〜30点で勃起能を評価し、21点以下の場合にEDを疑います。
ED治療で使用される主な薬の種類
EDの治療には、まず「PDE5阻害剤」と呼ばれる内服薬が用いられ、日本ではバイアグラ・レビトラ・シアリスの3種類が販売されています。心因性(機能性)・器質性など原因を問わず、70〜80%の方に有効とされる非常に効果の高い薬剤ですが、基礎疾患の重症度によって有効率が異なる場合があります。それぞれ内服の仕方や効果の発現時間に違いがありますので、よく相談してから処方してもらいましょう。
- バイアグラ
- 日本では50mgまでの内服しか認められておらず、満腹時は吸収が悪くなるため空腹時の内服が必要
- アルコールはそれ自体が勃起障害の要因となるため、過度の飲酒はバイアグラの効果も下げてしまう
- レビトラ
- 空腹でなくても使用でき、性行為の30分〜1時間前に服用する
- シアリス
- 10mgで20〜24時間、20mgで30〜36時間の持続時間がある
いずれの薬も保険適応外なので実費負担となりますが、インターネットなどでは安全性に問題がある偽造品なども出回っているため、最初は病院やクリニックなどできちんと処方してもらうのが安全です。また、性的刺激や興奮がなければ効果が現れませんので、ずっと効果が現れっぱなしになるわけではありません。
PDE5阻害剤はほとんどの患者さんに副作用が見られず、基本的に安心して内服できる薬剤です。しかし、狭心症の方など硝酸剤と併用すると、最大50mmHgもの血圧低下が起こるとされていますので、硝酸剤を内服している方は絶対に服用できません。また、PDE5阻害剤の服用で効果が見られない場合は、さらに詳しい検査をして治療法を決定します。
また、前立腺肥大症や前立腺がんなどによって前立腺を全摘出する手術を行った場合、術後の後遺症として高い確率でEDを発症します。しかし、陰茎海綿体神経を温存するタイプの手術であれば、術後にEDを発症したとしてもPDE5阻害剤によって効果が得られやすいこともわかっています。
精巣・陰嚢に腫れや違和感があったら疑いたい病気
精巣には精子を作るだけでなく、男性ホルモン(テストステロン)を分泌するという役割もあります。精巣は非常に血行が良い臓器で、温度の変化・圧迫・外傷などには敏感です。体温より少し低い温度で最もよく働くため通常は陰嚢に包まれた状態で体外に出されていますが、陰嚢の温度が下がりすぎると筋肉が収縮し、精巣を体内に引き上げて温度が下がりすぎないよう、自動的に調節がなされます。
精巣や陰嚢が腫れている、違和感があるという場合、以下のような腫瘍や炎症が生じているかもしれません。
- 精巣腫瘍
- 精巣は精子を作る胚細胞から成り立つので、悪性でも医学的には精巣がんでなく精巣腫瘍と呼ぶ
- 胚細胞自体に発生する胚細胞腫瘍、血液疾患である悪性リンパ腫、特殊な悪性腫瘍である肉腫など
- 通常は痛みを伴わないため、精巣が腫れてくることで発見される
- 年齢的に働き盛りの人が発症しやすい、羞恥心から病院に行きづらいなどの理由で、進行した状態で来院する人も多い
- 早期発見・早期治療すれば予後の良い腫瘍なので、早めに受診するのが肝心
- 陰嚢水腫
- 精巣を包む膜に水が溜まる疾患で、針で水を抜く処置をすればスッキリ治る
- 繰り返す場合は手術が必要になることもあるが、小児の場合は自然に治癒することも
- 精巣上体炎
- 尿道から細菌が入り、精管を上行して精巣の脇にある精巣上体(副睾丸)に感染するもの
- 熱や痛みが出ることが多いが、症状が少ないこともあるので、精巣腫瘍と鑑別が必要
- 精巣炎
- おたふく風邪のウイルスなどが精巣に移行し、精巣が腫れる疾患。熱が出ることが多い
- 成人になってからおたふく風邪に感染すると発症することがあり、男性不妊の原因にも
- 精巣捻転
- 体格や精巣が急に成長する思春期に多い疾患で、精巣自体が陰嚢内部で回転してしまうもの
- 血管が捻れて血液が精巣に行かなくなるため、痛みを生じる
- 発見が遅れると精巣を摘出せざるを得なくなることもあるため、発症から数時間以内にねじれを解除しなくてはならず、緊急手術になることが多い
- 鼠径ヘルニア
- いわゆる「脱腸」で、精巣の血管と精管が通る「鼠径管」という筋肉の膜でできた管から腸の一部が突出する
- 陰嚢が腫れるまで腸が下に下がることがあり、痛みが強い場合は緊急手術となることも
この他、精索静脈瘤も精巣の疾患として起こりやすいです。一般成人男性の8〜23%に見られ、4人に3人は正常な造精機能を保つとされますが、男性不妊症患者では2〜3倍多く見られます。詳しくは前章をご参照ください。
いずれの疾患でも早期発見・早期治療が重要です。腫瘍はもちろん、炎症では高熱や痛みなどの辛い症状や治療が遅れたことによる重症化のリスクが伴いますし、精巣捻転の場合はより緊急を要します。心当たりがあれば、すぐに泌尿器科の専門医を受診しましょう。
男性の更年期障害(LOH症候群)って?
初めにご紹介したように、テストステロンは男性の健康長寿やQOLを考える上で非常に重要なホルモンです。母親の体内で起こる一次性徴では外性器を形成し、思春期の第二次性徴では性衝動を発現し精子を形成する役割をします。他にも、テストステロンは成人男性の体内で以下のような働きをするとされています。
- 筋肉の量と強度を保つ
- 内臓脂肪を減らす
- 造血作用
- 性欲を引き起こす
- 集中力やリスクをとる判断をするなど、高次精神機能に関わる
また、テストステロン値が低いとインスリンに対する感受性が悪くなり、メタボリックシンドロームになりやすいとされています。他にも性機能や認知機能の悪化、気分障害の発症を引き起こすとされ、上記とは逆に筋肉量が減ったり、内臓脂肪が増えたり、貧血や骨密度の減少を招いたりするとされています。テストステロン値が低くなると、男性のQOLは著しく低下すると言えるでしょう。
加齢に伴うテストステロンの低下が引き起こすさまざまな症状のことを「男性更年期障害(LOH症候群)」と言います。日本語で正式には「加齢男性性腺機能低下症候群」と言い、近年ではテレビや雑誌などでも取り上げられるようになったことから徐々に認知が広まってきています。40代後半ごろから見られ、患者数が最も多いのは50〜60代ですが、中には70〜80代で症状を訴える人もいます。
テストステロンの量は思春期(10代前半)から急激に増え始めて第二次性徴を引き起こしますが、20歳ごろをピークに加齢とともに徐々に減少していきます。このとき、何らかの原因でテストステロンが急激に減少すると身体はバランスを崩し、さまざまな不調を引き起こしてしまいます。
テストステロンを急激に減少させる要因はいくつかありますが、代表的なものはストレスとされています。テストステロンは大脳の視床下部からの指令を受け、主に精巣で作られますが、ストレスによって交感神経優位の状態が長く続くと、大脳からテストステロンを作らないよう指令が出されてしまうのです。LOH症候群を発症しやすい年代は、家庭でも仕事でもストレスの多い時期だからとも考えられます。
LOH症候群の症状には、以下のような身体症状と精神症状があります。
- 身体症状
- 朝勃ちの消失、勃起不全、のぼせ・多汗、全身の倦怠感、筋肉や関節の痛み、筋力・骨密度の低下、頭痛・めまい・耳鳴り、頻尿など
- 精神症状
- 不眠、無気力、イライラ、性欲の減退、集中力・記憶力の低下、抑うつ症状など
また、LOH症候群を発症するとメタボリックシンドロームをはじめ、心筋梗塞や脳梗塞など生活習慣病のリスクも高まることがわかってきています。いずれも加齢のせいだと思い込んで放置してしまいやすい症状ですが、おかしいなと感じたらぜひ早めに医療機関を受診しましょう。
LOH症候群の治療法
LOH症候群の治療は、漢方薬やテストステロン補充療法(TRT)による治療と生活習慣の改善を並行して行います。TRTには経口剤・注射剤・皮膚吸収剤がありますが、日本では注射剤である「エナント酸テストステロン」のみが保険適応となっていますので、注意しましょう。
TRTを行うことで、筋肉量や筋力・骨密度・インスリン感受性・気分・性欲・健康感の改善が見られます。さらに、勃起不全の方に対する治療でTRTを併用すると、PDE5阻害薬の効果を増強することもわかっています。一方でTRTによる前立腺がんの発症は、ほぼ完全に否定されています。
とはいえ、もちろん治療前には前立腺がんがないことをしっかりスクリーニングした上で、定期的に血清PSAを測定し、前立腺がんを見逃さないチェックが必要です。これらのチェックを怠らなければ、テストステロン補充療法は安全で効果の高い治療法だと言えるでしょう。
おわりに:男性特有の疾患は泌尿器科で。異常を感じたら男性更年期障害の検査も
男性特有の疾患には、前立腺や精巣・陰嚢などに生じるものがあり、精索静脈瘤など男性不妊の原因となる疾患も少なくありません。男性特有の疾患に心当たりがあれば、ぜひ泌尿器科の専門医を受診しましょう。
また、中高年から高齢者の心身の不調は、近年ようやく認知が進んできた「男性更年期障害(LOH症候群)」の可能性もあります。テストステロン補充療法などで十分治療できますので、異常を感じたら専門医に相談してください。
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