離婚や交通事故、相続で法律のトラブルに見舞われることもありますよね。しかし裁判は時間も費用も大きくかかってしまいます。そんなとき、法廷で法的な是非を争う「訴訟」の他にも、当事者同士の合意に基づく解決を目指す「調停」という手段もとれるのを知っていましたか?
一般的に調停は訴訟よりも手続きが簡単で、費用も安く済みます。そこで、今回は調停で扱えるトラブルや、メリット・デメリットを見ていきましょう。
- この記事でわかること
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- 調停のメリットと扱うトラブルの種類
- 家族関係のこじれに調停がおすすめされる理由
- 調停の合意は裁判の判決と同じ効力を持つのか
- 調停でもトラブル解決まで時間がかかるケース
- 調停で弁護士を依頼するのがおすすめな人
金銭や交通事故のトラブル解決手段「民事調停」とは?
民事調停とは、法廷で争い最終的に裁判官が判決を下す「裁判(訴訟)」とは異なり、話し合いで問題の解決を図る裁判所の手続きのことを指します。お互いが納得するまで話し合い、当事者同士が合意できるポイントを探るための手続きなので、訴訟よりも手続きが簡単で解決までの時間も比較的短く、当事者同士の合意を基本とするため円満な解決が期待できます。
民事調停では、以下のようなトラブルを取り扱います。
- 貸したお金、立て替えたお金などの問題
- 給料、報酬などの問題
- 家賃や地代の不払い、改定などの問題
- 敷金・保証金の返還などの問題
- 土地・建物の登記などの問題
- クレジット・ローン問題
- 売買代金などの問題
- 請負代金、修理代金などの問題
- 建物・部屋の明け渡しなどの問題
- 交通事故などの損害賠償の問題
- 近隣関係の問題
民事調停は「調停」という話し合いで合意をはかる手続きの一つで、調停には他にも「特定調停」「家事調停」の2つがあります。それぞれ、大まかに扱う事件は以下のように異なります。
- 特定調停
- サラ金やクレジットの返済が苦しい、訪問販売や通信販売の支払いが困難、事業主の立ち直りなど
- 家事調停
- 夫婦関係、親権や面会交流、財産分与や年金分割、養育費・生活費、相続など親族間の争い、認知など親子関係、慰謝料、男女間の問題など
つまり、特定調停は主に債務に関するトラブルを、家事調停は主に家庭内のトラブルを取扱います。それぞれの調停について、さらに詳しく見ていきましょう。
家庭内トラブルや離婚などは「家事調停」へ
前述のように、家事調停では離婚や相続を巡る争いといったような、夫婦・親子・親族など家庭に関する紛争を取り扱います。親しい関係の紛争というその特殊性から、非公開で形式にとらわれず、当時者間の合意に基づいて解決する方が良いと考えられていることもあり、訴訟よりも調停という手段が取られることが多いです。
家事調停ではこのように感情的な問題が大きいことや、今後も親族・家族としての関係が続くことなどから、裁判所の調停委員会では主に人間関係を調整したり後見的な配慮をしたりしながら、解決を目指していきます。当事者だけでは解決しにくかった問題も、公正・中立な第三者の関与によって徐々に解決に向かうこともあるでしょう。
家事調停も民事調停と同様、基本的には当事者同士の非公開の話し合いで問題解決をはかります。手数料や手続きの安さも同じで、調停1件につき収入印紙1,200円分と、関係者に書類を送付するための郵便切手代で行えます。
調停で合意に至った内容は「調停調書」に記載され、確定判決と同じ効力を持ちます。もし、調停調書に記された金銭や養育費の支払いなどが後日履行されなかった場合、記載事項に基づいて強制執行の手続きをとることもできます。
多重債務に苦しむ人に!「特定調停」って?
特定調停は、サラ金やクレジットなどの借金(多重債務)の返済に悩む人や、事業主などの「特定債務者」が負っている金銭債務に係る利害関係の調整をはかるために、民事調停の特例として定められました。以下のような人は、特定調停の対象となります。
- サラ金やカード会社の借金(多重債務)がかさんで苦しい
- 訪問販売、通信販売などの借金の返済が大変
- 事業の立て直しをしたい
- なんとかして債務の整理をし、返済したい
特定調停では、調停委員が相談者の生活や事業の実情、借金の状況などを詳しく聴き、利息制限法に基づいて計算しなおした後、返済義務のある債務額を確定します。それをもとに相談者が可能な範囲で行える毎月の返済額について、債権者(お金を貸した側、立て替えた側)と調整・交渉し、経済的かつ合理的な解決をはかります。
手続きが楽で手数料も安い?調停のメリットとデメリット
民事調停には、以下のようなメリットがあります。
- 手続きが簡単
- 裁判所のウェブサイトや簡易裁判所の窓口にある申立書に必要事項を記入し、提出する
- 終了までの手続きも簡易なので、特別な法的知識がいらず、弁護士などに頼る必要がない
- 円満な解決が望める
- 訴訟ではどちらの言い分が法的に正しいとされるか「判決」が出るが、調停は当事者の合意が基本
- 話し合ってお互いに納得できるポイントを見つけるため、円満な解決が望める
- 費用が安い
- 裁判所に納める手数料はトラブルの対象額に応じて決まるが、訴訟と比べて少ない
- 例えば、10万円の貸金の返済を求めるための手数料は、訴訟だと1,000円、調停だと500円
- プライバシーが守られる
- 民事調停は非公開なので、他人に知られたくないことも安心して話せる
- 調停委員にも守秘義務があり、その場にいなかった第三者に対して秘密が守られる
- 訴訟は手続きが公開されていて、原則として誰でも法廷を傍聴できるためプライバシーが守られない可能性も
- 早く解決できる
- ポイントを絞って話し合いができるため、解決までの時間が訴訟に比べて比較的短い
- 通常、申し立てから2〜3回の「調停期日」が開かれ、概ね3ヶ月以内に解決・終了する
- 判決と同じ効力を持つ
- 民事調停で両当事者が合意した内容は「調停調書」にまとめられる
- 「調停調書」は判決と同じ効力を持つので、内容が実行されなければ強制執行も申し立てできる
調停を申し立てるときには費用がかかりますが、その内訳は「申立手数料」と「郵便切手代」です。申立手数料は収入印紙で納め、トラブルの対象となっている金額によって100万円までは10万円につき500円、100万円を超えて200万円までの金額については20万円につき500円の手数料がかかります。例えば、140万円の場合は以下のように手数料を計算できます。
(100÷10)×500+(140-100)÷20×500=6,000円
200万円を超える申立手数料や、切手代の詳細については裁判所に問い合わせましょう。非財産権上の請求や、金額の算定が困難なものの調停申立の場合、金額は一律で160万円とみなされ、手数料が決定します。
民事調停のデメリットとは?
民事調停のデメリットには、以下の4つが挙げられます。
- 相手方に欠席されてしまった場合、手立てがない
- 裁判所からの呼び出しに応じないと過料という罰則もあるが、実行されず欠席が許されてしまうことも多く、強制的に出席させられない
- 調停期日通知書が旧住所に配達された、長期出張で相手が見ていないなど、知らずに欠席してしまうケースも
- 通知書が配達できない、という場合は申立人の不備となり、裁判所から確認の連絡がある
- 連絡があっても相手の住所がわからないと調停できないので、申し立てを取り下げざるを得なくなる
- 調停が開かれるのは平日
- 裁判所で行われるので平日の昼間しかできず、仕事があれば休まなくてはならない
- 1回の調停に2時間程度かかるので午前中は1回、午後は2回程度
- 裁判所への往復時間を含め、かなり時間をとられることになる
- 時間がかかることもある
- 調停は1ヶ月に1回程度しか開かれないので、話がスムーズにまとまらなければ数ヶ月〜半年、1年以上かかることも
- 複雑になりやすい家庭問題を取り扱う「家事調停」では長くなりがち
- 調停の初回から相手が欠席しても、すぐに調停は終わらず、相手に話し合いの意思がないと確認できるまでは何回か開いて終わらせる、または取り下げることになる
- 必ずしも結果につながるとは限らない
- 訴訟では判決が出れば何らかの結果を得られるが、合意に至らなければ何度もスタートに戻ることも
- ただし、調停で成果が得られなければ訴訟を提起する理由になるので、全くの無駄というわけではない
- 調停ではすべて合意とせず、一部だけ合意して成立させるということもできる
調停では、欠席されてしまうとどうしようもないという最大のデメリットがあります。特に、相手が見ていない、新住所がわからず通知書を送れないといった場合には調停を行えません。たいていの場合は当事者同士の話し合いが決裂してから申し立てに至るわけですから、相手が話し合いに応じないことも想定し、次の段階として訴訟や審判を見据えた上で調停を申し立てるようにしましょう。
また、調停が行われるのは裁判所が開いている平日の昼間のみなので、仕事を休んで向かわなくてはなりません。たとえ相手が欠席しそうだと思っても申立人が欠席するわけにはいきませんし、職場によっては休む理由を聞かれて「調停のため」とは話せない人も多いでしょう。
お互いと調停委員の都合が合わなければ延期もありえるため、話がまとまらずこじれてしまうとどうしても長期化しやすいです。家事調停の中でも複数の事案を包括的に扱う必要がある「離婚調停」はさらに長引く傾向があります。さらに相手に話し合いの意思がない場合、例えば調停期日が3回の場合は3ヶ月以上を無駄にすることになるでしょう。
申立人は調停が進んでいく上で、自分にとって不利な状況になりそうなら強引に取り下げて調停を終わらせることもできますので、長い時間をかけても成果に結びつかないこともあります。とはいえ、請求のすべてに合意が得られなくても、一部だけの合意で成立させることもでき、その場合は調停調書にまとめられた合意部分はやはり確定判決と同じ効力を持ちます。
調停のために必要な家庭裁判所の手続きとは?
では、調停を行うために必要な家庭裁判所の手続きを実際に見ていきましょう。まずは、簡易裁判所の受付窓口にある申立書に必要事項を記入し、押印のうえ提出します。申立書はトラブルごとに何種類かの定形書式が用意されていて、「貸金調停」「売買代金調停」「交通調停」「給料支払調停」「賃料等調停」「建物明渡調停」については裁判所のウェブサイトからもダウンロードできます。
申立書の書き方や手続きがわからないときは、簡易裁判所の窓口で説明を受けることもできます。申立手数料と関係者に書類を送るための郵便料金を納めれば、申立完了です。申立をすれば必ず調停が開かれるとは限らず、結果的に不成立になる場合もあることに注意しましょう。
調停に参加する人の決め方と調停を行う場所
申立が行われたら、次は裁判所が調停委員を指定し、裁判官1人と調停委員2人(場合によっては3人以上になることも)からなる調停委員会を構成します。調停委員は地域の一般市民から最高裁判所の任命によって、豊富な社会経験や人生経験を持つ良識豊かな人、専門的な知識・経験を備えた人が選ばれます。
つまり、法律の専門家である裁判官と、一般市民としての幅広い知識経験・良識を持つ調停委員が協力して、法律的な評価をベースとしながらも一般市民の目線、社会の良識に叶うような解決をはかることができます。調停委員会が構成されたら、調停期日が決められ、申立人と相手方が裁判所に呼び出されます。
調停は訴訟とは異なり、法廷ではなく裁判所内の「調停室」で行われます。そのため、傍聴人などに公開されることはありません。調停委員会が当事者双方の言い分を十分に聴き、双方に歩み寄りを促したり、妥当と考える解決策を提示したりして、合意に至るよう調整を試みます。
当事者同士が顔を合わせることに問題がある場合は、別々の部屋で待機してもらい、交互に調停室に入ってもらって話し合いを進めるケースもあります。通常は1件の調停につき、2〜3回の調停期日が行われます。
調停の結果、双方が合意に至れれば「調停成立」となり、合意内容が調停調書に記載されます。一方、合意に至らず、それ以上話し合っても解決の見込みがないと判断された場合には「調停不成立」として手続きを打ち切ります。このとき、すべてが不成立になるとは限らず、それまでの経過に照らして相当と認められる事案については裁判所の判断を「決定」という形で示すこともあります。
この「決定」にも双方が納得すれば、調停が成立したのと同じ効果が得られますが、どちらかが2週間以内に異議申し立てを行った場合は効果がなくなります。調停不成立、または決定に対する異議申し立てがあった場合、改めて「訴訟」を起こすこともできます。
「調停委員」とは?どんな人がなるの?
調停委員とは、裁判所から選任された一般の有識者のことを指します。調停をスムーズに進めるため、中立な立場から夫婦間の調整をはかったり、問題解決に向けたアドバイスをしたりしてくれます。調停委員も調停の内容によって「民事調停委員」と「家事調停委員」に分かれ、事案の内容に応じて最も適任と思われる調停委員が指定されます。
当事者だけでなく、裁判官も調停委員の意見に耳を傾けることが多いので、調停の進行にも深く関わるのが調停委員です。自分が直接担当していない事件についても、他の調停委員会の求めに応じて専門的な知識・経験に基づく意見を述べることもあります。
調停委員を務めるのは原則として40歳以上70歳未満の人で、下記のような専門家が選ばれます。
- 弁護士
- 医師
- 大学教授
- 公認会計士
- 不動産鑑定士
- 建築士 など
- 上記のほか地域社会に密着して幅広く活動してきた人
地域社会に密着して幅広く活動してきた人は、社会における各分野から選ばれます。例えば、建築関係の民事調停には一級建築士などの資格を持つ人が、医療関係の民事調停には医師の資格を持つ人が指定されるなどの配慮がなされます。
家事調停では、夫婦・親族間の問題であることから、基本的に男女1人ずつの調停委員が指定されます。調停委員は非常勤の裁判所職員という扱いになり、実際に担当した調停の処理状況を考慮して手当が支給されるとともに、必要な交通費や日当が支給されます。
調停では弁護士は必要?弁護士がいると心強い理由とは
調停委員にたまたま弁護士がいることはありますが、必ずしも弁護士に依頼しないと調停の申し立てができないわけではありません。そもそも調停という制度ができたのは、一般の人でも面倒かつ負担の大きい訴訟をすることなく、裁判所を活用できるようにするため、という経緯があります。実際、調停を始めるためには申立書と費用を揃えれば良く、その費用も非常に安価です。
申立書の作成や書類を揃えるのが面倒だから弁護士に依頼したい、と思う人もいるかもしれませんが、役所や会社に書類を提出するくらいの難易度なので、わからなければ裁判所の窓口で聞きながら記入することもできます。
また、調停は裁判所で行う手続きとはいえ当事者主体の制度なので、裁判所から何かを強制されるわけではなく、当事者がイヤだということを無理に合意させることはありません。つまり、弁護士に依頼したとしても、相手がイヤだと言えば調停は成立しないのです。調停委員として選ばれるのも、基本的には法律の専門家ではありません。
さらに、調停での話し合いは「法的にどちらが悪いので、その責任を取らせる」というものではなく、当事者や関係者にとってより良い結果になるか妥協点を探りつつ、本質的な解決を目指します。法的な知識をもとにした決着を求める「訴訟」とは根本的に性質が異なります。これらの理由から、調停に弁護士を依頼する意味はそれほどないと言えるでしょう。
とはいえ、調停を初めて行う人や、緊張や怒りなどの感情で当日言いたいことが言えなくなりそうな人、相手が口のうまい人で、調停委員を共感させられて自分に不利な状況になりそうなことがあらかじめわかっている、といった場合には弁護士に依頼するのも良いでしょう。経験豊富な弁護士に依頼すると、具体的に以下のようなメリットがあります。
- 期日に同席し、言いたいことをわかりやすく整理し、調停委員の共感が得られやすいよう伝えてもらえる
- 必要なことに重点を置いて伝えられ、不利な発言はしなくても済む
- 本人の説明ではわかりにくい場合でも、現場でフォローしてもらえる
- 相手の主張をふまえ、説得的に反論をしてもらえる
このように、調停は必ずしも弁護士に依頼しなくてはならないわけではありませんが、上記のようなメリットが必要、自分で言うには自信がない、という場合は弁護士に依頼するのも一つの手です。必要なら、弁護士への依頼も検討してみましょう。
おわりに:調停は当事者同士の話し合いで、より実情に合わせた解決が望める
調停は訴訟と異なり、法的な是非ではなく当事者同士が納得できる解決を目指します。調停委員会には法的な是非を見極めるために裁判官も選ばれますが、当事者の意思に反して何かを強制することはありません。
費用も申立ての手間もかからない調停は、非公開でプライバシーが守られますが、欠席されると手立てがありません。また、基本的に弁護士を頼む必要はありませんが、説明や説得などで必要があれば依頼するのも一つの方法です。
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