近年は年代を問わず男女で筋トレに励む人が増加中。しかし同じトレーニング内容でも、筋肉のつく量には個人差があります。他の人に比べて筋肉がつきにくく、なかなかトレーニングの成果を実感できないと悩む人も多いでしょう。
そこで今回は、効果的に筋肉をつける方法を筋肉がつく仕組みや骨格・遺伝的要素の影響、疾患の可能性にも触れながら解説します。
- この記事でわかること
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- 筋肉量を増やすための負荷のかけ方
- 筋トレで体や心の悩みの軽減が期待できる人
- 内胚葉・中胚葉・外胚葉と筋肉の付き方のタイプ
- テストステロン、エストロゲン、成長ホルモンなどが筋肉に与える影響
- 筋肉量を増やすための食品や睡眠時間の目安
筋肉がつくメカニズムって?成長期の骨格も関連しているの?
筋肉がつくということは、筋肉を構成する繊維状の細胞である「筋繊維」が太くなることを指します。そしてトレーニングは、この筋繊維に負荷をかけて傷つけ、回復・成長させる行為です。
筋肉がつくメカニズム
- まずはトレーニングで筋肉に負荷をかけて、筋繊維の細胞を傷つける
- 傷ついた筋繊維は2~3日かけて修復され、負荷に耐えられるよう以前よりも太く、大きくなるよう回復していく
- 1~2の周期を繰り返すことで少しずつ筋肉が増え、ボディラインが変化したりトレーニングの負荷を大きくできたりする
トレーニングや運動をした後に起こる筋肉痛は、筋繊維が傷つき、修復させるために起きた炎症によるものとされます。筋繊維が傷つき、筋肉を付けられる丁度良い負荷は本人が感じる運動限界の1.5~2倍とされます。
腕立て伏せや腹筋に例えると、本人が10回までを限界と感じているなら15~20回続けて行い、その後2~3日のインターバルをはさめば適度な筋肉の成長を促せるでしょう。
なお近年では、骨密度の高い人ほど筋肉がつきやすいとの研究結果も出ています。また、運動時間の長い子どもが短い子どもに比べ骨密度が高い、という報告もあります。幼少期の運動刺激で骨密度が高くなった人の方が、幼少期にあまり運動しなかった人に比べ筋肉がつきやすいという可能性は、十分考えられるでしょう。
基礎代謝アップやダイエット効果など筋肉量を増やすメリット
トレーニングにより筋繊維を太くし、筋肉量を増やすことのメリットとしては以下が挙げられるでしょう。
- 筋肉量と一緒に基礎代謝も上がり、エネルギー消費量が増えて痩せやすい体になる
- 血液循環を助ける筋肉が増えたことで全身の血流が促進され、冷え性が改善する
- 末端から体の中心部へ体液を流す力も増すため、むくみが改善する
- 加齢や脂肪によるたるみが解消されて、引き締まった美しいボディラインになる
- 適度な運動が習慣化し、ストレス発散に役立ち心身の健康状態が良くなる
太りやすいことに悩んでいる人や冷え性の人、むくみやたるみによる体のラインの崩れが気になる人、ストレスを抱えている人は、筋トレを取り入れることで症状の軽減が期待できるでしょう。
筋肉がつきにくい人は筋繊維や遺伝的要素に違いがある
トレーニングによって筋肉がつくメカニズムはわかりましたが、なぜ筋肉のつき方・増加量に個人差が生じるのでしょうか。まず考えられる理由としては「筋繊維の数の個人差」、そして「遅筋繊維の割合の違い」の2つが考えられます。以下に、それぞれ詳しく見ていきましょう。
もともと持っている筋繊維の数の違い
人が持つ筋繊維の数は、生まれたときには大体決まっているとされます。このため同じ内容でトレーニングをした場合、もともとの筋繊維数が多い人ほど効果を実感しやすく、筋繊維数が少ない人ほど筋肉がつきにくくなるのです。
筋繊維のうち、遅筋繊維の割合の違い
筋繊維は、大きく「速筋繊維」と「遅筋繊維」の2種類から構成されています。
- 速筋繊維
- 肥大化しやすい筋繊維で、一般的には全体の55%を占める
- 遅筋繊維
- 肥大化しにくく、持久力強化に効く筋肉で、一般的には全体の45%を占める
このため、生まれつき遅筋繊維の割合が速筋繊維よりも高い人は、目に見えるかたちでは筋肉がつきにくくなります。つまり筋肉のつきやすさは、その人が生まれ持った体質=遺伝によって決まる部分が大きいと言えるでしょう。
そして体質は妊娠のごく初期、体の基本的な構造を形成する内胚葉・中胚葉・外胚葉のどれが優位になるかにより、左右されることがわかっています。
以下に内胚葉・中胚葉・外胚葉それぞれが優位になった場合の体質的特徴を、それぞれ紹介していきます。
胚の優位性による、体質の違いまとめ
- 内胚葉が優位になった場合
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- 特に消化器官が発達し、栄養を吸収しやすく代謝が低い体質となる
- このためどちらかと言うと太りやすく、筋肉がつきにくくなる
- 栄養はしっかり吸収できるので、トレーニング面でのメリットもある
- 中胚葉が優位になった場合
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- 骨、筋肉、心臓、血管が発達しやすい体質
- 骨格と肩幅がたくましく、前腕とふくらはぎを中心に全身に筋肉がつきやすい
- 適切な食事制限と適度なトレーニングだけで、筋肉質な体を維持できる
- 外胚葉が優位になった場合
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- 皮膚や神経が発達していて、手足が長く、背も高くて細身な体型
- 脂肪はつきにくいが消化吸収能力が低く、体重も筋肉も増えにくい
- ある程度の筋力をつけることができるが、維持するには労力が必要
上記から、遺伝的に見ると中胚葉型の特徴を持つ人が最も筋肉がつきやすく、外肺葉型の特徴を持つ人はつきにくいと推測できますね。
女性は男性よりも筋肉がつきにくい理由
性別により、筋肉のつきかたやスピードに差が出る理由はホルモンバランスにあります。男女とも、全身の筋肉量や筋肉の原料となるタンパク質の吸収量は、大きく違いません。しかし、代表的な男性ホルモンである「テストステロン」の分泌量が男性より少なく、月経周期により性ホルモンのバランスが変化する女性は、男性より筋肉の発達に時間がかかるのです。
性ホルモンの分泌量・バランスと筋肉発達の関係
- 筋肉の発達は、主にテストステロンによって促される
- 男性のテストステロン分泌量は、女性の10~15倍だと言われている
- 女性の場合、エストロゲンという女性ホルモンにより筋肉の発達が促される
- ただし、エストロゲンの分泌量は月経周期によって変わり、定期的に制限されてしまう
なお、性ホルモン以外に筋肉の発達を促すホルモンとして「成長ホルモン」があります。成長ホルモンは睡眠中の他、トレーニング中にも分泌されるものです。女性が効率よく筋肉を発達させるには、この成長ホルモンの作用を利用するとともに、適切な負荷でのトレーニングと食事制限を継続すると良いでしょう。
男女問わず、胎児の頃に多く女性ホルモンを浴びた人は、女性ホルモンの影響から筋肉がつきにくくなると言われています。自身の体質に合った方法で、効率的に筋肉をつけるための参考にしてくださいね。
筋肉量を増やす食事法やトレーニングのポイント
ここからは効率的に筋肉を育て、筋肉量を増やしていくためのコツを紹介していきます。まず生活習慣については、以下を参考に食事の回数と質、睡眠の習慣を見直しましょう。
食事は少なく、こまめに摂るようにする
筋肉を増やすには、筋肉の生成に必要な栄養素を食事からしっかり摂取しなければなりません。もともと少食な人の場合、1日3回の食事では十分な栄養量を摂れない可能性があります。その場合は1回の食事量は少なくてもいいので、1日4~6回に分けてこまめに食事を摂り、1日の食事と栄養摂取量を増やしましょう。
食事はタンパク質多めを心がける
効率的に筋肉量を増やすには、筋肉の主原料であるタンパク質を積極的に摂るのが効果的。食事は「脂質少なめ、タンパク質多め」になるよう常に心掛け、以下を参考に積極的にタンパク質を摂ってくださいね。
- タンパク質の多い食材の例
- 鶏のササミ・胸肉、白身魚、乳製品、納豆・豆腐などの大豆食品、赤身肉 など
さらに効率的にタンパク質を摂りたいときは、プロテインを併用するのもおすすめです。吸収率の高まるトレーニング直後を中心に、間食としてプロテインドリンクやプロテインバーを摂るのも良いでしょう。
7時間以上を目安に、睡眠時間をしっかり確保
筋肉を増やすには、トレーニングで傷ついた筋繊維を休め、しっかり休息・回復させる時間も必要です。睡眠中には成長ホルモンなど、筋肉を大きくするホルモンの分泌も盛んなります。1日7~9時間を目安にしっかり眠り、筋肉の回復と成長を促してください。
なお筋トレの内容・取り組み方については、以下を参考に改善してくださいね。
効率的に筋肉を増やすため、意識すべき筋トレのポイント
- 筋繊維の回復には2~3日必要なので、日ごとに別の部位を鍛えるようにする
- 筋肉を大きくするには限界を超えた負荷をかける必要があるので、限界以上にしっかり追い込むことを忘れず、継続してトレーニングする
- しっかりと効果を得るため、一つひとつのトレーニングを正しい方法と手順、重心のかけ方で行う
- 上記3つのポイントを常に頭に置き、実践できているかセルフチェックする。またはプロのトレーナーなどにチェックしてもらう。
病気が原因で筋肉がつかないことがある?近年増加中のサルコペニアやフレイルとは?
筋肉がつかない、筋肉量が減少する病気のうち、年齢を問わず現れるものとしては「神経原性筋萎縮症」と「ミオパチー」が挙げられます。
神経原性筋委縮症とは
大きく「運動ニューロン疾患」、「末梢神経障害」に分類される疾患。
- 運動ニューロン疾患の神経原性筋委縮症
- 二次運動ニューロンが障害されることが原因で起こるもの。代表的なものに筋萎縮性側索硬化症(ALS)がある。
- 末梢神経障害による神経原性筋委縮症
- 末梢神経の機能が障害されることが原因で起こるもの。末梢神経が障害される原因は多岐にわたる。
上記いずれの原因かを電気生理学的検査などで探ったうえで、その後の検査・治療方針を決めていく。
ミオパチーとは
筋肉の疾患の総称で、筋肉の痩せや低下がみられます。発症原因により、以下のような種類があります。
- 先天性ミオパチー
- 炎症性ミオパチー
- 代謝性ミオパチー
- 筋ジストロフィー
なお先天性ミオパチーと筋ジストロフィーは遺伝性の疾患で、特に進行がはっきりしているものを筋ジストロフィーとして区別しています。
また、一定の年齢になってから発現する傾向が強いものとしては「サルコペニア」「フレイル」が挙げられるでしょう。
サルコペニアとは
主に65歳以上の高齢者に発症し、特に75歳を超えてから発症が増える疾患です。加齢が原因で筋肉量が急激に減少していく病気で、発症すると以下の症状が現れ日常生活に支障をきたすようになります。
- 歩く速度が低下する
- 着替えや入浴、排せつなど日常生活の動作がしづらくなる
- バランス良く立ったり、座ることが難しくなり転倒リスクが上がる
- 糖尿病などの生活習慣病、肺炎などの感染症を起こしやすくなる
なお65歳以下であっても、普段の生活習慣によっては発症する可能性があります。以下条件に当てはまる人は、サルコペニア予備軍とされるため要注意です。
- BMI18.5以下のやせ形の体形で、かつ75歳以上である
- 医師から肥満を指摘されているが、食事制限のみで対策し、運動をまったくしていない
- ダイエットのため、運動をせず過度な食事制限のみ行っている
サルコペニアの発症後、症状が進むと「フレイル」へ移行するケースが多いことにも注意しましょう。
フレイルとは
2014年に日本老年医学会が定義した言葉で、健康と要介護の間にある状態を指します。75歳以上の多くがフレイルの段階を経て要介護状態へ移行しているとされ、以下のような症状を現します。
- 筋力と体重が急激に減少する
- 物事への意欲、気力が低下して精神的に弱くなる
- 心身の状態から外出が難しくなり、引きこもりがちになる
サルコペニア、またはフレイルの初期段階で運動を習慣化するなど適切な対応をすれば、健康な状態まで筋肉量を戻せると考えられています。日常動作をするなかで異変や違和感、筋肉の減少を自覚したら、症状が進む前にできるだけ早く医療機関で相談しましょう。
おわりに:筋肉のつき方に遺伝や性別による個人差はある!ポイントをおさえて、効率的に筋肉を増やそう
人が生まれ持つ筋繊維の数や質、性ホルモンのバランスには個人差があります。このため、同じ内容でトレーニングや食事制限を行っても、どうしても体質の違いから筋肉のつき方にも個人差が生じるのです。ただし、その人の体質・性別に合ったトレーニング方法や食習慣を摂り入れれば、筋肉がつきにくい人でも体を引き締め、大きくすることはできます。本記事で紹介したポイントを踏まえ、トレーニング法や生活習慣を改善してくださいね。
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