情報化社会と呼ばれる現代社会に生きる子どもたちは、ごく小さい頃からデジタル機器を当たり前のように使い「デジタルネイティブ」とも呼ばれています。それ自体は決して悪いことではありませんが、スマホの動画視聴などで子どもの睡眠時間が削られていることは大きな問題です。
睡眠不足は、子どもにとってどんな影響があるのでしょうか。睡眠の質を上げるために必要な生活習慣も合わせて見ていきましょう。
- この記事でわかること
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- 日本の小学生〜高校生の睡眠時間データと課題
- 子供が夜更かしする原因や睡眠不足の症状
- ホルモンが睡眠や健康に及ぼす影響
- 質の高い睡眠のための生活習慣や睡眠習慣
- スマホの利用やブルーライトが問題となる理由
- 眠れない原因が病気の場合の対処法
日本の子どもは睡眠時間が少ない?肥満など健康リスク発生のおそれ
子どもの生活時間が夜型化したり、睡眠時間が少なくなったりすると、以下のようなさまざまな健康リスクが高まります。
- 成長の遅れ
- 注意や集中力の低下、眠気、疲れやすくなる
- 肥満や生活習慣病(糖尿病や高血圧)、うつ病などの発症率が高くなる
- 既に生活習慣病や精神疾患を発症している場合、症状が悪化する
また、肥満から睡眠時無呼吸症候群を引き起こす可能性もあり、これが余計に睡眠を妨げる一因になります。子どもの睡眠不足を改善し、生活時間を朝型に戻すためには、規則正しい早寝・早起きの習慣をしっかり身につけるしかありません。
しかし、日本の小学生〜高校生は世界的に見てもトップクラスに夜更かししていることがわかっています。いくら夜更かしをしても登校時間は変わりませんので、そのぶん睡眠時間が削られ、朝には起こされてもすっきりとは起きられず、ぼーっとしたまま朝食もろくに食べず登校し、強い眠気をこらえたまま授業を受けている子どもは決して少なくありません。眠気でもうろうとしながら授業を聞いていても集中できないのは明白であり、学習障害や注意欠陥・多動性障害などの発達障害と誤診されてしまうケースもあります。
こうした夜更かし癖のある子どもは、平日に溜まった寝不足を週末に解消している傾向があります。平日に比べ、週末に3時間以上遅くまで寝ているようなら、平日の睡眠不足を解消していると考えて良いでしょう。週末に遅くまで寝ていると、その日の夜に眠れなくなりますので、月曜日の朝に起きられなくなる悪循環が続いてしまいます。
子どもが夜更かしする原因はさまざまですが、勉強など明確かつ将来的な目標があって睡眠時間を削っている子どもばかりではなく、テレビやゲーム、SNSなどの利用によって「なんとなく夜更かししてしまう」という子どもが最も多いとわかっています。夜更かしは健康リスクを高めるおそれがありますので、将来のためにも早寝早起きの習慣をつけることをおすすめします。
子どもがやりがち!睡眠リズムを乱す生活習慣チェック
睡眠リズムを乱す大きな原因のひとつが、不規則な生活習慣です。人間の身体は、朝に目覚めて明るい光を浴び、その約14時間後に徐々に眠気を感じるよう体内時計(生物時計)がセットされています。朝、目覚めて明るい光を浴びることは、体内時計を毎日セットし直す大切な習慣なのです。しかし、生活習慣が不規則になると、体内時計の時刻合わせがまちまちになり、寝つく時刻も目覚めの時間もどんどん不規則に乱れてしまいます。
特に、平日には学校があるため同じ時間に起きていても、週末に寝不足解消のため長時間眠る子どもの場合、体内時計を整えるために朝の光を浴びる機会を逃してしまうので、生活時間が夜型になりやすいのです。規則正しい睡眠リズムを保つためには、以下のような行動を避けるよう心がけましょう。
- 毎日の起床時刻、就寝時刻がまちまちである
- 朝、起きても太陽の光を浴びる機会がない
- 朝食をとらない
- 帰宅後、居眠りをしてしまう
- 運動習慣がない
- お風呂の時間がまちまち、あるいは寝る直前である
- 夕食の時間がまちまち、あるいは寝る直前である
- 夕食後、夜食を食べる
- 夕食以降、お茶やコーヒーなどのカフェインを摂取する
- 寝床でスマホやゲームなどデジタル機器を使う
- 睡眠時間が不十分である
- 休日に平日より3時間以上長く寝てしまう
必要な睡眠時間は人によってまちまちであり、絶対に何時間以上眠らなくてはならない、というものではありません。一般的に6〜13歳の子どもは9〜11時間、14〜17歳の子どもは8〜10時間の睡眠が必要とされています。この時間を基本的な目安とし、日中に強い眠気が出ない程度の睡眠時間を確保できるよう、それぞれの子どもに合わせて調整すると良いでしょう。
子どもがイライラしたり落ち着きがない原因は寝不足かも?
子どもは、睡眠不足を自分でうまく意識することができず、イライラ・多動・衝動行為などとして現れてくることがよくあります。目立ったストレス要因が考えられないのにいつもイライラしている、落ち着きがなくなった、衝動的な行動が増えたという場合は、睡眠不足に陥っているサインかもしれません。
インターネット利用時間が増加する一方で睡眠時間は減少傾向に
内閣府が実施する「青少年のインターネット利用環境実態調査」によれば、平成26年度から平成30年度までの4年間で子どもたちのテレビ視聴時間は減少し、代わりにインターネットの利用時間が増したことがわかりました。小学生が自分専用のスマホや家族共有の端末などでインターネットを利用しているのは、主にゲームや動画視聴のためです。
1日のインターネットの利用時間は、平成26年度で平均83.3分でしたが、平成30年度には平均118.2分と4年間で30分以上も増加しました。また、2時間以上利用している子どもの割合も、平成26年度には24%だったものが、平成30年度には39.4%と15ポイント以上も高くなり、はっきりと長時間利用が増えていることがわかります。
インターネット利用時間が増加した分、ほかの時間が十分に確保できなくなりました。それは睡眠時間であることも調査からわかっています。東京都教育委員会が子どもたちの睡眠時間を調査したところ、平成26年度から平成30年度までの4年間で、小学4年生以上の子どもの睡眠時間が顕著に減少していることがわかりました。
8時間以上睡眠している子どもは小学4年生で68.2%から60.9%に、小学5年生で62.6%から54.6%に、小学6年生で51.6%から48.1%にと軒並み減少し、代わりに6〜8時間、6時間未満の割合が増えています。成長期の小学生にとって、長時間のインターネット利用のために睡眠時間を削ることは決して望ましいことではありません。
子どもの睡眠を改善する食習慣やスマホの使い方
子どもの睡眠不足を解消するためには、単に睡眠時間を増やすだけでなく、睡眠の質を上げることも重要です。睡眠の質を上げるためには、主に以下のようなポイントに注意しましょう。
- 生活習慣を整え、体内時計のリズムを一定に
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- 規則正しい生活習慣で体内時計のリズムを保ち、頭も身体もベストな状態に
- 早寝早起きで必要な睡眠時間を確保
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- 自分が必要な睡眠時間をしっかり確保し、十分なレム睡眠とノンレム睡眠で心身を休息させる
- 平日と休日の睡眠リズムをずらしすぎない
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- 起床時刻や就寝時刻を2時間以上ずらさないようにして、体内時計のリズムを保つ
- 朝は日光を浴び、朝食をとる
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- 起床後に朝食をしっかりとり、太陽光や蛍光灯の光を浴びて体内時計のリズムを整える
- 適度な運動を習慣づける
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- 夕方までの時間に適度な運動をすることで、睡眠の質がアップ
- お風呂は早めの時間に入る
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- 寝る3〜4時間前に入っておくと、寝たいタイミングでちょうどよく眠気が来る
- 寝る直前に熱いお風呂に入ると眠りにくくなるので、寝る直前の場合はぬるめのお湯につかる
- 仮眠や昼寝をしすぎない
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- 仮眠や昼寝は午後3時までの間に、長くても20分以内で
- 夜食は控える、遅い時間の食事は2回に分けるなどの工夫を
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- 夜遅くに食べる食事は肥満の原因になるとともに、体内時計のリズムを夜型化してしまう
- 夕方に軽く食べておき、夜ご飯も控えめにするなど工夫を
- 眠りやすい環境を整える
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- 日没後はできるだけ、オレンジ色の照明など明るすぎない部屋で過ごす
- 夕食後はカフェインの摂取を控える
- 布団の中でデジタル機器を使わない
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- 寝る直前にブルーライトを浴びると睡眠の質が低下するので、スマホやゲームは控える
メラトニンが分泌されると寝付きにくくなる?
適度な運動は睡眠の質を上げるのに効果的ですが、寝る直前に運動しないようにしましょう。寝る前に激しい運動をすると、せっかく休息モードに入ろうとしていた脳や身体を日中の「活動モード」に切り替えてしまいます。運動をするときは、夕方までに適度に身体を動かすよう心がけましょう。
日が沈んで夜になると、睡眠を促す「メラトニン」というホルモンが分泌され、体温・心拍・血圧などを低下させ、脳や身体を休息モードに切り替えます。そこで激しい運動をしてしまうと、体温や心拍、血圧が上がってしまい、身体が再び活動モードに逆戻りしてしまい、布団に入ってもなかなか体温が下がらず寝つきにくくなったり、夜中に何度も目が覚めたりと睡眠の質が低下してしまうので、運動をする時間には十分注意が必要です。
テスト直前の夜ふかしは逆効果?レム睡眠とノンレム睡眠の意義
試験前に一夜漬けで勉強をする人がいますが、これは記憶の定着という観点から見ると良いことではありません。睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠の2種類があり、寝ている間に交互に繰り返されますが、レム睡眠は身体を休ませ修復する浅い眠り、ノンレム睡眠は脳を休ませる深い眠りです。
寝て最初に現れるのは脳を休ませるノンレム睡眠ですが、その後、レム睡眠中に脳は起きて記憶の整理や定着を行います。つまり、睡眠をしっかりとることで脳を休ませ、試験中に本来の力を発揮できるとともに、勉強した内容がより頭に残るのです。何かを記憶した後に睡眠をとった場合と、そのまま起きていた場合では、直後に睡眠をとった場合の方が覚えたことを忘れにくいという調査結果もこれを裏付けています。
レム睡眠とノンレム睡眠のサイクルは約90分で、しかも睡眠の後半になるにつれてレム睡眠が増えていきます。眠りの最初には脳をしっかり休ませ、その後、記憶の整理と定着を行うわけです。日頃から早寝早起きを心がけ、睡眠時間をしっかり確保することで勉強内容を効率的に定着させられます。
スマホ利用が当たり前だから注意したいブルーライトの影響
スマホやゲームも、寝る直前に画面を見ていると睡眠の質を下げてしまうことが大きな問題です。液晶画面の光には「ブルーライト」という青く強い光が多く含まれています。近年ではブルーライトカットフィルム、ナイトモードなどブルーライトを減らす工夫がなされている本体や周辺機器も多いのですが、ブルーライトを完全になくせるわけではありません。
ブルーライトとは、人の目で捉えられる「可視光線」の中でも最も波長が短く、強いエネルギーを持ち、体内時計を刺激して日中の活動を活性化する働きがあります。ですから、朝や日中に浴びるのは構いませんが、寝る前や夜間に浴びてしまうと睡眠を促す「メラトニン」の分泌を抑制してしまったり、体内時計のリズムを夜型にずらしたりして睡眠リズムを崩してしまいます。長時間使用だけでなく、使う時間にも十分注意しましょう。
睡眠中のいびきには要注意!子どもの病気サインを見逃さないで
肥満からの睡眠時無呼吸症候群が睡眠の質を下げてしまうことは最初にご紹介しましたが、子どもの2%にこの症候群が見られます。重度の場合には日中に集中できなくなったり、学習能力が低下したりするため、十分注意が必要です。
他にも、睡眠時遊行症(夢遊病)・睡眠時驚愕症(夜驚)・夜尿症・不眠症・概日リズム睡眠障害・むずむず脚症候群・アトピー性皮膚炎のかゆみによる不眠など、大人と同様に子どもにもさまざまな睡眠障害が現れる可能性があります。以下のような症状が見られ、かつ1ヶ月以上にわたって続いている場合は、早めにかかりつけの小児科医に相談しましょう。
- 寝ている最中に呼吸が止まってしまう
- 眠りの質が悪い
- 寝入りばなや夜間に身体が異常に動く
- 日中の眠気が強すぎて、生活習慣や睡眠習慣の改善を試みても改善されない
また、朝なかなか起きられない子どもは「起立性調節障害(OD)」の可能性があります。自律神経の病気で、小学校高学年から中学校の思春期にかけて発症することが多いです。昼や夜は元気になるため体の異常であることがわからず、病院受診が遅れることがあります。検査でODであることがわかれば治療を受けられます。朝にお子さんの調子が悪そうに見える場合は、単なる寝不足や生活習慣と判断せずに病院に相談するのがおすすめです。
おわりに:子どもの睡眠不足は生活習慣病のほか、学習能力にも悪影響を及ぼす
小学生〜高校生の子どもは成長期・思春期にあたり、身体をしっかりつくるとともにさまざまなことを学び、定着させていく時期でもあります。そのためには、睡眠の量と質を十分に確保しなくてはなりません。
睡眠不足でもうろうとした頭では学習能力が低下するのはもちろん、疲れやすくなったり、肥満などの原因になったりします。健康な身体づくりのためにも、効率的な勉強のためにも、ぜひ一度睡眠習慣を見直してみましょう。
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