私生活を犠牲にしつつ、長時間働くことが美徳とされたのは昔のことです。近年ではいかに仕事を私生活の両方を充実させ、ワークライフバランスを取りながら働ける環境を作れるかが、労働者と企業双方にとっての課題となっています。
今回は働き方改革の概要と実施例、個人でもできる具体的な取り組みを紹介します。
- この記事でわかること
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- 働き方改革の3つの柱など政府が目指す方向性
- 同一労働同一賃金や高度プロフェッショナル制度の目的
- 在宅勤務やインターバル休息など企業の事例
- 効率的に仕事を進めるためのコツ
働き方改革ってどんな目的を持つの?
まずは、耳にすることの多い「働き方改革」という言葉の概要をおさらいしていきましょう。
- 働き方改革とは
- 少子高齢化に伴う労働人口の減少、働く人が仕事や生活に求めることが変化していることに応じ、働き方を選びやすい社会に変えていこうという動きのこと
日本では、働き方改革を実現するための法案として2018年6月に「働き方改革関連法」が成立、2019年4月から順次施行が始まっています。
なお働き方改革の狙いは、「長時間労働の是正」と「正規、非正規の格差解消」、そして「多様な働き方の実現」を叶えることです。
働き方改革関連法、3つの柱
- 長時間労働の是正
- OECD加盟国のうち、最も長いと言われる日本人の平均労働時間を短くするため、休日出勤の禁止や業務効率化、短時間勤務などの制度が企業へ導入されることをめざす
- 正規、非正規の格差解消
- 長く日本企業が抱えてきた、正社員と派遣社員など非正規雇用の従業員との賃金格差、待遇差を解消し、安心して働ける被雇用者を増やすために取り組む
- 多様な働き方の実現
- ライフステージや年齢により、その人にとってベストな働き方は変わるものであるため、介護期間中や育児期間中も働き続けられる工夫や制度を導入する企業を増やし、就業意欲のある人がキャリアを中断することなく働ける労働環境を実現する
俗に「改革の3本柱」と呼ばれるこれらの狙いを達成することで、企業の生産酸性向上や減少の一途をたどる労働力の補完、就業機会の拡大、労働環境改善をめざしているのです。
働き方改革で期待できること
法案に基づいて働き方改革が実践されれば、日本の労働環境に以下のようなプラスの変化が現れることが期待されます。
- 労働時間が短くなった分、家族と過ごしたり趣味に使える時間が増える
- オンとオフの切り替えがしやすくなり、心身をリフレッシュさせられる分、労働意欲や生産性が向上する
- 長時間労働が原因で起こる過労死、精神障害の発症、休職や退職のリスクが低減する
- 働き方改革に注力する企業が「ホワイト企業」「労働環境の整った企業」との認識が広まれば、より有能は従業員の雇用や起業全体の発展につながる
企業が働き方改革で取り組むべきこと
2021年5月現在、規模の大小に関わらず企業各社は働き方改革関連法に基づき、働き方改革を推進するための以下の取り組みに対応しなければなりません。
- 年次有給休暇の年5日付与義務
- すべての従業員に、最低でも年に5日間の有給休暇を確実に取得させなければならない
- 労働時間の客観的把握
- 原則として、雇用する全従業員の労働時間を「客観的な記録」で把握することを義務化
- 時間外労働の上限規制(罰則付き)
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- 労使間で締結した、いわゆる「36協定」に基づき、時間外労働を調整する義務
- 36協定で設けられた上限を超えた時間数の時間外労働を従業員に強いた場合は、企業に対し罰則が科される
- 同一労働同一賃金の施行
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- 雇用形態の違いによる、基本給や賞与の金額差を是正する目的で設定された
- 同じ仕事に従事する労働者は、雇用形態や性別、人種、国籍等に関わらず同額の賃金を受け取るべきとする考え方
- ただし、この制度の導入に当たっては後述の「高度プロフェッショナル制度の創設」や「フレックスタイム制」の導入、拡充にも対応する必要がある
- 高度プロフェッショナル制度の創設
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- 高度かつ専門的な知識、スキルを持つ人材、また厚生労働省が専門知識を要すると指定した業務に従事する従業員に限り、時間外労働の上限制限や割増賃金の適用外とする制度
- ただし、この制度を創設し従業員に適用するには、対象となる従業員に一定水準以上の賃金支払いが確保されること、労使の合意があることなどの条件をクリアする必要がある
- フレックスタイム制の拡充
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- 労働者本人が、自身の働く時間数や時間帯を柔軟に決定できる制度のこと
- 2019年4月より、働き方改革関連法により従来は1か月だったフレックスタイム制の生産期間が3か月に延長された
【建設業・販売業・食品】企業の働き方改革の事例
働き方改革の概要、また働き方改革達成のため企業に課された取り組み内容がわかったら、ここからは働き方改革実現のため企業が行った対策事例を見ていきましょう。
対策事例1:建設業「大成建設」の場合
- ICT、ロボット技術を現場に導入
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- 社員にモバイルデバイスを配布
- ICT、クラウドを活用した施工システム、施工管理ツールを展開
- 施工管理に使用する図面や写真、書式の電子化を推進し、新たな施工法や施工機械の開発に役立てる
- 建設情報の共有化、標準化を進め、生産性の向上を図る
- 在宅勤務を試験導入
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- 2017年7月より、試験的に自宅や最寄りの拠点事業所、サテライトオフィスでのテレワークの試みを開始
- 積極的に参加者を募り、今後どうしていくのが仕事の効率化や従業員が望む働き方にマッチするのかを探る
対策事例2:販売業「IWATAYA」の場合
- 早出と遅出、2交代制のシフトを固定化
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- IWATAYAには早出と遅出、2種類の勤務時間帯があるが、早出か遅出かに関わらず店の営業時間中ずっと出勤し業務にあたる従業員が多数いることが判明
- そこで2016年11月より、従来は全従業員が対応していた早出、遅出の担当者を固定化
- 事務や経理などのサポート部門は早出メイン、仕入れや現場責任者である営業部門では遅出の人員を多めに設定してシフトを固定した
- 早出、遅出それぞれの勤務時間内のみ業務に就くことを徹底し、時間外労働を抑制
- さらに、各部署や各人員の業務時間外には問い合わせをしないよう社内で徹底
- これにより1か月あたりの平均時間外労働時間数が2時間近く減少した
- 十分に休んで業務にあたれるよう、インターバル休息時間を設定
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- 2010年10月より開始された仕組みで、連勤する場合に従業員が十分な休息時間=インターバルを取れるよう作られた
- 睡眠時間7時間、通勤に往復で2時間、朝食と夕食の2回の食事に2時間かかると仮定し、従業員の出勤と出勤の間には11時間の休息が必要と設定
- 早出から遅出、または遅出から早出で連勤をする従業員は、出社時間または退社時間をずらすなどして11時間のインターバルを取ることをルール化している
対策事例3:食品製造業「サタケ」の場合
- 有給休暇をストックできる制度を導入
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- 失効してしまう年次有給休暇のうち、1年あたり10日、最大30日分の有給休暇をストックしておける制度を設定
- ストックした有給休暇を利用すれば、傷病や家族の看護、介護などのため長期で休んでも無給、欠勤扱いにならない
- またストック有給休暇のうち、男女問わず10日までなら育児休暇としても利用できる
上記から各社が自社の業態や従来の勤務形態、そして従業員からの要求に合わせて、試行錯誤しながら働き方改革に取り組んでいる様子が見えてきますね。
生産性をアップ!個人でできる働き方改革
続いては、一人ひとりの個人が今日から始められる働き方改革を紹介していきます。
仕事の優先順づけ、取捨選択を効率よくできるようになる
納期などを加味せず、目の前にきた仕事をただこなしていくだけでは、残業など時間外労働をする必要性が高くなります。
そこでおすすめしたいのが、抱えている仕事を俯瞰的に見て的確に優先順位づけし、効率よく終わらせていくスキルを身に付けること。
仕事を「重要性」と「緊急性」の2軸を基準に分類し、両方が高いものから優先的に終わらせることをクセづけてください。
大切な仕事、急ぎの仕事がどれかを理解していれば、仕事に忙殺されるリスクが減らせます。
タイムマネジメントスキルを身に付ける
効率よく仕事を進めるために、優先順位付けと併せて身に付けたいのが計画性を高めるためのタイムマネジメントスキルです。
優先度の高い仕事をメインに1日のスケジュールを組み立て、自らが決めた時間内に完了できるよう工夫しながら業務を進めることで、生産性向上につながります。
完璧主義を捨て、まずは「時間内でそこそこ」を心がける
与えられた仕事を完璧にこなそうとすると、こだわるあまり納期に間に合わなかったり、方向性がズレていた場合のリカバリーに時間がかかりますよね。
このため、仕事は納期に余裕をもってまずは70~80%の完成度で提出するのがおすすめ。
その出来上がりをもとに上司やチームと方向性やゴール地点をすり合わせ、のこりの時間で100%の完成度へ高めていく方が効率的です。
細々とした単純作業を標準化する
仕事のうち、1日のなかで結構な時間を消費しているのがルーティンワークです。毎日、毎週、毎月の決まったタイミングで、一定の数字や記録を処理しなければならない器械的な仕事は、どの業種にも存在します。
しかし、このような仕事の多くは経験や専門知識を必要としない「誰にでもできる仕事」であり、他の専門的業務に携わる人が担当するのは時間の無駄とも言えます。
ルーティンワークはマニュアル化、誰でもできるよう標準化して、他の業務により多くの時間を割けるようにしてしまいましょう。
これも職場全体の業務効率化、生産性向上と働き方改革への大きな一歩となります。
個人の意識の変化が社会を変える
バブル期に全盛を迎えた長時間労働、徹夜は当たり前とするモーレツな働き方は、多くの人にとって体力的・精神的に辛いものでした。モーレツな働き方は比較的体力のある男性、若者が労働人口のメインだった時代だからこそ通用したものであり、労働人口が減少を続ける現代では通用しません。
多くの日本企業は、若い男性に加え女性や高齢者などあらゆる層に働いてもらえなければ、倒産の危機を迎えるでしょう。オンとオフをしっかり切り替え、しっかり働きしっかり休めるようにする。これを実現できる働き方、休み方へ変えていくことが国をあげて推進され、就業機会を拡大しようという流れになってきたのは、まさに時代の流れと言えます。
社会全体を変えていくには、企業だけでなく個人も働き方・休み方への意識を変えていくことが重要です。
積極的に休みを取り、余暇時間を作ってプライベートを充実させる意識を持つことが、一人ひとりの労働者に求められています。
おわりに:企業とともに、個人も働き方改革とワークライフバランス向上に努めるべし!
2019年4月から順次施行された働き方改革関連法案により、企業各社には働き方改革実現のための取り組みが義務化されました。働き方改革の狙いは長時間労働の是正、非正規、正規の格差解消、多様な働き方を実現すること。企業と一人ひとりの労働者、双方が意識を変えていかなければ成功はあり得ません。労働者側も積極的に声を上げ、行動し、企業とともに働き方と休み方の改革を推進していきましょう。
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