この世界には男性、女性だけでなく、さまざまな性別を自認する人がいます。男女以外の性別を自認する人たち、また一般的な異性愛でない性的趣向を持った「性的少数者」たちは、結婚や就業にあたり差別を受けてきました。
しかし近年、LGBTIとも呼ばれる性的少数者を含むすべての性別の人が、等しく豊かに暮らせるよう社会を変えていこうという機運が高まっているのです。
今回はLGBTIを取り巻く問題や、LGBTIの友人・知人とも良い関係を築いていくために知っておきたいことを学んでいきましょう。
- この記事でわかること
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- LGBTIが定義するそれぞれの意味
- 日本におけるLGBTIが直面する課題
- LGBTIとジェンダーの考え方の違い
- 誰もが働きやすい職場環境作りのポイント
- LGBTIとダイバーシティとは
LGBTIとはどんな人?偏見や差別、人生の選択肢に悩むことも
まずは「LGBTI」という言葉の定義を理解していきましょう。LGBTI自体は性的少数者を現す総称ですが、それぞれのアルファベットは以下の言葉の頭文字です。
- LGBTIの意味
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- L…レズビアン=女性同性愛者、女性のみを恋愛対象とする女性のこと
- G…ゲイ=男性同性愛者、男性のみを恋愛対象とする男性のこと
- B…バイセクシュアル=両性愛者、本人の性別にかかわらず男女とも恋愛対象とする人
- T…トランスジェンダー=心と体の性が一致しない人、または心の性自認がなく無性または中性と感じている人
- I…インターセックス=男性または女性の定義に当てはまらない身体的特徴や機能を持っている人、性自認や恋愛対象とする性別にも個人差がある
おおまかに補足するとレズビアン、ゲイ、バイセクシュアルは「どんな人を好きになるか」を基準とした区分とされます。トランスジェンダーは、身体的性別にかかわらず「本人が自分をどんな性別と自認しているのか」を基準とした区分となります。
そしてインターセックスは、主に「生物学的に見た身体的特徴・機能」を基準に、性的少数者を区分した名称です。インターセックスをもう少し具体的に説明すると、男女どちらの身体的特徴、生殖機能も持っている人、XX染色体とXY染色体が共存した遺伝子を持って生まれる人などのことです。このようなインターセックスの人は、世界人口の0.05~1.7%存在していると言います。
歴史的に差別を受けてきたLGBTIの人たちは、現在においても少なからず差別や偏見を受けた経験を持っています。法務局人権擁護局のサイトによると、職場や学校で以下のような差別的発言を聞いたLGBTIの割合は71.7%にも及んでいるのです。
- LGBTIに向けられることの多い、差別的発言
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- しぐさや身体的特徴を「オカマ」「ホモ」「オナベ」などとからかう
- 服装や身だしなみなどについて「男らしくない」「女らしくない」と非難する
- 「気持ち悪い」「なんか変だ」「おかしいに決まっている」などと噂をする
- 性自認や性的指向について、本人の許可を取らずに他の人に曝露する など
さらに、恋愛・結婚においてもLGBTIには大きな壁が立ちはだかります。2021年4月現在、日本では男性同士・女性同士による同性婚が認められていません。LGBTIのうち同性愛者にあたる人たちには、異性愛者の男女と同じように結婚し、法的に夫婦となる権利が与えられていないのです。
このため、長く暮らしを共にする実質的な夫夫・婦婦であっても、法律上の結婚をした夫婦のようには配偶者向けの保険やローン契約を結べないことが多いと言います。また、高齢者年金や遺族年金、死亡保険金など一般的には配偶者が受け取れるはずのお金も、同性パートナーでは受け取れないこともあります。
現代の日本においても、すべての性的指向・性自認の人たちが等しく幸せに暮らせる社会とは言い難い状況です。
SDGs目標にも掲げられたジェンダー平等って?
性別を理由にした社会的な不利益は、心と体の性が一致する異性愛者の男女にもあります。このように社会的・文化的に作られた性別規範のことを「ジェンダー」と言い、近代になってからその解消に向けた取り組みが世界中で行われてきました。
- ジェンダーの具体例
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- 男は外で仕事をし、女は家の中で家事・育児をする
- 男は髪を短く、女は髪を長く保つのが望ましく美しい
- 男の子には青色の服、女の子にはピンク色の服を指定する」 など
なおジェンダー平等は国連が掲げたSDGs、持続可能な開発目標にも含まれています。
- SDGs(エスディージーズ)とは
- 「Sustainable Development Goals」の頭文字。2015年9月、193の加盟国が2016~2030年の15年間で達成すべき目標としてサミットで採択したさまざまな課題のこと。
SDGsの掲げるジェンダーフリーとは、男女ともに社会的に平等な状態にすることです。男性だから、女性だからという理由で役割や生き方を固定されたり、差別を受けることのない社会にするための努力をしていこう、というものです。
SDGsが掲げるジェンダーフリーの定義のなかに、LGBTIは含まれていません。これは国連に加盟し、共にSDGsを採択した193か国で同性愛や同性婚、トランスジェンダーなどへの認識、法制度への反映度合いがあまりに異なっていたためと考えられています。土台となる認識の違いの大きさから、193か国の「共通目標」としてLGBTIを含むジェンダー平等をSDGsに盛り込むことは見送られたのです。
しかし一方で、SDGsには「誰も置き去りにしない」というモットーも掲げられています。現に、元国連事務総長のパン・ギムン氏は「LGBTは誰も置き去りにしないというSDGsのモットーに含まれている」と説明しています。
同僚からLGBTIとカミングアウトされたときの対応って?
LGBTIの定義、LGBTIの人たちを取り巻く現状についてわかってきましたね。ここからは、LGBTIの人のそうでない人も、共に心地よく生きていけるジェンダーフリーな社会へ変えていくためにできることを考えていきましょう。
近年では、職場や学校で自身がLGBTIだとカミングアウトをする人も一定数います。法務省人権擁護局のサイトによると、職場や学校でLGBTIをカミングアウトした人の割合は27.6%でした。
厚生労働省の調査によると、職場など公の場でLGBTIをカミングアウトした人・していない人の理由で多いものとしては、以下が挙げられます。
職場でのカミングアウトについて
- カミングアウトした理由で多かったもの
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- 自分らしく働きたかったから
- ホルモン治療や性別適合手術を受ける、受けたくなったから
- カミングアウトしていない理由で多かったもの
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- 職場の人と接しづらくなると思ったから
上記から自分らしく、長く働いていくためにこそ、差別や偏見を受けるリスクを犯してカミングアウトをするLGBTIの人たちの姿が見えてきます。そして、カミングアウトをしたLGBTIの人たちの声は、企業へも労働環境に関する相談というかたちで届き始めているようです。
LGBTI当事者から企業への相談、職場環境を改善するための要望として寄せられた声には、以下のようなものがあります。
- LGBTI当事者から企業へ伝えられた相談や要望
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- トイレや更衣室の使用に関する相談
- 勤務時の服装や通称名の使用
- 福利厚生など社内制度の利用
- 上司や同僚からのハラスメントに関する相談
- 福利厚生での同性パートナーを配偶者扱いとする
- トイレや更衣室など、施設利用上の配慮
- 性的マイノリティに関する倫理規定、行動規範等の策定(差別禁止の明文化など)
LGBTIの人も、そうでない人も働きやすい職場環境を作っていくために、企業ができることとしては以下が挙げられるでしょう。
LGBTIにも配慮した就業規則と福利厚生に変え、理解者の存在をアナウンスする
男女雇用機会均等法の2条1項には、「被害を受けたものの性的指向又は性自認にかかわらず、当該さに対する職場におけるセクシュアルハラスメントも、本指針の対象となるものである」と書かれています。
つまり、LGBTIへの差別的な発言や扱いもセクハラに含まれると明記されているのです。「ホモ」「レズ」「オカマ」「あっち系」「女らしさ・男らしさ」などの直接的な言葉はもちろん、性的指向・性自認を理由に対応を変えることはセクハラに該当します。
みんなが一緒に働きやすいよう職場を変えていくには、差別的発言の禁止をルール化し、以下を参考に異性愛者のみを対象とした規則や福利厚生を改めていくのが効果的です。
- トイレや更衣室は、本人の性自認と他の同僚の意向を尊重しながら対応を話し合う
- マイナンバーの収集時には「性別記載のない住民票記載事項証明書」を取り寄せれば、戸籍上の性別を職場に知らせずに済むことを教える
- 異性婚者の配偶者に適用される福利厚生を、同性のパートナーにも適用するよう改定する
- 採用活動のエントリーシートなど、個人情報を扱う書類への性別記入欄を廃止する
- 採用活動にあたり、求職者がLGBTIかどうかを確認するのはセクハラだと周知する
- 採用の可否は本人の能力や人柄、適性によってのみ判断されるべきものなので、男らしさや女らしさ、身だしなみが身体的性別と一致しないなどを評価基準としない など
また上記の改革を行っていくにあたり、LGBTIについて理解の深い存在である「アライ(ally)」を社内に設置し、存在を広くアナウンスすることもおすすめします。これにより、差別的な発言の禁止など新ルールの周知や、カミングアウトをしていないLGBTI当事者の拠り所となり、サポートできるなどの効果が期待できます。
ダイバーシティにLGBTIも含まれる 起業の取組事例
ビジネス用語である「ダイバーシティ(Diversity)」とは、多様な人材を積極的に活用・雇用する経営上の取り組みのことです。さまざまな人種が同じ職場で働く機会の多いアメリカで誕生した考え方で、人種や性別、宗教による価値観の違いを互いに理解・尊重できる職場環境を整える企業責任を指します。
日本では、男女の性別による差別や待遇格差をなくし、主に女性の社会進出や活躍推進のための取り組み、として理解されることの多いダイバーシティですが、この「互いの価値観の違いを理解・尊重できる」という範疇のなかには、LGBTIもきちんと含まれているのです。
ダイバーシティ推進のため、国際連合人権高等弁務官事務所はLGBTIに対する差別解消のための「5つの企業行動基準」を策定しました。
世界中の企業に対し、本行動基準をどんな人でも同じように働ける職場環境を整えるという社会的責任を果たすことに役立ててほしい、としています。
- 5つの企業行動基準
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- どんなときでも人権を尊重する
- 職場で差別をなくす
- 職場で支援を提供する
- マーケットで他の人権侵害を防止する
- コミュニティーで行動を起こす
最後に実例として、アクセンチュアが「平等な社会こそがイノベーションを促進する」という信念のもと行っているダイバーシティ施策を紹介します。自身の職場環境をLGBTIにも配慮したものに変えていくにあたり、参考にしてください。
- アクセンチュアが、自分らしく働ける職場づくりのためにしていること
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- 専門性の高い人材の開発と育成
- インクルーシブな社内ポリシー
- 採用、昇進、安定雇用に関するガイドライン
- 同性パートナーを持つ社員に対する福利厚生としてのライフパートナー制度や、職場での性別移行ガイドラインの設置
- 各国で社員が自分らしく活躍できるように、グローバルのベストプラクティスやLGBTQグローバルコミュニティと連携
- 11万8,000人以上の仲間が参加するグローバルな「アライ」の育成、登録プログラム
おわりに:LGBTIについて理解し、その理解を少しずつ広げて、みんなが働きやすい社会に変えていこう
性的少数者とも訳される「LGBTI」はレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセクシュアルの頭文字をとった言葉です。体と心の性別が一致している人、生物学的に見て男女どちらかの特徴・機能のみ持っている人、異性愛者以外の人たちを現す言葉であり、近年ではLGBTIにも配慮した社会や職場づくりが進められています。本記事を参考にLGBTI、ダイバーシティについて理解し、少しずつ周囲にも広めていきましょう。
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