性教育とは、子どもが自らの性に対して、または性的な行動を行うにあたって正しい知識を持てるように行うものです。
この記事では性教育でどのようなことを教えるべきなのか、アメリカ・フィンランド・オランダなど海外の事例を交えながらご紹介します。
性教育って何歳から?家庭では小学校入学前に始めることも
近年ではスマホやタブレットなど情報端末の発達により、小さな子どもが性的なコンテンツに誤って触れてしまうということも少なくありません。子育て中でなにかと忙しいご両親にとって、「ちょっと子どもに動画やアプリで遊んでいてもらう」のは今や当たり前のことで、それ自体が責められるべきことではありませんが、そこには性的な広告のリスクも潜んでいます。
例えば、YouTubeから2歳の子どもがアダルトサイトに飛んでしまい、性行為の動画を見てしまったというケースは枚挙にいとまがないそうです。子ども自身が自主的に興味を持つ年齢ではないから、と安心するのは少し早計だと言えるでしょう。
また、言葉が理解できるくらいの年齢になってくると、自分の裸の写真や動画を撮ってインターネット上の相手に送ってしまう、という子どものネットトラブルも多数報告されています。もちろん、撮りたくなるような巧妙な仕掛けが多いからであり、うっかりクリックしてしまった子ども側の罪はほとんどないとはいえ、犯罪に巻き込まれるリスクを考慮すると自衛する必要はあるでしょう。
そんな危険やリスクがすぐ身近に迫ってきている中、子どもに早めに性教育を始める家庭も増えてきています。「面白いから」「興味があったから」といった理由で、子ども自身どんなリスクがあるのかもわからないまま性的なトラブルや犯罪に巻き込まれてしまう危険を防ぐためにも、性教育は重要なのです。
世界的にも、現在では性教育は早めに行うことが推奨されています。UNESCOなどが提唱する「包括的性教育」では、性教育において以下のような目的が掲げられています。
- 自分自身が尊厳のある一人の人間として、健康と幸福(Well-being /ウェルビーイング)を実現すること
- 尊重された社会的・性的な関係を育てること
- 個人個人の選択が、自己や他者の幸福にどのような影響を与えるかについて考えられること
- 生涯を通じ、自らの権利を守るということを理解すること
これらの目的達成のためには、科学的根拠に基づいた知識やスキル、態度、価値観を身につける必要があります。そのため、性教育の開始年齢を5歳とし、発達の段階に見合った教育課程を編成することが期待されています。
もちろん、性教育として「性感染症の症状を知り、治療や予防法について知っておくこと」「妊娠の仕組みや、避妊法を知っておくこと」なども大切です。例えば、若年層の中絶率・性的虐待などによる望まない妊娠などの現状を鑑みる限り、「生殖方法に関する正しい知識」という意味での性教育を広く行うこともまた、急務と言えるでしょう。
しかし、欧米では既に包括的性教育がスタンダードになっているように、本来、性教育の持つ役割とは単なる生殖の知識やリスク回避にとどまりません。思春期や発達過程による身体の変化、家族・友人・恋愛などの人間関係、人権と価値観、暴力から逃れる方法、さまざまな交渉スキルなど、子どもや若者が性的・社会的関係において一方的に搾取されることなく、かつ、責任ある選択ができるような知識と価値観、スキルを身につけることが性教育の目的なのです。
プライベートゾーンやアフターピルなど性教育のキーワード
プライベートゾーンは近年、CMなどでも使われるようになったことで日本でも徐々に知られてきましたが、もともとはアメリカで生まれた言葉で、「他人に見せても触らせてもいけない、性に関係ある、自分の身体の大切な場所」という定義がなされています。子どもに性犯罪のことはなかなか伝えにくいものですが、「プライベートゾーン」をしっかり教えておけば、「どこを見られたり触られたりしたらおかしいのか、イヤだと言っていいのか」がわかります。
幼児期の子どもに教えるときは、「水着を着たときに隠れる場所と、口のこと」と教えると伝わりやすいでしょう。特に、この教え方であれば男女の水着の違いやプライベートゾーンの違いも自然と頭に入りやすいのでおすすめです。子どもが「どうして○○くん(△△ちゃん)とわたし(ぼく)の水着は形が違うの?」などと興味を持ったとき、ぜひ教えてあげてください。
プライベートゾーンについて教える時期は具体的に決まっていませんし、保育園や幼稚園で教わってくるケースもあるでしょう。しかし、一般的には保育園や幼稚園でお着替えの機会がある頃には知っておくのが望ましいと考えられます。ぜひ、まずは自宅でパパ・ママがプライベートゾーンについて理解し、子どもにもあらかじめ伝えておいてあげましょう。
プライベートゾーンについて子どもが理解しておくべきなのは、主に以下の4つのポイントです。
- 自分の身体は、大切なものであること
- さらに、プライベートゾーンは人に見せたり、触らせたりしてはいけないこと
- 他人のプライベートゾーンを、勝手に見たり触ったりしてはいけないこと
- 少しでもイヤな気持ちになったら、「イヤ」と言ってよいのだということ
幼児期の子どもは、どうしても純粋な好奇心から友人間・兄弟姉妹間で性器の見せ合い、触り合いなどをしてしまうことがあります。面白いから、安心するから、自分にはない身体の構造に興味があるから、など理由のほとんどは性的なものではありませんが、だからこそ安易にこうした行動に出てしまうのです。
もし、子どもがこのような行動を取っていることがわかったら、「そこはあなたの大切な場所だから、一人の場所や一人で見たり触ったりするのは良いけれど、他の人がいる場所ではやめようね」と、しっかりご両親が教えてあげましょう。
日本では性的なものを「いやらしい」「汚い」とネガティブに捉えてしまいがちな傾向がありますが、プライベートゾーンについてネガティブなイメージを持つ必要はありませんし、大人がそのようなメッセージを送ってしまうのは良くありません。ですから、ネガティブな表現を避け「そこは他の身体の場所と違う、とても大切な場所」と、子どもに気づかせてあげることが大切なのです。
10代の性教育では「ピル」と「コンドーム」を教えよう
思春期に入った子どもたちに教えるべきなのは、ピルとコンドームのことです。ピルとは経口避妊薬のことで、卵胞ホルモンと黄体ホルモンが含まれており、これが脳の「脳下垂体」という部位に作用して卵胞の発育と排卵が抑えられます。子宮内膜を受精卵が着床しにくい状態にしたり、子宮頸管粘液(排卵期になると子宮頸部から分泌され、精子の侵入を助ける)を変化させて精子の侵入を防いだりします。
このように、ピルは日本では経口避妊薬としてのイメージが強いのですが、排卵をストップさせることは卵巣や子宮を休ませ、女性の身体にかかる負担を軽減するという大きなメリットをもたらしてくれるものでもあります。例えば、低用量ピルを継続的に服用することで月経痛を改善したり、月経血を減らして貧血を改善したりすることができます。
他にも、ピルには以下のようなメリットがあります。
- ホルモンバランスの改善により、PMS(月経前症候群)を改善する
- にきびや多毛などを改善する
- 卵巣がんや卵巣嚢腫を予防する
- 長期服用により、乳房の疾患や子宮体がんのリスクを下げる
また、コンドームとはゴムでできた袋を男性のペニスに被せることで、精子の腟内への侵入を防ぎます。コンドームにはそれ以外にも、性器どうしを直接接触させない、体液の交換を行わないという意味で感染症を防ぐ、リスクを軽減するという役割もあります。性行為を行う際にこうした道具を使うことは、お互いの身体を大切にするために必要なことなのだということも合わせて伝えましょう。
緊急避妊薬とは?どこで買えるの?
避妊に失敗した場合、あるいは性被害に遭った場合、緊急避妊薬(アフターピル、緊急避妊ピルとも)を服用すると高い確率で妊娠を防ぐことができます。緊急避妊薬は排卵を遅らせるなどの作用で妊娠を防ぐため、性交からできるだけ早く服用すればそれだけ効果が高まりますが、72時間(3日)を超えると妊娠を防げる確率は大きく低下してしまいます。
緊急避妊薬はあくまで緊急用の一時的なもので、服用後も避妊効果が続くというものではありません。そのため、普段の避妊法として使うには向かないので注意しましょう。緊急避妊薬はその効果・効能から現在は市販薬として購入できないため、産婦人科・婦人科などの病院を受診して処方してもらう必要があります。
病院を探す方法はさまざまですが、オンライン診療なども利用できますので、感染症が気になる場合や事情がある場合にはそのような方法があることも伝えておくと良いでしょう。
- 病院検索サイト
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- 緊急避妊に関する診療が可能な医療機関についての、厚生労働省のサイト
- 日本家族計画協会ピル処方施設検索
- 各種病院検索サイトなど
- 当番医の検索、総合病院など
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- 近くの消防署(119番ではなく、近くの消防局などの電話番号)に問い合わせる
- 「市町村名 当番医」「市町村名 休日診療」などで検索し、自治体や医師会のWebサイトから確認する
- 総合病院や救急外来などで対応してもらえることも
- オンライン診療を探す
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- 「アフターピル オンライン診療」などで検索し、取り扱いのある医療機関やサービスを探すこともできる
- オンライン診療では、スマホなどで遠隔診療を受けた後、近くの薬局に処方箋を送付してもらい、緊急避妊薬を受け取れる
- 医療機関から自宅まで郵送してもらう場合、配送に時間がかかることも考慮し、できるだけ早い受診が必要
緊急避妊薬を処方してもらえる病院は、夜間や休日であっても検索サイトや消防署の問い合わせなどで探すことができます。近くにない場合や事情があって病院に行かれない場合は、オンライン診療も可能です。オンライン診療の場合は支払い方法も含めて医療機関によって方法が異なりますので、受け取りや支払いが可能な方法かどうかよく確認しましょう。
また、緊急避妊薬を利用するときは、以下の3つのポイントに注意が必要です。
- 緊急避妊薬があるから、普段避妊しなくてよいということではない
- 緊急避妊薬を服用後、避妊のない性行為をすれば妊娠の可能性は高まる
- 緊急避妊薬には、性感染症の予防効果はない
緊急避妊薬は、あくまでも「妊娠の可能性を大幅に下げる」というものであり、100%の避妊を約束するものでもなければ、服用効果が長く続くわけでもありません。あくまでも通常の避妊方法で何らかの失敗があったとき、最終かつ緊急の手段として使うものです。避妊効果を継続したい場合、緊急避妊薬を服用した翌日から低用量ピルの服用を始めることもできますので、合わせて医療機関で相談してみましょう。
また、緊急避妊薬にも低用量ピルにも、性感染症を予防する効果はありません。コンドームをつけなかったり、破れたりしてしまったという場合、性感染症に感染するリスクがあります。この場合は、保健所や医療機関で性感染症の検査も合わせてしておくと安心です。
日本の学校の性教育事情
日本の学校は小学校から高等学校まで、文部科学省が発行している「学習指導要領」に基づき、教科書などを使って性教育を行います。性教育は体育や保健体育など特定の授業だけでなく、道徳や特別活動など学校教育活動全体を通じて取り組むことが重要と考えられています。とはいえ、性教育の内容は小中学校で養護教諭(保健室の先生)と担任、高校は体育教諭に委ねられていることが多いです。
具体的には、小学校・中学校・高等学校でだいたい以下のようなことが学習内容とされています。
- 小学校
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- 1・2年生:生命の大切さ、他人を尊重すること、節度を守ること(主に道徳の授業)
- 3・4年生:身体の清潔、周囲の環境について、思春期男女の身体の発育と心身の発達、プライベートゾーンについて、初経・精通、異性への関心を持ち始めることなど
- 5・6年生:生命の誕生、健康な生活態度、怪我や犯罪被害の予防、感染症予防、インターネットを通じて犯罪に巻き込まれるリスクなど
- 中学校
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- 生物の授業と保健体育を連動させながら、生殖活動についてを含めたより具体的な性教育が行われる
- 中学1・2年:月経と射精、受精と妊娠、性衝動、異性との関わり方、性情報への対処など
- 中学3年:性感染症やエイズ、性に関する具体的な問題など(※性交という言葉を使わず、性的接触と表現する)
- 高校
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- 家族の役割や健康維持の大切さ、生涯を視野に入れた生活設計を立てることの大切さなど。実際に生徒に設計図を書かせる学校も少なくない
- 妊娠・出産や家族計画(避妊)のほか、人工妊娠中絶についても学ぶ
実際には、それぞれの地域や学校によって妊娠・性犯罪などの問題点、児童生徒の状況(理解度、LGBTなど)が異なります。そのため、かなり踏み込んだ話をするところとそうでないところ、外部講師を招いて内容を広げるところなど、学校によっても地域によっても性教育の内容そのものが大きく異なっています。
アメリカの性教育ではLGBTIなど多様性尊重も重視
アメリカでは州や学校の方針によって性教育の内容が大きく異なりますが、多様性を重んじる流れから、LGBTIなど性的マイノリティと呼ばれる人々の理解について学ぶ機会が多い傾向にあります。また、キリスト教の中でもプロテスタントが主流であり、結婚まで性的関係を持たないことを推奨する学校もまだまだあります。
実際に学校や州でどのような立場を取るかは、大きく3つのパターンに分けられます。
- 総合的性教育(セクシュアリティ教育)…性を生物学のほか、心理学や社会学から多角的にとらえ、1人の責任ある人間としていかに行動するかを教えるもの。避妊・妊娠中絶・同性愛を否定しない
- 禁欲教育…結婚まで性交せず、禁欲生活を送ることがいかに重要か教える
- 総合的性教育と、禁欲教育を合わせたもの…バランスよく行われることもあれば、どちらかに比重が偏ることも
アメリカでは、高校生になると部活動の一環として性的マイノリティ者と異性愛者が定例会やイベントを計画し、公共の場で活動するということもあります。さらに、性暴力や性的虐待を受けた場合に警察で事情聴取を受けたり、法廷で証言したりできるよう、幼稚園から高校までの間、性に関する正しい用語を年齢に応じて学習させています。これは、障がい者教育においても同様です。
他にも、ある州では43分の授業を年45回、外部から講師を招いて行ったり、ゲーム的な作業をしたり、映画を見たりと、さまざまな手法が使われています。
福祉国家フィンランドの性教育は必修科目
フィンランドにおける性教育は、最初にご紹介したUNESCOなどが推奨する「包括的性教育」です。学校内外に関わらず、権利概念に基づき、ジェンダーに焦点を合わせて生涯を通じ、継続的に年齢に応じた情報を提供していくものです。妊娠出産や避妊といった生殖的性のほか、人間の発達やHIVを含む性感染症(STI)に関する情報などが含まれます。
フィンランドの性教育はこれらリスク管理や人権保護だけにとどまらず、若者が性と生殖や健康に関してポジティブな価値を追求し、育成するのをサポートします。家庭生活や人間関係、多様性、文化、セクシャル・アイデンティティ、境界線の重要性、自尊感情、肯定的なセクシュアリティ、身体の肯定に関する対話などがポジティブな価値の追求と育成に一役買ってくれます。
これら性教育を総合すると、若者が批判的思考やコミュニケーションスキル、責任ある意思決定、敬意を持った行動を促す自尊心やライフスキルを育むことに役立ちます。もちろん、いずれの教育も子どもの発達段階に応じ、少しずつ時間をかけて育んでいくことが大切です。
フィンランドでは7〜16歳が義務教育とされていますが、1970年からは必修の保健体育に性教育が含まれました。さらに、1972年にはスクールナースが学校を巡回して無料の避妊相談、コンドームの提供を行ったところ、若者の中絶数や出産数(すなわち、望まない妊娠数)が減少しました。
1994年には経済不況によって性教育が選択制となり、一時的に若者の中絶数や出産数が増えましたが、2006年から再び性教育が必修化したところ、再度望まない妊娠や中絶、出産が減っています。このように、フィンランドの性教育は確実に効果が見られたことがわかっています。
10代の中絶率が低い!オランダの性教育の内容は?
オランダでは、小学1年生から性教育が始まり、高学年になると実際にバナナなどを使ってコンドームを使う方法を実習するなど、世界一実践的と言われる性教育が行われています。日本では中学生くらいの年齢になると、性行為や性感染症、避妊、妊娠などを具体的に学ぶのです。
その背景には、性に関する情報がテレビやインターネットで簡単に入手できる実情があります。つまり、思春期を待ってから性教育を始めたのでは遅いのです。オランダの小学校1年生とは5歳ですが、この年齢から性教育を実施することはUNESCOなどの推奨する時期とも合致しています。
オランダの性教育では、思春期を迎える前の時期から「性は睡眠や食事と同様に日常生活の一部であり、ごく自然で当たり前のことだ」という教えられ方をします。13歳を過ぎると、性感染症の予防や性行為そのものについて大切なこと、性交渉から妊娠・出産を含む生殖の過程、避妊の方法、同性愛など性の多様性を学びます。
オランダの多くの親は10代での性行為を容認しており、ごく自然に家族団欒の場で性の話が出ることもあるようです。性に関する情報を秘匿することが美徳と考えがちな日本では考えにくいことですが、オランダではこうしたたゆまぬ努力によって若者が性に関する十分な知識を身につけた結果、10代の出産率・中絶率が世界中でも極めて低くなっています。つまり、若者が人生設計できないうちから望まぬ妊娠をすることも非常に少なくなっている、ということです。
おわりに:現代では性に触れる最初の年齢が下がっているため、早めの性教育が推奨される
日本に限らず、情報端末やインターネットの発達で性に触れる年齢はどんどん下がっています。実際に、子どもが自分から興味を持ってからでは遅いので、早めの性教育をする家庭も増えています。
アメリカでは州によって方針も手法も異なりますが、フィンランドやオランダで包括的性教育や実践的性教育を取り入れた結果、10代の中絶・出産数が減少しました。自分自身を守るため、若年者が正しい性知識を身につけることが大切です。
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