企業がプロジェクトを進めるには、契約締結など法的手続きは必要です。法律に関する仕事を担当するのが企業法務部や法務担当者ですが、基本的な仕事内容や一日の仕事の流れはどのようなものなのでしょう。
この記事では、企業法務部の仕事や求められる知識やスキル、就職・転職で役立つ資格などを紹介します。
- この記事でわかること
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- 契約書の確認以外に企業法務部が行う業務
- 出社から退社までに企業法務部が担当する仕事の流れ
- 企業法務部への就職が有利になる学歴
- 社内のキャリアアップや転職など企業法務部のキャリアパス
企業法務部はどんな部署?顧問弁護士との違いは?
企業法務部は、総務部などのように企業の管理部門(バックオフィス)のひとつです。
- 企業法務部とは
- 企業の一部門として、契約内容の確認や子会社設立に伴う法的手続きなどを行う部署
大企業では法務部を配置していることが多いですが、中小企業では法務部がないことも少なくありません。
法律に関する専門知識を有し、会社が直面する法的事柄に対処することから、「法務部で働くのは難しそう」「真面目で堅そう」というイメージを持たれることが多いかもしれません。しかし企業法務部は、企業の経営活動や成長にも関わることができるチャレンジングな部署なのです。
企業法務部は
- 企業がビジネスを展開するための法的対応を行う「アクセル」的役割
- 企業が非合法的な判断や行動を避けるための「ブレーキ」的役割
といった2つの役割を担い、企業の成長と継続を支える部署といえます。たとえば企業が成長するときの株式上場などで、企業法務部が持つ法的知識が役立ちます。また、企業の経営活動が法律やコンプライアンスに違反していないかをチェックすることも重要な役割です。
法律知識を有して経営活動を支えるのが企業法務部ですが、企業の顧問弁護士との違いはどこにあるのでしょう。
- 法務部と顧問弁護士の役割の違い
- 紛争など法的問題に関して、企業が顧問弁護士に相談する場合があります。顧問弁護士は外部の存在として、法的判断が必要となったときに第三者の目線で相談受付や法的対応を行います。複数の企業と顧問弁護士契約を締結する弁護士も少なくありません
訴訟に発展した法的トラブルは、弁護士資格を有する顧問弁護士が質の高いスキルや専門知識をもって対応してくれるでしょう。しかし社外の顧問弁護士に比べると、企業法務部はその企業に所属していることもあり、当事者意識が高くなります。
一方、法務部を配置していない企業にとって、顧問弁護士は法的問題が発生したときの頼れる存在です。
企業法務部と顧問弁護士が担当する業務を分けて、適切な法的処理や法的対応を行っていくのが健全経営につながるでしょう。
企業法務部の仕事内容
企業法務部の仕事内容は、法律に関わる業務を中心に多岐にわたります。
- 契約法務・取引法務
- 法務の仕事の中でも契約・取引法務は大きな割合を占めるでしょう。売買契約や秘密保持契約、業務委託契約などの文書を確認する業務で、経営活動には欠かせません
- 機関法務・組織法務
- 株主総会や取締役会など企業経営に関わる業務です。「会社法」などの法律知識が求められます。その他、株式の発行や分割、子会社の設立などの法的手続きにも関わります。会社によっては総務部が機関法務を担当します
- コンプライアンス・社内規定
- 企業の社会的信頼を守るためには、コンプライアンスや個人情報保護法の遵守、それに伴う社内への周知徹底が必要です。適切に管理・運営するための社内規定の整備、社内研修や相談窓口の設置も企業法務部の業務範囲となります
- ハラスメントの相談窓口
- パワハラやセクハラといった社内のハラスメント問題は、労働法等に関わります。そのため、企業法務部が相談窓口となったり社内研修を行ったりすることがあります
- 法的紛争・クレームに関する法的対応
- クライアントとの間に発生したトラブルや顧客からのクレームに対して、企業法務部が対応することがあります。そうして問題が訴訟などに発展した場合、専門的知識を持った企業法務部の対応が求められます
企業法務部の一日の仕事の流れ
企業法務部の一日の仕事の流れの例を紹介します。
- 出社:メール対応
- 法律相談:営業部などと契約書締結についてのミーティング
- 契約書レビュー・契約書作成:契約内容や稟議書の内容を確認し、ドラフト作成や契約書への押印などを行う
- 昼食
- リーガルチェック:企業がリリースするサービスや商品に法的問題がないかリーガルチェックを行う
- 資料作成・研修準備:社内に向けたハラスメントやコンプライアンス遵守に関する資料作成
- 経営会議・役員会議:経営陣と会議をし、紛争トラブルなどの進捗を共有
- 顧問弁護士への相談依頼:企業法務部では対応できない紛争などについて、顧問弁護士へ相談依頼を行う
- 退社
社内でデスクワークや会議をする時間が多いですが、法的問題について顧問弁護士など第三者に相談したい場合は社外に出て訪問することもあるでしょう。
総務部が法務担当者を兼任している企業では、さまざまな業務と並行して契約書チェックなどを行うことになります。
企業法務部に繁忙期はあるの?
企業が新規プロジェクトを推進していたり、上場準備をしている時期は企業法務部の繁忙期になります。
企業法務部の仕事は、契約書の文言や数字などの不備がないように常に集中して行わなくてはいけません。不備があった場合は、企業やクライアントに損失を与えたり社会的信頼を失墜させるリスクがあります。
ひとつひとつの仕事を丁寧に的確に進めることが求められますので、仕事に時間がかかるのも仕方ありません。契約締結が重なっている場合は残業となるでしょう。
一方で、トラブルがなければ基本的には休日出勤はなく、休暇も取りやすい部署でもあります。ただし法律は改正されたり、新しい法律が定められることがあり、法務部として働き続けるためには法律の勉強が必要です。休日や仕事終わりの時間を勉強に充てる法務担当者もいます。
実務経験未経験者が法務部に就職するための方法
企業法務部に就職するには、主に2つの方法があります。
- 法学部または法科大学院を卒業する
- 法律系の関連資格を取得する
新卒で企業法務部に採用されることは簡単ではありません。企業法務部の人員は、他部署と比べてあまり多くはないことがほとんどです。規模が大きく契約締結の頻度が高い企業では、法務部の人員が多い場合もあります。ただし中小企業では法務部が1~2人ということは珍しくありません。そのため、新卒で法務部を募集している企業も少なめです。
新卒で法務部に配属される人は、法学部または法科大学院を卒業している場合が多くなります。その他の学歴の人でも法律系の関連資格の取得者など、法律知識を有している場合が多いです。
実務経験については、転職の際に企業法務経験者は優遇されることが多いでしょう。ただし実務未経験者が企業法務部に就職することは不可能ではありません。後述する法律系の関連資格保有者は、資格取得を自己アピールにつなげられます。
また、法務部以外の部署でも法務担当者として企業法務の仕事に携わることもあります。中小企業では法務部を設置していないことがあります。総務部に法務担当者がいるケースなどがそれに当たります。こうした人材を募集している企業の場合、法務の実務経験は必須でないことが多く、それまでの社会人経験でどんな業務を経験したか、マネジメント経験があるかなどが重視されるでしょう。
企業法務部で活躍するために必要なスキル
企業法務部に就職し、活躍してキャリアアップを図るためには、下記のスキルや知識を身に付けることをおすすめします。
- 法律知識
- ビジネス知識・ビジネス推進力
- 調整能力・コミュニケーション能力
- リサーチ能力
- デジタル技術など最新技術に関する知識
- 英語力・英文書作成能力(海外企業と取引がある場合)
企業法務部として働くならば、やはり法律知識は必要不可欠です。また企業経営に携わる身としてビジネスに関する知識や所属する企業の業界知識、ビジネス推進力も求められます。
利害関係者同士の主張をヒアリングし、調整する能力も必要です。営業部や企画部、経営陣など社内だけでもさまざまな部署とコミュニケーションを取り、契約内容を確認することも重要です。経営陣と会議をすることもありますので、年代やポジションを問わず、ビジネスについて議論するスキルを習得しておくと安心でしょう。
自社の商品やサービスが他社の既存商品・サービスと類似していないかなど、業界知識のリサーチも欠かせません。コンプライアンス遵守やハラスメント防止のように、世の中の人が企業に求める社会的役割も時代によって変わりますので、社会の変化にアンテナを張っておくとリスクヘッジにつながります。
近年は企業のプロジェクトがデジタル技術と切っても切り離せられない時代になってきました。ビッグデータの活用などが企業の成長を左右することもありますが、個人情報の管理など法的整備も必要です。企業法務部は、こうしたデジタル技術の進化も理解していきましょう。
海外企業との取引がある会社や外資系の会社で法務として働きたい場合は、英語力など語学力が必須でしょう。外国語での交渉や自社の主張を伝えるには、高い語学力が求められます。
企業法務部の給与やキャリアパスの描き方
専門的な法律知識などが求められる企業法務部は、給与が比較的高めの職種です。平均給与は約550万前後で、キャリアや企業規模によって前後していきます。企業によっては800万~1000万以上の給与も期待できるでしょう。
企業法務部のキャリアパスで管理職やグローバル企業への転職も
企業の経営活動は、クライアントとの契約締結やコンプライアンス遵守などが伴います。そのため、企業法務部や法務担当者に対するニーズは、これからもなくなることはないでしょう。
一般的な企業法務部の一員や法務担当者として安定的に働き続けることも可能ですが、キャリアアップを目指す人は次のようなキャリアパスが考えられます。
管理職としてキャリアアップ
企業法務部の主なキャリアパスのひとつが、管理職にキャリアアップすることです。部署内のマネジメント能力や人材育成能力、法的問題の解決能力、企業の経営に関わるビジネス知識の習得を目指しましょう。
外資系企業などで国際的な仕事を担う
また、外国語力や外国の法律知識を習得し、グローバル展開している企業や外資企業に転職するというキャリアパスも描けます。国によって法律が異なりますので習得すべき知識は膨大となりますが、年収の大幅アップや大規模なプロジェクトに携わることができるなど、やりがいも大きくなるでしょう。
弁護士資格を取得して顧問弁護士や企業内弁護士へ
弁護士資格の取得者は、顧問弁護士や企業内弁護士になる道もあります。就職前に弁護士資格を取得している人のほか、社会人になってから法科大学院へ進学して弁護士資格を取得するという道もあるでしょう。
企業法務部で活躍したい人におすすめの学歴や資格
企業法務部で働き、キャリアアップしていきたい人におすすめの学歴と資格を紹介します。いずれも難易度は高めですので、勉強や試験対策が必要です。その分、取得すると経歴として十分アピールできますので、是非チャレンジしてみてください。
- 企業法務部を目指す人におすすめの学歴
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- 法学部修了
- 法科大学院修了
- 企業法務部を目指す人におすすめの資格
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- 司法試験合格
- 司法書士
- 行政書士
- ビジネス実務法務検定試験
- 個人情報保護士
- マイナンバー実務検定
- 弁理士
- 知的財産管理技能検定
- 海外と取引のある企業法務部を目指す人におすすめの資格
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- 通関士
- 貿易実務検定
- TOEICなど外国語検定
おわりに:企業法務部は経営活動のリスクを防ぎ、成長を支えるやりがいのある仕事
企業法務部は、法的トラブルなど経営活動のリスクへの対処をするほか、企業が成長するために必要な法的手続きも担うなど頼れる存在です。法律知識やビジネスセンスなど高い能力が求められる分、やりがいや高い年収を期待できます。実務未経験者でも企業法務部に就職するチャンスはありますので、目標を設定して計画的に準備するのがおすすめですよ。
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