発達障害は、脳の働き方の違いにより特性が現れる生まれつきの障害です。
このため子どもの頃に発症しますが、気づかれず大人になることも少なくありません。今回は大人の発達障害の特徴を、社会生活上で起こりやすい困難や本人・周囲ができる対処法、発達障害について相談できる窓口などの情報と一緒に紹介していきます。
- この記事でわかること
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- 発達障害の人が苦手とすること
- 大人の発達障害で気をつけたい二次障害
- 職場や家族に発達障害の人がいるときの接し方
- 「精神・発達障害者しごとサポーター 養成講座」で学べること
おしゃべりが止まらない?大人の発達障害の特徴とは
発達障害は、脳の働き方や情報伝達の経路・速度の違いが原因で起こる先天性の障害です。
代表的な種類としては以下3種類が挙げられ、複数の発達障害を併せ持ったり、発話に困難が生じるチック症や吃音を併発することも少なくありません。
発達障害の種類
- 自閉スペクトラム症
- 主にコミュニケーションに困難を生じやすい発達障害。表情や視線、しぐさを用いた相互的なコミュニケーションをすることが苦手で、強いこだわりを持つ場合が多い。
- 注意欠如・多動症
- 「ADHD」とも呼ばれる種類。待てない、じっとしていられないなどの落ち着きのなさ、また集中力が続かない、ミスや忘れものが多いなどの特性を現すことが多い。
- 学習障害
- 「LD」とも呼ばれる種類。全般的な知的発達が見られないにもかかわらず、読み書きや計算など、特定分野の学習が極端に苦手で、生活上の困難を生じる。
先天性の障害である発達障害は、子どもの頃から特性に応じた療育と投薬を受けることで症状を抑え、困りごとを軽減できるよう治療していくのが一般的です。
しかし、障害の程度や症状の現れ方によっては本人も周囲の大人も発達障害に気付くことができず、大人になってから社会生活に困難を生じる場合があります。
このように大人になって初めて、特に大学生以上の年齢になってから発達障害が発覚し、さまざまな困難を抱える人のことを「大人の発達障害」と呼びます。
大人の発達障害の特徴は、うつなどの二次障害を発症しているケースが多いことです。成長とともに大学、企業と複雑な環境に身を置くようになります。しかし周囲とうまく関わりあいながら課題や仕事を進めることが難しい発達障害の人の多くは、多大なストレスを溜め込んでいきます。
そうして最終的には、辛い環境から離れようと退学や退職、転職を繰り返すようになり、精神的にも経済的にも不安定になって、二次障害を発症してしまうのです。
なお、大人の発達障害の人が日常生活や仕事中に見せることの多い特性としては、以下のような行動が挙げられます。
大人の発達障害が社会生活の中で見せる行動の例
- 職場の上司や同僚、部下とうまくコミュニケーションを取れていない
- そのときの状況や相手の役職等に関わらず、自分のことを話し出したら止まらない
- 特定の分野、特に本人が強く興味を持つ分野の話になると専門家並みの知識を披露する
- 暗黙のルールを理解したり、空気を読むことができないため共同作業ができない
- 急な予定や作業場、手順の変更に非常に弱く、不安で動けなくなってしまう
- 特定の場所や作業手順、ルーティンのようなものに強いこだわりを持っている
- 音や光など特定の刺激に非常に敏感で、辛そうにしている
- 大切なもの、約束であっても良く忘れてしまい、寝坊や遅刻も多い
- ちょっとした刺激で集中力が切れてしまい、ケアレスミスも多い
- 一方で自分が興味のあること、好きなことには過度に集中する
- 片付けや整理整頓をすること、計画的に行動することが極端に苦手
- 衝動的に行動したり、状況を考えず思ったことを口に出してしまう
- メモや読み書き、数字の管理など特定の仕事が非常に苦手でうまくできず、録音など他の手段で補おうとする
自分が発達障害かもと思ったときの対処法
前章で紹介した、大人の発達障害に見られる行動例に自身の普段の行動・困りごとが複数当てはまったなら、あなたも大人の発達障害かもしれません。
そこでここからは、自分に大人の発達障害の疑いを感じた場合、また大人の発達障害と診断を受けた場合に取るべき対処法を紹介していきます。
- イライラ、不安感を抑えるため自分に課したルールを意識的に緩和する
- 光や音がストレスに感じるようなら、メガネやサングラス、イヤホンや耳栓など刺激を緩和できる道具を使って軽減する
- 仕事でミスが多いようなら、自分が抜け漏れなく仕事を進められるようわかりやすくまとめたマニュアルを作り、これに沿って仕事を進める
- 暗黙の了解、曖昧な指示を理解できず困っているなら、直属の上司や指示を出す先輩により具体的な数字や、イメージを共有しやすい図などを使った指示を出すようお願いする
ものごとは予測した通り、自分のルール通りにはいかないものと思うようにする
上記の対策を取るには、職場でのサングラスやイヤホンの着用を認めてもらったり、指示の出し方を変えてもらうなど周囲の人の理解・協力が必要です。
信頼できる同僚、または上司に自身の困りごとや特性を伝え、互いに少ないストレスで仕事をするための対策だと説明して、協力を依頼しましょう。
職場の人が発達障害かもしれないときの対処法
自身ではなく、一緒に働く職場の同僚に発達障害の可能性を感じた場合は、以下のような配慮・対処をすると仕事が円滑に進むようになるでしょう。
- 他者との関係構築、コミュニケーションに強い緊張と不安を感じている可能性が高いので、本人から返事がなくても出勤時と退勤時の挨拶はする
- 仕事の進め方に問題がある、変えてほしいときは決して声を荒げず、上司や管理者など特定のひとりの人物から具体的な注意、説明をする
- 仕事の進め方がわからず困っているようなら、現状の確認のため声をかけてあげる
- 感覚過敏や多動で仕事に集中できていないようなら、図や数値を使って現状、今後の見通しを説明して具体的な指示を出してあげる
- 逆に過度に集中して仕事をしたり、完璧に仕上げようとするあまり時間をかけすぎているようなら、3時間を目安に休憩しチェックを受けることをルール化してみる
- 読み書きや計算など、特定の作業に明らかにてこずっているようなら、口頭や録音など他の方法で補足するようにしてみる
- 休憩中はコミュニケーションのきっかけを作るため声をかけるが、本人に過ごし方へのこだわりがあるようなら放っておく
- 職場でのルール違反、他の人へ迷惑をかける行動をしている場合は、声を荒げずルールに違反していること、具体的にどうしてほしいかを伝える
対して、大人の発達障害の人にしてはいけないことは、本人に適性のない仕事を与え、失敗体験を積み重ねさせることです。
本人の能力、個性を無視した仕事や立場を任せれば、発達障害の有無を問わず失敗してしまうのは当然のことでしょう。
しかし物事への得手・不得手がはっきりしている発達障害の人は、発達障害でない人に比べ不得意な分野で大きな失敗やトラブルに見舞われる可能性が高いと言えます。
このような失敗経験の連続は、発達障害の人を少しずつ精神的に追い詰め、うつなどの二次障害を発症させる要因となってしまうのです。
カサンドラ症候群に要注意!妻や夫が発達障害のときの接し方
職場よりも近い夫婦や家族、恋人に発達障害の人がいる場合の対処法は以下の通りです。
- 家族やパートナーに感じている困りごと、嫌なところを発達障害の症状と比較してみて、相手がもつ発達障害の特性を理解する
- こちらの意図や感情を読み取れていない可能性が高いので、発達障害の家族やパートナーに対し具体的に、丁寧に「○○が嫌だったからやめてほしい」などと伝えてみる
- 常識や家族内のルールを理解できていない可能性が高いので、物の収納場所ややってほしいことなど、生活上のルールははっきり決めて伝えておく
- こちらの希望を伝えるとき、話し合うときは決して声を荒げず、感情的にならずに話す
- どうしてもうまくコミュニケーションが取れずお互いに辛い場合は、一緒にカウンセリング等を受けてプロの力を借りる
なお、発達障害の家族やパートナーを持つ人に、自律神経失調症やうつ、自己評価の著しい低下や片頭痛などの症状が現れたときは「カサンドラ症候群」の可能性があります。
- カサンドラ症候群とは
- 身近な発達障害の人とのコミュニケーションがうまくいかず、そのストレスが原因でさまざまな心身症状を発症した状態。症状の現れ方はその人の体質、ストレスの内容などによっても変わってくる。
カサンドラ症候群を発症すると、最悪の場合ストレス源である発達障害の家族やパートナーと離れる必要が出てくるかもしれません。
自身にカサンドラ症候群の可能性を感じたら、心身症状が軽いうちに一人で落ち着ける時間を作る、専門機関へ相談するなどの対策を取りましょう。
大人の発達障害の相談先や受診先
自身に発達障害の可能性を感じ、医師の診察・診断を受けたい場合は、発達障害に対応した精神科の医療機関に受診予約を入れましょう。
なお、診断ではなく発達障害による生活上の困難を緩和したい、相談したい、就労するための支援を受けたい場合は、以下の期間に相談するのがおすすめです。
発達障害による困りごとの相談先
- 発達障害を扱う精神科、または心療内科の医療機関
- 精神保健福祉士、心理カウンセラーなどがいるカウンセリングルーム
- 市区町村の悩み相談窓口
発達障害の人への就労支援の依頼先
- 発達障害者情報・支援センター
- 発達障害支援センター
- 地域障害者職業センター
- ハローワーク
- 地域若者サポートステーション
- 発達障害の「友の会」「家族会」のような民間団体
- その他、民間の発達障害就労支援機関
また、発達障害の疑いを感じているものの受診を迷っている人、職場に発達障害の人がいて対応が困っている人は「精神・発達障害者しごとサポーター 養成講座」を受講すると良いでしょう。
eラーニング版も出ている「精神・発達障害者しごとサポーター 養成講座」は、厚生労働省が精神・発達障害についての理解と協力を促すために作った教材の一種です。
出勤時や仕事中、イベント時など複数のシチュエーション別に発達障害の特性や、発達障害を持つ人と働くためのポイントなどを紹介してくれます。
自身に発達障害の特性がどの程度見られるのか、精神科を受診すべきかどうかの判断目安や、職場の発達障害の人をどうサポートすべきかを考える基準として役立ちますよ。
おわりに:本人も周囲も発達障害の人の特性と個性を知り、活かし補う工夫をすればうまくいく!
発達障害の人は、そうでない人に比べ得手・不得手がはっきりしています。このため空気や相手の表情を読んだり、興味のないことに集中すること、読み書きなど特定の分野のことが苦手で、他の人と同じように仕事を進められないことがあるのです。しかし特性を知り、これを活かし補えるよう仕事の進め方、周囲とのコミュニケーションの取り方を工夫すれば生活上の困りごとはかなり少なくなります。本記事を参考に、対処法を考えてみてください。
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