就寝中に、自分では気づいていなくても歯ぎしりやいびきをしてしまう人がいます。大きな音がすると、一緒に暮らす家族の睡眠を妨害してしまうことも多いのですが、歯ぎしりやいびきにはどんな原因や症状があるのでしょうか。
今回は、歯ぎしりやいびきの種類や治療法、予防グッズについてご紹介します。自分や家族の歯ぎしりやいびきに悩んでいる方は、ぜひチェックしてください。
- この記事でわかること
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- 単純性いびき症、上気道抵抗症候群、睡眠時無呼吸症候群の特徴
- グラインディング、クレンチング、タッピングの特徴
- マウスピース、ボトックス、マッサージ、噛み合わせ治療の違い
- 市販の歯ぎしり、いびき対策グッズの選び方と注意点
睡眠時のトラブル!歯ぎしりといびきってどんな症状?
歯ぎしりもいびきも睡眠時によくあるトラブルですが、いくつかの種類があることをご存知でしょうか。まずは、いびきの種類から見ていきましょう。
- 単純性いびき症
- 普段いびきをしない人が、身体的な原因で一時的にしてしまういびきで、鼻詰まり、飲酒、疲労、風邪などが原因であることが多いです。原因を取り除けば治ることがあります。習慣的にいびきをしている場合、重度の症状に進行する可能性もあるので注意が必要です。
- 上気道抵抗症候群(SASの軽症型)
- SASのような無呼吸状態や低呼吸状態はないものの、習慣的ないびきが発生しています。上気道が狭くなるタイミングで強く呼吸をすると、睡眠が分断されてしまいます。本人はしっかり寝ているつもりなのに、日中に軽い疲労感や眠気を感じやすいのが特徴です。
- 睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)
- 習慣的ないびきとともに、睡眠中に呼吸が止まったり、浅く弱くなったりして、血中の酸素濃度が低下します。睡眠が分断されて頻繁に中途覚醒が起こるので、熟睡できず日中の眠気や倦怠感につながります。放置しているとさまざまな生活習慣病を合併したり、循環器疾患とも関連したりすることが指摘されています。
いずれも、睡眠中に狭くなった喉(上気道)を空気が通るとき、何らかの原因で上気道が狭くなるために起こります。狭いところを空気が通ろうとすると空気の乱流が発生し、軟口蓋・口蓋垂・咽頭などが震えて振動音が生じ、いびきとなるのです。睡眠時無呼吸症候群(SAS)の場合は、合併症を防ぐためにも早急に適切な治療を受け、改善する必要があります。
歯ぎしりにも、以下の3つのタイプがあります。
- グラインディング:一般的な歯ぎしり
- 就寝中にこすり合わせるタイプで、最も多くの人に見られます。特徴的な音がするため、周囲の人からも気づかにくく、発見が遅れることもあります。上下の歯を強く噛んだ状態から横にこすり合わせるので、最も歯にダメージを与えます。歯の摩耗が激しく、平らになりやすいという特徴があります。
- クレンチング:歯の食いしばり
- 就寝中だけでなく、日中も無意識に行ってしまうことがある食いしばりです。音が出ないため、周囲の人はもちろん本人も気づきにくいのが特徴です。継続して行っているうちに、歯が摩耗したりひび割れたりするだけでなく、歯茎や歯周組織にも悪影響を及ぼす可能性があります。
- タッピング:噛み合わせ
- 上下の歯をカチカチと噛み合わせるもので、寒くて震えているときのように見えます。自分で気づきやすく、注意もしやすいので発生頻度が少ないとされています。
それぞれの症状が単独で発生するものも、いくつかが複合的に発生するものもあり、歯ぎしりのタイミングによって「睡眠時ブラキシズム(ブラキシズム=非機能性咬合習癖)」と「覚醒時ブラキシズム」に分けて呼ばれることもあります。
いびきや歯ぎしりがあるときの自覚症状は似通っていて、以下のような症状が見られます。
- 就寝中に何度も目が覚める
- 日中、強い眠気が続く
- 倦怠感が続く
- 集中力が低下している
- 肩こり、片頭痛がひどい
- 歯の詰め物がよく取れたり、割れたりする
- 知覚過敏の歯が多い
- 顎関節症
いくつかの症状に悩まされる、あるいは症状がひどく日常生活に支障が出る、という場合は、いびきや歯ぎしりが原因かもしれません。
歯ぎしりやいびきが睡眠時無呼吸症候群のサインかも?
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、いびきの種類でも触れたように、睡眠中に呼吸が止まってしまう疾患のことです。呼吸が止まると血中の酸素濃度が低下するため、目が覚めてしまいます。覚醒後は再び呼吸し始めるのですが、眠っているとまた止まってしまうのを一晩中繰り返すため、夜間に深い睡眠がとれず、日中に強い眠気が出てしまいます。
酸素濃度が低下すると、それを補うために心臓が大量の血液を送り出そうとし、高血圧になります。すると動脈硬化が進んだり、やがて心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなったりします。睡眠不足によるストレスは血糖値やコレステロール値の上昇を引き起こし、さまざまな生活習慣病やメタボリックシンドロームを招くこともあります。
特に、1時間あたり10秒以上の呼吸停止が20回以上も出現するような中等度〜重度の睡眠時無呼吸症候群を放置していると、心筋梗塞や脳梗塞、生活習慣病のほか、眠気による事故などで死亡率が非常に高くなるため、早急に治療しなくてはなりません。ひどいいびきや睡眠中の呼吸停止があるという場合は、すぐに専門の医療機関で検査・治療を受けましょう。
歯ぎしりの原因と治療法
歯ぎしりとは、従来は睡眠時や無意識のときに歯をこすり合わせて音を立てることを指していました。現在では、覚醒時の動作も合わせて呼ばれています。歯ぎしりがなぜ起こるのかは明確にわかっていませんが、顎を動かす筋肉と神経のバランスが崩れて起こると考えられています。要因としては精神的・身体的なストレス、噛み合わせの悪さ、喫煙・飲酒、逆流性食道炎などが指摘されています。
重度になると、目覚めたとき顎が疲れていたり、歯・歯茎・顎の骨が過重負荷となったりしてしまいます。やがて歯の磨耗やひび割れ、破折、知覚過敏や歯周病の悪化といった歯に関するトラブルや、顎の痛み・口が開かない・顎関節症(口を動かすと音がする)など顎に関するトラブルが起こるリスクのほか、頭痛・肩こり・めまい・耳鳴りなどの原因となることもあります。
歯ぎしりの治療法としては、人工のプラスチックカバーであるマウスピースを歯につける「スプリント療法」のほか、ボトックスによる治療、マッサージ、噛み合わせの治療、認知行動療法などが行われています。
- マウスピースによる治療
- 歯科医院で最もよく行われる治療で、歯型をとって一人ひとり合う形のマウスピースを製作するものです。夜寝るときに装着し、歯ぎしりによって歯・歯茎・顎関節にかかる負担を軽減させます。マウスピースを装着することで歯ぎしりへの不安を薄れさせたり、ストレス軽減効果も期待できます。
- ボトックスによる治療
- 過度に緊張した筋肉に無毒化したボツリヌス菌を注入し、筋肉の動きを弱めて緊張を和らげます。もともと眉間や顔のシワをとるために美容外科などで使われている技術を応用したもので、1回の注射で6〜10ヶ月くらい持つとされています。発達し過ぎた咬筋を小さくしてえらを目立たなくしますので、小顔効果も期待されます。
- 噛むための筋肉マッサージ
- 緊張している筋肉のコリをほぐし、口の周りの筋肉をリラックスさせます。筋肉の張りを取ることで、ボトックス同様に小顔効果も期待できます。
- 噛み合わせの治療
- 噛み合わせの悪さが必ずしも歯ぎしりの原因とは限りませんが、正しい噛み合わせにすることでストレス軽減が期待できます。抜いた歯や治療途中の歯、痛みのある歯などを正しい噛み合わせに治すことで、歯ぎしりの要因の一つを取り除くことを目指します。噛み合わせに問題があるなら、まず矯正治療からスタートするのもおすすめです。
いびきの原因と治療法
いびきの原因は、最初にも触れたように単純性いびきのほか、睡眠時無呼吸症候群やそのごく軽度なものが挙げられます。症状がいびきだけの場合は咽頭に問題がある「単純性いびき」の可能性が高いため、耳鼻咽喉科を受診するのが良いでしょう。しかし、極度の肥満や睡眠時無呼吸症候群と思われる症状がある場合は、呼吸器科(呼吸器内科)を受診しましょう。
睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合、呼吸機能検査やポリソムノグラフィー検査、MRIやCTなどの画像診断が必要となるためです。また、診断や治療にあたっては耳鼻咽喉科の医師と呼吸器科の医師が連携し、適切に判断しなくてはならないケースもあります。できれば両方の科がある総合病院を受診するか、かかりつけ医に紹介してもらうと良いでしょう。病院によっては、「いびき外来」「無呼吸外来」など専門の科を設けているところもあります。
いびきの治療には、以下のような方法があります。
- 持続気道陽圧呼吸法(CPAP)
- 機械から鼻の穴を通して送られる風圧により、狭くなっている喉を広げる治療法です。一定基準以上の重度の睡眠時無呼吸症候群の場合は保険で行えるため、成人のほとんどが最初に行う治療のひとつといえます。
- 口腔内装置
- 歯科器具で喉を広げ、下顎や歯を前に出して無呼吸に陥らないようにする治療法です。医師の診断のもと歯科で作られ、睡眠時無呼吸症候群の場合は保険が適応されます。前への移動距離には限界があることから、軽度〜中等度の患者さんに使われることが多いです(重度の患者さんでも使えないわけではありません)。
- 手術
- 口蓋扁桃摘出術、咽頭手術、顎顔面手術などの治療です。CPAPや口腔内装置は対処療法ですが、手術は根本治療とされています。成人では、口蓋扁桃肥大が深刻な人など一部の人でしか行われません。子どもの場合、いびきは口蓋扁桃肥大や咽頭扁桃(アデノイド)が原因であることが多いため、主な治療の選択肢とされます。大人でも子どもでも、手術当日は痛みが強く出血リスクもあるため、夜間を含め術後のケアがしっかりできる病院で行うことが重要です。
- 薬物療法
- 軽度〜中等度の子どもの場合、飲み薬(抗ロイコトリエン薬など)と鼻につけるステロイド薬を使うことがあります。すぐに手術せず、肥大した咽頭扁桃や口蓋扁桃を小さくし、鼻の通りを良くしてきます。
局所麻酔下外来軟口蓋レーザー手術は、手術室で全身麻酔下に行わないので手軽ですが、アメリカのガイドラインではいびき改善に効果が認められないとされています。そこで、日本でもこの手術を行えるのは「睡眠時無呼吸症候群の要件を満たさない」「30歳未満かつ、BMIが肥満ではない(25以下)」の人で、かつ口蓋垂が長く、後口蓋弓が広いなどの咽頭である人に限られます。
歯ぎしり予防に!市販の「ナイトガード」の選び方
前述のように、歯ぎしりの治療で最も多く使われるのはマウスピース(ナイトガード)です。ナイトガードには市販のものも多く、歯科医で作ってもらう他にも以下のような商品を自分で購入することもできます。
- 奥歯専用タイプ:装着時の違和感が少ない
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- なるべく、口に入れたときナイトガードが舌の下に入るかどうか確認してから使う
- 下の上にしか置けない場合、睡眠時に飲み込んでしまう危険性がある
- 全体をガードするタイプと比べ、支圧が分散してフィット感が高く、ずれにくい
- 前歯と奥歯の3点に圧力がかかるため、衝撃をピンポイントで吸収し、装着時のストレスが少ない
- 湯につけて成型するタイプ:フィットしやすい
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- シリコンや樹脂でできた型を熱湯で柔らかくし、いったん水で冷ましてから口に入れて上下の歯をしっかり噛み、成型する
- 素材が柔らかいので装着しやすく、自分の歯型に合うナイトガードが作れる
- 逆に、きちんと歯型に合わせて作らないとかえって歯ぎしりを悪化させる可能性があるので注意
- 成型不要タイプ:すぐに使い始められる
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- 素材が頑丈なものが多く、少々歯ぎしりが強くても壊れにくい
- 合わないと効果が発揮されにくいこと、装着時の違和感が起こりやすいことがデメリット
- 比較的歯並びがキレイな人や、矯正で歯並びを整え終わった人向け
また、ナイトガードの素材によっても頑丈さや弾力性は異なります。素材ごとのメリット・デメリットもおさえておきましょう。
- シリコン
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- 弾力性が高く、装着時の違和感が少ない
- 熱に強く蒸気通過性が高い、弾力性・柔軟性に優れているため丈夫
- ナイトガード以外にも多くの医療機器で使われている
- 奥歯専用タイプを使う場合、柔らかいシリコン製がおすすめ
- 硬い素材だとさらに強く噛んでしまい、顎や関節を痛める可能性がある
- EVA樹脂
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- 色あせや劣化に強い
- 色あせや劣化に強く、弾力性があって低温でも変形しない
- 成型タイプのナイトガードに多く、お馴染みのタイプとも言える
- 熱には弱いので、成型時以外に高温の場所に置かないよう注意する
- プラスチック
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- 頑丈で壊れにくいが、慣れるまで時間がかかる
- 硬く頑丈だが、その分初めて使う人には口腔内の違和感があるかも
- 慣れるまでに2週間くらいはかかるとされる
- 柔らかすぎる素材は逆に食いしばりがひどくなることがあるため、違和感を我慢できるならプラスチック製もおすすめ
また、食いしばりでは特に噛む部分に過剰な力が加わることから、奥歯が噛み合う部分の構造をチェックしておくと良いでしょう。二重構造や波状の歯圧吸収構造タイプなら力を逃す構造なので、食いしばりタイプの歯ぎしりをしてしまう人にもおすすめです。
いびき予防グッズは鼻用と口用でどんな違いがある?
いびきや睡眠時無呼吸症候群は口呼吸で起こることから、鼻腔を広げたり、口にテープを貼ったりして症状が改善されるケースもあります。また、仰向けに寝るといびきをかきやすくなるため、横向きに寝るのも良いかもしれません。眠りが浅い「レム睡眠」のときにいびきをかきやすい人は、サプリメントが有効なこともあります。
ただし、こうした市販のグッズはあくまでも対処療法です。市販グッズで症状が改善しない場合は、早めに専門医に相談しましょう。
鼻用いびき対策グッズ
- ノーズピンタイプ
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- 鼻詰まり、鼻腔が狭まって起こるいびきに
- 鼻呼吸が苦手、風邪や花粉症で鼻詰まりが起こったというときのいびきに有効
- 風邪や花粉症の場合はたいてい症状がおさまればいびきも改善されるが、改善されない場合はグッズを使うのも手
- セットするだけで鼻腔を広げてくれるので、鼻呼吸がしやすくなる
- ノーズシール
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- 疲労による一時的ないびきにおすすめ
- お酒を飲んだとき、疲労・ストレスなどで一時的にいびきをかいてしまう場合
- 使い捨てタイプで手軽に使えるシールで鼻腔を広げれば、いびき解消しやすくなる
口用いびき対策グッズ
- マウスピース
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- 舌が落ちて起こるいびきに
- 舌が喉の方に落ち込むため口を開けていびきになる場合、マウスピースがおすすめ
- 口にはめると舌が上顎に固定され、喉の方に落ちにくい
- 仰向けの体勢にならないよう、横向きで寝るのも重要
- 口呼吸防止シール
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- クセで口を開けて寝てしまう人に
- 貼って眠るだけで口が開くのを防いでくれるので、手軽に使える
- 医療用テープなどで使われる粘着剤を使っているので、肌に優しい
おわりに:歯ぎしりやいびきは市販グッズで改善できることも。ひどい場合は病院へ
歯ぎしりやいびきは自分で気づきにくいものですが、睡眠時無呼吸症候群などの場合は放置していると重篤な生活習慣病や心疾患、メタボリックシンドロームなどを招く場合もありますので、すぐに治療が必要です。
症状が軽度の場合はナイトガード、ノーズピンなどの市販グッズで改善できることもありますが、症状がひどい場合や、市販グッズを使っても治らない場合は早めに専門医に相談し、適切な検査や治療を受けましょう。
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