適応障害とは精神疾患の一種で、発症すると仕事やプライベートにさまざまな支障をきたします。うつ病や統合失調症などと比べてまだまだ知名度は低いのですが、同じ気分障害・不安障害の一つです。
今回は、働いている人が適応障害を発症してしまったとき、仕事は続けられるのか、休職中の過ごし方はどうすれば良いのかなどをご紹介します。活用したい支援制度についてもぜひ確認してください。
- この記事でわかること
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- 心身ともに現れる適応障害の症状の種類
- 早期治療が必要な仕事や出勤中の異変
- ストレス蓄積と睡眠不足を改善する方法
- 適応障害で休職中の心身の回復ステップ
適応障害とは?頭痛や暴飲暴食がサインかも?
適応障害とは、WHO(世界保健機構)が定めた診断ガイドライン「ICD-10」によれば、以下のように定義されています。
ストレス因により引き起こされる情緒面や行動面の症状で、社会的機能が著しく障害されている状態
ストレス因となる出来事は個人レベルから災害など地域社会を巻き込むレベルまでさまざまであり、「重大な生活上の変化」や「心身に大きな負荷をかける生活上の出来事」のことを指します。ストレスの感じ方は人によってさまざまで、ある人にとってはストレス因となることがある人にとってはストレス因ではないなど、個人の捉え方・感じ方や耐性も大きく影響します。
つまり、適応障害とはある生活の変化や出来事がその人にとって重大であり、普段通りの生活が送れないほど抑うつ気分や不安、心配が強い状態のことです。また、統合失調症・うつ病などの気分障害や不安障害といった診断基準を満たす場合はそちらが優先されますので、適応障害と診断されるのは他の疾患に当てはまらない場合のみです。
診断ガイドラインにはさらに「発症はその変化や出来事が生じて1ヶ月以内であり、ストレスが終結した後6ヶ月以上症状が持続することはない」とあります。ストレスが消えれば症状もほどなく消える、というわけです。ただし、ストレスが慢性的に続く場合は症状も慢性的に続いてしまいます。
欧州での報告によれば、適応障害を発症するのは人口の1%とされています。一方で、日本では末期がん患者の適応障害有病率は16.3%というデータがあります。さらに、適応障害と診断された後、5年後には約4割の人がうつ病など診断名を変更されているという事実もあります。つまり、適応障害とはその後の重篤な疾患の前段階である、という可能性も否めません。
適応障害の症状としては、以下のようなものが見られます。
- 抑うつ気分、不安、怒り、焦り、緊張など情緒面の症状
- 置かれている状況で、何かを計画したり続けたりすることができない
- 行き過ぎた飲酒や暴食、無断欠席など行動面の症状
- 無謀な運転や喧嘩などの攻撃性
- 不安が強く緊張が高まるとドキドキする、汗をかく、めまいがするなど身体症状が起こる
- 子どもの場合、指しゃぶりや赤ちゃん言葉などの「赤ちゃん返り」が出ることも
適応障害では、ストレス因から離れると症状が改善するケースが多いです。そのため、仕事上の問題がストレス因だという場合、勤務する日は憂鬱で不安も強く、緊張で手が震えたり、めまいがしたり、汗をかいたりしてしまうけれど、休日には気分もラクになり、趣味や余暇の時間を楽しめるというケースが少なくありません。
うつ病などはっきりとした精神疾患の場合は、ストレス因から一時的に離れても気分が改善せず、抑うつ気分が続いて何も楽しめなくなります。この点が、適応障害と他の気分障害や不安障害との大きな違いです。興味・関心がなくなった、食欲が明らかに落ちた、眠れないなどが2週間以上続く場合は、適応障害ではなく他の精神疾患を疑った方が良いでしょう。
適応障害のストレス因となる変化や出来事は、仕事・家庭・学校などさまざまな場面で起こります。
- 仕事に関するストレス因としてよく見られるもの
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- 上司を中心とした職場の人間関係
- 異動による仕事内容や環境の変化、仕事量の多さ、責任の重さ
- 家庭やプライベートに関するストレス因としてよく見られるもの
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- 夫婦の不仲、義理の両親との関係、育児や教育の問題、引っ越し、経済的問題
- 結婚問題、失恋
- 学校に関するストレス因としてよく見られるもの
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- 転校、いじめ、受験の失敗
慢性疾患やがん治療など、病気の発症に伴って適応障害を発症することもあります。人生の節目で特に現れやすい疾患と考えられ、よく知られている「五月病」もまた適応障害の一つとされています。
適応障害が仕事やキャリアに与える影響
実際に適応障害になった場合、仕事ではどんな悪影響が生じるでしょうか。精神面・行動面・体調面の3つに分けて見ていきましょう。
- 精神面の変化
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- 上司や同僚とのコミュニケーションが変化し、関係がスムーズに行かなくなる
- 憂鬱な状態が続き、やる気が起こらなくなる
- 特に、普段元気で活発な人ほど、ギャップが大きくわかりやすい
- 行動面の変化
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- 業務遂行に積極性が見られなくなり、注意力がなくなる
- 今までしなかったようなミスを多発する
- とても温厚だったり、明るく人懐こかったりした人が暴言を吐いたり、暴力的になったりする
- 重症化すると、職場に行くこと自体が不安になり、欠勤が増える
- 職場へ連絡することや、職場からの連絡に嫌悪感や緊張が伴い、無断欠勤する
- 電話やSNSによる連絡にも反応せず、コミュニケーションが困難になることも
- 体調面の変化
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- 頭痛や倦怠感、肩こり、吐き気などが生じ、出勤できなくなる
- 仕事関係にストレス因がある場合、出勤しても仕事にならないことが多い
- 食欲不振から栄養失調に陥る
- 不眠で朝起きられなくなったり、昼眠くなったりするなど生活リズムが崩れる
特に体調面での不調は自己管理が足りないとみなされてしまうことも多く、精神疾患と理解されにくいこともあります。ずる休みや仮病と思われて余計に辛い思いをする人は少なくありません。職場全体で適応障害を含めた精神疾患について、日頃から十分な知識を得るため定期的に研修を行うなどの姿勢が重要です。
仕事を続けながら適応障害と付き合う方法
適応障害の基本的な治療法は、まずストレス因を取り除き、その後に本人の適応力を高めるという順番で行います。その過程で必要に応じ、情緒面や行動面にアプローチすることもあります。
- 1:ストレス因の除去
- いわゆる環境調整で、配置を変えてもらう、仕事を休むなどです。ストレス因は家庭環境のように完全に取り除けないものもあるため、必ずしも取り除くことで改善がみられるとは限りません。
- 2:本人の適応力アップ
- ストレス因に対する、本人の受け止め方のパターンにアプローチする(認知行動療法)と、現在抱える問題と症状自体に焦点を当て、共同的に解決方法(問題解決療法)があります。いずれも治療者と本人が共同で行うものですが、本人が主体的に取り組むことが大切です。
- 必要に応じ、情緒面・行動面へのアプローチ
- 薬物療法で、情緒面や行動面の症状にアプローチします。不安・不眠に対してベンゾジアピン系の薬、うつ状態に対して抗うつ薬などが処方されます。
適応障害の治療では、薬物療法はあくまでも「出た症状に対して薬を使って抑える」というものなので、対処療法にすぎません。つまり、薬物療法だけに頼るのではなく、薬物療法と並行してストレス因の除去や適応力のアップといった根本的な解決が必要です。とはいえ、職場の人間関係や仕事内容がストレス因になっている場合、ストレス因を除去するのは現実的に難しいでしょう。
一方で、適応障害は他の多くの精神疾患と同様、早期発見・早期治療が重要です。早期に適切な対処や治療を開始すれば、多くの人は回復に向かうとされています。ところが、適応障害が慢性化してうつ病、アルコール依存症、反社会性パーソナリティ障害など、他の精神疾患や精神症状へ進行してしまうと、治療はより困難となります。
ストレスを感じたら、適応障害を発症してしまう前にできるだけ早く、周囲に相談したり支援を求めたりして、ストレスに上手に適応していけるようにすると良いでしょう。心身に症状が出ているとわかったり、自分一人で対応しきれないと感じたり、支援を得られにくい状況にあったりするなら、一度、心療内科や精神科の専門医を受診するのがおすすめです。
では、逆に適応障害と診断されても仕事を続けていくには、どうすれば良いのでしょうか。まずは、以下の4つのポイントを心がけて過ごしましょう。
- 十分な睡眠とバランスの良い食生活
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- ストレスを避けるためには、まず基本的な生活習慣が重要
- 業務全体を把握するため、タスクや進行状況を書き出して「見える化」する
- 思考や記憶が整理されてやるべきことが明確になり、安心感が生まれ、目の前の作業に集中できる
- 日記に今日の出来事や感情を書きとめると、落ち着いて1日を振り返り、明日に備えられる
- 気の置けない同僚や友人と話す機会を積極的に設け、ストレスを溜め込まないようにする
- 心を開ける相手と話し、感情や悩みを吐き出すことで気持ちがラクになる
- 上司や職場の同僚とも、気持ちに負担にならない程度にコミュニケーションを
- 周囲との相互理解が深まると、お互いに配慮すべきこともわかり、仕事を進めやすくなる
- 調子が良いとき、忙しくて生活リズムが崩れるときは、通院や服薬を怠りがち
- 医師から指示がある限り、継続するのを忘れずに
- 自分の体調、通院・服薬リズムに応じて出退勤時刻・休暇・休憩などを調整してもらうよう、上司とよく相談する
また、そもそも仕事を選ぶとき、あるいは転職・再就職するときに同じようなストレスが発生しないような仕事を選ぶことも、適応障害と付き合いながら長く仕事を続けていくためには重要です。そのためには、業務内容だけでなく職場の雰囲気、コミュニケーション方法、体力面など、さまざまな視点から自分のストレス傾向を把握しなくてはなりません。
もし、適応障害を発症した後も現在の会社で働き続けたいなら、専門医やカウンセラーなどとよく相談し、自分のストレス傾向について把握した上で、業務内容の変更や量の調整、部署の異動などを会社や上司と相談しましょう。
休職・離職中の過ごし方って?適応障害を支援する制度はある?
適応障害を発症した後、休職する場合は多くの会社で医師の診断書が必要です。診断書が発行されるまでには初診から数ヶ月かかる場合もありますので、不調を感じたらできるだけ早めに受診しましょう。
診断書が発行されたら、メールや電話で上司や所属長に面談を申し込み、そこで話し合いを行います。場合によっては、人事担当者との間で異動などの打診を含むこともありますが、原則としては診断書を提出して経過を説明後、社内の書式に則って申請書を提出し、休職手続き完了です。
休職中は、医師やカウンセラーとの定期的な面談を欠かさないようにしましょう。心身の状態についてアドバイザーを得ることで、休職中をただ漫然と過ごすのではなく、経過を観察しながら復職に向けて回復に努められます。診断やカウンセリングの内容に納得できない、薬物療法に抵抗があるなどの場合は、別の病院やカウンセラーにセカンドオピニオンを受けることもできます。
休職中は、だいたい以下のステップを経て回復していきます。
- 初期
- 心身を休める時期。生活リズムにこだわりすぎず、まずはゆっくり休みましょう。この時期は判断力も低下するため、休職に対する罪悪感を強く感じてしまうこともあります。重要な決断は避けてください。あくまでも症状の改善を優先し、復帰後のことを考えるのは症状がある程度落ちついてからにしましょう。
- 回復期
- 徐々に生活リズムを整え、少しずつリハビリを開始する時期です。低下した体力を回復するため、散歩などの軽い運動を始めます。できれば午前中の活動が良いですが、最初は午後や夕方からでもOK。午前中の活動が継続してできるようになってから、散歩の時間を延ばしたり、水泳や軽いスポーツで負荷を上げたりしましょう。
- 復職準備期
- 体力が回復してきたら、心や脳のリハビリを行います。図書館やカフェなどを利用し、午前中は外で過ごす時間を増やす(週2回くらいからスタートし、最終的には週5回の外出ができるように)時期です。最後に、通勤訓練を行って復職や再就職に備えます。
通勤訓練とは、体力や気力が十分回復してきて復職を具体的に考えるようになった頃から行うもので、生活リズム表などを活用し、復職後に想定される起床時間や就寝時間を計算して維持するものです。これは個々の企業や業務内容によっても異なりますので、最低2週間は生活リズム表を使って記録し、復職可能かどうかを主治医や産業医と相談していきましょう。
また、休職前に休職中の規定や休職中の会社窓口、傷病手当金などの制度についても確認しておきましょう。会社との連絡は取り過ぎても取らな過ぎても良くありません。電話でもメールでも構いませんので、月に1回程度は会社に現状報告などを含めた連絡を取りましょう。その際、必要があれば主治医に診断書を書いてもらうこともあります。
適応障害で休職・退職する際には、以下のような経済的な支援制度が利用できます。
- 自立支援医療制度(精神通院医療制度)
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- 医療費の自己負担額を軽減する制度
- 精神疾患の治療のために通院中の人、治療によって症状が安定したものの、再発予防のために通院中の人が対象
- 疾患の種類や所得に応じて、1ヶ月あたりの負担の限度額が認定される
- 障害者手帳
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- 疾患の種類や程度に応じてさまざまな福祉サービスや税額控除、公共交通機関の運賃や公共施設利用料の割引などを受けられる制度
- 適応障害で必ず認定を受けられるとは限らないが、主治医に相談して取得できる場合も
- 障害者雇用の枠で、症状に対する理解や支援を得られやすい職場で働く選択肢を選ぶこともできる
- 障害年金
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- 障害や疾患のため、生活や仕事に支障が出たときに支給される年金
- 働いていても、症状によって仕事が制限されていると判断されれば、生活の一部を支援する額が支給される
- 生活保護
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- 怪我や疾患で働くのが難しく、収入が不十分で生活に困る場合、健康で文化的な最低限度の生活を保障するための費用が給付される制度
- 受給のためにはさまざまな条件があるので、まずは住んでいる市区町村の窓口に相談
- 傷病手当金
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- 疾患や怪我で仕事を長期間休むとき、無収入になってしまうことを避け、生活を保障する目的で支給される手当金のこと
- 労災保険の給付対象とはならない、業務外の理由による休職に限られる
- 保険組合の加入期間により、平均収入額の3分の2または月額28〜30万円のいずれかが、最長1年6ヶ月まで支給される
適応障害の人が転職するときに活用したいサービス
さまざまな理由で元の会社に復職せず、転職を目指すときには、適応障害に理解のある転職支援サービスを使うと良いでしょう。例えば、ハローワークの専門援助窓口や専門の人材紹介会社、就労移行支援などが利用できます。ぜひ、こうしたサービスを上手に活用し、自分に合った転職先を見つけましょう。
- ハローワークの専門援助窓口
- 障害者専門の窓口があるため、自分だけで活動するよりさまざまな支援を受けやすいといえます。障害者職業センター、障害者就労・生活支援センターなどと連携してくれます。自分だけの力で就職・転職活動するよりも負担が少なく、サービスの恩恵を受けやすいでしょう。
- 専門の人材紹介会社
- 障害を持つ人を対象として人材紹介する、専門の事業所です。それぞれに得意分野や独自の企業とのつながりもあるため、非公開求人も多いのが特徴です。登録や基本的なサービスは無料なので、まずは登録して実際にサービスを受けてみるのがおすすめでしょう。
- 就労移行支援
- 就労移行支援事業所は、障害者総合支援法下の自立支援給付サービスのことです。障害者が一定期間通所し、就労に関するノウハウや就活についての指導、事業所での実習なども行えます。障害者福祉サービスの一環なので、原則として自立支援給付制度により、利用料の1割負担で済みます。
おわりに:適応障害が疑われたら、早めの対策が重要
適応障害とは、ストレス因となる変化や出来事によって心身にさまざまな症状が出る精神疾患のことを指します。精神面でも体調面でも不調が出ることから、仕事にもプライベートにも悪影響を及ぼします。
適応障害と付き合いながら仕事をするには、そもそもストレス因が発生しにくい仕事を選ぶほか、周囲に相談したり支援を求めたりすることも大切です。必要に応じ、適応力アップのために認知行動療法などの治療も行いましょう。
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