最初に入った会社が合わないと感じる、ステップアップやキャリアアップを目指したい、など若手社員が転職を考える理由はさまざまです。若手社員が退職するときに気になることのひとつが「退職金はどのくらいもらえるか」でしょう。
今回は、若手社員が転職のために退職するとき、どのくらい退職金をもらえるのか中小企業の例を中心としてご紹介します。転職を考えている人は参考にしてみてください。
- この記事でわかること
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- 「退職一時金制度」「企業年金制度」「退職共済金」の違い
- 退職金の計算方法と多くもらえる人の特徴
- 「退職共済金」と「選択定年師度」の特徴と違い
- 自己都合退職と会社都合退職が退職金に与える影響
20代・30代が知っておきたい!退職金がもらえるか確認しよう
そもそも退職金とは、退職するときに勤めていた企業から支払われる賃金のことを指します。定年退職する際にもらうイメージが強いですが、若くして会社を退職するときでも、場合によっては退職金がもらえます。退職金の支給方法には「退職一時金制度」と「企業年金制度」の2種類があり、以下のような違いがあります。
- 退職一時金制度
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- 退職するとき、一度にまとめて退職金が支給される。企業の退職金規定に従って支払われる
- 退職までに規定が変更されない限り、企業の経営状況と関係なく支払いが確約されるのが特徴
- 確定給付企業年金などの制度へ移行する企業もある
- 企業年金制度
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- 退職金を一度にまとめて支払うのではなく、一定期間あるいは生涯にわたって一定の金額が年金として支払われる
- 企業年金制度と退職一時金制度を併用している企業もある
また、「退職共済金」という制度で支払われる企業もあります。上記2つの退職金は企業から直接支払われますが、
- 退職共済金
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- 会社が共済(退職金共済)に入り、共済制度を通じて退職金が支払われる
- 退職金共済にはさまざまな種類があり、商工会議所の「特定退職金共済制度」、中退共と呼ばれる組織による「中小企業退職金共済」などが有名
- 退職時に支払われるお金は、「退職金」と「退職共済金」のいずれか片方であることも、両方であることもある
- 退職金共済は、会社の経営状況いかんに関わらず、積み立てた分はしっかり支給される
- 共済制度によっては積み立てる金額が少額で、期待していたほどの金額が手に入らないこともある
勤めている会社に退職金があるのかどうか、その制度はどうなっているのかなどを調べるためには、「就業規則」や「賃金規則」を確認すると良いでしょう。退職金規定があれば、支払われる金額や支払い日などの決まりがはっきり書かれているはずです。とはいえ、規定は会社の経営状況や社会情勢によって変更されることもありますので、規定が変更されたら必ずチェックしましょう。
もし、退職金制度に社員自身の負担があると言われた場合は、給与明細に「企業年金掛金」や「退職金掛金」、「確定給付掛金」などの欄があるはずなので、必ず確認しましょう。上記の方法で調べられないときは、総務や人事など管理部に問い合わせれば教えてもらえるはずです。
長く勤めるほど退職金が増える?どんな人が得をする?
多くの企業では、在籍期間が長くなるほど退職金が多くなるよう設定されています。これは国家公務員の規定を参考にしていて、以下のような計算式で退職金を算出するためです。
- 退職手当の計算例
- 基本額(退職日の俸給月額×退職理由別・勤続期間別支給率×調整率)+調整額
そもそも退職金が支給されるのは、「長い間会社に勤めて貢献してくれてありがとう」という企業からのインセンティブのような意味合いから来ています。ですから、退職金は勤続期間が長くなればなるほど、掛け率も高くなります。逆に、1〜2年で辞めてしまった場合は退職金を支給しない、という会社も少なくありません。
つまり、転職を何度も繰り返していると、それぞれの会社での勤続年数は短くなり、トータルでもらえる退職金も少なくなってしまうのです。退職金をたくさんもらいたい、と考えるなら、できるだけ一つの企業に絞って長く勤めるのが良いでしょう。
20代・30代で転職を検討中…自己都合退職で退職金はもらえるの?
転職するときでも、どうせなら退職金はもらいたいものです。このとき注意したいのは「退職事由」で、退職の仕方によって退職金額が変わることがあります。大きく分けて、退職には「自己都合退職」「会社都合退職」「定年退職」の3種類があり、それぞれ以下のように異なります。
- 自己都合退職
- 自分で辞表を出して会社を辞めることを申し出、業務の引き継ぎを行い、退職するもの
- 会社都合退職
- 会社の都合で辞めさせられる、会社が倒産して辞めるしかない、など
- 定年退職
- 会社が定めた一定の年齢に達した場合、一律に対象となる
「会社都合退職」と「定年退職」の場合、基本的に退職金は規定通りもらえます。リストラなどの場合は増額されるケースもあります。しかし、「自己都合退職」の場合は受取額に差があるのが一般的です。これらの規定は退職一時金であれば「退職金規定」、企業年金であれば「企業年金の規約」に支給条件として記されています。
自己都合退職で退職金が少なくなるのはなぜ?
自己都合退職は、会社にとって予定外の事態なのです。これからもっと活躍してほしい、戦力になってほしいと思っていた人材がいなくなると、新たな人材を確保しなくてはなりません.
採用だけでなく研修などを一から行わなくてはなりませんので、会社としてはコストがかかります。
これまでの日本の退職金制度設計においては、自己都合で辞めていく若手社員に対し「ペナルティ」として減額する考え方がありました。実際に、退職金規定や企業年金規約を見れば、勤続年数によって決まる「自己都合退職時の減額率」があるはずです。この減額率は、勤続年数が短いほど高くなる傾向があり、ある程度勤続年数があれば減額率は低くなるのが一般的です。さらに「55歳以降」など、会社としてはいつ辞めても構わないというような年齢であれば、減額率がゼロに設定されていることもあります。
このように減額率を高く設定することで、転職を思いとどまる人もいると考えられています。つまり、これらのルールはペナルティとしての意味合いのほか、若手社員が会社にとどまってくれるような動機づけにもなっているわけです。
若手とベテランで数百万~数千万の違い?中小企業の退職金の相場
では、実際に若手とベテランで退職金にどのくらいの差が出るのでしょうか。中小企業の場合で、若手社員とベテラン社員の退職金の相場を見てみましょう。
若手社員(大学卒)の場合の退職金相場
勤続年数 | 自己都合退職 | 会社都合退職 |
---|---|---|
1年 | 9万円 | 15万円 |
3年 | 23万円 | 34万円 |
5年 | 42万円 | 60万円 |
10年 | 113万円 | 148万円 |
15年 | 214万円 | 266万円 |
※引用:東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」
上記はあくまで目安です。会社や契約内容によっては、退職金が支給されるための条件や勤続年数が異なります。
自己都合で若手社員が退職した場合でも、ある程度まとまった金額は支払われます。この金額は中小企業における平均なので、大企業を含めるともっと高くなるでしょう。一方、ベテラン社員が自己都合退職した場合、退職金はどのくらいもらえるのでしょうか。
ベテラン社員の場合(大学卒)の退職金相場
勤続年数 | 自己都合退職 | 会社都合退職 |
---|---|---|
20〜24年 | 780万円 | 634万円 |
25〜29年 | 1399万円 | 1786万円 |
30〜34年 | 2110万円 | 2572万円 |
※引用:e-Stat「平成30年就労条件総合調査(退職給付(一時金・年金)の支給実態)」
若手社員で勤続15年の場合、ベテラン社員の勤続20〜24年の場合を見てみると、5年程度の違いで退職金の相場が大きく変わっていることがわかります。さらには、勤続年数24年と25年、29年と30年でも大きな違いがあります。
大企業の勤続年数別の退職金相場は?
では、中小企業でなく大企業の場合はどうでしょうか。これも大学卒の社員が自己都合退職する場合の相場を見てみましょう。
勤続年数 | 自己都合退職 | 会社都合退職 |
---|---|---|
3年 | 34万円 | 70万円 |
5年 | 65万円 | 120万円 |
10年 | 192万円 | 316万円 |
15年 | 422万円 | 605万円 |
20年 | 812万円 | 978万円 |
25年 | 1290万円 | 1471万円 |
30年 | 1942万円 | 2112万円 |
このように、中小企業と比べると若手の頃は大企業の方が退職金は多く支給される場合が多いですが、勤続年数が長くなるにつれてその差は埋まってくることがわかります。
40代50代の早期退職なら金額が割り増しの可能性も
最初にリストラなどの場合は退職金が割増になるケースもあるとご紹介しましたが、40代や50代で定年を待たずに早期退職する場合、「早期優遇退職制度」という制度の対象となることがあります。これは定年前の社員を対象とし、退職金を優遇するなどして退職者を募るもので、さらに「(早期)希望退職制度」と「選択定年制度」の2種類の制度に分けられます。
- (早期)希望退職制度
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- 会社の業績悪化を理由に、構造改革の一環として行われるもので会社都合退職となる。退職を申請する期間と人数を限定し、早期退職者を募集する
- 多くの場合、一定年齢以上の社員を対象として募集され、退職金の割増や再就職あっせんなどの優遇措置が取られる
- 応募が募集人数に達しない場合は、企業側から社員へ退職を促したり、複数回募集をかけたりすることもある
- 選択定年制度
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- 人事制度の一つとして設けられ、企業の業績とは関係なく一定年齢に達した社員が自己都合退職として早期退職するかどうか自らの意思で決められるもの
- 組織の若返り、従業員の独立、転職など主体的なキャリア選択を後押しする目的で導入される
- 選択定年制度で早期退職した場合、退職金の割増など優遇を受けられる
- この制度で会社に残ることを選択すると、管理職から外れたり給与が減額されたりすることもある
これら2つの制度の最も大きな違いは、退職事由が変わることです。「(早期)希望退職制度」の場合は「会社都合退職」となりますが、「選択定年制度」で退職した場合は「自己都合退職」とみなされます。会社都合と自己都合では、退職した後に雇用保険の基本手当(失業給付金)を給付される条件が変わります。
- 会社都合退職の場合:受給資格決定(離職日の翌日)から7日間の待機期間後、1ヶ月程度で最初の給付金が振り込まれる。給付日数も長い
- 自己都合退職の場合:受給資格決定(離職日の翌日)から7日間に加え、2ヶ月間の待機期間後、1ヶ月程度で最初の給付金が振り込まれる。給付日数は短い
このように、早期退職には制度による違いもありますが、早期に退職することは退職金が増えるというメリットもある反面、再就職後の収入が増えるとは限らないなどデメリットもあります。最後に、早期退職のメリットとデメリットを詳しく見ていきましょう。
早期退職のメリット:自由な時間が手に入り、退職金も増える
一般的に、早期優遇退職制度を利用して早期退職した場合、退職金が割増になります。例えば、以下のように算出する方法があります。
- 年齢に応じた絶対額が設定されている
- 基本給の月数に応じて計算する
- 年齢に応じた、退職金の割増率(例:54〜55歳は100%、56〜59歳は90%など)を計算する
- 年収ベース(例:最大年収×2)で計算する
算出方法も金額も企業によってさまざまなので、どのくらい割増になるのか一概には言えません。ただし、一例として厚生労働省の「平成30年就労条件総合調査(退職給付(一時金・年金)の支給実態)」のデータを見てみましょう。
退職理由別、退職給付の平均額(勤続20年以上、45歳以上、大卒)を見てみると、通常の自己都合退職が1,519万円なのに対し、早期優遇退職の場合は2,326万円と約800万円も差が生じています。
また、定年前に退職すれば、気力・体力ともに充実しているうちに自由な時間を持てます。自由な時間を起業の準備やセカンドキャリアに向けた勉強、転職活動などに使うこともできますし、家族とゆっくり過ごす時間にも当てられるでしょう。生活資金が不足していないなら、いっそそのまま引退生活に入り、気ままに趣味を楽しみながらのんびり過ごすこともできます。
早期退職のデメリット:資金不足に陥る可能性も
早期退職後に再就職しようとした場合、必ずしも再就職できるとは限りませんし、再就職できたとしても収入が増えるとは限りません。とはいえ、早期優遇退職制度を設ける会社の場合、会社に残る選択をしたとしてもこれまでの収入が維持できなかったり、整理解雇(リストラ)の対象になったりしてしまう可能性もあります。慎重に見極めましょう。
また、早期退職によって離職期間が長くなったり、再就職先で大幅に収入が減ったりすると、将来の年金受取額が減る可能性もあります。老齢厚生年金は報酬に比例するため、加入期間だけでなく現役時代の賃金水準が年金の受取額に反映されるからです。退職金の割増分のことだけでなく、老後の年金のことも考えて退職時期をよく検討しましょう。
このように、早期退職を実際にするかどうかは慎重に見極めなくてはなりません。そのためには、20代・30代での転職も含めたキャリアプランを早めに計画しておくことが重要です。また、一つのキャリアプランだけでなく、40代以降に早期優遇退職を利用する場合も考慮していくつかのプランを計画しておくと、いざというときに慌てなくて済むでしょう。
おわりに:若手社員とベテラン社員では、勤続年数によって退職金が変わる!
日本の退職金制度では、若手社員の自己都合退職、転職を防ぐため、あるいはペナルティなどの意味合いで、勤続年数の短い人の退職金の減額率を高く設定している企業が多いです。そのため、若いうちに転職を繰り返すと、トータルでもらえる退職金が少なくなってしまいます。
一方、40代や50代で早期優遇退職を使って退職する場合、退職金が割増でもらえます。しかし、早期退職にはデメリットもありますので、慎重に検討しましょう。
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