将来は弁護士や裁判官、検察官として働くことを目指す人は、法科大学院(ロースクール)への進学を検討しているでしょう。この記事では法科大学院のメリット・デメリット、夜間や通信の有無、入試概要や学費の目安などを解説します。社会人で法科大学院入学を考えている人もチェックしてくださいね。
- この記事でわかること
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- 法科大学院の定義や創設までの経緯
- 「法学既修者コース」「法学未修者コース」の違い
- 日本の国立・公立・私立の法科大学院例
- 法科大学院に向いている人と目指せる業界
- 法科大学院で学ぶ内容とかかる費用の目安
法科大学院(ロースクール)とは?創設された理由って?
法科大学院は専門職大学院のひとつです。法曹人材の養成に特化していることから「ロースクール」と呼ばれることもあります。専門職大学院とは、「科学技術の進展や社会・経済のグローバル化に伴う、社会的・国際的に活躍できる高度専門職業人養成へのニーズの高まりに対応するため、高度専門職業人の養成に目的を特化した課程」(文部科学省HPより)を実施する大学院です。専門職大学院は平成15年度に創設され、法科大学院は翌年度から開校されました。
- 法科大学院(ロースクール)とは
- 質の高い法曹の養成に特化した教育を実施する専門職大学院。法学既修者コース(修業2年)と法学未修者コース(修業3年)の2つのコースが設けられています。法科大学院課程を修了した者には、司法試験の受験資格(5年間)が与えられます
法科大学院が創設された理由にはさまざまな要因がありますが、下記のような課題や目標の影響が考えられます。
- 旧司法試験の問題点の改善(合格まで時間がかかる、合格率が低い、若手法曹が少ない)
- 法曹人口が少なすぎたため、増加を目指す必要があった
- 21世紀の法社会を担う、質の高い法律家を養成するという目標が掲げられた
- 多様な法律家の養成のため など
司法試験を受験するには、「予備試験ルート」あるいは「法科大学院ルート」の2つの方法があります。予備試験ルートは年齢制限がありませんので、短期間での司法試験合格を目指せます。ただし自分自身で試験対策をしっかりとした上での準備が必要でしょう。
そのため、法科大学院を設置して専門的な教育を実践することで、司法試験にチャレンジしやすい環境を作り、多様で質の高い法曹人材の養成を促しているというわけです。上記の問題が解決されると、法的問題に対処できる法律の専門家が増え、多くの人の悩みやトラブルの解決が促進されます。
法科大学院の「法学既修者コース」「法学未修者コース」
法曹へ進む場合、従来の旧司法試験受験とは異なり、現在は大学の学部で4年間学習した後に法科大学院に進み、新司法試験を受験するという流れが一般的になりました。ただし、法科大学院に進むには法学部を卒業しなければいけないというわけではありません。
法科大学院には法学既修者コースと法学未修者コースが設けられています。
- 法学既修者コース(修業2年)
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- 入学するためには、法律の学習・法律の知識が求められる
- 入試の 「法律科目試験」で法律の知識が問われる
- 大学の法学部を卒業していることは必須要件ではない
- 法学未修者コース(修業3年)
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- 入学前に法律の学習・法律の知識を習得していなくても入学可能
- 法律の学習は法科大学院に入学してから
- 大学の法学部を卒業した者でも、未修者コースに入学可能
法科大学院にも夜間や通信があるの?社会人の進学は可能?
社会人になってから「法曹の世界にキャリアチェンジしたい!」と考える人もいますよね。一旦、休職や退職をして法科大学院での学習に専念する人もいますが、働きながら法科大学院に通いたいという人もいるでしょう。
法科大学院にもよりますが、夜間コースを設けている法科大学院があります。長期履修制度を設けている法科大学院も存在します。また夜間コースも奨学金制度の利用は可能です。
ただし、通信制の法科大学院は現在のところ設置されていません。通信制の学部から法科大学院に進学することができます。
大学の「法曹コース」のメリットとは
旧司法試験が主流だった時代と比べると、法科大学院が設けられたことによって司法試験にチャレンジしやすくなりました。とはいえ学部入学から法科大学院修了までに6年間が必要であること、新司法試験に合格した後には司法修習参加が必要であること、新司法試験も難関試験であることなどから、やはり法曹人材養成には時間がかかるという課題が残りました。
こうした課題の解決のため、2020年からは大学の学部に「法曹コース」が新設されました。
- 大学の法曹コースとは
- 若手の法曹人材養成のため、早期卒業を前提として創設された制度。学部3年・法科大学院2年の教育課程で新司法試験合格を目指す。学部から司法試験合格・司法修習参加まで、最短6年となった
ただしすべての大学の法学部に法曹コースが設置されているわけではありません。また法曹コースと法科大学院が連携しているかどうかも重要です。法曹コースを経るかたちで、なるべく短期間で法曹の世界に進みたいと考えている場合、大学や法科大学院をしっかりと選びましょう。
国内の法科大学院(国立・公立・私立)一覧
国内にある法科大学院について、国立・公立・私立それぞれに分けて紹介します。
- 国立の法科大学院
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- 北海道大学法科大学院
- 東北大学法科大学院
- 筑波大学法科大学院
- 千葉大学法科大学院
- 東京大学法科大学院
- 一橋大学法科大学院
- 金沢大学法科大学院
- 名古屋大学法科大学院
- 京都大学法科大学院
- 大阪大学法科大学院
- 神戸大学法科大学院
- 岡山大学法科大学院
- 広島大学法科大学院
- 九州大学法科大学院
- 琉球大学法科大学院
- 公立の法科大学院
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- 首都大学東京法科大学院
- 大阪市立大学法科大学院
- 私立の法科大学院
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- 慶應義塾大学法科大学院
- 早稲田大学法科大学院
- 中央大学法科大学院
- 上智大学法科大学院
- 学習院大学法科大学院
- 駒澤大学法科大学院
- 創価大学法科大学院
- 専修大学法科大学院
- 日本大学法科大学院
- 法政大学法科大学院
- 明治大学法科大学院
- 愛知大学法科大学院
- 南山大学法科大学院
- 同志社大学法科大学院
- 立命館大学法科大学院
- 関西大学法科大学院
- 関西学院大学法科大学院
- 甲南大学法科大学院
- 福岡大学法科大学院
法科大学院の選び方としては、通いやすさ、司法試験の合格率、カリキュラムの特色、学費などを比較して検討するのがおすすめです。
法科大学院に入学するには
法科大学院に入学するには、入試に合格する必要があります。一般的な法科大学院の入試では、志望理由書(ステートメント)、法律科目試験、小論文試験、面接が設けられています。
志望理由書(ステートメント)
「自己評価書」「志望書」などと呼ばれることもある出願書類のひとつです。法曹を志望する理由、どのような法律家になりたいか、どうしてその法科大学院に入学したいのかなどを記載し、提出します。自由記述の形式の場合もあれば、質問に対して回答する形式を採用している法科大学院もあります。
法律科目試験
法学既修者コースの入試では、法律論文試験を受験します。ほとんどの法科大学院の法律科目試験では、憲法・民法・刑法が出題されます。法科大学院によって重視している法学分野が異なりますので、商法や民事訴訟法、行政法などの特別法を出題する法科大学院もあります。
小論文試験
小論文試験の出題テーマは法律に関連するものに限りません。人文科学や自然科学や社会科学、時事など幅広い分野からテーマが設定されます。文字数の設定も法科大学院ごとに異なります。読解力や要約力、論理性など総合的な思考力・文章表現力が問われるでしょう。
面接
面接試験を実施する法科大学院もあります。面接を通して、法科大学院生や法曹としての適性などが審査されます。面接対策として、受験する法科大学院の理念や特色、カリキュラム内容などを事前にリサーチしておきましょう。
語学
語学能力を示す書類などについては、任意提出としている法科大学院が多いです。一方で語学力を重視する法科大学院では提出が必須とされています。任意の場合でも高い語学力を証明できる場合は、審査においてプラスに働く可能性がありますので提出するのもおすすめです。
成績証明書・大学卒業(見込)証明書
大学での成績や大学卒業(見込)証明書を提出します。
その他の書類
上記のほか、志願票、履歴書、健康診断書、指定課題、職務経歴書(社会人の場合)などの提出が求められます。志願票はいずれの法科大学院でも必須ですが、法科大学院によって提出書類の種別や数は異なります。
法科大学院のメリット・デメリットとは
法科大学院で学ぶことのメリットとデメリットには、次のことが挙げられます。
法科大学院に進学するメリット
法科大学院に進学することのメリットを紹介します。
- 法曹人材に求められる知識やスキルを習得できる
- 司法試験合格に向けた効率的な準備・対策を行える
- 法律に関する多彩な授業を受けられる
- 法曹人材として働くための実務研修や体験研修を受けられる
- 法律に関する専門知識が将来的に役に立つ
- 司法試験に合格した場合、法曹界への就職や高収入を見込める
法科大学院に進学するデメリット
法科大学院のデメリットを挙げるとすれば、次のことが考えられます。
- 司法試験は難関試験のため、法曹業界へ進むことができるとは限らない
- 法律家としての資格取得までに、学部から最低でも6~8年かかる
- 司法試験合格を目指す場合、勉強や実習で多忙を極める
- 法科大学院に進学すると、社会人デビューが遅くなる
- 法科大学院によって得意とする法律分野が異なるため、リサーチ不足だとミスマッチが生じる
- 進学のための経済的コスト・時間コストが必要
法科大学院で学ぶ内容や習得できる知識
司法試験の合格率が高い、京都大学法科大学院と慶応義塾大学法科大学院で学ぶ内容を参考に見ていきましょう。
京都大学法科大学院
京都大学法科大学院は国立大の法科大学院の中でも、東京大学法科大学院などのように高い司法試験合格率を出す法科大学院です。少人数教育による討議・対話を重視した教育を特徴としており、入学するには相当の努力が必要です。
「基礎科目(12科目30単位※必修)」「基幹科目(18科目36単位※必修)」「実務選択科目(2単位以上選択必修)」「選択科目Ⅰ(4単位以上選択必修)」「選択科目Ⅱ(12単位以上選択必修)」の単位を取得することで修了できます。
- 基礎科目(12科目30単位※必修)
- 統治の基本構造、人権の基礎理論、行政法の基礎、刑法の基礎1・2、刑事訴訟法の基礎、財産法の基礎1・2、家族法の基礎、商法の基礎、民事訴訟法の基礎、法律基礎科目演習
- 基幹科目(18科目36単位※必修)
- 公法総合1・2・3、刑法総合1・2、刑事訴訟法総合1・2、民法総合1・2・3、商法総合1・2、民事訴訟法総合1・2、民事法文書作成、刑事訴訟実務の基礎、民事訴訟実務の基礎、法曹倫理
- 実務選択科目(2単位以上選択必修)
- 法律知識の実践的意義の理解や実務への移行のために行われる、エクスターンシップや裁判演習等の実習
- 選択科目Ⅰ(4単位以上選択必修)
- 政治学や基礎法学など
- 選択科目Ⅱ(12単位以上選択必修)
- 法曹として、より高度な実践的能力を育成するための科目
京都大学法科大学院の司法試験合格率
平成18年から令和3年までの司法試験の合格実績は、最低でも41.49%、最高で67.44%です。
慶応義塾大学法科大学院
慶応義塾大学大学院 法務研究科は規模が大きく、司法試験にチャレンジする学生が多いのが特色のひとつです。法学未修者は、「法律基本科目」「法律実務基礎科目」が必修です。選択科目には「基礎法学・隣接科目」「展開・先端科目」「法律実務基礎科目」があります。
- 法律基本科目
- 憲法、民法、刑法、商法、民事手続法、刑事訴訟法、行政法、法曹倫理、刑事実務基礎、民事実務基礎 など
- 法律実務基礎科目
- 憲法、民法、刑法、商法、民事手続法、刑事訴訟法、行政法、法曹倫理、刑事実務基礎、民事実務基礎 など
- 基礎法学・隣接科目
- 法哲学、法史学、法社会学、法と経済学、立法政策学、法考証学、開発法学。政治学、行政学、経済学、金融論、会計学、簿記論、経営学、新事業創造体験 など
- 展開・先端科目
- 7つの領域(公法系、民事系、刑事系、社会法系、国際系、学際系、外国法系)に関して、ワークショップ・プログラムを中心に学習
- 法律実務基礎科目
- 「エクスターンシップ・プログラム(法律事務所)」、「エクスターンシップ・プログラム(官庁・企業等)」、「法律文書作成(基礎)」
慶応義塾大学法科大学院の司法試験合格率
慶應義塾大学法科大学院出身者の司法試験合格率は高い水準にあります。また、受験者が多いことから合格者の数も多いのが特徴です。令和4年の司法試験合格者数は104名、令和3年が125名、令和2年が125名でした。合格率は令和4年が57.5%、令和3年が55.1%、令和2年が49.8%という結果で、上昇傾向にあります。
国立・公立・私立別の法科大学院の学費
学費は、国立の法科大学院、公立の法科大学院、私立の法科大学院とで金額が変わってきます。また未修者コースと既修者コースでも金額が異なります。
- 国立の法科大学院にかかる費用
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- 入学金:28万2千円
- 年間授業料:80万4千円
- 未修者コース総額:189万円
- 既修者コース総額:269万4千円
- 公立の法科大学院にかかる費用
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- 入学金:30万~40万円
- 年間授業料:60万~80万円
- 未修者コース総額:200万~280万円
- 既修者コース総額:150万~200万円
- 私立の法科大学院にかかる費用
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- 入学金:10万~30万円
- 年間授業料:50万~150万円
- 未修者コース総額:130万~230万円
- 既修者コース総額:200万~350万円
法科大学院で学ぶとなると、ある程度大きな費用がかかります。奨学金を活用するなどの方法で、費用を抑えることはできます。また、各法科大学院独自の奨学金制度や授業料減免制度が設けられている場合はありますので、希望する法科大学院の制度をチェックしましょう。
おわりに:法曹目指して、キャリアプラン似合った法科大学院を選ぼう
法科大学院の特徴や学べる知識のイメージは湧きましたか?法科大学院といっても、各大学院によってポリシーや強みは異なります。ご自身のキャリアプランを考えて、自分に合った法科大学院を選んでくださいね。
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